みずのきおく・45






『ドラマとかで"生まれ変わっても愛してる"って言うけどさ、あれって同性で生まれた場合どうするのかなぁ?前世での恋人っていう男に彼氏を取られる女の子って超カワイソウじゃない?ホモカップルになろうと前世での約束が大事かっつーの。嫌だなぁ、そんなジトーっとした目で見ないでよ。僕が何を言いたいのか分からない?あ、そうなんだ。つまりはさ・・・・・』




※※※※※※※※※※※※※※※





「お待たせ・・・・・」
「そんなに申し訳なさそうに言う必要ないよ水波さん。中等部は早く終わるのに待ってるって言ったのは彼だもん、ねぇ、東雲くん?」
「・・・・・・ええ、僕は気にしていません。気にしている事といえば、何故、祐月さんも此処にいるのかという事だけです」
放課後。
粋さんは約束の場所に来てくれた。
余計なオマケを連れて。



「僕だって遠慮したかったんだけど、水波さんがどうしてもって言うから」
「本当なの。あの・・・・・私も創司くんのお家に行くんだし一緒の方がいいかなって・・・・・」
耳を疑いたくなる。
何故、粋さんはこんなに怪しげな人と一緒に居るんだ?
脅されてでもいるんだろうか?
「祐月さんは僕も行くなら北杜さんのお宅へ行かないっておっしゃってましたよね?」
「うん、言った。だから、東雲くんは先生の家に来なくていいよ」
「はぁ?意味が分からないんですけど」
「えー、結構分かりやすく言ったつもりだったんだけどなぁ。じゃあ、ちゃんと言うよ。僕と水波さんは先生の家に行くから途中まで付いて来てもいいよ。分かった?」




全然わかりません。




「ごめんね、焔くんとは改めて話すから・・・・・」
益々もって分からない。
「どうしてしまったんですか?おかしいですよ、ようやくちゃんと色々と話せるようになったのに・・・・・」
「王子って結構、空気読めない系?僕としては大事な友達が無神経な言葉に傷つけられるのは我慢ならないからさ・・・・・水波さん、今日は真っ直ぐお家に帰ったらどうかな?帰って妹さんを安心させてあげたらいいよ、北杜先生には僕から上手く言っておいてあげるから」
「ううん、大丈夫。私が行って話すべきだってあいちゃんも思っているはずだから、行こう?」
「水波さんがそう言うならいいけど」
何となく蚊帳の外にされている気分だ。
大体、何で僕が空気読めないとか言われなくちゃいけないんだ?
空気読んでないのは祐月さんの方じゃないか!!



「ぼーっとしてるなら先に行くけどぉ?」
彼は何をしたいんだろう。
彼は僕に何をさせたいんだろう。
「・・・・・すみません、行きましょう」
何より一番分からないのは、昨晩からの粋さんの態度だ。
記憶が戻っているみたいなのに僕を避けているような気がする。
混乱してるなら僕を頼ってくれればいいのに・・・・・遠慮してるんだろうか?
それとも祐月さんが何か・・・・・



「僕は何もしてないよぉ?」
「祐月くん?」
「・・・・・」
この人は心を読めたりするのか?!
訝しむ僕を見ると、祐月さんは胡散臭さ満点の笑顔になった。
「他人を疑うのも大事だけど、それはもう少し大人になってからでもいいよ。君ってリアル中坊だよね。そんなんで春から高校生になれるのかなぁ?」
「あんまり失礼な事は言わないで・・・・・ごめんね、焔くん。祐月くんはちょっと変な所はあるけど、慣れれば悪い人じゃないの。今はちょっと機嫌が悪いんだよ・・・・・ね?」
「不機嫌なんかじゃないよ。僕は勘違い中坊が嫌いなだ・け♪」
「祐月くんっ!」
昨晩から今日にかけての短い間に何があったんだろう。
もう、考えてるだけじゃどうにもならない。
順序なんてどうだっていい。
今は粋さんとちゃんと話すのを何より優先しなければならないと僕は思う。



「・・・・・・強引だけど、仕方ないよね」
「え?!ちょ、ちょっと・・・・・」
粋さんの手首をつかんで走りだす。
やる事がコドモだって?
言いたきゃ言えばいいさ。
苦情は後ほど受け付けますっ!!




