スイスに来て2ヶ月近く経った。 こっちの家はすごーく自然豊かな場所にあって、電話もないし携帯の電波も届かない。 1週間に1回届く郵便が唯一の連絡手段。 「どうしたの、すいちゃん」 「え・・・・?あ・・・・うん、何でもないよ。ごめんね、ぼーっとしちゃった」 昔っからアイちゃんには隠し事ができない。 小さな妹は私の一番の理解者。 「らいしゅう、たのしみ?」 「うん」 壁にかかったカレンダー。 9月5日付けてある赤丸は、日本へ行く日。 「アイもね、たのしみなのよ。きっとね、なにかすてきなことがあるのよ」 「そう・・・・そうだね」 来週・・・ 今日届いた手紙をじっと見つめる。 早く来週にならないかな。 「大人になったな」 「そ、そう・・・かな?」 夕飯の片付けを手伝っていると、お母さんがしみじみとした感じで呟いた。 そんなに変わったかなぁ・・・自分では分からないけど。 「ああ、女になった。日本に居る間に恋でもしたか?」 「え・・・えぇ、まぁ・・・」 恋をして失恋をして、まぁ色々凝縮された数ヶ月だったね・・・ 「親の見ていない間に子供はあっという間に育つものだ。私も14の時に征に出会ったのだし、粋ももう少ししたら運命の相手に会うかもしれんな。征は泣くかもしれんが仕方あるまい」 「お、お母さん・・・」 うんうんと頷いて何やら納得してるけど・・・めっちゃ先走ってらっしゃるですよ・・・ 「相手は誰であれ、粋が好きになった男ならば応援してやろう。頑張れ」 「あ、ありがとう・・・」 応援して頂きたいのは山々ですが何と申しますかゴニョゴニョ・・・ 「・・・・・お母さんとお父さんって恋愛結婚だったんだよね。恋人時代にはどんな感じだったの?」 今までお母さんとコイバナをする事がなかったし、何となくいい機会っぽいから聞いてみることにした。 前から気になってたんだよねぇ。 「・・・・・っ、な、突然何を聞くんだ?!」 かぁぁぁっと顔を赤くさせるお母さん。 お伽噺の儚くて可憐なお姫様のような見た目(見た目はね!あくまで見た目は!!)だから何だか可愛ゆい。 「いやいや、私ももう大人なんだしお母さんたちの話も聞いてみたいなぁと思って」 「う、うむ・・・そうか・・・ま、まぁ、その話は又いずれな」 手に持ったお皿を戸棚に仕舞うと、お母さんはそそくさとキッチンを出て行ってしまった。 むぅ・・・・・残念。 のんびりおっとりふわふわ〜っとしたお父さんと、見た目からは絶対に想像できないけど男っぽいというか侍っぽいお母さん。 2人はどんな出会いをしたのかなぁ? 2人はどんな恋愛をしたのかなぁ?? 部屋に戻って手紙をあける。 先ずは・・・風眞さん。
う〜〜私も早くベタベタしたいよぉ〜!! 風眞さんにぎゅうっっとされるの好き好き!! 創司くん、きっと羨ましそうな目で見るんだー。 はて・・・・・風眞さん、創司くんにはぎゅうっとしてあげないのかな?? すごーく喜ぶと思うのに。 ・・・・・・。 ちょっと想像してみたら何だか恥ずかしくなっちゃったから次の手紙へ。
近所に引っ越しするんだ。 少し寂しいけど、創司くんも家族揃って暮らせるからよかったよね。 それにしても、空さんと仲が極悪な創司くんのお父さんって・・・??? ビックリするってどういう事?? うーん、気になるぅ〜!! ・・・・・最後の1枚。
「私も会いたい・・・な」 独り言を呟いてから、ぶんぶんと首を振ってベッドに横になる。 何で、何でかな? 気になるのは告白(紛いの事)をされたから? 自分でもよく分からない。 いやいや、会いたいっていうのは皆に会いたいって事で・・・ ・・・・・・って、何で1人突っ込みしてるの私? 机の上の写真立てに入った風眞さんと創司くんの誕生会の写真をじっと見つめる。 笑顔の私達。 4人で会ったのは初めてなのにすごく仲がいいように見える。 見える? ・・・・・ううん、見えるだけじゃない。 初対面からみんなすごく友好的で、一緒に居るのがすごく自然だった。 不思議。 知り合ってからの時間は短いのに、心の中に在る皆の存在が大きい。 「会いたいな・・・・」 待ちに待った1週間後。 「粋はお友達が迎えに来ているんでしたよね。それでは、私達は先に家に戻っていますから。気をつけて帰ってくるんですよ」 「うん、後で電話するね」 お父さん達と別れて、焔くんの手紙をカバンから取り出す。
お願いされちゃったんだもの。 行かなくてはなのですよ。 ええと・・・ 「粋さん」 きょろきょろとしている私の目の前でふわぁっと微笑んでいる男の子。 綺麗な顔の男の子・・・・・ 「ほむら・・・くん・・・?」 「はい」 「え、えぇぇぇぇ?!」 私の背が縮んだんじゃなければ、背が伸びたんだよね・・・?? 「未だ成長期みたいで、2ヶ月で3cm伸びたんです。姉さんの身長をようやく越しました」 私なんて3年くらい身長に変化が見られないのですが・・・ 「髪も伸びたよね。伸ばしてるの?」 「少しでも大人っぽく見えるようにするにはどうすればいいかなって思って・・・母さんに相談してみたら少し髪を伸ばした方がいいんじゃないかって言われたんです。ええと・・・・・似合ってないですか?」 