みずのきおく・27






その日の夜。
時計は8時を指している。
ベッドに腰掛けてボンヤリと今日の事を思い出す。


風眞さんの顔の傷痕。


今まで隠し続けてきたものを急に明かすなんて何か引っかかる。
風眞さんは何かの覚悟をしている?


「私を知ってて欲しかったの」


「覚えていて忘れないで」


もしかして・・・・・
考え過ぎだったらいいけど、長い別れの前みたいな気がする。
西神のお家で何かあったのかな・・・
私じゃ大した事は出来ないけど、力になってあげられないかな・・・




デンワだよ、デンワだよ




暫くぼーっとしていると机の上の携帯が鳴った。
ウィンドウには焔くんの名前。



「後で、連絡します」



どうしよう、話しづらいな・・・
・・・・・でも、さっきの事、謝らないと。
そして、焔くんとちゃんと話をしないと。



「・・・・・・・もしもし?」
『あ、出た〜。こんばんは、水波さん』
「え・・・・・」
どうして・・・焔くんの携帯からなのに、あの子が電話をしてくるの??
『今、焔さんの部屋に居るんです。水波さんと話がしたくて、電話借りちゃいました』
「あ、え・・・そ、そうなの・・・」
焔くんの部屋・・・
こんな時間に、居るんだ・・・・・


一度納まっていた胸の奥のギスギスが再び強くなっていく。
どうしちゃったんだろう、私。
苦しい・・・・・


『もしもし?聞こえてますか〜?』
「あ、はい・・・ええと・・・」
『私が此処に居るのが不思議?ふふっ・・・・・明日になったらいくらオトボケさんな貴女にも分かりますよ』
「あ、あの・・・焔くんは?焔くんと話したいの」
『・・・・・ねぇ、水波さん、貴女の為に忠告してあげますね。もう、焔さんと親しくしない方がいいですよ』
「・・・・・・は?」
『それじゃあ』
「あっ・・・・」


プツンと電話が切られた。
何で?
どうして?
あの子とは関係ないって言ってたのに。
どうして部屋に居るの?
どうして電話を貸してるの?
それに、「焔さま」から「焔さん」に呼び方変わってるじゃない。
親密度アップしてるじゃない!!




デンワだよ、デンワだよ




又、焔くんから着信。
今度は焔くんから?
それとも・・・


「・・・・・・・もしもし?」
『未だ分かってない?電話にも出るなって話ですよ』
「!!」


今度は私の方が電話を切った。
上手く呼吸が出来ない。
苦しい。
苦しい。
苦しい・・・・・





※※※※※※※※※※※※※※※





「ここで何をしてるんですか!」
「携帯を少し見させてもらって、余計なデータを消させてもらったの。私が居るのに、他の女の人の写真を壁紙にしてるなんて気分悪いもの」
茉莉から奪い返した携帯を開き確認すると、画像データフォルダが全て消去されていた。
「ロックをかけてたのにどうして・・・・・」
「ふふっ。情報に関して西神を甘く見てもらっては困るわ」
「何て事・・・・・・まさかっ?!」
嫌な予感がして発信履歴を見ると、少し前の時間に粋への発信が2件。
「色々と知らない人と少しお話をしたくて。肝心なことは話していないから安心して」
「・・・・・」
「怒っても綺麗な顔。それじゃあね、おやすみなさい、焔さん」
「・・・・・・っ!!」
ニコリと笑って茉莉が部屋を出ていくと、焔は固く握った拳で机を叩いた。





※※※※※※※※※※※※※※※





『すまんな、粋は気分が優れないらしくて、電話に出られないようなのだ』
「そうですか・・・・・では・・・申し訳ないのですが、暫くの間、朝に伺う事が出来ないとお伝え願えませんでしょうか」
『分かった、伝えておこう』
「ありがとうございます。粋さんにお大事にとも伝えていただけますか?」
『ああ・・・・・焔くん、君こそ大丈夫なのか?少し疲れた声をしているが」
「はい、僕は大丈夫です。それでは、夜分に失礼致しました」


受話器を置いて深い溜息をつく。
あれから粋さんの携帯に3回電話をかけたが出てもらえず、とうとう電源を切られてしまった。
あの女・・・何て事をしやがったんだ・・・




粋さんと別れて家に戻ると、父さんは西神からの要求を僕に話してくれた。
次代の化粧師を誕生させる為に僕と西神茉莉を婚約させること。
その要求が受け入れられない場合は、母さんを西神の後継者として本家に戻すこと。


そんな無茶苦茶な話なんてない。
だけど、世界的大企業と言われる東雲の力でも西神の要求を簡単に跳ね返すことはできない。
それは西神の「化粧師」の能力が裏の世界では特に重宝されているからだ。


人は先ず表面から他人の評価を行うパターンが多い。
第一印象はその後の人間関係を大きく左右させるものだ。


化粧師と名乗れるだけの能力を持っているのは、西神の女帝と僕の母さんの2人だけになってしまったようだ。
母さんは天才的な化粧師だけど、西神に縁を切られているから後継者には選ばれるはずがなかった。
女帝がそれを許すわけがなかったからだ。
当初は僕か姉さんが後継者候補に名前が上がっていたけれど、僕の出生の真実が明らかになったり、姉さんが女帝の養女でなくなった事があった為に2人とも候補から外れた。
完璧ではなくてもそれなりに能力がある分家の人間から選ばれるだろう・・・それが暗黙の了解になった・・・・・はずだった。



それなのに、今さら何故?



