「水波ちゃん、バレンタインのポスター見た?!」 「一昨日、駅まで見に行ったよー!!リュミエルは相変わらず綺麗だし、アイちゃんとユウキちゃんはお人形みたいに可愛いいよねぇ」 お子様達のバレンタイン用のポスターは女の子だけが登場してるのです。 ピンクのフリフリ〜なお洋服を着た2人は、黙って座っていると本当にお人形のよう。 かわゆくてかわゆくて、おねえちゃん携帯の待ち受け画像に登録しちゃったよ!! 「今年のリュミエルっていつもの天使と女の子だけじゃのうて、女の子とめっちゃ別品さんのパターンもあるやん。東雲の本気を見た〜!!って感じやわ」 「北杜先生って西神さん一筋だと思うけど、意外とリュミエルのモデルの女の子みたいな純和風な子も好みだったりして?」 「えっ?!」 私の隣の席でのほーんと話を聞いていた創司くんは、見て分かる程に硬直してしまった。 そ、そりゃそうだよね・・・ 自分のお母さんだもんね。 「まさか図星?!」 「い、いや・・・そんな事ない・・・」 「でも可愛いよね、本当に天使の恋人なのかな?」 「さぁ・・・どう・・・だろうネ・・・」 初めてだ・・・ 創司くんが私に「話を変えて!!」って必死の視線を送ってる・・・ 「あ、あのね、リュミエルの綺麗な女の人ってね、焔くんと双子ちゃんのお母さんなんだよ」 「って事は理事長の奥さんだよね?信っじらんない、超美形家族!!」 「裏話なんだけど、空さん・・・焔くんのお母さんね・・・空さんが写ってるものは雑誌広告とか車内広告には絶対しないんだって!看板とかガラスケース内に貼るポスターとか、絶対に持ち帰れないようになってるんだよ」 「理事長・・・独占欲を上手く宣伝効果に変えたね・・・」 リュミエルの撮影は凄かった。 梨紅さんを巡っての激しい戦いとか。 空さんを巡っての静かな戦いとか。 それでも予定通り無事に終わるんだから流石プロ。 「勿論、ルナソルもバレンタイン向けの広告出すんだよね?」 「うん、明日撮影なの。17歳の記念撮影〜とか勝手に思ってるんだけど」 「スイちゃん、明日誕生日なの?」 「そうなのですよ、1・2・3の日なのです」 「美久、知らなかったの?ふふっ、本当にウッカリさんだね?」 ・・・って、あれれ? おかしいなぁ?? 「え・・・と・・・私、多分、誰にも誕生日の話をした事ないと思うんだけど・・・」 「「「だったら当然のように知ってるオマエがキモいんじゃい!!」」」 あぁぁぁ・・・又3人に突っ込まれてる。 私も創司くんも苦笑いするしかない・・・ 「「「「「「「「「おたんじょうびおめでとー!!」」」」」」」」」 「ありがとう!!」 1月23日。 お昼休みにクラスの皆が誕生会を開いてくれた。 みくちゃんが作ってくれたイチゴのシフォンケーキをメインに「一体どうやって持ってきたの?!」ってくらい沢山の手作りお菓子とサンドイッチがズラッと机の上に並んでいる。 ここが教室とは思えない・・・ 「これが噂の帝の料理かぁ」 「あ、そっか。センセイはミクの料理は初・体・験☆だったっけ」 「どんなに美味いか感想レポート書けるくらい粋が熱く語ってたよ。「口の中でしゅわわーんってなるの」とか「ふわんふわんで幸せの味なの」ってどんなんだかメチャメチャ気になってたんだ」 「皆の前でそんな事言わないでよー!!」 は、恥ずかしい・・・ ボキャブラリーが少なすぎなんですけど、私。 「的確な表現やな、ホンマにそんな感じやで?」 「食べてみれば分かるよ、じゃ、いただきまーす」 私も手近のサンドイッチを先ず1つ。 ポテトサンド・・・何故にこんなにクリーミーなのですかぁ・・・ あまりの美味しさに感動で手が震える・・・ 「はい、僕からのプレゼント、今日作ってきたモノのレシピだよ。文章だけで分からなかったら遠慮なく聞いてね?」 「あ、ありがとぉぉ!!すっごい嬉しい!!」 手渡してくれたのはバインダー式のレシピブック。 表紙が皮でアンティークっぽくてカッコイイ!! 「ミク抜け駆け?はい、ウチは達弥と合作なんだ」 「夫婦の共同作業だね」 「「黙ってろ、エロ魔人」」 慣れた・・・慣れてきた、このやり取り。 「アホは放っといて、はい、これな〜」 「アロマキャンドルだよ。