みずのきおく・31






「ありがとうございました、カフェの営業は次回14:00になります」


カフェと動物さんとのふれあいコーナーは衛生的な問題で教室も開く時間も別々になっている。
タイムテーブルはこんな感じ。


09:00〜10:30 カフェ
10:40〜11:20 動物
11:30〜13:00 カフェ
13:10〜13:50 動物
14:00〜16:00 カフェ


今は2回目のカフェの営業が終わったところ。
沢山のお客さんが来てくれてドキドキしたけど、皆がフォローしてくれたお陰で特に問題なし。
「それじゃ〜行ってくるね〜」
「行ってらっしゃい、そっちでも頑張ってきてね!」
「今日・・・終わったら・・・シマさんが・・・撫でてって・・・」
シマさん・・・・・音楽棟のシマシマにゃんこ!!
前に安積くんから教えてもらって会いに行ってから仲良くなったんだ。
「うん、待っててねって伝えてくれる?」
小さく頷くと安積くんは霧島くんと教室を出て行った。


動物さんの方は基本的に安積くんと霧島くんの2人だけで何とかしてるみたいなんだけど、今年はもう1人すっごい助っ人さんが加わっている。
その助っ人さんとは風眞さん。


体調が回復した後、「動物さんの傍に行くといいかも〜」という霧島くんの「予感」通りにしてみたら、すっごい事が起こったんだ。
教室で大人しく待っていた動物さん達が、風眞さんの姿を見た途端にワサワサと寄って来てメチャメチャ懐いてしまったのですってば!!
安積くんによると「みんな・・・西神さんが・・・好き・・・みたい・・・」らしい。
創司くんも「風眞は昔っから動物に懐かれるんだ。特にモコモコふわふわした生き物は積極的に近づいてくるなぁ・・・」って言ってた。
風眞さんも小っちゃい動物が大好きだからって学園祭の間は動物さんの方に居てくれる事になったんだ。



「じゃ、僕たちも行ってくるよ」
「しーっかり宣伝してくるからねー!」
「3回目もきばってこーな」
和泉ちゃんと九重くんと祐月くんは外を周って宣伝活動。
今回は中等部の方まで行ってみるって言ってた。
中等部・・・
焔くんは学園祭で何かやってるのかな?
私達のクラスに来てくれないかな?
今、どうしてるのかな・・・


「スイちゃん?」
「あ、は、はいはい!!」
「どうしたの?・・・・・ん、疲れちゃったのね。少し休んだ方がいいわ。えぇと・・・冷たい飲み物・・・何か作ってきてあげるから此処に座って待ってて」
椅子を引いて座らせてくれたのですが・・・
あぁぁぁ・・・誤解、誤解でございマス。
「だ、大丈夫だよ。何ともないない。3回目の準備を始めよ?」
立ち上がろうとすると、みくちゃんは少し眉をしかめて私の両肩を押さえた。
「何ともなくない。スイちゃんは今年が初めてだから疲れるのは当たり前なの。疲れたって自覚する前に休めるうちに休んでおきなさい」
「う・・・・・あ・・・・はい・・・・・」
有無を言わせない妙な迫力に負けて大人しく椅子に座り直す。
私って年上なのに皆から過保護に扱ってもらってる気が・・・
見た目が子供っぽいから頼りないように見えるのかなぁ?
ちゃんとしないとダメだよね・・・うぅぅ・・・



「はい、どうぞ。はちみつレモンよ」
「ありがとう」
受け取ったグラスを1口。
さっぱりとした甘さと酸味で喉と頭がスッキリする。
すっごく美味しいなぁ。
「準備はアタシとメイで先にしてるから、それを飲み終わって一息ついたら来てちょうだい」



