みずのきおく・42






「すいちゃんのチョコ、おにいちゃんにあげたよ。あさからいそがしそうだったけど、よろこんでたよ」
私の耳元でコソコソとゆうきちゃんが囁く。
「ありがとう!」
きゅっとゆうきちゃんを抱きしめると、あいちゃんとのぞむくんも寄ってきて私に抱きついた。
うわぁ・・・・・モテモテだ、私。



「ユウキ、どうしたの?」
「おんなのやくそくだからノゾムにはひみつ」
ガーーーーンとした顔ののぞむくん。
双子間での秘密は相当ショックだったのかな・・・
「あ、あのね。ゆうきちゃんはね、私のチョコを焔お兄ちゃんに渡してくれたんだよ」
「すいちゃんはほむらさんがすきだから、チョコあげたかったのね。きょうはおんなのこがすきなおとこのこにチョコあげるひだもんね」
キラキラ純真な瞳で見上げるあいちゃん。
そんなにストレートに言われるとお姉ちゃん恥ずかしいよ!



「そういえば、のぞむくんは学校でチョコいっぱい貰ったんじゃないのかな?」
最近のお子様はおませさんだから。
あいちゃんだって紅蓮くんとのぞむくんにチョコあげてるしね。
のぞむくんは可愛いし(お子様の目から見たらカッコイイのかな?)、成績は学年1位らしいし(ゆうきちゃんは3番目らしい)、クラスの級長さんをやってるとも聞いたことある。
これはもう、絶対モテモテ(死語)だとお姉ちゃんは睨んでいるのだけど。



「しょうがくぶはおかしもっていっちゃいけないのよ」
「あ、そうなんだ?」
自由な感じだけど締める所は締める学校なんだ。
高学年の子達はちょっと残念だろうなぁ。
「ぼく、いっぱいチョコいらないよ」
「でも、のぞむくんはチョコ大好きでしょう?いっぱいチョコ貰ったら嬉しいんじゃないかなぁ?」
そうたずねるとのぞむくんは俯いて少し顔を赤くして答えてくれた。
「・・・・・すきなおんなのこから1つもらえるほうが、うれしいよ」



! ! ! ! ! !



お、お姉ちゃん・・・・・何だか感動したっっ!!!



「のぞむくん、すきなおんなのこいるの?」
流石、素敵に無敵にストレートなあいちゃん。
私もそれが気になっていたのよっ!
「う、ううん・・・・・いないよ」
何故か更に顔を赤くさせている。
好きな子いないのは恥ずかしい事じゃないのに!
わ、私なんて16年間おりませんでしたもの!!



「そうなの?じゃあ、すきなおんなのこができたらおしえてね?」
6歳にして彼氏がいる余裕なの?!
そうなのね、あいちゃん!
言われた方ののぞむくんは困った顔をして真っ赤になってしまったのだけど。
意外に恥ずかしがり屋さん??
か、可愛い〜〜







2月14日(水)朝 東雲家

「おにいちゃん、これ・・・・・」
父さんとの打ち合わせを終えて部屋に戻ろうとすると、有希がシャツの裾をつかんで僕を引きとめた。
「何?」
キョロキョロと周りを見て、小さな紙袋を手渡すと僕の顔を見上げ「ナイショのはなし」と言うので有希の口に耳を近づけると、ヒソヒソと話してきた。
「すいちゃんから」
「えっ・・・・?!」
何で?
何だろう??



「ばれんたいんでしょ?」
「あ・・・・・・あぁ!!」
夜の事ですっかり忘れてた。
そっか・・・・・いや、どうしよう。
すごく嬉しい。
「ありがとう」
「おんなのやくそくだもん。おにいちゃんもやくそく、すいちゃんとけっこんしてね」
「け・・・・」
・・・・・・っこん?
何故そこに話が!?



「あんなけばけばなひととけっこんなんかだめ!」
話が分かっているのか分かっていないのか。
それにしても「けばけばなひと」とは言ったものだ。
あの女は綺麗に見えるけどそれが作りものだって、子供の目から見ても分かるのかな?
「うん、約束するよ」
右手の小指を絡めて約束。



2月14日(水)
今晩、東雲と西神の未来に関わる重要な会合が開かれる。







「すいちゃんとほむらさんはすきどうしなのに、いっしょにいられないなんておかしいね」
「うん、おかしい!!」
お母さんとお父さんが急に仕事が入ってしまったから今日は私が夕飯を準備している。
お子様達もお手伝いをしてくれているのだけど・・・・・
「すいちゃんのほうがぜったいおにあいなのよ。すいちゃんのほうがずっとずっとかわいいもん」
「あんなけばけばがおにいちゃんのあいてなんて、イ・ヤ!!」
拳を握って熱弁してくれる女の子2人。
のぞむくんだけがポテトサラダ用のじゃがいも潰しを黙々とやってくれている・・・