お風呂用とお部屋用」 「ありがとう、家に帰ったら早速使わせてもらうね」 学園祭の時のチョーカーもだけど、手作りの域を超えた出来。 この2人だったら雑貨小物のお店を即開けそう。 「私と冥からはベリー系のフレーバーティです。お口に合えばいいのですが」 「フレーバーティ好きなの。ありがとう!!」 「ブレンドは記録してあるから気にいったら又作ってやってもいいよ」 「ありがとう、土浦くん」 お礼を言うと土浦くんはプイっと横を向いてしまった。 うーん・・・あんまり慣れてもらってないのかなぁ・・・ 「土浦ちゃんが自分から作ってもいいって言うなんて珍しい。水波ちゃんって好かれてるんだね」 横顔しか見えないけど、耳が赤くなってる。 か、かわいい・・・ 「学園内の〜動物さんからも〜お祝い〜」 「すごーい!ありがとう!!」 画用紙に動物さんの写真と足印?とメッセージ(安積くん訳)。 何てメルヘン!! 「1日で・・・間に合わなかったから・・・ここにない子は・・・後でって・・・・あ」 「あ?・・・わっ!!」 窓の外にネコさんと鳥さんが・・・いつの間に?! 「教室に・・・入ったら・・・怒られるから・・・待ってる・・・」 「えぇっ!?待たせてごめんね!!」 急いで窓を開けると、にゃあにゃあとかピーピーとか私には何を言ってるんだか分らないけれど兎に角物凄く懐いてきてくれて・・・かわいいなぁ。 「北杜先生は後で西神さんと一緒〜とかでしょ?」 「あ、うん、そのつもり。しっかしスゴイな・・・本当に"しゅわわ〜ん"ってなる料理だ。科学では解明出来ない・・・」 「じゃあ、僕だけ完全に出遅れちゃったのか。でも、最後のプレゼントって印象に残るからね」 「何だか凄く嫌な予感がするんだけど、変なモノを用意してないよね?」 「オモチャ系とか・・・いやいや、まさか・・・」 「水波さーん♪」 「あのヤロウ、爽やかに無視しやがった・・・」 「水波ちゃん、水波ちゃん!!」 「ん?」 動物さんと戯れて頬ゆるゆるで席に戻ると、皆が私の右手の紙袋に注目した。 「マドカから、変なモノ貰わなかった?」 「変な・・・物?」 「祐月くん、変な物をあげるのもセクハラですよ」 変な物? セクハラ?? 「酷いなぁ。水波さん、僕のプレゼントを皆に見せてあげてもらえる?」 「うん・・・」 カサカサと小さな紙袋の中からプレゼントを取り出す。 「それは・・・」 「ストラップだよ。地球のマスコットが可愛いよね」 紙袋から出したのは、銀色の細いチェーンに銀のプレートと地球のマスコットが付いたストラップ。 マスコットを動かすと青と緑の間で色がユラユラと変わって綺麗。 「マトモだ・・・」 「マトモ過ぎて怪しい・・・」 「ふふっ、清々しいくらいに失礼だなぁ、皆」 「ごめんごめん、円ちゃん。まさかこんなに普通過ぎる物を用意するとは思わなかったから」 「本当です、すみません」 「和泉ちゃん、常盤さんあのね・・・」 確かに普通のプレゼントを頂いたのですがね。 それは・・・ 「いいよ、謝らないでも。普通のプレゼントになっちゃったのは、水波さんが普通のプレゼントを選んじゃったからなんだし」 「「「「「「「は?」」」」」」」 「僕と一緒に温泉旅館(部屋に露天風呂付)1泊2日とストラップを用意したんだけどね、ストラップだけでいいって言うんだもん。どうせ親戚の旅館なんだし、遠慮しなくてもいいのに」 「遠慮してません、ストラップだけがいいです」 誤りは訂正しておかないと。 遠慮なんかしてないって・・・ 「ふふっ、残念」 「「ふふっ、残念」やないわっ!!」 「柊が謝った分、反省しろっ!!」 あーあー・・・ 「そのストラップ見てもいい?」 「どうぞ」 創司くんはストラップを手に取ってじっと見つめた。 観察してるみたい。 私には普通の可愛いストラップにしか見えないんだけど。 「これ、大事にしろよ?」 「うん・・・?」 ストラップを私に握らせると、創司くんは暫く何かを考えた後に再び料理を食べ始めた。 何だったの・・・かな・・・??? 「お誕生日おめでとう、はい、創ちゃんと私からのプレゼント」 「ありがとう!!」 2人からのプレゼントはスノードームだった。 