みずのきおく・41






化粧とは主に物の表面を美しく飾る事を意味する。
ようするに上辺だけの取り繕い。
あまりいい感じは持たれない言葉だ。



化粧師とはその名の通り人に化粧を施す者。
人よりも美しくあろうとする為に、人よりも優れたカリスマを見せる為に人は化粧師の能力を必要とする。
だけど、私が化粧師としてしたい仕事は少し違う。
私は・・・・・・・







「うっそ・・・・・ん・・・・・」
「何よ、その顔」
2月14日です。
男子も女子もドキドキ青春一大イベントのバレンタインデーです。



「ほ、ほほほほ、ホンマにコレ、和泉が作ったん?」
「だーかーら、そうだって言ってるでしょ?!」
和泉ちゃんのイライラーっとした声が教室に響く。
イライラの原因は・・・・
「い、いやいや、まさかなぁ・・・・うーん・・・・・」
「そんなに怪しむんならもういいもん!他の人にあげちゃうもん!!」
ぷいっと横を向くと和泉ちゃんは九重くんの手の中の箱を取り上げてカバンにしまってしまった。
ざわっとした空気が流れた後、クラスの中が急に静まり返った。
創司くんと祐月くん以外の男子達の動きが停止してる?!
な、なんだろう・・・
このビミョウ過ぎる雰囲気は、何?



「僕はパスね」
ニコニコニコ〜っと笑って手を挙げる祐月くん。
ちょっと険悪になっちゃった2人のムードを回復させるため?
見直した〜という目で見ると、祐月くんは爽やかに私にこう言った。
「だって、当麻さんの料理は見た目は物体Xで口の中にカオスが発生する凶器なんだもん。まさかの事態になったら委員長が薬を用意してくれるだろうけど、僕、自分の事を大事にしてるから」
脱力。
もう・・・・・この人は・・・・・
爽やかに何を言ってるんでしょう。




※※※※※※※※※※※※※※※





「いらんなんて言うてへんやろ?おーきに、めっちゃ嬉しいわ」
「む、むぅ。最初から素直にそう言えばよろしいのである」
ニコニコっと人懐こい顔で九重くんが笑うと、和泉ちゃんは少しだけ頬を染めてカバンの中の箱を取り出した。
そして、一度回収された綺麗にラッピングされた小箱は、再び九重くんの手の中に戻ったのでした。
めでたしめでたし!!
「そんじゃ、開けてみましょか」
「ふふっ、怖いもの見たさってヤツだね!」
「うっさい、円ちゃんには関係ないでしょ!!」
ああ・・・・・何だかなぁ・・・・・



「おぁ?!」
九重くんの驚きの声に安積くんと霧島くんの肩がビクっとする。
「あれはトラウマだね」
「うっさいって言ってるでしょ!円ちゃんにあげるチョコは欠片もないんだから!」
「ありがたき幸せ」
「うがーーー!!!」
怒り心頭な和泉ちゃんが、祐月くんに拳を振り上げた。
き、キケン・・・・!!!
「お、おさえておさえて・・・・・祐月くん、ややこしくなるから絡まないでよ」
「ふふっ、当麻さんの相手ばかりしてて妬いちゃった?」



「妬かないって」
「妬くか、ボケェ!!」
「夢見てんじゃないわよ、黒属性!」
「妬かないよなぁ?」
「妬くわけ・・・・・ない」
「妬かないよ〜」
「妬くわけないじゃないですか」
「バッカじゃないの、妬くわけないじゃん」
「・・・・・・・以上です。あ、因みに妬きません」
何だかんだでクラス全員集合。
このままクラス会に突入です。(先生、いつもすみません)



「それで?達弥の驚いた作品はどういう物体なの?愛の力でも完食出来そう?」
「・・・・・マドカはもうこれ以上言葉を発さないで。達弥、よかったらどういう物なのか見せてくれる?」
あぁ・・・・・みくちゃんは素晴らしき調整役だわ・・・・・
和泉ちゃんの怒気が少し収まった気がする。
「ん、これ」
「あぁ・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「頑張ったね、よく出来てるじゃない。苦労したんじゃないの?」
みくちゃんに褒められると和泉ちゃんはパァっと嬉しそうに笑った。
よしよしっ、怒気は完全に抜けた!