考えがまとまらないうちに「彼女」が家に来た。
そして、少し目を離していた間にさっきの事が起きた。
大失態だ。



「粋さん・・・・・お願いだから、信じて・・・」
出来れば粋さんを巻き込みたくない。
その為に暫くの間は粋さんと表面的には離れて西神の動向を見極めていくべき。
少し前に西神との間に問題があった時もそうして誤解をさせてしまったから、今回はちゃんと話をしておきたかったのに。



頭を抱えてベッドに腰かけると、携帯に着信があった。
北杜さんから・・・?
「はい・・・」







「・・・・・創司くん?」
「おはよ」
寝不足の目を擦りながら家を出ると、玄関先で創司くんが待っていてくれた。
「どうしたの?」
「焔に頼まれたんだ。自分は行かれないけど、体調が悪かったみたいだから様子を見に行って欲しいってさ」
・・・・・・焔くん。
ドクンと大きく心臓が鳴る。
「あ・・・・・えと、風眞さんは?一緒じゃないの?」
「・・・・・風眞は、暫く学校を休む事になったんだ。あ、でも、体調が悪いとかじゃないからさ」
「西神のお家で何かあったの?私、何も出来ない?」
「ん・・・じゃあ、放課後に家に寄ってもらえる?風眞が安心できる相手って粋くらいだからさ、話し相手になってくれたら喜ぶと思うんだ」
「分かった。えーと・・・詳しい事情は話してくれるまで待ってるけど、風眞さんが1人で頑張っちゃわないように気をつけてあげようね」
風眞さんはしっかりしてるけど、しっかりし過ぎてる気がする。
人に迷惑をかけたくないって気持ちが強いのかなぁ?
いくら性分だっていっても、隣に創司くんっていう超頼りになる人が居るんだから少しは力を抜いてもいいと思うんだけどな。


「そう言ってくれると俺も嬉しいよ。風眞は誤解され易いんだ。何でも苦労しないで出来るとか、人をバカにしてるから頼らないんだとか思われるけど、違うんだ。いつだって人の何倍も何倍も努力してるし、人を頼らないのは・・・・・頼れないからなんだ」
「頼れない・・・?」
「あ・・・・うん、まぁ・・・」
言葉を濁している。
話したくない事だったのかな・・・
「いいよ、もし話せる時が来たら話してね?」
「ありがとう。粋はいい子だな」
ニコニコ笑って創司くんが頭を撫でてくれる。
むぅ、子供扱い・・・
「私の方がお姉さんなんだって分かってる?」
「生まれた順番だとそうだな。でも、気にしたことないよ?多分、風眞も焔も気にしてないんじゃないかな?」
「む・・・・」
み、みんなに・・・子供扱い・・・
「いやいや、悪い意味じゃなくて。いちいち年齢とか気にして付き合ってないって話ですヨ」
「むぅ・・・・・」
それっていい事なのかなぁ・・・??



暫く他愛のない話をしながら歩いていると、創司くんは気を使った様子で話しかけてきた。
「あのさ、焔の事なんだけど」
「・・・・・うん」
又、心臓がドクンと鳴った。
キリキリと胃が痛くなる。
「暫く会いに来れないし連絡も取れないと思うけど、信じてあげて欲しいんだ」
「信じる・・・・・」
胃の痛みが酷くなる。
どうして?
「粋・・・?」
「焔・・・くんが、誰と付き合っても・・・私・・・気にしないもん」
嘘だ。
すごく気にしてる。
でも、思ってもない言葉が口から溢れてしまう。
「ちょ、粋??」
「どうして私にそんな事を言うの?私、焔くんの事、好きだなんて誰にも言った事ないし・・・・・・・・思った事もないもんっ!!」





「粋・・・さん・・・・・」
「・・・・・・あ・・・・・」
後ろを振り返ると、青ざめた顔の焔くんとキラキラ笑顔の「彼女」が一緒に登校して来る所だった。
「おはようございます、水波さん。彼氏と登校ですか、お似合いですよ?」
「・・・・・・」
焔くん・・・凄く哀しそうな目をしてる。
私のせいだ。
私の衝動的な言葉が、焔くんを傷付けてしまったんだ。
「あ、あの、焔くん・・・・・」
「行きましょう、焔さんっ!」
茉莉さんは焔くんの腕を取って中学部へと早足で向っていった。



「粋・・・」
「どうしよう・・・」
涙が溢れてくる。
胸が苦しい。
息が出来ない。
「わたし・・・ほむらくん・・・・・どうしよう・・・・・」


昨日の朝まで、あんなに仲が良かったのに。
昨日の朝まで、あんなに近くに居てくれたのに。
今は、誰よりも、何よりも、遠い・・・・









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