「味方してくれてありがとう。でもね、自分の味方じゃない人を悪く言うのはよくない事だと思うな。例えばね、紅蓮くんを好きな子の友達があいちゃんの悪口を言ってるって聞いたら、私は悲しいしゆうきちゃんも悲しいでしょう?」
「うん」
「ぼくもいやだ」
あらら、のぞむくんも聞いていたのね。
「そうだよね。だから、あいちゃんとゆうきちゃんも人を悪く言うのは止めよう、ね?」
「「すいちゃんはあまいよ!」」
うーん・・・・・納得してくれないかなぁ。
「でも、スイちゃんらしいっておもってるんでしょう?」
のぞむくんの言葉に2人は「むぅー」と言いながら顔を見合わせた。
お子様達も複雑なのね・・・・・
「さ、このお話はもうおしまい。おねえちゃん、お腹ペコペコだよ。早く夕飯の準備をしよう!」
すると、ようやく2人は笑顔の可愛い天使ちゃんに戻ってくれた。







2月14日 午後7時 東雲系列のホテル会議室

「今日は結論を聞かせて頂けるのでしょうね、皇さん?」
「ええ、それでは皆さん、始めましょう」
東雲からは父さんと母さんと僕、そして東雲グループの支部長等を務める遠縁の人達が5人。
西神からは女帝と茉莉さん、そして西神の関係者が5人。
後・・・・・
「ちょっと待って、貴女は何故此処に居るのかしら」
「それは後々分かります。早く話を進めた方が宜しいのではありませんか、大叔母様」
キツい口調でたずねる女帝に、落ち着いて対応する姉さん。
そう、今晩の会合には姉さんと北杜さんも出席しているんだ。



「西神からの要求は、次代の化粧師を誕生させる為に焔と茉莉さんを婚約させたいという事でした。結論から言いますと、東雲の回答は「NO」です」
「・・・・・・・そうですか、では、空を西神に戻すという事でよろしいのかしら」
「それも「NO」です」
父さんの言葉に室内がザワつく。
「それもこれも受け入れられないというのは困りますわね」
「困る・・・・・そう、困りますね。西神の要求自体が東雲にとって何の利益にもならない困るものでした」
「お言葉ですが皇さん。既にご存知かとは思いますけれど、現在、化粧師の能力を持っているのは私と空の2人だけ。今の状態では西神は私で化粧師が絶える事になってしまいます。四家の1つで能力者が途絶えるのは家同士の問題のみならず・・・・・裏が動く事になりますわよ?東雲が要求を飲まなかった為と分かれば東雲に対する制裁もあるはず。それでも宜しいのかしら?」



西神の血を引く人は完全じゃなくても化粧師の能力を多少なりとも持っている。
普通にメイクをするだけだったら別に完全な能力は必要ではないから、例え化粧師が西神から消えたとしても社会に与える影響はそれ程大きくはない。
ただ、家の象徴である人が能力者でないというのは問題になる。
家同士の力の均衡が取れなくなるからだ。



「西神から化粧師が居なくなるのは問題だというのは分かります。ですから、私の方から新たに西神の後継者となり得る化粧師を推薦します」
西神側は困惑している。
それはそうだろう。
化粧師はもう、女帝と母さんの2人しか居ないはずなのだから。
「・・・・・・・まさか」
「空の娘、貴女の兄上の孫娘である風眞さんですよ」
「そ、そんなの無理に決まっているわ!!だって、その娘は無能の・・・・・」
女帝の言葉を遮り、姉さんが立ち上がって話し始める。
「私は無能ではありません、大叔母様。私の顔をよくご覧になって下さい」



室内の目が姉さんに集中する。
「何だと言うの?いつもと変わりないじゃない」
「そう・・・・・そうです。いつもと変わらない・・・・・大叔母様、私が2歳で北杜さんの家にお世話になって10歳までの間、私の顔を1度もご覧になっていませんよね?」
「ええ」
「おかしいと思われなかったのですか?10歳になった私の・・・・貴女が折角念を入れて潰して焼いた半分の顔が、傷痕が1つもなくなっていた事に。それとも・・・・・整形手術が発達したとでもお思いになったのかしら。もしかして、ご自分の為に整形外科のお医者様を探したとか?」




