みずのきおく・47






祐月くんが帰ってすぐに茉莉さんもお家に帰ってもらった。
私達はようやく4人で話せる状態になった……けれど。
「何だよ、あの態度!」
焔くんは珍しく口に出して祐月くんの事を怒っている。
確かにあんな態度を取られちゃ頭にくるかもしれない。



「何でなのかな……祐月くんってちょっと変だけど悪い人じゃないと思うんだけどな…」
「粋さんは優しいからそう思うんだよ。相当性格悪いし全然信用出来ないね」
「………」
私が黙ってしまうと、風眞さんは焔くんを冷めた目で見て言った。
「貴方って本当にお子様ね。粋ちゃんの気持ちを考えて物を言いなさいよ」
「考えてるよ。僕は誰より粋さんの事を考えてる!」



そうは言ってくれたけど、今、私の事を分かっていたのは風眞さんだ。
さっきの言葉は私にとってショックだったって事。
少なくとも私は祐月くんの事を友達だと思ってる。
好きな人に友達の悪口を言われるのは……すごく悲しい。



「考えてないわよ。貴方は感情が走って自分中心になる時がある。別にそれが悪いとは言わないけど、少なくとも粋ちゃんの前では粋ちゃんの気持ちを尊重しなさい」
「僕はいつだって粋さんの事を第一に考えているよ。分かったような事言わないでくれる?」
「言われたくないならそれなりの男になってみなさいよ」
「あ、止め……止めてよ……」
いつの間にか風眞さんと焔くんの言い合いになってる。
こんなの嫌なのに……どうしてこうなちゃったの…?



「はいはい、終了。2人とも落ち着けって……こんな事してても意味ないって分かってるだろ?」
創司くんのおかげで本格的な喧嘩には発展しなかったけれど、それでも何となく空気が悪い。
「ごめんなさい、粋ちゃん。嫌な思いをさせてしまって」
しょんぼりとしてしまった私の隣に座ると風眞さんは少し疲れたような声で言った。
「ううん、大丈夫だよ」
短い間に色々ありすぎて皆疲れている。
早く色々な事が落ち着くといいな…



「そんじゃ、始めてもらってもいい?」
焔くんも椅子に座ったところで創司くんは私にたずねた。
小さく頷くと3人の視線が私に集まったのを感じた。
そして、私は「私」の記憶を話し始めた。







私がシイラという女性の魂の欠片を持っているのを思い出したのは昨日だけど、門の世界の記憶は日本に帰って来てから夢で見るようになっていたの。
夢の中で私……シイラは「忘れないで」と繰り返していた。
でも、私にはそれが誰に対して言っている言葉なのか分からなかった。
何を忘れないで欲しいのか、私は何を忘れているのか……全然見当がつかなかったんだ。



最初のうちは「忘れないで」だけだった夢は少しずつ種類が増えていったの。
多分、皆との仲が深まっていくのがキーだったんだと思う。
創司くんと風眞さんの関係を知った時から暫くの間は、シイラが少し若い時の記憶を見たよ。
サイさんとメールディアさんが恋人同士だって知った時からの事。
2人とどう接していったらいいのかな?
2人の間に自分が居るのはお邪魔虫じゃないかな?
色々と悩んでとうとう2人に直接「一緒に居たら迷惑?」って聞いちゃうの。
そしたら2人は笑って「一緒に居て欲しい」って言ってくれたっていう記憶。



それから……その……焔くんにキ、キスされた時は、シイラが誰か……ってファルシエールさんなんだけど……に片思いしてる時の記憶を見たの。
いや、うん、本当は片思いじゃあなかったんだけどね。
その時のシイラは全然気付いてなくって、ファルシエールさんは皆に優しいんだから勘違いしちゃダメだって自分に言い聞かせていたの。
好きだけど好きになっちゃダメだって心の何処かで思い込もうとしてたみたい。



