みずのきおく・21






「あ、お父さん」
「・・・・・・あぁ」
父娘の久しぶりの再会は、かなりドライだった・・・




「今度は何処に行ってたの?」
「台湾。撮影中に皇から日本に直ぐ来いって連絡があった」
「ふぅん」
聖さんと一緒に家に帰って、風眞さんと創司くんとお茶を飲みながら焔くんの家で聞いた話をする。
モデルの話とか、
私と風眞さんが従兄弟だったって話とか・・・



「私と粋ちゃんはそんな関係があったのね。もう、父さん、何も言わないんだもの」
「言う機会もなかったし、征は家族の話をされるのを嫌がるから」
「お父さんがですか?!」
耳を疑ってしまった。
だって、お父さんって娘が言うのも何だけど家族をスゴーく愛してくれてるんだもん。
お母さんとは家だろうが外だろうが甘々だし、私と藍ちゃんは目に入れても痛くないってくらい可愛がってくれてる。
だから、人に家族の話とかいっぱいしてそうって思っていたんだけど。
「大事すぎて人に曝したくないんだろう」
「うーん・・・・・・?」
お父さん・・・・・超過保護デス・・・



「話す時期云々はいいとして。嬉しいわ、粋ちゃんは1番のお友達だけじゃなくて従兄弟でもあるなんて」
「私も嬉しいよ!これからもずっと仲良くしようね!」
「ふふっ、ずぅっとよ?」
きゅうっと細い腕に抱きしめられ、ぴたっと頬をくっつけて猫みたいにスリスリとされる。
く、くしゅぐったい・・・



「風眞、明るくなったな」
ベタベタと熱烈愛情表現を続ける私たちを見ていた聖さんが創司くんに話しかけた。
「粋の影響が大きいと思います。彼女には癒す能力があるんでしょう。自分では意識していなくても、人の心を穏やかにする何かを持っている・・・尊い能力ですね」
「そう・・・だな」
わ、わぁわぁ・・・・
何か恥ずかしいこと言われてる!!
「本当よ。私は粋ちゃんにどれくらい癒されたか分からない。すっごく感謝してるわ」
じいっと間近で澄んだ翠の瞳で見つめられると、女同士なのに顔が熱くなってしまう。
焔くんが動的な美を持っているとしたら、風眞さんは静的な美を持っているんだと思う。
例えるなら木陰に咲く一輪の百合。
気がついた人の心に響く美しさ。



「どうしたの?」
「今さらだけど、風眞さんって綺麗。風眞さんがモデルをやった方が絶対にいいと思うのにな」
風眞さんは綺麗なだけじゃなくてスタイルも抜群にいいもん。
スラッとしてて背が高くて手も足も細くて、出る所は出ててひっこむ所はキュっとしてて。
私なんて比べようもないくらい、モデルの条件にハマってる。
「私はやらないわよ」
「風眞はやらないよ」
「風眞はやらないだろう」
わ、3人揃って同じことを・・・



「な、何で・・・?」
「「「やる気がないから」」」
わぁ・・・・・今度は声まで揃ったよ。
「大体、本人にやる気があったらとっくにモデルとして有名になってるって」
「あぁ・・・そう・・・だよね」
すっごい納得。
創司くん、適格デス。




「じゃあ、粋ちゃんはモデルをやってみようと思ったのね」
「いや、でも、試してみるだけで・・・ほら、写真撮ってみたらダメかもしれないし・・・」
「ダメにはならない」
きっぱりと言い切る聖さん。
その自信は何処から・・・
「お父さんが写せるって言ったのなら大丈夫なのよ」
「?????」
「やってみれば分かるって。土曜は俺たちも見に行っていいですか?」
「あぁ」
何だかお任せしていれば何とかなりそうな感じ?
うぅ・・・ん・・・







そして、土曜日。
「そ、空さん・・・」
「もう少し我慢してね」
「う・・・・・・」
「だーめ!眉間に皺寄せちゃ」
「はい・・・・・」
大小の筆がすっごい早さで私の顔の上を動いている。
マホーみたい。
どうなってるのかなぁ。
完成までは本人に見せない主義らしくて途中経過がサッパリ・・・




「よし、オッケ。じゃ、着替えようか」
白と銀と青紫のグラデーションの半透明のふわぁっとした生地のワンピース。
全体にキラキラとしたビーズみたいなモノ(クリスタルガラスだって)が散りばめられてる。
「綺麗・・・」
「冬・・・ダイヤモンドダストをイメージしたんだって。うん、確かに粋ちゃんっぽいね」
「えと、もしかして、この服って皇さんがデザインしたとか・・・?」
「そうだよ。気味が悪いくらい乙女なモノを考えるんだ」
ふぁぁぁ・・・
皇さんも多才な人なんだぁ。







「・・・・・・・・・ウザい」
「いいでしょう、別に」
粋さんと母さんが部屋に入って1時間。
ドアの前でウロウロしていると、姉さんがウンザリした声でそう呟いた。
「貴方は居るだけで無駄に存在感があるんだから、じっとしていて欲しいのよ」
「・・・・・・」
「ま、まぁまぁ。あんまり険悪な雰囲気になってると粋がビックリするから。抑えて抑えて」
北杜さんが姉さんをなだめている。
うわぁ・・・姉さんってばこんなに女の子っぽい表情出来るんだ。