※※※※※※※※※※※※※※※





姉さんは産まれてから2歳になるまで西神の家で育った。
育った・・・・・というより生き延びたという方が正しいらしい。
姉さんは虐待を受けて、左目を潰された上に顔や身体に火傷を負わされたという。
北杜さんの家に引き取られた後に整形手術を何回か受けたらしいのだけど、あまりに状態が酷過ぎて完全には治らなかった。
姉さんは母さんから貰ったノートを頼りに独学で化粧師の能力を開花させ、傷痕を隠せるようになったのだ。
今の様子では女帝は気が付いていなかったようだけど。



東雲の能力「真実の目」で見れば姉さんの素顔は分かるはずだけど、それは北杜さんから止めて欲しいって頼まれてるし僕自身もそんなことをする気はない。
姉さんは自分の素顔を見る度に辛い思いをしていたと思う。
そして北杜さんは・・・・・想像出来ない程の憎しみを女帝に、西神の家に持っているはずだ。



「もうお分かりになったでしょう。10歳の段階で私は貴女の能力を超えていたんです。私の顔の傷痕も分からなかったというのがその何よりの証です」
女帝の顔が歪む。
美しく装った表面に醜いものが滲み出てくるようだ。
「で、でも、その娘の身体ではこの仕事は務まらないわ。心臓が弱くて体力が持つはずがないもの」
「お言葉ですが女帝さん」
今度は北杜さんが話し始める。
普段の彼には見られないような冷たい表情をして。



「貴女が化粧師の能力を仕事として使うのは月に1度あるかないかでしょう。普段は自分の為、それと最近は・・・・・そこのお嬢さんに使っているようですね」
今度は茉莉さんの顔が引きつった。
僕も自分の能力を使えるようになるまで気がつかなかったけれど、茉莉さんはメイクで顔を変えている。
素顔は何というか・・・・・もっと地味な感じで少し幼く見える。
「大叔母様のメイクでは若い子にはキツすぎると思います。綺麗ではありますけど不自然です。可哀想に、若い子の美しさというものを生かせていないんですもの。あぁ・・・・・若さというものも憎んでいらっしゃるんでしたっけ、大叔母様?」
「黙りなさいっ!!この小娘が・・・・・片目でこの仕事が出来るわけがないのよ!!貴女の目が1つ失われた段階で貴女の化粧師としての未来は終わったのよ!!」



女帝は姉さんの挑発に乗ってしまった。



「そう、アンタは風眞の左目をわざと潰したんだ。アンタは風眞が成長して化粧師となる事を恐れた。だから幼児の段階でその可能性を潰した。アンタは自分自身の手で西神の未来を潰したんだ。だけどなぁ、風眞はアンタに負けなかった。心臓と視力というハンデを抱えてても努力して、協力してくれる友人に支えられて、空さんに1人前として認められるまでの力を得る事が出来た。残念だったなぁ、アンタの思う通りにならなくて」
室内が静まり返る。
結果はほぼ見えた。
だけど、北杜さんの話は続いた。



「さて、話を焔の婚約に戻しましょうか。次代の化粧師を誕生させる為という事でしたが、焔と茉莉さんの間には化粧師は誕生しません。だから、この婚約は意味がなくなります」
「何故、そんな事が言いきれるのよ?!」
「データを揃えて計算すれば出てくる簡単な話です」
北杜さんが手元のノートパソコンを操作すると、室内が暗くなってモニターに系図のようなものが写された。



「説明をする前に質問します。化粧師を誕生させる為・・・完全な能力者はどのような条件で誕生するのか、それが分かっていますか?」
「能力者の血を合わせる事よ。だから、西神の血を引く2人が結ばれれば・・・・・」
「愚かですね、もっと早く気がつけばよかったのに。その考えが、西神から化粧師を減らしたんですよ」
系図が拡大されると、名前の横に幾つか「×」と書かれたものがある。
「西神はその考えのせいで他の家に比べて昔から血族婚が多いです。その為に弊害が今の貴女達に出ています。風眞や風眞のお祖父さんの心臓の病気のようにね。更に酷い事に、西神には「無能」と呼ばれる子が産まれるようになってしまった。通常、能力を持った家に産まれれば多少なりとも能力がありますが、「無能」には能力を発言させる因子がありません。系図で「×」の下に産まれている子がそうです。茉莉さんもそのようですね?」
「で、でも・・・・・焔さんに西神の血が・・・・・」
はぁ・・・・・と溜息をつき、気の毒そうな目をする北杜さん。
徹底的に冷たい。



