みずのきおく・33






「うわぁ〜・・・」
少し歩くって・・・・・まさか「家」の敷地内を15分も歩くとは思わなかった・・・
温室は幾つかあったんだけど、案内されたのは切り花用のお花が栽培されている温室だった。


「ここではお食事の席やお部屋に生けるお花を栽培しているの。お食事の場用に香りが抑えられているから、普通の鑑賞用よりもつまらないかもしれないわね」
「そんな事ないよ。すごいね・・・すごい綺麗・・・」
何て名前か分からないお花が沢山。
お花屋さんみたい。



「学園祭が終わったら、全部話すって言ったの憶えてる?」
「うん」
何を話すのかは分からないけど、そんな事を言ってたのは憶えてる。
「スイちゃんが4年前にフランスで会った女の子・・・あの子がアタシだったっていうのはさっき聞いた通り。あの時、とても大切な人を亡くして空っぽになってしまったアタシの心をスイちゃんの歌が救ってくれたのよ」
「歌の力だけじゃないよ、歌は心に響かないと唯の音でしかないの。歌に救われたというのなら、それはみくちゃんがその人を本当に本当に大切に想っていたって事だよ」
歌は聴く人の心が受け入れてくれなければ何もならない。
歌と心が響き合って初めて本当の効果が出る。
私はみくちゃんの心を癒す手助けをしただけで、立ち直れたのはみくちゃん自身の力が大きいんじゃないかと思う。
「スイちゃんにあの時会えたから、スイちゃんが見ず知らずの人にも手を差し伸べてくれる優しい子だったから・・・そうじゃなければ何も変わらなかった。自分の世界に閉じこもったまま、周りの人の言葉も気持ちも気がつかないでいた。ずっとこうして正面から言いたかった・・・ありがとう」



「お礼なんていいよ。あの子が・・・みくちゃんが元気になってくれたって分かって嬉しい。ところでね、みくちゃんは入学した時から私に気がついていたんでしょう?どうして今まで教えてくれなかったの?」
気付いていたなら声をかけてくれてもよかったのにな。
そしたらもっと早く仲良くなれてたのに。
「高等部の入学式の前にホダカちゃんが「新しい仲間と仲良くなるには学園祭まで待った方がいい」って予感をしたの。後は・・・アタシの勇気がなかったから・・・」
「勇気?」
声をかけづらいとか?
でも、学園祭の準備期間に自己紹介してもらってからはすっごく友好度が高かったよね・・・?



「・・・・・・・・・好きになってもらえる自信と気持ちを伝える勇気」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・あ、あのね、すごーく自意識過剰な事を言っちゃうんだけどね・・・・」
自分で言うのもどうかと思うんだけど・・・
今の言葉って・・・
「スイちゃんには好きな人がいて、今、少し難しい恋愛をしてるっていうのは見てて分かってる。僕の気持ちを押し付けても困らせて苦しめるだけだから、本当はずっと黙っていようと思っていたんだ。だけど・・・僕はね、スイちゃんの事が好きなんだ」




『アタシの気持ちは彼女を困らせてしまうわ。彼女を困らせるくらいなら、ずっと思いを抱いているだけでいいの』




みくちゃんは私に好きな人が居るって事も悩んでるって事も知ってて、思いを閉じこめようとしてたんだ。
その優しさが分かっているのに、私は・・・
「ごめん・・・私はみくちゃんの気持ちに応える事が出来ない」
「恋人の関係は望まないよ。だけど、少しでも支えになりたい・・・ならせて欲しい。スイちゃんの笑顔のきっかけになりたい、今は・・・それだけでいいんだ」
思いを伝えるのはすごく勇気がいるし、相手の心が自分の方を向いていないと分かっていれば尚更だと思う。
「・・・・・ありがとう。あのね・・・・・これからも、今まで通り仲良くしてくれる?」
「勿論。僕の方からもお願いするよ」







