みずのきおく・25






「昨日は大変だったねぇ」
「ははは・・・・・まぁ、暫くすれば落ち着きますよ」
次の日の朝。
家まで迎えに来てくれた焔くんと一緒に登校です。


「どうしました?」
「あ、えと・・・・・そうだ。朝、迎えに来るの大変だよね?焔くんの家の方が学校に近いのに」
「別に大変じゃありませんよ?」
「そ・・・・・う」
「もしかして、迷惑ですか?」
「そんなことないよ」
「・・・・・・・それならいいんですが」
う・・・・・
気を遣わせてしまってる・・・・・


「あのね、本当に迷惑とかじゃないんだよ。ただ・・・・・」
「ただ・・・・・?」
「ううん、何でもない。あ、そうだ。焔くんのお弁当、別に作ってきたんだ。今日も一緒に食べられないかもしれないから・・・・・」
「ありがとうございます」
にっこりと微笑んでお弁当を受け取ってくれる焔くん。
さっきの話はそれ以上追求しない。



焔くんの好意にハッキリ答えを出せていない私が、隣を歩いていてもいいのかな?



好きか嫌いかって聞かれたら好きだって迷わず答えるけれど、
LoveかLikeかって聞かれたら分からない。
自分でもどうしてここまで迷っているんだか分かんない。
うぅ・・・・・


「・・・・・・無理、しないでくださいね」
「へ?」
「正直に言うと、待ってるのもちょっと辛いですけどね。でも、迷ってちゃんと考えてくれてるのは嬉しいですよ」
「焔くん・・・・・」
「もっと頑張らなくっちゃ。粋さんの迷いが消えちゃうくらいイイオトコになれるようにね。とりあえずの目標は北杜さんなんですけど、意外に難しいんですよねぇ、あの人。単純そうに見えて掴み所がないんですよ」
「ごめんね」という言葉を飲み込む。
いつまでも焔くんの優しさに甘えてちゃダメだ。
私もちゃんとしなくちゃ・・・・・







東雲学園 中央棟 理事長室。
「失礼します」
「朝からすまないな」
校門で粋さんと別れて直ぐに、父さんから理事長室に来るように電話があった。
「何ですか、僕に用があるなら家でもよかったでしょう」
「私も此処に来て知ったんだ。生徒の個人情報を明かすのは本当はマズイが・・・これを見てくれ」


手渡された書類に目を通す。
編入する生徒の資料?
中学部選抜クラス3年・・・・・僕のクラスか。
赤茶色の髪と目。
どこかで見たことのあるような顔だな・・・
「名前・・・苗字を見てみろ」
「苗字・・・・・あ!!」


『西神 茉莉』


「しかも保護者名が皐月さんなんだ」
「西神の女帝・・・・・」
母さんや姉さんを苦しめたあの女。
僕の母親だという妄想に取りつかれてた女。
再び名前を聞くとは思わなかったな・・・・
「杞憂かもしれないがな。一応、知らせておいた方がいいだろうと思って」
「はい、ありがとうございます」






理事長室を出て中学部校舎へ向かう。
西神・・・・・・
保護者があの女だという編入生。
嫌な予感がする・・・・・



「焔さま!」
少し甲高い女の子の声。
何だよ、一体・・・・
「・・・・・はい」
振り向くと赤茶色の髪をした女の子が急に抱きついてきた。
な、何だ、この子??
「きゃー、編入初日からこんな所で会えるなんて、う・ん・め・い♪」
「すみません、離れて頂けませんか?」
「まぁ、照れ屋さんなのね。かわいっ!」
イライライライライラ。
不快指数が急上昇しているんですが!!
あーーーーーー振り払いたいっっ!!



「ふふっ、どんな非礼をされても此処では何も出来ないでしょう?」
にやっと笑う彼女の顔。
さっき見た資料の写真の・・・・・
「・・・・・・西神・・・・・さん」
「マツリって呼んでね。私達、お互いに特別な関係になるはずだから・・・・・仲良くしましょ?」
嫌な予感は的中しそうだった。







「焔さまに彼女が出来た」



昼休みの学園に一気に広がるニュース。
ファンクラブの皆さまのガヤガヤがすごいです。
「噂の相手は中学部の生徒らしいわよ。ガセとは分かってても・・・・・・おかしいわね」
難しい顔をして風眞さんが立ち上がる。
「風眞さん?」
「ちょっと用事を思い出しちゃった。又、放課後にね」
急にどうしたのかなぁ・・・・・



「焔さまの彼女ねぇ・・・・うーん・・・・」
「どうしたの?」
創司くんも難しい顔してる。
「・・・・・おかしいんだよなぁ。ここまで噂が広がるって事が」
「焔くん、有名人だから・・・」
「焔が誰の事を好きなのかは知ってるだろ?」
「えっ?!」
何でそんな事を?!っていう顔をしてたんだと思う。
創司くんは笑って私の頬を軽く引っ張った。
「気づいてないわけないじゃん、俺もそこまで鈍くないよ」
「そ、そう・・・・・」
創司くんも分かってるって事は、当然、風眞さんも分かってるよね。
周囲にバレバレだったって事だね、ははは・・・・・