「それでも未だ血族婚にこだわりますか。でも、焔が相手じゃ無理なんですよ。焔は東雲の気質を強く持っている。東雲の人間には、ある特徴があるんです。そうですよね、皇さん?」
頷く父さん。
東雲側の人間も意味が分かったようだ。
「東雲の身体は心に従うんです。心が動かない相手には身体も動かない。16年前、貴女との子供を体外受精させろと言われた時も無理だと思いました。だから貴女が勝手に解釈するように「1人目の子は体外受精にする」とは約束したんですよ。焔、お前はこれから先、茉莉さんに心を動かされる可能性はあると思うか?」
「ありません」
即答すると女帝と茉莉さんの顔は酷く強張った。




※※※※※※※※※※※※※※※





「それでは、西神の皆さんにお聞きします。西神の後継者に風眞さんをという私の提案をどう受け取って頂けますか?賛成して下さるのであれば、東雲は西神に対する支援をお約束します」
「私も、求められる事があればお手伝いします」
父さんと母さんの言葉は西神側の5人には魅力的に聞こえたようだ。
それはそうだろう。
東雲の後ろ盾は強力だし、稀代の化粧師と言われる母さんの力を再び近くで見られるというのは多くの西神の人達の望みでもあるのだから。
「淫乱女の子供なんかに西神を渡してなるものですか。誰も賛成なんかさせてなるものですか。西神では私は絶対なんですから、この場で私が認めなければ無理なのよ」
権力を乱用して人の意見を聞かない。
ここまで堕ちると呆れるを通り越す。



「無理・・・・・でしょうか。真実を知った西神の人達が貴女と風眞を比べて、どちらが西神を率いるのに相応しいと思うでしょうか」
「真実なんて誰も知らないわ。此処に居る者達だって、今日は何も見てないし聞いていない。東雲との交渉が決裂するだろうという事だけを記憶して帰るでしょう、そうよね?」
女帝に視線を向けられ困惑する西神の5人。
脅迫・・・・・
どこまでも卑怯な。
「見ていないと思っていますか、そうですか。残念ながら、今までの話は全て西神の人達に映像が配信されています。今頃・・・・・ちょっとした騒ぎになっているんじゃないでしょうかねぇ?」
「何を出まかせを言ってらっしゃるのかしら。この部屋に隠しカメラやマイクが付いていない事は既に調査済みよ。騙されると思って?天才といっても未だ子供ね」
勝ち誇ったような表情に対して、姉さんと北杜さんは動じる様子もなく言葉を返した。



「ええ、「部屋」にはありません。凡人に見つかるような所に仕掛けると思ってますか?」
「大叔母様、貴女が潰した私の左目。折角大叔母様が作って下さった空間ですもの・・・・・ただの硝子玉を入れておくだけなんて勿体ないと思いません?」
「俺のパソコンって色々と便利にカスタマイズされてるんですよ。俺にしか使いこなせないのが勿体ないくらいにね」
今の話はハッタリなんかじゃない。
姉さんの左目が暗がりの中でキラリと光ったような気がした。
「アンタが風眞にしてきた事も、それを知らぬ存ぜぬで通した西神の家も俺は許せない。だけど、アンタの目を盗んで風眞の世話をしてくれた人もいて、それで風眞は生き延びられたんだからこれ位にしておいてやるよ。もし・・・・・これから先、風眞を苦しめる事があったなら俺は全力でアンタと西神を潰してやる。欠片も残さず、徹底的にな」







2月14日 午後9時30分 水波家

「すいちゃん、まだねないの?」
パジャマに着替えたお子さま達はお休みの時間。
「うん、お父さんとお母さんが帰って来るまで起きているよ。みんなはもう寝ようね?」
「「うん・・・・・おやすみなさい」」
「・・・・・アイもおきてる」
ゆうきちゃんとのぞむくんが眠そうにしている横で、何故か頑張っているあいちゃん。
私が心配なのかな・・・・・??



「あいちゃん、もう寝ないと明日起きられないでしょう?おねえちゃんのことは大丈夫だからね?」
「でも・・・・・」
「ねようよ、アイちゃん」
「そうだよ、はやくねないとおばけがきちゃうんだよ」
ねむねむな双子ちゃんがステレオで説得?してくれたおかげで、あいちゃんは双子ちゃんと一緒に自分の部屋へと行ってくれた。
1人リビングに残った私はソファに座って両親の帰りを待つことにした。



「遅いなぁ・・・・・」
暫くボンヤリして、時計を見るともう9時45分。
遅くなるにしても普段は電話してくれるのに。
急な仕事だから連絡出来ないのかな?