「変わってるでしょ?海の中に雪が降ってるみたいなの」 上下を逆転させると青い世界にチラチラと銀色の欠片が降りていく。 雪・・・ 雪が降る夜空に浮かぶ月。 綺麗な青い・・・ 「青い・・・月・・・」 青い月。 癒しの光をもった月。 「私」は歌う。 「私」は祈る・・・ 「粋ちゃん・・・」 「あ・・・・あ、あぁ、ごめん。ささっ、用意しよ。今回はどんな衣装なのかなぁ??」 風眞さんを心配させちゃダメだ。 今はお仕事の準備に専念しないと。 「今回はクリーム色のシンプルなモヘアのワンピース、撮影用に作られた物じゃないなんて初めてね」 「撮影用に作られた物じゃないって?」 「販売予定の物って事。今まで着たのってイメージ優先の一点物だったでしょう?」 「そうだね。普段は着られないような服ばっかりだったね」 販売されるって事は街で同じ服を着てる子を見るかもしれないって事か。 当たり前の事なんだろうけど、何だか不思議。 「はい、お終い」 「ありがとう」 メイク後、鏡で全身を映してみる。 ふわふわぁっとしたモヘアのワンピースは膝上で、白っぽい柔らかい革のブーツはふくらはぎ辺りまでの長さ。 それはいいとして、鎖骨が見えてるのが・・・寒そう。 撮影の時に何か小物を持つのかな? アイちゃん達はハート型のクッションを持ってたし、梨紅さん達は真っ赤なバラを抱えてたし。 「それじゃあ、私は少し外すわね。これを持って先にスタジオに入ってて」 「うん」 手渡されたのはボルドーのマフラー。 「持って」って言ってたから私が着けるんじゃないのかなぁ? って事は、これが小物?? ぽやんと考えながら風眞さんが出て行ったドアとは逆側のドアを開ける。 今回はどんなセットになっているのかな? それも結構楽しみだったりするんだけど。 「・・・・・?」 セットの真ん中にベンチが1つだけ。 他の2つのブランドに比べて寂しい・・・かも。 「向って右側に座って静かにして待っててくれ」 「はい」 私に言葉をかけると、聖さんはカメラの準備があるのか暗がりに行ってしまった。 1人ずつ撮影する事になってるからとはいえ、ベンチの端に1人で座っているのは何とも虚しい。 完成した広告を見ると嬉しいけれど、一緒に写していないせいもあって少しだけ寂しい気持ちになる。 架空の私は、焔くんの架空の恋人。 架空の私でも一緒に居られない。 壁の上の方に掛けられた時計を見上げる。 もうすぐ7時。 「今日」はあと5時間くらい。 この前の電話で会いたいと言ってしまったから、 焔くんは自分自身の事でも大変なのにきっと頑張ってくれたと思う。 だから今日会えると思ってる。 今日会えると信じてる。 だけど、こうして1人になると色々と考えてしまって胸が痛くて苦しくなってしまう。 自分の弱さと小ささを思い知らされてしまう。 今の私には待つことしか出来ないのに、心のざわめきを抑えておく事ができない。 気持ちが暗くなって膝に乗せていたマフラーをぎゅっと握りしめると、情けないことに涙が出そうになった。 最近、感傷的なのか涙腺が弱過ぎる。 目を閉じて天井に顔を向けて、心が落ち着くように静かに息を吐く。 ・・・・・あれ? 何か冷たいモノが顔に当たったような?? 目を開けてみると、青い光の中から雪が舞い降りてきていた。 あぁ・・・・・さっき貰ったスノードームの中に居るみたい。 「お待たせしました」 夢を見てるのかな。 此処に居るはずがない、でも、一番会いたい人の声がする。 「・・・・・・どうして?」 首筋に降りた雪の冷たさに夢じゃないって事は分かったけれど、どうして? 会いたい人が、今、私の直ぐ隣に居る。 「約束したでしょう?大丈夫だから、心配しないで」 「でも・・・」 優しく微笑んで焔くんは自分のマフラーを私の首にかけてくれた。 素肌に当たってる部分が柔らかくてあったかい。 「今回は2人一緒じゃないと無理なんです。そうなるように企画を通しました」 「企画・・・焔くん、もしかしてもう会社のお仕事をしているの?」 「まだ手伝い程度ですけどね。僕の話より・・・ね、粋さん」 「うん?」 「お誕生日おめでとうございます。