※※※※※※※※※※※※※※※




「おまたせ。休ませてくれてありがとう」
「もういいの?こっちは大丈夫だから遠慮しなくていいのよ?」
「水波が来たんなら僕はお邪魔虫だろうから退散しよっか?やる事はほとんど終わってるんだからいいでしょ?」
「え?え?お邪魔虫なんかじゃないよ??」
ニヤニヤしてる土浦くん。
何でこんな事を言うんだろう??
「五月蝿いわね。もう、アンタはシュウちゃんとセンセイの所に行ってスケジュール確認でもしてきないさいよ」
「はーい。それじゃあ、帝も頑張ってね〜♪」
その言葉を待っていたかというように、土浦くんは常盤さんの所に行ってしまった。
・・・・・


「土浦くんって、本当に常盤さんが大好きなんだね」
「そうね、感情が素直で羨ましいわ」
食器を整理しながらみくちゃんが話し続ける。
「好きな人の傍に居たい、声を聞きたい、何かしてあげたい。誰かを好きになればなる程、自分の中の欲求は増えるけど・・・結局、何も出来ないことが多いのよね。拒否されたらどうしよう、困らせたらどうしよう、相手は自分と違う事を思ってるかもしれないって否定的な事ばかり考えちゃって」
「みくちゃん・・・好きな人がいるの?」
ボッと顔が・・・というか全身が赤くなった。
ものすっごい分かりやすい・・・


「そっかぁ・・・・・告白とかしないの?」
「・・・・・・困らせる」
「ん?」
「アタシの気持ちは彼女を困らせてしまうわ。彼女を困らせるくらいなら、ずっと思いを抱いているだけでいいの」
自分の心を抑えて相手を思い続けるなんて・・・
「優しいんだね、すごく」
「そんな事ない。臆病で自分に自信がないだけよ」
「うーん・・・私には何処に自信がないのか分かんないかも・・・」
意外な事を言われたというような顔。
「見た目も中身も女の子にとって魅力的だと思うんだけど。親切で優しいし、動作が丁寧で安心できるよ。自信持ってもいいんじゃないかなぁ?」
「・・・・本当に、そう思う?」
「うん」
大きく頷くと、みくちゃんは複雑な笑顔で「そう・・・」と呟いた。







1日目最後の営業。
和泉ちゃん達の宣伝効果があったみたいで中等部のお客さんも2回目までより増えたみたい。


「さっきも来たんだけどね、すっごく美味しいケーキなんだよ」
「えー、全種類食べたい!!」
楽しそうに話しているのを聞くと顔がニヤついてしまう。
よかったね、喜んでもらって!!
注文の品を届ける途中で和泉ちゃんがコソッと耳元で囁く。
お客さんのああいう笑顔を見ると、よっしゃ頑張ろうって気になるなぁ
みんな忙しそうだけど、楽しそう。
私も楽しいし、嬉しい。
頑張ってきた甲斐があるって実感する!!



「3名様です、ご案内お願いします」
ぱっと周りを見て、手が空いているのは私だけみたい。
まだあんまり慣れてないから緊張するけど頑張ろう。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
トコトコと入口に向って笑顔で挨拶。
・・・・・あ。


「あら、ここ、水波さんのクラスだったんですか?」
茉莉さんだ・・・
「こ・・・んにちは・・・あの・・・・」
「茉莉の知り合い?」
「ええ、私と焔さんの唯のお友達」
「あ・・・・」
「年上だよね?この人」
「2つ上。そういう格好すると一層私達よりも若く見えていいですね」
「こちら・・・」
話なんて聞いてないで案内しなくちゃ。
でも、膝がガクガクする。
言葉が上手く出てこない。
どうしよう・・・


「失礼します、こちらへどうぞ」
頭の中が真っ白になりそうになった時、創司くんが案内を引き継いでくれた。
「すごいカッコイイ!!」
「よく見たらこのクラス、イケメンばっかりじゃない?」
彼女の友達2人は私の事を忘れたように創司くんの後を付いていった。
そして。