暫くは同じ夢を見たり見なかったりっていう感じだったんだけど、あの撮影の日に「ルナソル」っていう言葉を聞いた瞬間、新しい夢というか記憶が頭の中に弾けたの。
小さい女の子が泣きながら叫んでた。
「いかないで、いかないで、おかしゃま!!」って……



※※※※※※※※※※※※※※※




「その小さな女の子ってルナソルだったんだよね?」
「うん……ルナソルは何処かに出かけようとしているシイラを必死に止めようとしてたみたい」
「………ルナソルにはシイラに起こる未来が見えていたんだろうな。でも、世界に影響を与える程の未来を他人に教える事は時の能力者の禁忌だし、話そうとしても話せないように制約がかけられてるんだろう。だからルナソルは「いかないで」としか言えなかった……か」
「それで、シイラはどうしてあんな事になってしまったの?」
「その……それが……」
風眞さんだけじゃなくて皆が1番聞きたいのはその事なんだろう。
だけど……



「分からない?」
「シイラは誰かと約束をしていたみたいなんだけど……最後の記憶まで途中が抜けているの……」
「ごめん、辛いかもしれないけど最後の記憶っていうのを教えてくれる?」
最後の記憶……
多分、もう目は見えなくて意識が遠くなってた時。
誰かが笑って言っていた……
「粋ちゃん、この話は明日にしましょうか?今日は休みましょう?」
「本……物……………」
何だろう?
背筋が冷たくて喉がヒリヒリと痛む。
言いたい事が言葉に出来ない。
訳が分からなくて焦って頭の中が混乱してくる。



「無理はしないで下さい。思い出したとはいってもたった2日で整理出来るような記憶ではないんですから」
パチンッと目の前で何か…火花のようなものが弾け、頭の中のモヤモヤがスッと引いていった。
「紅蓮……くん……」
「約束なので来ました。藍さんの分まで僕が話します。粋さんは少し休んでいて下さい」
お子様達の中では1番大人しくて温和そうな紅蓮くんだったけど、実はあっちの世界の強力な攻撃能力と記憶を持っている。
その事を知ったのは昨日の夜。
そして同時に藍ちゃんも同じように能力と記憶を持っているという事も知ってしまった。
未だ6歳の小さな身体で私とシイラを守るために必死になっていたというのに、私は全然気付いていなかった。



「それじゃ一番答え易そうなところから聞くけど、お前さん達は何者なんだ?」
「僕は火竜の血と火の民の能力者の身体から作られた命、火妖エアリーという名で呼ばれていました。藍さんは水龍の血とシイラの母親の血と有翼人の身体から作られた命、アクアという名でした。2人は命の核をファルシエールに提供し、正常な転生の軌道に乗って僕達に生まれ変わったんです」
「完全転生………ちょっと待って。完全転生の場合は以前の記憶は残っていないはずよ?」
風眞さんによると、亡くなった魂は冥界で現世の記憶を奥に仕舞い込んでから新しい命として生まれ変わるらしい。
私達の場合はあっちの世界から飛ばされた魂の欠片がこっちの世界の適合しやすい身体に間借りした状態になっている……だから、あっちの世界の記憶を持っているし限られた範囲内で能力も使えるみたい。
ややこしくてよく分からない……。



「作られた命なので普通の人とは何か違うのかもしれません。藍さんは生まれた時から記憶があったらしいんですが、僕は藍さんに会ってから記憶と能力が目覚めたんです」
「………推測でしかないけれど、作られた命……って事はその魂の転生回数は未だ1回目だと思うの。だから仕舞われたはずの前世の記憶が比較的簡単に引きだされたんじゃないかしら?アイちゃんは生まれた時からっていうよりも、スイちゃんが持つシイラの魂に反応したんだと思うわ」
「私の……」
もし藍ちゃんが私の妹じゃなかったら、もし私に会う事がなかったら……藍ちゃんは普通の子として一生を過ごせたんだ。
そう思うと申し訳なくて仕方ない。