「そ、それはまぁ、それなりにね。いや、あの、うん、水波ちゃんがすごくすごく丁寧に教えてくれたから出来たようなものなの」
「そうなんや、おーきにな、みなみちゃん」
「いやいや・・・・・私は横に居ただけで頑張ったのは和泉ちゃんだよ」
「ううん、スイちゃんの力は大きいよ。僕も何回かやってみたんだけど・・・・・まぁ、上手くいかなかったんだ。僕の教え方が悪かったんだと思うけど」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇





『ミクじゃだめなんだよ』
お菓子作りを教えてもらうなら、みくちゃんの方が適任なんじゃないかなぁと思ったんだけど和泉ちゃんの答えはNO。
その理由は・・・・・
『ミクってウチの事いつまで経っても妹扱いでさ、おまけにめっちゃ過保護なんだ。教えてくれてるつもりなんだろうけど、「ここは僕がやってあげる」ってほとんど自分でやってくれちゃうからイライラ〜っとして「もういい!!」ってなっちゃうの』
・・・・・という事らしい。
何となく想像が出来るなぁ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇





「和泉ちゃんは器用だから隣で同じモノを同じ速さで作ればちゃんと出来るって思ったの。和泉ちゃんはやればできる子だもんね?」
「そう、そうだよ。ウチはやればできる子なんだから!」
「じゃあ、出来る子の当麻さん、僕達にもチョコ頂戴?手作りなんて贅沢言わないからさ、頼んでいたやつをね」
「本っ当にいい性格してるよね、円ちゃんって」
「うん、よく言われる」
爽やか〜な笑顔で両手を差し出して、しらっとして答えるのがスゴイ。
スゴ過ぎる!
慣れてる事だとはいえ皆揃って首をガクリとさせたのはいうまでもないです、はい。







「ありがとう。水波さんの愛はしっかりと受け取ったからね」
「喜んでもらって何より。頼まれてた物と合ってるかちゃんと確認してね?」
「うっわー、さらーっと流してるし。何でこのクラスの人達って僕の能力が効かないのかな?」
祐月くんは適応と同調っていう能力とあともう1つ能力がある。
すっごく物覚えがよかったり、どんな環境にも順応できるっていう能力が適応と同調。
もう1つの能力は何だかよく分からないけど、その場の雰囲気を和ませるようなもの・・・・・らしい。
・・・・・・なんだけど、正直言って半信半疑。
確かに学園祭での活躍とか見てたらすごいなって思うけど、クラスの中では話を混乱させようとしたりかき回したりする方が多いからなぁ・・・



「よく言うよ、僕達の間では体質系の能力しか使ってないくせに」
「さぁ?どうだろうねぇ?」
くすくすと笑いながらチョコの包みを開けている。
・・・・・・・読めない。
ところで。
「体質系って?」
「祐月くんの場合は、適応と同調の能力です。本人の意思を抜きにして効果が現れるものですね。私の能力も体質系です」
「ふぅん・・・・・じゃあ、私とか和泉ちゃんの能力は体質系じゃないんだ?」
「そうだよ、ウチらは技術系。複数の系統の能力を持ってる人って珍しいんだ」



因みに。
体質系が柊さん、安積くん、霧島くん。
技術系が和泉ちゃん、九重くん、土浦くん。
複数系がみくちゃん、祐月くん・・・と、
「創司くんも複数系だったの?」
「分類するとそうだよ。風眞もそうだし、粋も多分そう」
「私も?!」
歌しか能力がないと思うんだけど??
他に何か・・・・・・・・・体質的にニブい、とか。
ずぅーーーーん・・・・・・まさか。




※※※※※※※※※※※※※※※





「センセーって学園では初めてのバレンタインだったけどさ、いっぱいチョコ貰えたんじゃない?」
「桜の女子の皆さんからと風眞から貰えたよ。それで十分だから他のチョコは貰ってないよ」
「貰えたのに貰わなかったっちゅーのが正しいんやな。ホンマ、センセは風眞ちゃん一筋やんなぁ〜」
彼氏の鏡だぁ〜
朝から何か機嫌がよかったのは、きっと風眞さんからチョコを貰ってから登校したからなんだ!!
カワイイではないですか!!!