「残念でしょうけど、焔さんは来ないと思います。中央委員の仕事があるので」
「・・・・・・・」
「あ、もう貴女には関係ないんでしたよね。ごめんなさい♪」
「・・・・・こちらへ、どうぞ」
下を向いてちゃダメ。
今は仕事中だもん。
うじうじ色々考えるのは全部終わってからにしなくちゃ。



※※※※※※※※※※※※※※※




「今年はスイーツがあるんだって」
「口コミで広がってるけど、すごく美味しいらしいよ」
食器の片付けをしながら、何となくさっきの3人の話を聞いてしまう。
「ふーん。外から取り寄せてるんじゃないの?」
「ううん、このクラスの人が作ってるみたい」
「今年、お菓子作るのが上手い人が入ったんだって」
少人数の学校とはいえ、情報って流れるもんなんだね・・・
「へぇ・・・でも、いくら上手いって言っても素人でしょ?何か心配」
「何で?」
「お腹壊したりしそうだし、そうなっても責任取ってもらえるわけでもないでしょ?本当に大丈夫なのかな」


周りの人達がざわっとする。
ケーキを食べようとしてた人の手が止まってしまった。
わざと人に聞こえるように話したんだ。
どうして・・・?
どうしてこんな嫌がらせするの?
これじゃ、皆に迷惑がかかちゃう・・・



「食べたくないなら食べなければいいでしょ」
バンっと大きな音を立ててみくちゃんが水の入ったグラスをテーブルに置くと、教室内が一瞬静寂に包まれた。
「寧ろ、食うな」
「なっ・・・!?」
美形の冷笑ほど迫力のあるものはない。
流石の彼女も言葉を失っている。
「アンタみたいなのに食べられるケーキが可哀想だって言ってんだよ。分かる、お嬢ちゃん?」
「何て失礼なの?!」
「どっちが失礼なんだよ。大体なぁ・・・」



「止めなさい、ミクさん。お客様、大変失礼致しました」
常盤さんが深くお辞儀をする。
「シュウちゃん、謝る必要なんてないのよ」
「・・・・ここは癒しの空間です。お客様に不快な思いをさせてはなりません」
頭を下げたまま、常盤さんは静かに話している。
「お客様、私達は誇りと責任を持ってこの場所の営業をしています。ですから、お客様がご心配なさるような事は決してありません。それは、絶対です」
「その割には従業員の躾がなってないみたいですけど」
「申し訳ございません、私の監督不行き届きです」
「まぁ・・・いいですけど。じゃあ、これを注文するわ」
「ありがとうございます」



「ご、ごめんなさい・・・私のせいなの・・・」
オーダーを取って奥へ向かう常盤さんに声をかけると、ふぅっと息を吐いていつものように静かな目で私を見た。
「水波さんは何も悪くありません」
「だって・・・私がいなければ・・・こんな事言われなかった・・・」
「貴女がいなければ、皆が喜んでくれるケーキを出せませんでした。いなければ、なんて言わないで下さい」
「でも・・・」
「未だ営業時間中です。フロアに戻ってお仕事をして下さい、ね?」
「常盤さん・・・」



※※※※※※※※※※※※※※※




フロアの片付けをしながら、お皿にほとんど手つかずで残ったケーキを見て哀しくなる。
一生懸命作ったのにな・・・
「お待たせ致しました」
常盤さんが注文されたケーキとお茶を茉莉さん達のテーブルに置く。
「結局、食べるんじゃん」
その様子を見て和泉ちゃんは面白くなさそう。
「迷惑かけちゃって、ごめんね・・・」
「水波ちゃんが謝る理由なんてない。絶対にあっちが悪いもん」
「ん・・・・・」



「何なの・・・!?」
茉莉さんの声がフロアに響く。
「どうしたの、茉莉・・・」
「このケーキ・・・おかしいわ」
フロアがザワつく。
「どうなさいましたか、お客様」
「このケーキ、何なの?全然味がしないじゃない」
「ちょっと、茉莉。変な事・・・」
「黙ってて。どういう事か答えなさいよ」