「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
部屋に戻ると8人の目が私達に集中した。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「どうだったん?」
こ、この様子だと皆知ってたんだ・・・



「今まで通り。余計な事言ってスイちゃんを困らせるヤツはデザート抜きだから。以上、質問は受け付けません」
私を席に案内すると、みくちゃんはそのままキッチンの方へ行ってしまった。
う・・・・・
皆の視線が・・・痛い・・・



「そうは言われても聞かないわけないじゃん。で、どうなの?」
「えぇと・・・どうと言われても・・・」
期待の目で見られても・・・・・どうもなってないんだよね。
「ミク自身が変わったっつーのに今まで通りなんてよう言うわ」
「変わった?変わった・・・・・あ、話し方?!」
そうだそうだ、さっきの話の途中から何か違和感・・・って思ってたんだ。
急にどうしたのかな?


「ようやく変わる気になったって事だよ。いい傾向じゃない?」
「変わる気になった・・・」
益々もって分からない。
私のお母さんは変えようと思ってもどうしても変えられなかったからあの話し方になってしまったっていうのに、みくちゃんは変えようと思えば変えられた・・・
事情はあるんだろうけど・・・どうして?



「だーかーらー、スイちゃんを困らせるなって言っただろ!?タツヤはデザート抜き」
「何でオレだけやねん!?」
「はい、どうぞ。女の子達にはイチゴをサービスしておいたからね」
「スルーかいっ!!」


目の前に置かれたお皿の上には小さいイチゴのショートケーキとエクレア。
うわぁぁ、これもすっごく美味しそう〜!!
「・・・・・作れるようになったんじゃない」
「ん?」
和泉ちゃんは自分のお皿のエクレアを半分にすると、1つを九重くんの前に置いてある空のお皿の上に乗せた。
「これはウチのだから、ウチからタツヤにあげるんだったら構わないでしょ?」
「別に」
「素直じゃないなぁ」
「・・・・・」
顔を逸らしたミクちゃんを見て苦笑すると、和泉ちゃんと九重くんは美味しそうに・・・そして懐かしそうにエクレアを食べた。



※※※※※※※※※※※※※※※




「今日は楽しかったね。お食事もデザートも皆美味しかったし、温室も見せてもらえてお土産にお花まで貰っちゃって・・・って私だけ貰っちゃってよかったのかな・・・」
帰り際にお土産にと手渡されたマーガレットの小さな花束。
可愛いなぁ。
「いいんだと思いますよ。マーガレット・・・意味があって渡しているのでしょうから」
「意味?」
意味・・・???
「家に帰ったら調べてみたら?帝がそれを期待しているかは分からないけどさ」
「うん、そうしてみる」
意味・・・
花言葉?
マーガレットにも当然あるんだろうけど・・・どんな意味があるのかな・・・







「ほいじゃ、又な」
「気をつけて帰ってね〜」
それぞれの帰り道の分岐点。
手を振るクラスメイトを見送った後、九重と当麻は何となく駅のベンチに腰かけた。


「ミクの時間、ようやく動き始めたんだね」
「せやなぁ」
「エクレア、懐かしい味だったね」
「和美さんの味・・・ようやく再現させる気になったっちゅー事やろ」


「ミク・・・もう、大丈夫だよね?」
「和泉はええ子やね」
「・・・・・いい女って言ってよ」
「はいはい」
九重がワシワシっと傍らにある少し癖のある髪を撫でると、当麻はフニャっと泣きそうな顔で笑った。







「粋?」
駅から家への帰り道。
聞きなれた声に振り向くと創司くんが近づいてきた。
「今日は行かれなくてゴメン。楽しかった?」
「うん、今度は一緒に行かれるといいね」
一緒に歩きながら今日食べた料理がどれだけ美味しかったかを熱弁していると、ふと創司くんが花言葉に詳しかった事を思い出した。