「気にしないで下さい。エアリーとアクアはシイラの役に立ちたかったんですから。この世界で会わないでいたら、きっとその方が辛かったと思います。それにね、粋さんの妹に生まれてきてよかったって藍さんはいつも言ってるんです。だから、否定的な事は思わないで頂けませんか?」
「………ごめん。それでもやっぱり皆には申し訳ないよ。私がもっと早くシイラの記憶を理解していたらこんな負担をかける事はなかったんだもの」
紅蓮くん達だけじゃない。
風眞さんも創司くんも……焔くんなんて小さい頃からシイラを探して色々な国に行ってたっていうのに。
私は何もしなかった。
何もできなかったんじゃない。
分からない、不思議だと思いながらも日常が変わる事を恐れて深く追求しなかったんだ。



「まぁまぁ、そんなん言ってても仕方ないじゃん。これからどうすっか考えよ。粋の記憶が穴あき状態なのは、シイラの魂に何らかの規制がかけられているか……」
「記憶の凍結の弊害とか………」
「記憶の凍結……?」
皆は焔くんの言葉に何か気が付いたみたいだった。
「あ、その……」
焔くんはその事を私に聞かせたくなかったみたいだ。
私に聞かせたくないけど私に関係ある……?



「ねぇ、焔くん。それは私が聞いた方がいい話なの?聞かない方がいい話なの?それとも、未だ聞かない方がいい話?私にそんなに気を使わなくてもいいんだよ。本当なら誰より頑張らなくちゃいけないのは私なんだもん。何かの手がかりになりそうなら教えて、お願い」
「………」
「お願い」
「………ゴメン、話せないし話すべきじゃないんだ。これ以上は征さんの判断が必要だし、征さんも話さないのがベストだと判断すると思う」



お父さん、時の能力者、記憶の凍結……
少し考えれば私でも何となく言いたい事が分かる。
お父さんは私の過去の記憶の一部を凍結させて思い出せないようにしているんだ。
それはきっと、シイラじゃなくて私にとってよくない出来事だったから。
私には私が知らない過去があるって事……?



「分かった。無理を言ってごめんなさい。その事はお父さんと相談して……大丈夫、お父さんは私に甘いからちゃんとお願いしたら記憶を戻して貰えるよ」
「ダメだよ。そんな……ダメ、絶対にダメだ。粋さんが苦しむだけの記憶なんていらないよ。僕たちがちゃんとサポートするから、だから……」
「苦しむだけの記憶」……だから記憶を戻したくない。
その気持ちは嬉しいけれど甘えてばかりいられない。
皆の優しさを当たり前にしちゃダメ。
何もしないで後悔したり反省するようじゃ今までと何も変わっていないんだもの。



「苦しい過去を忘れていられたら楽かもしれないけど、それじゃ私自身の責任を放棄しているのと同じだよ。さっきも言ったよね?私は誰より頑張らなくちゃいけないって。シイラの記憶との関連は分からないにしても可能性がある事は試した方がいいって皆の方が分かっているはずだよ?」
「だけどっ………」
反対する焔くんの肩を叩いて創司くんは首を振った。
「………焔。お前さんの気持ちは分かるけど、この流れからいって粋の決心は変えられないよ。粋も結構頑固だしなぁ……あ、いや別に悪い意味じゃなくて」
「人の為なら自分の損得を考えないで意思を通す……って事ね?私達はその場に居なかったし関わってもいなかったから、粋ちゃんの過去に何があって何故記憶を凍結させられたのか詳しくは知らないの。でもね、概要を聞いただけでもとても辛くて酷い事件だったと思う。だから記憶なんて戻らない方がいいって思ってた」
風眞さんは私の両手を握って続けた。



「……けど、粋ちゃんの気質からいって「止めた方がいい」って言葉に現状で素直に従ってくれるとも思ってないわ。だからお願いする。もしも記憶が戻ってそれが辛いと苦しいと思ったら、絶対に1人で抱え込まないで欲しいの。私とか創ちゃんとか私とか、粋ちゃんの心が潰されないように傍に居るから。私が皆にそうして貰ったように」
「姉さん、意識的に僕をスルーしましたね…」
「いいから。今は黙っておけって」
「風眞さん……」
多くの言葉を言えずに抱きつくと、風眞さんは優しく抱き返してくれた。







