みずのきおく・18






チュウされました。
口にチュウされました。
家族以外で初めて、口にチュウされました。





「あsdfghjkl;:」
ショックで変な言語しか出てきません。
家に帰ってジッとしているコトも出来ない程に頭がグルグルするので、とりあえずウドンを打つ事にしました。
うどんうどん、おいしいうどん・・・


無心でウドンを製作し、もにょもにょと食べ、とろとろとお風呂に入り、尚もグルグルする頭でお布団へ。
グルグルグルグル・・・・







寝られません。







焔くんはどうして平然としていたの?
気にしているのは私だけ?





だって、口にするキスって特別だもん。
どうして、平然としていられるの?





焔くんは綺麗なだけじゃなくて沢山の魅力を持ってる人。
何故か分からないけど、私にすごく懐いてくれている。
どうして?
・・・・・私って子供っぽいから安心できるのかな。



寝返りをうって窓の外でボンヤリ輝くお月さまを見上げる。
焔くんは、甘えたいのかな。
風眞さんには未だ恥ずかしいから、私に甘えてるだけなのかな。
・・・・・・ちょっと度が過ぎてる気もするけど。



私と焔くんは友達で、私は焔くんのおねえちゃんみたいなもの。
そう、なんだ、
だから特別な意味なんてない。


勘違いをする前に、私は私の考えを1つ心の中にしまうことにした。
心の中にしまって、眠ってもらうことにした。





どうして、どうして私にも優しくするの?
そんなんだから私が変な期待をしちゃうんじゃない。

彼の優しさは誰にでも平等で、
私もみんなと同じってだけ。

分かってる、分かってるのに・・・・
優しさが、痛いよ・・・







その後はぐっすり安眠。
不思議なくらい頭がスッキリ。
美味しく朝ご飯を食べて、いつも通りに1日が過ぎていく。
1週間が過ぎていく。
中間試験が終わった焔くんとケーキを食べに行っても、あの時の話は特に出ない。
やっぱり特に意識はしてないみたい。


そして更に1週間。
風眞さんと創司くんは用事があるとかで今日は先に帰ってしまった。
まぁ、そういう日もあるよね。


1人でトロトロと歩く帰り道。
つまんないなぁ・・・
ふと、道路の向こうに目をやると、ぼんやりとした様子の焔くんが公園の中に入っていくのが見えた。
どうしたの・・・かな?



何となく気になって、後を追って公園に行ってみる。
何処・・・だろう?
キョロキョロと辺りを見てみると、こっちに背中を向けているから確実ではないけれど噴水の近くのベンチにそれっぽい人が座っていた。
栗色のさらさらの髪、中等部の制服。
きっと多分、間違いなし。
間違ってたら謝って逃げよう、そうしよう。



「ほむらくん?」
「わぁ?!」
やっぱり焔くんだった。
ものすっごい驚いたみたい。
かわゆい・・・



「公園に入って行くのが見えたから追いかけて来ちゃった」
「そうだったんですか、あ、座りませんか?」



遠くに子供達の遊ぶ声。
サラサラという噴水の音。
会話もしないでぽややんと座っている私たち。
・・・・・・・あ、そうだった。



「焔くん・・・なかなか言えなかったんだけど、この前はびっくりしちゃった。ばかなんて言ってごめんね?」
焔くんに「ばか」なんて言っちゃったのは2回目。
今さらだけど、やっぱり謝っておいた方がいいよね。
そっと伺うように焔くんを見つめると、「僕こそ、驚かせてすみませんでした」と言ってくれた。
「えへへ、謝れてよかった」
今度から気をつけないと。
うん。



・・・・・・・・・・うん。
でも、お返しはしてみてもよいのではないかしらん?



「あのね・・・今度は私からしても、いいかな・・・?」



きゅっと袖をつかんで、ちょっと可愛らしく言ってみる。
・・・・・・・ど、どうだ!?


暫くの沈黙の後、頷いてくれた。
最終兵器的笑顔で・・・
危ない、危ない、ヤラれる所でした。
あんな笑顔で頷かれると良心が痛みますよ。



さてさて、お返し開始です。
だがしかし!!
腕を首にまわして顔を近づけても、澄んだ赤茶の瞳がじっとこちらを見ているのです。
う・・・・これでは・・・できない。
「目、閉じて・・・恥ずかしいよ・・・」
それっぽいことを言ってみました。
チュウする時は目を閉じるもんね。
・・・・・・・ど、どうだ!?


成功のようです。
目を閉じてくれました。
うわぁ・・・睫毛ながーい。
目を閉じても綺麗なんだぁ・・・


こんなに素直に言う事を聞いてくれるなんて、本当にチュウすると思っているのかなぁ?
だとしたら、本当にチュウが好きなんだぁ。
ううう・・・ごめん!!