※※※※※※※※※※※※※※※





「あーあ、行っちゃった。ガキんちょは困ったもんだねぇ・・・・・」
上着のポケットから取り出した携帯を操作すると、祐月は後ろを振り返った。
「お待たせ、先生」
「本当に何をしたいんだか分らない奴だな」
「そうかなぁ?僕は自分のしたい事をしたいようにしてるだけだよ。超シンプル」
「それが分かんないんだって」
ニコニコ顔の祐月を見ると、深い溜め息をついて創司は家へと向かった。







「ほ、ほむら・・・・・くんっ・・・・・す、少し・・・・・とま・・・・・止まって・・・・・」
「嫌です」
即答された・・・・・



体育祭のリレーを見て知っていたけど、焔くんは文系の容貌をしているのに走るのが物凄く早い。
そして、私は運痴の鈍亀さん。
足がこんなに回転したのは生まれて初めてですよ。
何だ、私も走ろうと思えば走れるんだね!!
・・・・・
いやもう・・・・・足が外れてしまいそうですがね・・・・・



「無理矢理すみませんでした」
「は・・・・・・はひ・・・・・」
公園に着くとベンチに倒れるように座る私。
因みに焔くんは息1つ上がっていません。
えー、今ので加減してたんですかー?
「寒いですけど、話が出来て人気がないのって此処くらいだと思ったんで」
「は・・・・・はぁ・・・・・」



2月の公園は閑散としている。
子供は遊んでないし鳥もいない。
噴水も夏ほどの勢いがなくて静かに水が流れている。
「話、してもいいですか?」
「・・・・・・・・」
「僕とは話したくない?」
黙ってしまうと焔くんは悲しそうな声になった。
私も焔くんと話したかったよ。
でもね。
焔くんは私と話したいの?
それとも、「私」の話をしたいの?



「・・・・・焔くんは・・・・・・」
声が震える。
「何ですか?」
「私が・・・・・誰だと・・・・・思う?」
「え・・・・?」
そこで言葉に詰まるのは、答えを迷っているから?
「私は・・・・・焔くんが望む人じゃないかもしれない」
「そんなことありません。粋さんは・・・・・」
「私は?」
私は、誰?



「粋さんは粋さんであり、シイラでもあるんです」



「焔くんは、私がシイラだから好きなの?」
「え?ちょ・・・・・っと、何を・・・・・」
「私がシイラだって思ったから、最初からあんなに仲良くしてくれたんだね」
「それは・・・・・待って、ちゃんと話しましょう」
否定しないんだ?



「私は焔くんを好きになったのに、焔くんは私じゃない私が好きなんだ」
「違います、僕は粋さんの事が好きです」



『いじわる言ってるように聞こえるかもしれないけど』



今朝、祐月くんに言われた事が頭の中で繰り返される。



『東雲くんはさ、結局・・・・・水波さんがその人だってだけで好きになったんじゃないの?』



記憶を思い出してから・・・・・ううん、本当はずっと前から気にはなっていたのを気づかないフリしていただけ。
心の中にジワジワと広がっている不安。
本当はどうなのか知ってしまうのが怖い。



「じゃあ、私がシイラじゃなかったら?焔くんは私を好きになった?」
「粋さんがシイラじゃなかったらなんて仮定はありません」
私がシイラである事は必然なの?
やっぱり、焔くんはシイラである私が好きなの?



止まらない。
抑えていた感情が一気に溢れだしてしまう。



「私・・・・・シイラじゃないもん」
「どうして?どうしてそんな事を言うの?」
必死の表情で私を見る焔くん。
その目は、誰を見ているの?