「センセイに笑顔で「ごめんね?」って言われたら、普通の神経を持った女子生徒でしたらまず「いいですよ」ってなりますものね」
「え?・・・・・柊も北杜みたいなのがいいの?」
「いいとか悪いではなく一般論です。それで、冥は今日はいくつ貰ったんですか?」
柊さん・・・・・いつも以上に無表情だ・・・・・
メガネのフレームがキラーンと光ったようにも見えましたです。
「ろ・・・・・6個・・・・・かな?」
「そうですか、それだけあれば十分ですね。私からの分は兄達に分けてしまいますから、気にしないで下さい。桜女子からの分を足して7個を味わって食べて下さいね?」
「今直ぐに返してくるっ!!だから、ニィ達にあげちゃわないでっっ!!」
必死の表情で土浦くんは教室から駆け出していった。
今の時間って選抜クラスは授業中だと思うんだけどな・・・
「昨年までは何も言わなかったのにね、委員長も妬いたりするんだ?」
「妬いているように見えましたか?おかしいですね、私は普段と変わらないと思いますが」
いえいえ、話している間、顔の筋肉がほとんど動いてませんでしたよ。
声は穏やかなだけに妙な迫力が・・・・・



「円ちゃんは乙女心が分かってないなぁ〜。沢山貰ってるならまだしも6個って数がリアルなだけに嫌なんじゃん。んで、達弥は?朝も校門の所でいっぱい貰えたよねぇ?」
九重くんは後輩から人気があるらしい。
だから今年は中等部の子が高等部の門の前で渡してくれると。
一緒に登下校している和泉ちゃんは目の前でその光景を見る事になるというわけか・・・・・
むぅぅ・・・・・
「15くらいあると思うんやけど・・・・・ま、いつも通り後で一緒に食おうな?」
「もっちろんでしょ!独り占めしたら許さないんだから!!」
・・・・・・・こういうカップルもある、と。
複雑だ。



「安積くんと霧島くんは?」
「知らない人から・・・・・貰うの・・・・・嫌・・・・・」
「僕も〜」
2人で「誰も来ない気がする〜」って所に避難して、猫と戯れていたと。
それ、すごいから。



「みくちゃんは?」
「僕は・・・・・えと、今までクラスの分以外貰った事ないんだ。だから今年も1つ」
最近まで話し方で勘違いされてたからかな?
キレイで優しくて紳士な男の子なのにな・・・・
「あのね、これ、和泉ちゃんの隣で同じの作ったって言ってたやつなの。学園祭の時からお料理いっぱい教えてもらったし、お礼っていったら変なんだけど貰ってくれるかな?」
「あ、ありがと・・・・・嬉しい・・・・すごく嬉しい」
ハイっと言って手渡した包みを両手で受け取ってくれたみくちゃんは、ぎゅっとそれを胸に抱いて喜んでくれた。
やっぱり誰かから貰えたら嬉しいものだよね!
あげてよかったぁ〜。
「天然です・・・・・」
「ミク、精神面がどんどん強くなるよね・・・・・」




※※※※※※※※※※※※※※※





「そういえばさ、中等部の王子の話、聞いた?」
中等部の王子って、焔くんの事だよね。
何だろう・・・・・落ち込む話だったら嫌だなぁ・・・・・
「今年は東雲くんが居るから円ちゃんへの数が激減したとかいうんじゃない?」
「ううん、今年も学園内で一番バレンタインの贈り物を貰ったのは僕だよ。王子はきっと受け取らないだろうし、何より王子は今日、学校に来ていないんだ。最近不仲が噂されてる『彼女』もね」
誰も何も言わないけれど、何となく皆が私に気を使ってくれているのが分かる。
「あ・・・・・あの・・・・・・」
「ま、王子も色々と忙しいんでしょ。「無名」じゃないっていうのは力に対するそれなりの責任が伴うんだろうしね。北杜先生、ちょっといいかな?」
「・・・・・・あぁ」
祐月くんがニコッと笑って教室を出て行くと、創司くんも後を追って行ってしまった。