「えい!」





「・・・・・・・え・・・・と・・・・・」
でこピンです。


「焔くんに驚かされてばかりなので、仕返ししてみましたよ。なけなしの色気を出してみようと努力してみたんだけど・・・それは無理があったみたい。あははははは」
ものすっごい驚いた顔。
成功ダ!!
ケラケラと笑って焔くんを見ると、呆然とした様子で額を抑えていた。
え・・・・・と・・・
まさかそんなもしかして。



「え、え、え・・・もしかして、痛かった?」
も、もしかしたら額のストライクゾーンにダイレクトアタックしてしまったのやもしれません。
「ご、ごめんね。うぅ・・・綺麗な顔に傷がついたらどうしようぅ・・・」
どうしようどうしよう。
おねえちゃん、責任とれないよぉ・・・




沈黙。




「痛いの痛いのとんでけーってチュウしてくれたら治ると思います」
「え、そ、そうなの?じゃあ、痛いの痛いのとんでけー」
やっぱりチュウなんだ。
でもでも、それでいいならいいや。



そして。






私は焔くんの額にそっと唇を寄せた。






「もう、痛くない?」
「う・・・ん、どうかなぁ・・・」
「え、え、え??じゃあ、もう1回?」
「そうですね、じゃあ・・・もう1回」
どんだけチュウが好きなのですか?
まぁ、でも、別に嫌じゃないからいいんだけどネ。




彼は私の友達で、弟みたいな人で、チュウするのもされるのも好きなのです。
それだけです。
それ以上はないのです。







7月になりました。

今日は3人で焔くんの家に来ております。
双子ちゃんと美両親はお出かけ中。
帰ってくるまで待っててね、というので4人でノンビリお茶の時間です。


「かわゆかったわねぇ〜、リトルマーメイドみたいだったわよぉ見られなくて残念だったわねぇ、男共」
水泳大会は男女別の上に自由参加。
体育祭も自由参加にしてくれればいいのに・・・
そんなことは置いておいて。



「楽しかった!!東雲の屋内プールって広くて綺麗で素っ晴らしいんだね!!開放日に通っちゃおうっと♪」
水泳大会は50M背泳ぎで参加。
天井を見てぼーーーーーーーーっと泳いでいたら、ゴール。
1位のメダルを頂きました。


参加者が少なかったから100M個人メドレーも参加。
こちらも無心で泳いでいたら3位のメダルを頂きました。


「男子は、ある意味・・・焔が大活躍でした」
「写真が裏で高値で取引されてるみたいよ。すごいわねぇ、半裸王子」
「・・・・・せめて水着王子って呼んであげようよ」
半裸・・・
確かにそうだけど表現がすごいですよ、風眞しゃん・・・



「そんな盗撮写真は、見つけ次第焼却処分です。全く・・・何を考えてるんだか」
「ナニを考えてる、のよ。みんな本能に忠実ねぇ。アナタもこういう事になるって分かってるのに、学校行事に参加しなくちゃいけない立場っていうのも大変ねぇ」
「・・・・・大変じゃありませんよ」
風眞さんと焔くんは、時々よく分からない話をする。
学校行事に参加しなくちゃいけない立場?
それはさておき。



「焼却処分は勿体ないよねぇ・・・」



ぽつりと言うと、3人の目が私に集まった。
「何で・・・でしょう?」
「え、だってさ、焔くんの写真だよ?燃やすの勿体ないよねぇ?」
アイドル生写真・・・いやいや、美術館のお土産コーナーに置いても大丈夫くらいに美しい写真。
燃やすなんて勿体ない、勿体ない。


「粋さん、僕の写真が欲しいんですか?」
「ん・・・・・・どうかなぁ」
「どうかなぁ・・・とは?」
むぅ。
うまく説明できるかなぁ・・・
「写真が欲しい人って、きっと・・・焔くんが好きだったり憧れてたりするんだよ。でも、普段は近くにいられなくて、だから写真だけでもって思うんじゃないかな」
「粋ちゃんは焔ちゃんの近くに居られるから特に写真はいらない、という事かしら?」
「いや、あの、いらないっていうか・・・・無くても平気・・・かな」
「なくても・・・へいき・・・」
沢山の人に近くに居て欲しいと思われる。
それってスゴイ事だよね。
焔くんは沢山の人に好かれてて、沢山の人に好かれたいと思われてる。



そんな焔くんの唯一になれる人ってどんな人なんだろう?
唯一の人が出来ても、焔くんは仲良くしてくれるかな。
「でもね、もしも焔くんが遠くに行っちゃう時が来たら、私も写真が欲しいな。そんな時が来たら、寂しくて泣いちゃうかもしれないケド」
「・・・・・・」


特別な関係じゃない限り、ずっと一緒になんて居られない。
私たちは子供で、私たちはただの友達で、私たちは先の事なんて全然分からない。



ずっと一緒に。



そんなの、無理。



ずっと一緒に。



そんなの、無理に決まってる。




「ずっと一緒になんて、いられない」
「・・・・・粋ちゃん?」
ほとんど無意識に言葉が続く。
「「私」と「貴方」は「特別」なのに、ずっと一緒に居られなかった。「私」も「貴方」もずっと一緒に居たかったのに、「私」は・・・・・裏切られた・・・・・・・・」
「裏切られた・・・?」



痛い、痛い・・・・・
心が、頭が、すごく痛い。
「粋ちゃん、少し休みましょう?焔ちゃん、客間のベッド借りるわよ」
「だいじょうぶ・・・だいじょうぶだよ・・・」
「・・・・・大丈夫じゃないだろう。痛いのを我慢して溜め込むと、もっと痛くなるんだからな?ちゃんと休みなさい」
創司くんは私の身体をひょいっと抱き上げて、客間へと向かった。



お日さまのにおい。
懐かしくて優しいにおい。



客間のベッドに横になって、目を閉じる。
頭がぐるぐるする。
「そうしくん・・・」
「ん?」
「わたしね、そうしくんのことが、すきだったんだよ・・・・」



私の好きはどういう意味の好きだったんだろう?
自分でもよく分からない。
逆に相手の気持ちはよく分かってる。
それなのに。



「・・・・・うん」
ただそれだけ言って、創司くんは私の頭を撫でてくれた。









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