こういう光景を見ると、バランスの取れた2人だなって思う。
パッと見は姉さんが勝手に色々してるように見えるけど、実際は北杜さんが上手く最後まで導いてる。
1つしか歳が違わないのに、包容力があるんだよね。
・・・・・・はっ!!
もしかして、粋さんはそういう所に惹かれたの?!
ぼ、僕も包容力のある男にならなきゃじゃない!!
「・・・・・何を妄想してるのかしら。どうせ下らない事なんでしょうけど」
「さぁ・・・・・」







「お待たせしました・・・」
「今日の仕事も完璧。素材がいいと燃えるね!!」
メイクと着替えが終わって外へ出ると、風眞さんと創司くんは私の顔を見て固まってしまった。
やっぱり・・・こんなに現実離れした格好してたら驚くよね。
「す、すごく綺麗です。メイクも服もよく似合ってますよ」
「ありがとう・・・」
綺麗なんて言ってもらったの初めて。
空さんの力ってスゴイなぁ。
「本当に綺麗よ、粋ちゃん。普段は可愛いけど今日は綺麗。あぁ〜、抱きしめちゃいたいけどメイク崩れたら大変だし・・・撮影が終わったらいっぱいギュッとさせてね?」
「う、うん」
風眞さんにギュッとされるのは嫌じゃない。
寧ろ好き。
柔らかくていい匂いがするんだもん。


「な、何て羨ましい・・・」
創司くんが心底羨ましそうな顔をしてる。
ふふふ・・・って、あれ?
焔くんも羨ましそうな顔??
何でかなぁ・・・・・・・あ。
焔くんって・・・私の事・・・好きなんだっけ・・・?
信じられないけど。
「あら、粋ちゃん。顔が赤いわよ?」
「な、何でもないよ!!」
焔くんと目が合った瞬間にボッと顔が熱くなってしまった。
意識しちゃってるよ、私!!
うわぁぁ・・・何て簡単な子なんだ、私!!





「これ位か」
撮影自体は結構早く終わった。
試しだもんね、簡単に・・・
「待った。もう1パターンやってみよう。空、道具はあるね」
「ああ、あるよ」
「焔、粋ちゃんの相手をしてくれ」
「「は・・・い・・・?」」
声を揃えてポカーンとする私と焔くん。
そりゃ・・・驚きますわな。



急遽、皇さんの指示で焔くんもメイクされることになった。
「どうなるのかなぁ」
「女装・・・とかだったりして」
「シャレにならないわよ」
勝手な話をする私たち。
でも、元々が超美形だからどうなるのか楽しみだったり怖かったり・・・



「お待たせしました・・・」
「いやいや、なかなか楽しかったよ」
「「「!!!」」」
撮影室に戻って来た焔くんは・・・・・
「焔・・・・・くん?」
「はい・・・・・まぁ、あはは・・・」
銀色がかったグレーのスーツにワインレッドのリボンタイ。
困ったように笑うその顔は、確かに焔くんなんだけど。
少し大人っぽくて・・・紅い瞳(カラコンだよね??)と前髪部分の赤いメッシュが不思議に似合ってて・・・
あれれ??
いや・・・・・そんなハズ・・・・・







「じゃあ、始めようか。焔、粋ちゃんの目を見つめて手を握って」
「手を・・・それは・・・」
ど、どうしよう。
今まで2回バチっときてたから、今回もなっちゃうのかな・・・
「いい・・・ですか?」
「いい・・・よ・・・」
ドキドキするのはバチっとくるのが怖いから?
それとも、不思議な温かさを感じる紅い瞳に見つめられているから?



そっと両の掌が私の手を包み込む。
「っ・・・・・」
やっぱり、今回もバチっと・・・
「すみません!!」
「は、離さないで。我慢できる!」
・・・・・・とは言ったものの。
これは静電気じゃないの!?
手を握られた瞬間だけじゃなくて、断続的にバチバチと・・・
「無理しないで下さい」
「も、もうちょっとだけ・・・ごめんね、焔くんも痛いんでしょ?」
「僕は大丈夫です・・・・・男ですから」
「ふふっ・・・・・そう・・・・だね・・・・」
バチバチは痛いけど、焔くんの瞳を見ていると平気になれる気がする。
不思議・・・・・



「手を離していい」
聖さんの声でパッと焔くんの手が離される。
「大丈夫ですか、手、何ともなってませんか?」
「うん、大丈夫。焔くんこそ、大丈夫?」
「はい」
ニコッと笑う顔は焔くん・・・分かってるんだけど、何だか引っかかる。
目の前の焔くんであって焔くんでない人。
おかしいなぁ。
どうして見たことがある気が・・・・・?



「お疲れ様、2人共。どうもありがとう、お陰でブランド名のイメージ通りのものが出来そうだよ」
「貴重な体験をさせていただいてありがとうございました。こんな素敵な衣装とかメイクとかして貰えて・・・・・嬉しかったです」
なかなか出来ない体験だもんね。
試しで終わっちゃうかもしれないけど、楽しかったな。
「ところで父さん。ブランド名のイメージ通りって言いましたけど、何ていうブランドなんですか?」
あ、そうだそうだ。
新しいブランドってしか聞いてなかったんだ。
リュミエル(光)と関係するような名前なのかな?



「青い月と紅い太陽、2つの光・・・・・『ルナソル』」
「「「ルナソル?!」」」
今まで黙って様子を見ていた風眞さんと創司くん、そして焔くんが驚いた声で復唱する。
「ルナ・・・・ソル・・・・」
ルナソル。
ルナソル・・・・・



「おかしゃま」



ルナソル・・・・・



「いかないで、おかしゃま、いかないで!!」



頭の中に響く小さな女の子の声。
「ルナソル・・・・」
「粋さん!!」
抱きとめられた甘い花の香りがする腕の中で、私は意識を失った。









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