「焔くんに必要なのはシイラであって私じゃない。私がシイラの魂を持ってなかったら、私の事なんて気にも止めなかったんでしょ?焔くんが私の事を好きなんて自惚れてた。私が焔くんに釣り合うわけないもん」
こんなに後ろ向きだったら、愛想をつかされちゃうかもしれない。
あぁ、でも、私の中にシイラの魂が在る限りは彼女を通して好きでいてもらえるかな。
それってすごく虚しい事だけど。



私の話を聞いた後、黙りこんでいた焔くんはぐいっと私の身体を抱きよせた。
「放して」
「嫌だ」
抱きしめる腕の力が苦しいくらいに強くなった。
「放してよ。誤魔化すみたいにそんな事しないで」
「嫌だ・・・・・ごめ・・・・・ごめん・・・・・粋さん・・・・・」
声が震えている・・・・・泣いている?
「ほむらくん・・・・・」
「誤解させてごめん、姉さんや北杜さんが言ってた事がようやく分かった。僕もファルシエールもシイラが必要なのは確かにそうだよ。でも、僕自身が好きになったのは粋さんだ。それは信じて」
順を追って話すから少し長くなってもいい?と聞かれて頷くと、焔くんは涙で赤くなった目を擦って話し始めた。




※※※※※※※※※※※※※※※





僕は生まれた時からファルシエールの魂が覚醒していたんだ。
毎日毎日、彼の記憶を夢として見たよ。
話せもしないし歩けもしないのに、僕はシイラを見つけなくちゃいけないって思って焦ってた。


4歳になって幼稚部に入って直ぐに、僕は父さんに短期の海外留学を願った。
東雲の人間が海外留学するのは不思議なことじゃない・・・・・寧ろ小さいうちから世界を知るのは好ましいって喜んで送り出してくれたよ。
そして僕は世界の色々な国で短期の留学を繰り返してシイラを探した。



酷いヤツだと思うかもしれないけど、人とは最低限の付き合いしかしなかったから友達を作ったりはしなかった。
どうせ直ぐに別れるんだし・・・・・ってね。
それに、シイラを探す以外の事に気を取られたくなかったから。
声をかけてくる人達が煩わしいとすら思ってた。



そうこうしてる間に10年が経ってしまった。
シイラは見つからない。
何処にいるか手がかりすらないのに・・・・・でも、僕は探し続けた。
そして・・・・・自宅で粋さんに会うことになったんだよね。
まるで青い鳥みたいな話だけど。



最初に粋さんの声を聞いて、すごく可愛い声だと思った。
目が合った瞬間、凄いドキドキした。
そんなの生まれて初めての事で・・・・・粋さんはシイラじゃないかと思った。
その後、握手したのを覚えてる?
うん、そう、あの時にバチっとしたでしょ?
それで・・・・・確信したんだ。
僕の中で何かあやふやだった部分が全部繋がって、目の前にいる女の子がシイラだって分かった。



でも、ようやく見つかったと思ったのに粋さんにはシイラの記憶が戻らなくて・・・・・
戻す方法は分からなかったけど、近くにいれば戻るだろうって信じて僕は粋さんと仲良くなろうと思った。
言い訳はしないよ。
最初のうちはシイラを通して粋さんを見てたってね。



暫くして粋さんの家に招待されて初めて会った姉さんと北杜さんとは、あっちの世界の件で協力して貰うことはあっても打ちとけるつもりなんて全然なかった。
父親違いの姉弟だって事は分かったけど、母さんと会わせられないって約束があったからね。
こっちの世界でのややこしい事に巻き込まれたくなかったんだ。
何だか正直に話せば話すほど僕って嫌なヤツだって自白してるよね。



それから4人でよく行動するようになって、少しずつ粋さんと仲良くなってきたところで西神の女帝が現れた。
あの女の事は前からパーティで会っていたから知っていたんだ。
他人なのに僕の事をすごく可愛がってたからね。
変な事だけど、父さんに好意を持っているからとか僕が東雲本家の長男だからだろうって思ってた。
だから深い事を考えないで、姉さんと粋さんに汚い言葉を投げつけた事が許せなくて懲らしめてやろうと思ってそれを理由にあの女に近づいた。
自分の力で何か出来るって思い上がりもいい所だよね。