「・・・・・祐月くんって・・・・・よく分かんない・・・・・」
気まずくなるような話題を振っておいて自分はいなくなっちゃったりするし。
「私も彼の真意はサッパリ分かりません」
柊さんですら分からないなら、私に分かるわけないか。
・・・・・変な感じ!!
「黒属性の上に図々しくて空気を読まない人ですが、仲間と認めた人に対しては損得抜きで自分の能力を惜しみなく使ってくれる人です。だから、私達は振り回されながらも彼の行動の先にあるものを信じる事ができるんですけどね」
「行動の先・・・???」
「今の話は唯の話題の提起ではないと思う。東雲くんとあの女の子が同時に休んでいるのには、きっと何か理由があって・・・・・・その事でスイちゃんに先月みたいな事が起きないか心配して僕達が揃っているところで話したんじゃないかな」
信じがたいけど・・・・・皆の表情からいってそうなんだろう、きっと。



「霧島ちゃん、今日は水波ちゃんに何か起きそう?」
和泉ちゃんにそう聞かれると、霧島くんは眠そうな目を閉じて暫く動かなくなった。
そして、目を開けると焦った表情でこう告げた。
「・・・・・・・・おかしい〜水波さんの予感が〜できない〜」
その場に居る全員の顔が強張った。
予感が出来ない・・・・・能力が使えない??



「ちょっと待ってよ。まさか、霧島ちゃんの能力が・・・・・・」
「ホダカ、他の予感をしてみてくれる?例えば・・・・・メイはあとどれくらいで戻ってくる?」
霧島くんは頷いて再び目を閉じると、今度は直ぐに答えた。
「あと〜3分で〜来る〜かも〜」




※※※※※※※※※※※※※※※





「柊!!全部返して来たよっっ!!チョコ頂戴!!!」
「・・・・・・・」
3分後、土浦くんは教室に戻ってきた。
「何だよ、一体」
皆で安堵の溜息をつくと、土浦くんは怪訝な顔をして私達の輪に入ってきた。



「よかった、能力が使えなくなったってわけじゃないようだね」
「でも〜水波さんだけ〜わからない〜。・・・・・・・・ごめんね、不安にだけさせて」
「ううん、謝らないで。大丈夫だよ、何とかなるなる!それより霧島くんの方が不安でしょ?能力が急に使えなくなったりしたらすごく不安だもん。私、そうだったから分かるよ。だからね、私の方こそ霧島くんに役立つことがあったら力になるから」
「ありがと〜・・・・」
私の予感だけ出来ないっていうのは正直怖いけど、霧島くんの方が怖いはず。
自分が経験した事だから、何か少しでも助けになれればいいなって思うんだけど。



「特定の予感が出来ないというのには何か理由がありそうです。予感の力でも見えない変動する未来・・・・・気になりますね」
「でもさ、裏を返せばウチらが気を付けてあげればいつも通りフツーの1日を過ごせるって事じゃない。未来をいい方に導いてあげればいいんだよ、ね?」
「ありがとう、和泉ちゃん。ありがとう、みんな」
私と霧島くんの肩を抱いてニコっと笑う和泉ちゃん。
この明るさに皆救われるんだろう、きっと。







「わざわざありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
用事があるからって午後に早退してしまった創司くんの代わりに、祐月くんが家まで送ってくれることになった。
「・・・・・」
何故に彼にお願いする事になったかと申しますと。



和泉ちゃんと柊さんとみくちゃんと九重くんと土浦くんは電車通学だからいいよってお断りしました。
霧島くんは心配だからゆっくり休んでねって言いました。
安積くんは霧島くんの様子を見ていてねってお願いしました。
・・・・・で、残りは1人。
「ご指名とあらば、一緒に帰るのも一緒に登校するのも・・・・・何なら一緒に住んじゃう?1人暮らしだから誰に気兼ねする事もないし、朝も昼も夜も満足して頂けるように頑張っちゃうよ?」
「水波ちゃん、ウチ、ちょっとくらい家に帰るの遅くなったって平気だよ?」
「あははは・・・・・」
笑うしかない。
何で祐月くんってこうなのかなぁ。
「いえ、今日は祐月くんを信用してお任せする事にしましょう。もし・・・・もしも、私達の信用を裏切り不埒な愚行を働くようであれば・・・・・二度と太陽を拝めないと覚悟しておいて下さい、いいですね?」
そんなこんな事があったわけでございます。