味がしない・・・??
今度は何を言ってるんだろう。
「おっしゃってる事の意味が分かりません。失礼を承知で言わせて頂きますが、皆様と同じ物をお出ししておりますのでお客様だけがおかしいとおっしゃる方がおかしいのではないかと思います」
「なっ・・・じゃあ、アナタ食べてみなさいよ!」
茉莉さんは横に座っている女の子に自分のケーキを差し出した。
困った顔でそれを口に運ぶ女の子は・・・
「すっごく美味しいんだけど・・・」
「嘘・・・」
「茉莉、騒がない方がいいよ」
「嘘よ、何をしたの、貴女!!」
常盤さんの表情は変わらない。


「これ以上の言いがかりは迷惑行為として中央委員に報告させていただきますが、宜しいでしょうか」
「構わないわ。悪いのは貴女達でしょう?!」
「・・・・・・・そうでしょうか」
「は?」
淡々とした口調で話し続ける。
「お客様は最初から私達のケーキについて否定的でした。そして、お友達は美味しいと言っているのに味がしないという言いがかりをつけました。何の意味があるのかは分かりませんが、営業妨害をしているとしか思えません」
「言いがかりなんかじゃないわっ!!」
「どうしたんですか」



教室の中が更にザワつく。
この声・・・
「焔さん、いい所に来てくれたわ!」
焔くんだ。
すごい・・・すごい久しぶり・・・
「中央委員の権限で、このクラスを営業禁止にして。お客に恥をかかせるなんて最低!!」
「・・・・責任者の方、状況を説明して頂けますか?」
焔くんの前に常盤さんが進み出る。
「責任者の常盤です、お騒がせして申し訳ありません。そちらのお客様が私達のケーキがお気に召さなかったらしく、味がしない等というよく分からない言いがかりをつけてきたのです」
「だから、言いがかりなんかじゃないって言ってるでしょ?!」
「ケーキ・・・」


「これ、同じもんだから食ってみろよ。粋が作ったんだ」
創司くんが焔くんにケーキを差し出す。
「・・・・・いただきます」
焔くんが・・・食べてくれた。
1口、2口・・・全部食べてくれた。
「美味しかったです、とても。ごちそうさまでした」
チラッとこっちを見て、一瞬目が合うとあの優しい目で微笑んでくれた。
こんな形だったけど、食べてもらえて嬉しい・・・


「茉莉さん、貴女は早くここから出るべきだと思います。あまり騒ぎを大きくすると、迷惑行為者としてペナルティが与えられるのは貴女ですよ」
「・・・・・・・」
すごい悔しそうな顔で教室を出ていく途中で、茉莉さんはふと何かを思い出したように立ち止った。



「・・・・・そういえば、ここのクラスのコンセプトは「ヒーリングスペース」でしたよね」
「ええ、そうです」
「どうして「歌」がないんですか?水波さんって「癒しの歌」で特待入学しているんでしょう?」
身体が冷えていく。
声が・・・出せない・・・
「・・・・・止めなさい。それ以上は失礼です」
焔くんの言葉を無視して、彼女は話し続ける。
「まさか、歌えないとか?そんなはずないですよねぇ?「歌」がないのに特待に居る意味ないですもの。特待に「無能」は居ない・・・いいえ、いらないでしょう?」




スイちゃんの顔色が悪い。
苦しい。
哀しい。
彼女にそんな感情は持たせたくないのに。
「あの女・・・」
「待って、美久。騒ぎを大きくしたら水波さんを余計に傷つけるだけだ」
「じゃあ、このまま見てろって言うの?」
「・・・・・僕たちは、僕たちの方法で水波さんを助けよう」
普段の掴み所のない人の好さそうな表情から一転して目が真剣になる。
「マドカ・・・?」
「行こう、多分、委員長も動き始めてるはず」









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