「に・・・・・似合ってるよ」 似合うのは当然として、色気が・・・ 少し長めの前髪をかきあげると、キラキラ〜っとキラキラキラキラ〜☆★☆★っと星が飛ぶ飛ぶ飛ぶ!! 空さん・・・大人っぽいというか色気が爆発的に強調されてますぅー!! 「よかった。他の誰によりも粋さんにそう言われるのが嬉しいです」 キラキラキラキラ〜☆★☆★ 「そ、そうデスカ・・・」 眩しい・・・眩し過ぎる!! 「そうそう、僕の事は置いておいて。『おかえりなさい』」 「・・・・・ただいま!」 笑って答えると、今まで柔らかく微笑んでいた焔くんが急に眉を寄せた。 ど、どうしたのかな?? 「おかえりなさい・・・・・」 「うん、ただいま。どうしたの・・・・ひゃ?!!」 空港で抱擁?! ドラマ的すぎっ!! 「本当に粋さんだ・・・此処に居るんだ・・・」 「うん、居るよ。此処に居るよ」 よいしょと腕を伸ばして、ぽんぽんと背中を叩くと更に強い力で抱きしめられた。 うぅ・・・超密着・・・ 「あぁ・・・ダメですね。大人のオトコになりたいのに、全然ダメ。会いたかった気持ちが溢れて止められない」 「・・・・・・」 「おかえりなさい、もう、何処にも行かせない・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「粋・・・・さん?」 スパーン!! 「いったぁぁ・・・・・」 「ちょーっと目を離したら、なーにをやらかしているのかしら?こんの色ボケ常時発情期の脳内桃色エロガキがぁ・・・・!!!!」 「ちっ・・・もう追いついたんですか。恋人達の感動の再会シーンなんですから、気を使って下さいよ」 「あらいやだ。いつ粋ちゃんがお付き合いを了解してくれたのかしら?っていうか、いつ男の人として見てもらえるようになったのかしら、坊や?」 「これから短期集中で一気にゴールまで行くんですよ」 「へぇ・・・・・・お姉さまの前でそこまで宣言するなんて、勇気があるじゃない。まぁ、粋ちゃんに不快な思いをさせたら地獄に堕ちた方がマシって程に可愛がってあげるから覚悟しておきなさいよ」 「ふふふっ、ご忠告ありがとうございます。痛い思いはさせてしまうかもしれませんが、不快な思いはさせるつもりはありませんから」 「微妙に桃色トークしてるんじゃないわよ」 「最初に話を振ってきたのはそっちでしょう?」 「うーん・・・・・」 超密着抱擁で頭がクラクラ〜っとして、気が付いたら何故か創司くんと並んで座っていた私。 うーん??? 「気が付いたか。おかえり、粋」 「たらいまぁ・・・あれぇ・・・ほむらくんはぁ〜?」 指さす先には、笑顔で会話をしている焔くんと風眞さん。 はらら?? 「仲良く喧嘩中デス」 「どうして?」 「お姫様を巡っての戦いなのです」 笑ってぐりぐりっと頭を撫でてくれる創司くん。 メチャメチャ子供扱い。 嫌じゃないけどね。 ふと、間近で見ると創司くんってやっぱり相当カッコイイなって思う。 顔立ちはその辺の芸能人なんかより全然整ってるし、頭いいなんてレベルじゃない程に頭いいしし、運動神経も抜群。 一緒に行動してると分かるけど、周りに気を使ってくれるし、優しいし、頼りになる。 一目ぼれなのに見る目あったんだなぁ、私。 「どした?」 「創司くんってカッコイイなぁって思ってたの」 「あらいやだ。褒めても何も出ないわよ?」 ははは、こういう部分もひっくるめてカッコイんだもんスゴイや。 「風眞さんと創司くんって本当にお似合いだなぁ。見た目も中身もすごーくバランスが取れてるもの。 あ、ちゃんと聞いた事がなかったけど2人っていつから付き合ってるの?」 「それは恋人同士の付き合いって事?」 「そうそう」 「それは・・・」 「おかえりなさい、粋ちゃん」 椅子の背後から細い腕に抱きしめられる。 ふんわりと甘い花の香り。 「えへへっ、ただいま、風眞さん!」 立ち上がって正面からぎゅっと細い身体に抱きつき返す。 話の続きが聞けなかったのはちょっと残念だけど、ま、それはそれ。 今度じっくり聞けばいいよね。 「あらあら、少し痩せた?」 「そんな事ないよ?久しぶりだからじゃないかなぁ?風眞さんは相変わらず柔らかくて気持ちいい〜、ぎゅっとされると幸せな気分になっちゃう」 「有難う、私も粋ちゃんをぎゅ〜っとしてると幸せよ」 うふふ、あはは、キラキラキラ〜☆★☆★☆★☆★ 青春まっさかりな空気を発生させる私たち。 「・・・・・・」 「その目つきはやめろっちゅーに。未だオマエさんじゃ風眞に敵わないって事だな」 「・・・・・・貴方にもですよ」 「へ?」 たった2ヶ月。 でも、今までの人生で一番長かった2ヶ月。 4人で揃って笑って話すこの時間が私の中ですごく大切なモノだって気づいた2ヶ月。 「皆、よかったら家に寄って。お母さんもアイちゃん・・・あ、妹ね・・・も皆に会ってみたいって言ってたから」 「日本に来たばかりなのに大丈夫なの?」 「うん。アイちゃんに早くお友達が出来るようにユウキちゃんとノゾムくんも来てくれたら嬉しいな」 「はい、それでは家に連絡しておきますね」 まだまだ暑い9月。 これから秋に向って何か起きる・・・かな? |
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