そして、あの女と2人きりになった時、僕の出生の事を知らされた。
それまで、僕はシイラと会う事だけが人生の目的だと思ってたから、この世界での僕自身についてそれ程重要に思ってなかったんだ。
でも、実際に何かが起きたらそんな事なくて・・・・・
家族関係なんて希薄に考えてたくせに、いざ自分が家族の中で異色な存在だって、母さんと父さんに愛されて生まれたんじゃないって知ったら・・・・・すごくショックだった。
口汚く姉さんと母さんの悪口を言うあの女の血が流れてるかと思ったら吐き気がした。
身体の血を全部入れ替えてしまいたいと思った。



もっと早くに姉さんや北杜さんに相談していたらよかったのにね。
問題を1人で抱えて自分で何とか出来る、何とかしなくちゃって意固地になっちゃってさ・・・・・
自分で渦中に飛び込んでいった感じなのに、情けない事に精神的にはかなりダメージを受けちゃって・・・・・訳の分からない憎悪感だけをつのらせて・・・・・落ちる所まで落ちていきそうだった。



体育祭が終わって一週間経った時だったよね、あの雨の日。
前日に姉さんが倒れたって聞いたから、あの女の目を盗んで粋さんの家に様子を見に行ったんだ。
チャイムを鳴らしても返事がなくて、鍵が開いてたから失礼だとは思ったけど家に上がらせてもらったら3人が話をしてる所で・・・・・粋さんがあの女に頬を叩かれたって知った。
目の前が真っ赤になったよ。
僕なんかに関わって、粋さんが傷付けられたのが許せなかった。
器量もないのに距離をおいて守ろうとかおこがましい事を考えてた自分も、救いようがない最低の人格のあの女も許せなかった。
心の中の汚いモノが一気に溢れて自分自身まで壊してしまいそうだった。



そんな僕を救ってくれたのが粋さんだった。
癒しの歌の力も勿論だけど、全身で抱きしめて泣いていいよって言ってくれた事が何よりの救いだったんだよ。
それまでは人に甘えたり涙を見せるなんてした事がなかったから・・・・・それは、恥ずかしいことだって思っていたから。
あ、今も泣いちゃったけどね。
あぁ・・・・・粋さんにはいい所だけを見せたいのに上手くいかないや。



それでね、その時。
遅いよって感じだけど、僕が・・・・東雲焔が粋さんの事を誰よりもかけがえのない存在だってようやく自覚したんだよ。
優しくて柔らかくてあったかい女の子。
自分の持った力を人の為に惜しみなく、しかも自然に使ってあげる女の子。
シイラを通してじゃなくて粋さん自身に惹かれた。
僕は初めて実体のある本当の恋をしたんだ。



自覚して暫くして・・・・・その・・・・・粋さんが北杜さんに「好きだった」って言ったのを偶然聞いてしまったんだ。
あぁ・・・・・うん、前から何となくそんな感じはしてたんだけどね。
北杜さんは男の目から見てもカッコいいし、色々と多才な人だから好きになってもおかしくないもの。
おかしくないけど・・・・・粋さんに好きな人がいたっていうのがはっきりしてショックだった。
勝手な事言ってるよね。



その日はもう1つ驚く事があった。
母さんがメイクした粋さんの姿がシイラにそっくりだったって事。
憶えてる?
驚いた僕は粋さんから逃げてしまったよね。
あの時は本当にごめん。
粋さんにとっては訳が分からなくて困ったでしょ?