その後、今日の話はおしまいで解散って事になった。
紅蓮くんは未だ創司くん達と話をしていくって残ったけど、私と焔くんは家に帰る事にした。
西神のお家と色々あって焔くんのお家は忙しいみたい。
私より年下なのに色々と背負うものがあって大変だなぁ……
「ごめんね、あんな事を言って」
「どうして謝るの?」
家までの帰り道。
並んで歩いていると焔くんは溜息をつきながら言った。



「粋さんだけじゃない、征さんにまで迷惑をかける事になっちゃったね」
「迷惑なんかじゃないよ。ちょっとは怖いけど……でも、私の過去だもん。ちゃんと受け止めるし、お父さんだって分かってくれるよ」
「でも……」
私も頑固だけど焔くんも相当頑固だなぁ……
どう言えば納得してくれるんだろう?
「お願い、焔くん。そんなに私を甘やかさないで………って言っても多分そうはいかないんだよね?だったらさ、もし私が困っちゃったら1番に泣きごとを言わせて欲しいなぁ……っていうのはダメ?」
「………仕方ないなぁ、それ、絶対に約束だよ?何かあってもなくても絶対に僕を頼ってね?」
「うん。約束する」
私に甘いっていうのも考えようによっては扱いやすいのかもしれない……って思ってしまったのだけど、私ってばいつのまに悪い女になったのかしら??



「そうだった。今朝、粋さんのお母さんから預かったんだけど……玄関に落ちてたって………あれ?」
上着のポケットから出したハンカチを開くと焔くんは首を傾げた。
「どうしたの?」
「ここに入れておいたんだけど……ペンダント」
「ペンダント………あ!?」
さ、最悪だ……
焔くんから貰ったペンダントを落としてたって今頃気が付いた……



「もしかしたら、公園でハンカチを出した時に落としたのかも。あー、失敗した」
「ご、ごめんね……私、落とした事に気付いてなくて……どうしよう……今から探しに行けば見つかるよね?ちょっと公園までの道を戻ってみる」
「落としたのは僕なんだし、僕が探しに行く。もう暗くなってきたし、早くお家に帰らないとご家族が心配するよ」
「でも、焔くんも早くお家に帰った方がいいんでしょう?だったら一緒に探した方がいいよね?」
「う………ん……いや、粋さんはお家に帰って。藍ちゃんの様子を見てあげないと」
藍ちゃんの事を言われると弱い………
「あ、あのね。そもそもの原因を作った私が言うのもおかしいけど、あまり遅くなるようだったら今日は探すのを止めてね?明日になったら一緒に探そう?」
「うん、そうするよ」



家に着くと焔くんはお父さんにお詫びを……って言ってくれたんだけど、ちょうどお父さんが寝てしまった所だったから後日……って事になった。
藍ちゃんの治療で力を使い過ぎてしまったのかもしれない。
「家まで送ってくれてありがとう。ペンダントの事、本当にごめんね……」
「大丈夫だよ。夜になったら連絡するから。それじゃ、ご家族の皆さんに宜しく伝えて」
「うん、ばいばい」
姿が見えなくなるまで見送って家に入ると、パジャマ姿の藍ちゃんが玄関まで迎えに出て来てくれた。



「だめだよ、未だ寝てないと。紅蓮くんも藍ちゃんも身体は子供なんだから無理しないで」
「………ごめんね」
「謝らないで。藍ちゃんは私の為に頑張ってくれていたのに私は全然気付いていなかった。謝るなら私の方なんだよ」
「ちがうの。アイはスイちゃんをまもるためにうまれてきたんだもの。アイはスイちゃんをまもらなくちゃいけないんだもの。アイは……」
もうこれ以上哀しい事を言わないように小さな身体を抱きしめる。
藍ちゃんは私を守る為だけに生まれてきたような、そんな言い方をして欲しくない。