「ねぇ、創司くん。マーガレットの花言葉って知ってる?」
「んー・・・恋占いとか真実の友情とか・・・」
恋占い・・・
あぁ・・・確かに、好き嫌いってヤツをやるお花っぽい・・・
後は、真実の友情・・・
これからも仲良くしてねって言ったからかな?
「あと、ちょっとオトメな意味では『心に秘めた愛』」
「・・・・・・・」


お花をじっと見ていると、創司くんは怪訝そうな顔で尋ねた。
「・・・・・もしかして、それ、誰かに貰った?」
「うん、みくちゃんがお土産にくれたの。お家の温室で育てたんだって」
「・・・・・そう、か。帝の家には温室があるのか。今度見せて貰いたいな」
「珍しいお花、沢山あったよ。風眞さんと一緒に見せて貰えるといいね」
創司くんは何かを察したのかもしれない。
だけど、それに触れることはなかった。



心に秘めた愛。


その意味でこの花をくれたのなら。



『今は・・・それだけでいいんだ』



その優しさが切なかった。







「水波ちゃんってクリスマス会の事、誰かに聞いた?」
「クリスマス会?」
次の日のお昼休み。
お弁当を食べ終わってぼーっとしていると和泉ちゃんが尋ねてきた。
「その顔じゃやっぱり知らなかったみたいだね。2学期の終業式の日の夜、講堂で中高合同でクリスマス会っていうのをやるの」
「へぇ・・・」
ケーキ食べたりプレゼント交換したりするのかな?
中高合同でっていうのがすごいけど。


「うんうん、その反応だとフツーのクリスマス会だと思ってるね」
「普通じゃないの?」
「帝グループの超美味しい料理が並ぶっていうだけでもフツーじゃないんだけど、男子は正装、女子はドレスで参加してダンスをするんだよ」
「うわぁ・・・」
それはスゴイ・・・
すごい豪華なんだろうなぁ。


「因みにドレスを持ってなくても学園側でレンタルを用意してくれるから心配しなくても平気!」
「それは親切だね。じゃあ、私もレンタルかなぁ・・・ちょっといい洋服ってワンピースしか持ってないから」
「はい、これ。余計なお世話かなって思ったけど事務センターからパンフレット貰って来ちゃった。東雲のブランド物ばっかりだから、自分でドレス持ってる人でもレンタルするくらいなんだ」
「わざわざありがとう。後で見せてもらうね」
「どういたしまして・・・って、あの・・・あのね」
「ん?」
何だろう。
言葉を濁すなんて珍しい。


「あの、ね。クリスマス会の最初のダンス・・・ミクと踊ってくれないかな?」
「最初のダンス?・・・・・私・・・ダンス出来ないんだけど・・・」
驚異的に運動能力が低い私だもん。
やった事のないダンスなんて出来るわけない。
一緒に踊る人に申し訳なさすぎ。
「じゃあさ、練習しよ?あと1ヶ月もあるんだし、大丈夫。何とかなるなる!!」
ぎゅっと手を握って熱弁されると何とかなりそうな気もするけど・・・
「うーん・・・」
「お願いっ!!」
「うん・・・じゃあ、頑張ってみようかな・・・」
「やたっ!!達弥と円ちゃんに一緒に練習するように言ってくるね!」
「あ・・・・えと・・・・」
ぱたぱたと2人を探しに教室を出ていく和泉ちゃん。
私も一緒にクリスマス会を楽しめるようにって気をつかってくれたんだろうなぁ。
クラスのムードメーカーで明るいだけじゃなくて、誰よりも周りの人を気遣ってくれる・・・
和泉ちゃんはそういう所がオトナだなって思う。




「クリスマス会・・・か」
そうか、もう、そんな時期なんだ・・・


一緒に居た時間よりも、離れている時間の方が長くなってしまったんだね。


会いたいのに会えなくなって、ようやく気が付いた自分の気持ち。
遅すぎたのかな?
もう、伝える事すら出来ないのかな?



焔くん・・・・・









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