「オマエさんと焔は頻繁に登下校を一緒にしてるのに噂になった事がないだろ」
「私じゃ噂になんてならないよ」
あははっと笑う私を見て、ふぅっと息を吐いた創司くんが言葉を続ける。
「もう言っちゃうけどさ、噂になんないようにしてたんだよ。粋に迷惑をかけたくないって」
「私に迷惑??」
「焔って異常に人気があるだろ?だからさ、噂だけが先行しちゃったらそれを真に受けて粋に嫌がらせをする変なヤツが出てくる可能性もあるわけよ。それを防ぐためにアイツも色々やってたんだ」
「焔くん・・・・・」
全然気がつかなかった・・・・・
「気がつかなくていいんだよ、気がつかないようにしてたんだから。で、そういう事もあってさ、情報操作に関して焔はすっごい長けてる。それなのにこんな明らかに嘘の噂が広がってるっていうのがおかしいんだ」
嘘の噂が広がるのはおかしい。
それって・・・・・・ううん。
「何か事情があるのかもしれないね」
「ああ、放課後になったら直接聞いてみるか。風眞も何か調べてそうだし」







午後の授業の間中、何だか胸がドキドキして仕方なかった。
噂の事もあるけれど、焔くんが今まで私のためにしててくれた事。
私のためにどうしてそこまでしてくれてたんだろう?
気をつかってとかのレベルを超えてる。


私のことを好きだと言う焔くん。
よくよく考えてみたら、知り合った当初から好意的だった気がする。
自意識過剰かもしれないけど。


どうしてだろう。
何かがすごく引っかかる・・・・・



「おーい、終わりましたよ。帰りましょ」
「あ、うん」
終礼のチャイムにも気がつかないくらいボーーーっとしておりました。
帰り仕度をしていると、創司くんは携帯を見て首を傾げた。
「どしたの?」
「風眞、先に帰ったみたい。粋にも同じメールいってるハズだから見てみ」
「うん」
確かに。
1時間くらい前に風眞さんからメールが来てる。


『先に帰ります』


「おかしくない?」
「おかしいな」
簡潔すぎるメール。
風眞さんだったら、その後にフォローのメールがありそうなのにそれがない。
「・・・・・早く帰ろう。絶対、何かあったんだよ」
「ああ・・・・・いや、粋はとりあえず焔の様子を見てからにしてくれよ。風眞の方は俺に任せて」
「わ、わかった。後でね」
軽く頷くと創司くんは教室を出て行った。
何もありませんように・・・・







「どうしたのかなぁ・・・・・」
校門で待つこと15分。
中学部の方が先に終わるっていうのもあるけど、いつもだったら焔くんの方が先に来てるのにな。
・・・・・あれ?
私・・・・・先に来てるのを当たり前みたいに思ってるけど・・・・・
焔くんにだって学校生活があるのに・・・・・私を優先してくれていた・・・・・?



「貴女が水波さん?」
「は、はい!?」
び、びっくりした・・・・
声をかけてきた女の子は、不思議そうな顔で私を見ていた。


中学部の制服だけど、私よりも背が高いし大人っぽい。
赤茶色の髪と目をした綺麗な子。
何処かで・・・・・会った事がある??


「ふーん・・・・・焔さまってロリなのかしら・・・・・」
「えっと・・・・・???」
ロリって・・・・何・・・・・??
「ごめんなさい、焔さまの好みってどうなのかなぁって思って。うん、大丈夫。負ける気がしない」
「あ・・・・・の・・・・・・あなた、誰?」
ブツブツと1人の世界に入っていってる彼女に声をかけると、にっこりと笑って両手で握手をしてきた。
「西神 茉莉です。焔さまの彼女に立候補しました。よろしくね」
「よ・・・・ろしく・・・・ね?」



『焔さまの彼女に立候補』
この子が噂の・・・・???
何が・・・・何やら・・・・・



「茉莉さん、勝手に・・・・・粋・・・・さん・・・・・」
「焔く・・・・」
中学部から出てきた焔くんは、私と彼女を交互に見て焦ったような顔になった。
「きゃー、焔さま。マツリを追いかけて来てくれたなんて感激っ!!」
「や、やめて下さい!離れて下さいっ!!」
ぎゅっと抱きつく彼女を引きはがそうとしてるみたいだけど・・・・・
・・・・・・・何か、イチャイチャしてるように見える。



同じ年齢の綺麗な女の子。
確かにね、彼女って噂になってもおかしくないよ・・・・



「粋さん、待って。一緒に帰りましょう」
「あ、あの・・・・・風眞さんが心配だから、今日は先に帰るね。ええと、西神さんも・・・・西神?!」
はっとして彼女を見ると・・・
「やーだ、焔さま。こっち向いて」
私の目の前で、焔くんの口が彼女の口にふさがれた。



「じゃ・・・・ばいばい・・・・」
声が、足が・・・・震える。
何て声をかければいいのか、どうすればいいのか分からなくて私は校門に背を向けた。





※※※※※※※※※※※※※※※





「離れろって言ってるだろっ!!」
声を荒立て憎々しげに彼女を睨む焔。
「本当に、照れ屋さん。でも、怒った顔もステキ♪・・・・・あら、水波さん、帰ってしまったのね。ざーんねん、もっとイチャイチャしてる所を見せたかったのに」
「フザケないで下さい」
急いで粋を追いかける焔の背中へ向かって彼女は呟く。
「ふざけてなんていないわ、私は誰よりも真剣。今度こそ、絶対にあんな小娘に貴方を奪わせない・・・ファルシエール様・・・・・」









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