毎日のように夢で見ていたのに、目の前でその姿を見たら緊張して震えてしまってマトモに話せなそうだったから・・・・・ヘタレだ・・・・・姉さんに鼻で笑われるくらい・・・・・
次の日の朝、平静を装って粋さんの前に出たら「焔くんの彼女になる人って幸せだね」とか「オンナノコの理想の彼氏」とか言われて、それで僕の陳腐な恋愛計画が崩れて告白モドキなものをしてしまったんだけど、あれはケガの功名で粋さんに僕を意識してもらえる結果になったね。



それから状況は急展開していった。
最初にモデルの仕事をした時、「ルナソル」って言葉を聞いて粋さんが倒れて5日も眠りから覚めなかったでしょう?
あっちの記憶が引き金になってあんな事が起こるなんて考えてもみなかったから、粋さんと僕とはあっちの世界との関わりが何か違うのかと思った。
そして、1日2日と時間が経つにつれてどんどん怖くなった。
粋さんの為に何でもしてあげたいと思っているのに、僕はあまりに無力で何も出来ないのに苛立った。



5日目、目が覚めて、記憶障害とか身体に異常がないようで安心したけど、長い眠りについたのは今回が初めてじゃないって聞いて、念のために暫くの間、粋さんは家族の元に戻った方がいいだろうって事になった。
・・・・・もう、お父さんが誰なのかも分かった?
うん、征さんは時の白竜の魂の欠片を持っている。
だから、家族を守る為に時の能力が最大限に発揮できる土地に居たんだよ。



夏休みの2ヶ月、知りあってから初めて長く離れている間、本当は近くに居たかった。
だけどそれは僕の我儘でしかないから、今度こそ粋さんの役に立てるように2ヶ月で少しでも成長しようと思ったんだ。
後で改めて話すけど高校に進学する為の課題をこなしたり、姉さんや北杜さんや両親とちゃんと話し合うよう意識するようにした。
1人で何とかしようとするのは逆に迷惑をかける場合があるって・・・・・身に沁みたからね。
それと、前にも言ったけど見た目を変える努力もしてみた。
見た目も中身も、粋さんの傍に居て恥ずかしくない男になりたかったんだ。



夏休みが終わって9月になって僕達の関係が少しだけ変わってきた時、想定外の事が起こった。
西神茉莉・・・・・あっちの世界の記憶・人格・能力を持つ人間が現れたこと。
記憶操作の能力を使って僕の彼女だなんて噂を流すに飽き足らず、粋さんの前で抱きついたり粋さんに嫌がらせの電話をしたり・・・・・兎に角、とんでもないことをしでかすヤツだった。
直ぐにでも目の前から消したかったけど、彼女の存在には謎が多くて手が出せなかった。
あっちの世界で竜の血を引いていない者が、完全に近い状態でこっちの世界に存在するはずがないという決まりからあまりに外れていたから。



彼女はあっちの世界の僕、ファルシエールに好意を持っていた。
だから、僕の中のファルシエールに対して何かをしてくると思った。
でも彼女は、僕と粋さんの間に溝を広げるような行為はしても、ファルシエールには何もしようとしなかった。
更に彼女は不可解な事を言ってきた。
シイラの記憶を戻す代わりに自分の事を愛せってね。
勿論、そんな条件飲めるわけないから断ったよ。


彼女の真意は分からなかった。
どうして記憶を戻せると言ったのか。
どうしてファルシエールではなく僕を求めたのか。
粋さんの中のシイラに干渉できるなら、ファルシエールにだって干渉が可能なはずなのに。



とにかく分からない事が多いから慎重に動くことにした。
表面的には大人しくしていた事によって彼女は調子に乗りやがって粋さんに迷惑をかけまくったね。
本当に・・・・・・忌々しい。
桜組の皆さんが助けてくれて本当によかった。
学園祭の頃から仲良くなったみたいだけど、桜組の皆さんは・・・・・祐月さんを例外として・・・・・いい人達ばかりだね。
特待組であれだけ性格のいい人達ばかり揃うのは珍しいんだよ。
特に帝さんは・・・・・非の付けどころがないくらいいい人だと思う。