「藍ちゃんは藍ちゃんだもの。この世界に生まれた自分を大事にして欲しいんだよ」
「………よく、わかんない」
今までずっと2つの世界の記憶を共有させていた藍ちゃんが急に考えを変えるのは難しいと思う。
それでも分かって欲しい。
「お姉ちゃんは藍ちゃんを今までもこれからもずっと大好きな妹だと思ってるよ。あっちの世界の記憶も大事だけど、私達はお姉ちゃんと妹だっていうのが1番大事じゃないかな?」
「スイちゃんがおねえちゃんなのはあたりまえだよ」
「うん、当たり前でいいんだよ。これからもずっとそれは変わらないんだから」
どんな事情があったとしても藍ちゃんは私の妹だもの。
守られるんじゃなくて守りたい。
例え色んな事情があったとしても、私自身が譲れないものだから。



※※※※※※※※※※※※※※※




その夜、約束通り焔くんから電話がかかってきた。
『藍ちゃんが元気になってよかった。望も有希もすごく心配してたから、電話の後に教えてくるよ』
「ありがとう。明日は大事をとってお休みするけど、来週からは又一緒に学校に行ってねって伝えて貰える?」
『うん、ちゃんと伝えておくよ。ところでペンダントの事なんだけど…』
声の様子から結果が分かる。
きっと……
「見つからなかった?」
『ごめんね。よく探したつもりなんだけど見つけられなかった。念のため公園の管理室に聞いてみたけど落とし物には届いてなかったんだ』
「私こそごめんね。元はといえば私の不注意のせいなんだもん」
いくらボーっとしていたとはいえ大事なプレゼントを落としてしまうなんて。
自分の不注意さにガッカリする…



『気にしないで。昨日今日って色々あったし気付かない事もあるよ』
「うん…………あ!!」
『どうしたの?』
「あのね、落とした場所って公園じゃなくて学校かもしれないよね?」
『あぁ、そうかもしれないね。今日はずっとポケットに入っていたから』
やっぱり。
だとしたら探す範囲が結構な事になってる……よね。



「うちのクラスに「予感」っていう能力を持ってる子がいるんだけど、その子に手伝って貰ったらどうだろ?何処に行ったら見つかるかって聞いてみるの」
『そっか、場所を特定して貰えたら探しやすいよね。それじゃあ申し訳ないけどお願いして貰えるかな?』
「うん、それじゃあ、今日はどうもありがとう。おやすみなさい」
『おやすみなさい。記憶が未だ不安定だから粋さんも体調に気を付けてね』
電話を切って今までの事を思い返してみる。
昨日の夜に天地が引っくり返って転がって転がって何だか遠くに来てしまったような感じ。



「やっぱり、私の記憶が完全にならないと解決にはならないだろうなぁ……」
シイラはどうして魂を他の世界に飛ばされてしまったのか。
思い出そうとしてもやっぱりハッキリと思い出せない。
ルナソルはシイラが出かけるのを止めようとしていた。
あの時、シイラは何処へ何をしに行くところだった?
約束していたという相手は誰?
それが分かれば少しは進展するような気がする。



夢で記憶が見られるよう期待して、私はいつもより少し早く眠りについた。







「こっちから何もしないでも自滅しちゃったね」
「うらがえった?」
閉じていた目をゆっくりと開けると、少年は隣に座っている少女の首にかかったペンダントに指を通した。
「違うよ、消えたんだよ。僕を裏切るヤツなんていらないから」
「わたし、しずく、うらぎら、ない。だから、いらなく、ない」
少女は少年の肩に頭を乗せ、無機質な声で自らの必要性を訴えた。



「今のところはね。大事なのはこれからだよ」
「これから……」
鏡に写る自分達の姿を見ると、少年はニヤリと笑った。



「本物を手に入れるのは僕だ。今度は逃がさないよ………シイラ」









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