※※※※※※※※※※※※※※※





「水波さんって僕が苦手?」
大した会話もせずに暫く歩いていると、祐月くんは唐突に本人を目の前にして答えづらい事を聞いてきた。
取り繕って返事しても仕方ないし正直に答えるしかない。
「ごめん、苦手・・・・・かな。でも・・・・・」
「謝らなくてもいいよ。僕自身はそんなに好かれるヤツじゃないって自分でも分かってるもの」
「苦手っていってもあのね・・・・・」
苦手なのは苦手。
だけど、ただ苦手ってわけじゃない。
それはちゃんと伝えなきゃならない。



「両親だって僕を持て余してたんだ。でも、僕の能力だけは必要だったから離婚する時はどっちが親権取るかって大喧嘩」
「話の続き聞いてよ」
私の言葉を遮るように話し続けている。
むぅぅぅ・・・・・
「バッカだよね、あんまりバカだから僕が丸く収めちゃった。・・・・・・親にだって不都合があれば躊躇しないで能力を使う。僕って嫌〜なヤツでしょ?でも、こんな僕に皆コロっと騙されるんだもん、お人よしというかマヌケというか・・・・」


「聞いてってば!!!」


抜群の声量で叫ぶと流石の祐月くんも黙ってくれた。
はぁ、はぁ・・・・・
「な、なに・・・・・?」
「苦手だけど嫌いだなんて言ってないでしょ?!苦手なのは、今まで近くに祐月くんみたいなタイプがいなくて対応の仕方がよく分からないから!それにさ、桜の皆は祐月くんのこと信頼してるし仲間だって思ってるのに、皆なんて大きな括りで話しないでよ!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・ははっ、本当に水波さんは面白いね」
髪をくしゃくしゃっと掻き上げて笑っている。
む、むむむむ・・・・



「笑い事じゃない、どうしてそうやって誤魔化すの?私、真面目に話してるのに」
「どうして・・・・・って聞かれると「それが僕だから」としか答えられない。でも、うーん・・・・じゃあ、誤魔化さないで1つだけ本当の事を答えてあげる。何か聞きたい事ある?」
「・・・・・・・いい」
「こんなチャンス滅多にないんだよ?僕は金にも権力にも動かされない、僕は僕にしか従わないから」
「だとしたら、尚、いい。私は祐月くんの心をこじ開けたいわけじゃない。それに、人に伝えたい本当の事は自分から言うものだもの」
変わっていると又もや笑われるかと思ったら、祐月くんは「ふーん」と言って黙り込んでしまった。
怒らせるつもりはなかったんだけど気分は悪くさせちゃったかもしれない。
好意で言ってくれたんだろうし、一応。
でもなぁ、祐月くんには祐月くんの筋ってモノがあるように私にだってあるもん。



「伝えたい事は自分から言うもの・・・・・か。なかなか難しい事を言うね」
溜息混じりに話し続ける。
「それを本気で言うんだから、水波さんって子供みたいだ」
「・・・・・子供っぽいのは自分でも分かってますー」
「ごめん、言い方が悪かった。何て言うのかな、水波さんは純粋過ぎるんだ。だから騙され易いでしょ?」
言い方悪いどころじゃない。
バカにされてるーーーー!!



「ねぇ、汚い水の中で生きてる魚を綺麗な水の中に移すとどうなると思う?」
突然、話が変わった。
今度は生物の話ですか?
「元気になるんじゃない?」
「僕は・・・・・・・苦しがると思う」
その冷たい・・・どこか痛々しい声にハッとして祐月くんを見ると、表情は普段通り穏やかだった。
「苦しい・・・・・祐月くんは、苦しいの?」
「苦しいのかな?よく分からない、自分に都合の悪い感情は忘れるようにしてたから。でも、水波さんと話してるとその不都合な感情を思い出しちゃう時があるんだよね」
「私のせいなの?私が無神経な事を言って祐月くんを傷つけてたの?」
思い返してもよく分からない。
いつ?
それとも、頻繁に?