この日に生まれて、こうして出会えた事に感謝します」 「ありがとう、そんな風に言われると恥ずかしい・・・いやいや、嬉しい、すごく嬉しい」 普通の人だったら気障だなぁってセリフも、焔くんの口から出ると自然な感じがするから不思議。 美形ってこんな時にも得だね。 「粋さんが持っているマフラーを僕にかけてくれませんか?」 「あ、そっかそっか。これってその為のモノなんだね」 膝に置いてあったマフラーをふぁっと焔くんの首にかけて・・・結んであげた方がいいかな。 ええと・・・あんまり上手く出来ない・・・ 「これってドラマとかである出社前にネクタイを締めてもらってるシーンに似てますよね」 「似てる・・・かな。私のお父さんってネクタイしないから実際に見たことないんだぁ」 「僕も実際には見たことありませんよ」 「皇さんってお仕事の時はスーツでしょう?」 お家でのラフな格好も素敵だけど、スーツ姿って何か大人の魅力が加わってカッコイイんだよね。 私のお父さんは大人の魅力とかそういう言葉と縁遠い感じだから憧れちゃう。 「母さんってそういう事をやってあげるタイプに見えます?」 「うん」 面倒見がいいし、皇さんと仲いいし。 毎朝めくるめくラブ★ワールドが展開されててもおかしくない感じ。 「ああ・・・迷わず返事をしてくれた所を大変申し訳ないのですが、父さんに対しては『自分で出来る事は自分でやれ!』って人なんですよ」 「そうなの?!意外だぁ・・・」 「僕は奥さんがネクタイ締めてくれたらいいなぁって思うんです。だって1日仕事を頑張れそうじゃないですか。家での現実がそうだから、理想を持っちゃうんですかね?」 言葉だけじゃなくて本当にそう思ってるんだろうな。 何だか可愛い。 「粋さんは旦那さんのネクタイを締めてあげたいですか?」 「やって欲しいって言われたら・・・かな。皆が皆して欲しいってわけじゃないだろうし」 「粋さんは僕以外の人と結婚したいんですか?」 「へ?」 「だって、僕はして欲しいって今言ったばかりなのに・・・」 「え、え、え???」 焔くんの頭に垂れた犬耳が見える気がする。 「きゅ〜ん」っていう鳴き声も聞こえる気がする。 うう・・・冗談だか本気だか分らない話だけに返答に困る・・・ 「しょんぼりです」 「え、えと、私、旦那さんのネクタイ締めてあげるよ!」 「・・・・毎朝?」 「うん、毎朝」 「やった」 ぱぁぁぁっと輝くような笑顔を見せて、焔くんはキュ〜っと私の身体を抱きよせた。 今度はフサフサッとした尻尾がピョコピョコ動くのが見える気がする・・・ 「ところでね、撮影っていつ始まるの?」 「もう始まってますよ。はぁ・・・粋さんの身体ふわふわしてて気持ちいい・・・」 「始まってるって・・・えーと、それではこんなに自由気ままにしていてはマズイのではないでしょうか・・・」 「自由気ままにイチャイチャしている方がいいんです」 「いちゃいちゃ・・・」 む・・・ぅ・・・・・ 客観的に見れば、雪が降ってる中でベンチに座った2人がイチャイチャしている・・・って状態にある・・・ 「バレンタインの幸せは架空の恋人関係の演技じゃ見ている人に思いが届きません。だから、今回は自然な2人を見せた方がいいんじゃないかと思ったんです」 「じゃあ、私達の行動の中で使えそうな所を撮影してるって事?」 「ちょっと違う・・・かな。明日になれば分かりますよ。本当は普通に一緒に歩いたり一緒にお茶出来れば一番いいんですけれどね」 「そうだね。でも、今日はこうして会えて嬉しかった。傍に居られるのが嬉しい、本当に本当だよ?」 「僕もです」 さらさらの髪が頬に当たってくすぐったい。 抱きしめられてる腕があったかい。 感触があるって傍に居る事が実感できていいよね。 「・・・・・時間、かな」 「時間・・・・・」 ちらっと時計を見上げると8時少し前。 1時間経っていたんだ。 そんなに時間が経ってた気はしなかったんだけど。 「今の問題が解決したらもっと沢山イチャイチャしましょうね」 「な、何て答えればよいのやら・・・」 「答えは言わなくてもいいですよ」 「言わなくてもいいんだ?」 「言わなくても分かります」 照明が暗くなって、柔らかい抱擁が解かれて、最後に耳元に言葉を1つ囁いて焔くんは私から離れていった。 