・・・・・・あ、ごめん、話がズレた。
学園祭が終わって、クリスマス会。
照明が消えるって事は僕も知らなかった。
粋さんが暗所恐怖症だという事は聞いていたから焦った。
焦るだけで身動きの取れない僕の手助けをしてくれたのは、何故か祐月さんだった。
彼の行動はあまりに不可思議だったけど、その時は素直に好意として受け取って粋さんの元へ急いだ。
幸いなことに、あっちの世界での能力か体質なのか分からないけど夜目が利くのが役に立って粋さんを見つけることができたけど、既に粋さんは過呼吸で意識が朦朧としていたんだ。



落ち着かせなきゃと思ってバチバチくるのを分かってて手を握ったら、その事で粋さんは僕だって分かってくれたみたいだね。
あの時だけはこの変な現象が有難かった。
暗い間しか一緒に居られないけど、暗い間は粋さんの体調はよくならない。
意識を失ったままの粋さんを1人にするのは不本意だったけど、明るくなったら直ぐに人が見つけてくれる椅子に座らせて、暗いうちに僕は元の場所に戻ったんだ。



次の日、東雲関係者を集めたパーティの中でルナソルを発表するって僕は当日に聞かされたんだ。
西神に情報が漏れないようにって念を入れたらしい。
おかげで発表は無事に行われて、明るい所で粋さんと会うことも出来た。
そして・・・・・・
そして、発表の後、2人になった時に粋さんも僕の事を好きだって聞いて・・・・・
本当、その瞬間までまさかって思ってたから、凄く嬉しい事なのに呆然としちゃって・・・・・もう、本当に僕ってヘタレだよね・・・・・



思いが通じたって分かってからは、それまで以上に会社の事を勉強したり東雲の能力を伸ばすのに力を入れるようにした。
西神との問題を解決させるのも、粋さんが好きだと言ってくれたのもこの世界の僕だからね。



年が明けたら状況が色々と変わってきた。
僕は東雲の能力を使えるようになったし、姉さんは母さんから一人前の化粧師と認められた。
北杜さんは必要となり得るあらゆる情報を集め分析して、西神に対抗出来るデータを揃えた。
そして、決定打だったのがルナソルのバレンタイン広告だった。
あの広告効果で僕と彼女が付き合っているのは本当か?って疑惑が広がって記憶操作の力が弱まったんだ。
そして、昨晩の両家の会議を迎えた。




※※※※※※※※※※※※※※※





「っくしゅん!!」
「あ・・・・・ご、ごめん。こんな所で長話してたら寒いよね・・・・・・はい」
焔くんは着ていたコートを脱いで肩にかけてくれた。
とっても軽くて暖かいんだけど・・・・・
「ダメだよ、焔くんが寒いでしょ」
「マフラーがあるから平気だよ」
「平気じゃないよ。続きは・・・・・創司くんの家に行ってからにしよう。私も逃げないでちゃんと話すから」
「でも・・・・・」
焔くんは正直に今までの事を話してくれた。
出会った時から友好的だったのを気にはなっていたから本当の事が分かってすっきりした。
勿論、シイラが目的だったというのは少なからずショックだけど・・・・・
ウジウジと悩んで焔くん自身を信用出来なかった私だって、焔くんを傷つけてしまった。



「焔くんの気持ちを疑ってりしてごめんなさい」
「ううん、僕の態度に問題があったと思う。粋さんにシイラの記憶が戻ったら、僕がファルシエールの魂の欠片を持っているって知って喜んでくれるって思いこんでた。何て考えなしだったんだろう。もっともっと粋さんの気持ちを考えてあげるべきだった。祐月さんに窘められるのは当たり前だよ。僕はあまりに自己中で子供だったから・・・・・あ・・・・・」
「未だバチバチくるんだ・・・・・でも、お願い、離さないで。お互いごめんなさいしたんだから、仲直りの握手をしよう?」
「そうだね」
手を握ると今でもバチバチとくる。