「・・・・・・・」
東雲と西神のお家の話はどうなったんだろう。
焔くんはどうしているだろう。
風眞さんは無理をしていないだろうか。
クリスマスに貰ったペンダントを握って祈るように目を閉じる。
どうか・・・・・



ピンポーン



「!?」
チャイムの音にハッとする。
こんな時間に誰だろう?
お母さんとお父さん?
まさか、鍵を忘れたからとか?
それなら電話してくるよね・・・・・



ピンポーン



2度目のチャイム。
何度も鳴らされるとお子様達が起きてしまう。
それは困る。
・・・・・とりあえず誰が来たか確認だけしてみよう。
まさかわざわざチャイムを鳴らすドロボウさんなんていないだろうし。



3度目のチャイムを鳴らされる前にインターフォンのモニターをONにする。
モニターに写された人は・・・・・
「・・・・・・・・どなたですか?」







2月14日 午後9時20分 東雲系列のホテル会議室

会合は終わった。
結局、僕の婚約の話が白紙に戻っただけで西神の後継者問題は解決しなかったけれど。
でも、あの様子だと姉さんが後継者になるのは確実だろう。
西神の人達は慌ただしく帰って行った。
北杜さんが以前に「多分、色々とメチャクチャになると思う」と言っていた通りの事になるだろう。



「ありがとうございました、姉さん、北杜さん」
「いいえ」
「一番ソフトな方法で片付いてよかったなぁ」
「一番ソフト・・・・・?」
あれで?
あれが一番ソフトだと言うのかこの人は?!
「そうよ。本当に西神を潰す案も出来てるもの。途中の計算とかは私には分からなかったけど・・・・・西神本家の存続確率0%ってオッソロしい結果を導いてたわねぇ」
「恐ろしくないって。法には触れてないし、直接手を下さないし」
怖い。
怖すぎる。
本気で本当に敵じゃなくてよかった。
爽やかに笑って何を言ってるんだこの人。



「あのババァは今回の事があるまで西神茉莉の事を知らなかった。調べるのが面倒な程末端の家だったせいもあるし「無能」には用がないからな。それなのに彼女を婚約者として持ちあげたのは記憶操作をされていたからだろう、十中八九」
「そうですね」
「西神茉莉が「無能」であるから婚約者になれないというのなら、次の候補になれる人は何人もいるわ。それなのに、大叔母は彼女に操作されていたから新しい婚約者候補の提案をしなかった。でも、今回の失敗によって大叔母も何かがおかしいと流石に気が付くわ。そうすれば記憶操作の効果が薄くなって、懲りずに新しい候補をあげてくる可能性がある。それは彼女も分かっている、分かっているならば何かを仕掛けてくるはず」



女帝は姉さん以外が後継者になるのだったら、僕の相手は誰でもいい。
茉莉さんは「僕」を誰にも渡したくない。
僕は粋さん以外を相手に出来ない。
お互いが譲らない思いを持っている。
その一角を崩すとすれば・・・・・



「粋さんが狙われる」
「そうなるわね」
「一応、祐月に粋の周りの警護を頼んでるし、西神茉莉の方は聖さんが見張ってくれている。何か動きがあれば・・・・・・・」
話を中断して北杜さんは携帯を取りだし着信したメールに目を通した。
「どうしたんですか」
「聖さんから連絡。西神茉莉は家に着いたらしい」
時計に目をやると、9時40分。
粋さんは未だ起きているはず。



「念のため、粋さんに電話してみます」
「そうね」
嫌な予感を抑えて電話帳の中から粋さんを選ぶ。
「・・・・・・」



『おかけになった電話は・・・・・』



圏外?
そんなバカな。
急いで自宅の方へ電話をかけなおす。
・・・・・・・
・・・・・・・コール音が鳴らない!!



「繋がらない・・・・・おかしい、粋さんに何かあったかもしれない」
「お父さんから連絡があったのがさっき、粋ちゃんにはもう連絡が取れない・・・・・此処から粋ちゃんの家までは早くて30分、西神が帰ったのが9時少し前・・・・・・・・やられた。お父さんが見たのは茉莉じゃない、本物の茉莉は粋ちゃんの家に着く頃だわ」







モニターに写っている女の子は誰だろう?
見た事があるような気がするんだけど・・・・・
女の子が3度目のチャイムを鳴らそうと指を伸ばした。
「あ・・・・・待って」
急いでドアを開けると、女の子は私を見下してニヤッと笑った。
知らない子・・・・・だけど、この目付き、赤茶色の目・・・・・



「こんばんは」
この声は・・・・・
「茉莉・・・・さん・・・?」









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