「特別な力なんか無くても、本当の事は分かるんです」 撮影の翌日、僕達の逢瀬を編集した動画がルナソルのバレンタインイベント広告として発表された。 青い月が昇る夜、雪が舞い散る中で会った恋人たちがお互いのマフラーを交換する。 お互いのモノを交換する事で愛を交わし共有し合うという意味を僕は持たせたかったんだ。 日本でのバレンタインは女性が男性に愛を告白する日というのが一般的だけど、 僕は恋人達が同じ気持ちを分かち合う日でもあると思う。 僕と同じように思う人ならば、ルナソルの映像を見て何か感じる部分があるはずだ。 その結果は発表から数日後に数字として表れた。 「予想通りってところか?」 パソコンに向って作業をしていた北杜さんは軽く目を擦りながら僕に話しかけてきた。 「今のところはですけど」 「もっと喜べよ、子供らしくないなぁ」 「子供の仕事じゃありませんから」 ルナソルの売上データは好調な成績を示している。 モデルが着用した服と同じ物は値段の割にはまずまずの売れゆきといった感じだけど、マフラーが異常なくらいに売れている。 「何だか1つのブームを作ったようだな」 「そうですね」 最近、色違いのマフラーをする男女を街で見かける。 以前まではベタな事をしていると思われていただろうけど、今年はお互いに交換するんだろうと思われるようになった。 一時期のブームとはいえ、そういう考えを多くの人に浸透させる事は出来た。 その上で・・・ 『やっぱり焔さまと茉莉さんって・・・』 『そうよね、あれを見たら・・・』 撮影の翌日から僕は例のマフラーをして登校している。 だけど、横を歩いている「彼女」はブームが広がってから別のメーカーのマフラーさえもしていない。 映像の中の相手であっても同じ事をするなんて彼女のプライドが許さないのだろう。 「貴方がどんなに頑張ったところで結果は変わらないのよ」 「僕が頑張ってるように見えるんですか?僕には貴女の方が必死に見えるんですけれど」 「貴方達はあんな小娘のどこがいいの。いつだって周りに守られてるだけで、苦労なんかしてないのに」 容赦?遠慮?何それ。 粋さんをあれだけ傷つけて汚い言葉を吐き出すヤツにしてやる必要なんて微塵もない。 「何よ、その目。大体、昨年末からの勝手な事も私は見逃してあげてるんですからね」 「見逃してるんじゃないでしょう、何も出来なかったんでしょう?」 「なっ・・・」 「ごめん、図星?僕って正直だから」 あれ、おかしいな。 僕は笑ってるのに、どうしてこの女は怯えた顔をしているのかな? 「・・・・・・・」 「僕を甘く見てくれた事だけは貴女に感謝してますよ」 「お前さんは優しいよ、俺なんかよりずっと」 「はい?」 キーボードを打つ手を休めず、北杜さんは独り言のように話す。 僕の方が優しいだなんてとんでもない。 自分で言うのも何だけど、僕って相当性格悪いし。 っていうか、北杜さんは粋さん曰く「優しくて頼りになる」し、人当りがよくて誰からも信頼されている「いい人」代表だと思うんだけど。 「俺がいい人だって皆に思われるようにしているんだとしたら、俺の行動が全部計算だとしたらどうする?」 「そんなこと・・・」 ・・・・・無理じゃない。 この人だったら可能だ。 未来だって計算できるこの人だったら・・・ 「東雲の能力で俺を見てみたら本当の事が分かると思うよ。どうする、試してみる?」 キーボードを打つ音が消え、北杜さんは座っていた椅子を僕の方に向けた。 「・・・これは友人を試す為の能力ではありません。それに、そんな事は僕にとって興味のない事ですから。明日の準備があるので失礼します」 ドアが閉まり、部屋にはパソコンのファンの音が静寂の中で唸るように響いている。 「ほらな、やっぱりお前さんは優しいんだよ」 再びパソコンの画面と向き合った創司はファイルを1つ開いて黙ってそれを読みながら左耳のピアスを触った。 何ページにも渡る資料と数式と考察文、そして最後のページに1行。 『西神本家の存続確率 0%』 |
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