「このバチバチはあっちの世界の私達がこっちの世界の私達に何かを教えようとしているとかじゃないかな?あのね、私の中のシイラの記憶って完全に戻ったわけじゃないの」
「そうなの?」
「うん・・・・・あっちの世界の人の魂の欠片を持っている人は感覚で分かるし、あっちの世界の能力を少しだけ使えるようになったんだけど、記憶に曖昧な部分があるの」
「でも、時間が経てば何か変わっていくんじゃないかな。僕みたいに10年以上も夢で見ていたら自分の記憶以上に鮮明な部分があったりするけれど、粋さんの場合は昨日の今日だもん」
「そう・・・・・だよね。だからね、もしかしたらの話だけど全部がクリアになったらバチバチがなくなる・・・・・とかだったらいいなぁ〜って何だか自分都合な話だけど」
えへへっと笑うと焔くんは額をぴったりとくっつけてきた。
見慣れているとはいえ、至近距離では超迫力の美形で目のやり場に困ってしまう。



「やっと目を見て笑ってくれた」
「あ、うん、えと、さっきまでは本当にごめんなのでした。えと、えーと・・・・・ちゃんと目を見るから、そんなに近づかないでもいいよ?」
「誕生日に言ったでしょ?今の問題が解決したらもっと沢山イチャイチャしようって」
・・・・・・言った、確かにそんな事を言ってた。
「まだ全部の問題が解決したわけじゃないよ。ね、だから、えーと、えーと、皆の所に行こう」
仕方ないなぁと言って、焔くんは私の手の上にハンカチを乗せてぎゅっと手を握った。



「これならあまりバチバチがこないよね。本当は手袋しちゃうのが早いんだけど、手袋するの嫌でしょ?」
「うん」
「じゃあ、このままで帰ろう」
小さい頃から私は手を繋ぐのが好きだった。
それは私の中に居たシイラの影響もあったかもしれない。
シイラはファルシエールさんと手を繋ぐ時間をとても大事にしていたから。
「私の中のシイラは、今、嬉しいと思ってるかな?」
「今の僕もファルシエールも嬉しいと思っているよ。だからきっとシイラも思っているよ」



実のところ、あっちの世界の問題はこれからどうなっていくのか分からない。
目覚めた記憶の中に曖昧な部分があるっていうのも気になる。
「ねぇ、僕自身にも言える事だけど、1人で悩んだり頑張ったりしないようにしようね。困ったら皆で一緒に解決しよう」
「うん、そうしよう」
分からないことは沢山あるけれど、一緒に問題を考えてくれる人達がいるからきっと大丈夫。
きっと、ううん、絶対。



「あ、あのさ、別に大した事じゃないんだけどね・・・・」
「ん?なぁに?」
「焔くんさ、話し方・・・・・変わったよね?」
「え?ご、ごめんなさい!全然無意識だった・・・・でした」
「そのままでいいよ。・・・・・あの・・・・・そっちの方がいいな。敬語じゃない方が打ちとけてるっていうか、その・・・・・」
誰にでも敬語で話してるからあえて言わなかったけど、 年齢差を感じさせない話し方だったらいいなぁとは思っていたんだよね。
できればこの機会に是非・・・・・
「粋さんがいいならそうするよ。その方が距離が近くなった気がするしね?」







「仲直りしたみたいだね。予定通りとはいえ、こっちの世界の彼女も甘いというかお人好しというか」
「あれ、ほんもの?」
「そう、本物。でも、ボクの言う事をちゃんと聞いていれば・・・が本物になれるんだよ」
「わたし、ほんもの?」
「そうだよ。そうしたら・・・がボクの1番になるんだ」
「はやく、ほんもの、なりたい」
「焦らなくていいよ。もう少し時間をかけた方が裏切られた時の傷が大きくなって、彼女から本物を奪いやすくなるからね」
「わたし、ほんもの。わたし、なまえ、・・・」
車の窓に手を当て、公園を出て行く粋と焔をじっと見つめる少女。
冷たい青い瞳の少年は少女と粋を交互に見ると、静かに目を閉じ口元を上げた。
「先ずは、あの用済みバカ女を始末しておこうか」









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