「水波さんは無神経じゃないよ、犯罪的に鈍いけど」
「それはどうもすみませんね」
「君はね、自覚はしていないと思うけど周りの人を癒す力があるんだよ。西神さんだって東雲くんだって美久だって、水波さんを好きな人は皆、水波さんに癒されて救われている」
「・・・・・・」
癒す力・・・・・
歌が持ってる力の事?
でも、私がしてる事はきっかけなだけなんだけど。



「僕は1人で生きていける能力を持っている。だから、決められた運命も責任も享受できる。君さえ現れなければ、僕は僕の人生を順調に全う出来たんだ。溝川の魚が綺麗な水に移された時に感じる苦しさは、綺麗なモノの中でハッキリと自覚する自らの醜さ。君の優しさや純粋な心や柔らかな感情は、僕が隠したいものを露わにしてしまう」
「私って祐月くんにとって不都合な存在?」
「そうだろうね」
軽く話しているけれど、かなりショックだ。
存在自体を嫌われるなんて、改善の余地がない。



「この辺でいいよ、もう家見えてるし」
「そう?じゃあ、ここで見送ってるから」
ぎこちなく笑いながら手を振って、数歩歩いた所で足を止めた。
無駄かもしれないけど。
言うだけ言わなきゃ気が済まない。
「魚が苦しいのは自分の醜さのせいじゃない、ただ・・・・・環境に慣れていないからだと思う。さっきも言ったけど私は祐月くんが嫌いじゃないから、祐月くんに慣れるように努力してみる。そして出来れば・・・・・難しいかもしれないけど・・・・・祐月くんも私に少しでも慣れて欲しい。あとね、私は今までと変わらない。祐月くんも変わらないでいい。変わったら意味ないもん。・・・・・じゃあ、明日ね」




※※※※※※※※※※※※※※※





「余計な話をするんじゃなかったな」
粋が無事に家に入るのを確認すると、祐月は携帯で誰かに連絡をとった。
「ま・・・・・友達のためっていうんじゃなくて好きな子のために働くっていうのも悪くないか」
普段の作り笑いではなく自然に微笑んでいる自分、 不都合な感情を認めようとしている自分に気が付き首をすくめると、祐月は来た道を引き返していった。







「おかえりなさい、すいちゃん」
「「おかえりなさーい」」
「ただいま。2人とも遊びに来てたんだね、いらっしゃい」
パタパタパタ〜っと駆け寄って来たアイちゃんとユウキちゃんとノゾムくんをぎゅっと抱きよせると、甘いチョコレートの香りがした。



「きょうはおとまりするの」
「お泊り?」
平日なのに珍しい。
明日は学校がお休みなのかな??
「おとうさんとおかあさんとおにいちゃんがおでかけしてるからなんだよ」
「そうなの・・・・・」
何か大事な事があるのかもしれない。
焔くんが今日お休みしていたのはきっとそのせいなんだ。



「はい、すいちゃん」
「ふうまおねえちゃんから、ちょこれーとだよ」
「ごようがあるからきょうはすいちゃんにあえなくてざんねんなんだって」
「風眞さんが・・・」
風眞さんも今日は用事がある。
創司くんは午後から早退した。
茉莉さんがお休みしたのも合わせて・・・・・西神と東雲のお家で何かあるって考えるのは的外れではないと思う。
何か・・・・・胸騒ぎがする。



「すいちゃん、どうしたの?」
「「すいちゃん?」」
3人の手が心配そうに私の身体を擦る。
「何でもないよ、んーと、おなか空いちゃったな。今日の夕飯は何かなぁ?」
薄い緑色の紙に包まれた箱をユウキちゃんから受け取って、3人と一緒にキッチンへと向かう。



私は願う事しか出来ない。
どうか、無事でありますように。
どうか・・・・・









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