「焔くん・・・」 放課後、公園の噴水の前のベンチに座る僕と粋さん。 2人だけで話がしたいって言われたんだけど・・・ 「この前はびっくりしちゃった。ばかなんて言ってごめんね?」 モジモジと地面を蹴りながら、そっと伺うように僕を見つめる。 僕こそ驚かせてすみませんでした、と言うとよかったと笑顔を見せてくれる。 相変わらずクリティカルヒットを食らう可愛さ爆発だ。 暫くの沈黙の後、小さな手がきゅっと僕の袖を握る。 え?え?何ですか?? 「あのね・・・今度は私からしても、いいかな・・・?」 いいかな?なんて聞いてこなくても全然いいですよ、どんどんしちゃって下さい!! とは言えるワケもないので、僕的最高位の微笑みで頷くと、 細い両腕が僕の首にまわされて顔が近づいてくる。 「目、閉じて・・・恥ずかしいよ・・・」 艶やかな桃色の唇。 ぎりぎりまで見ていたいけど、粋さんが嫌がるコトは出来ない。 目を閉じるとふんわりとイチゴの香りが近づいてくるのが敏感に分かる。 そして。 戸惑うようにそっと触れた後、柔らかな感触が唇にじんわりと広がる。 遠くに子供達の遊ぶ声。 サラサラという噴水の音。 ふぅ・・・という息遣いが離れて、今度は僕の胸に顔を寄せ見上げてくる。 ほんのりと赤く頬を染めて、少し潤んだ瞳で・・・ 「焔くんと・・・・・もっと・・・先のコトも・・・したいな・・・」 先ですか!? 果てでも構いませんよっっ!! いつでもオッケイですっ!! 何なら今すぐ僕の部屋まで・・・・ スパーン!! 「い・・・痛っ・・・・・」 分厚い国語便覧で・・・思い切り叩かれた・・・ 「痛いようにやったから当たり前でしょ。こっちに戻って来なさいよ、破廉恥中学生」 ぐぉぉぉぉ・・・・という音を立ててブリザードが吹き荒れている。 怖すぎる・・・ 「全く、こんな脳内桃色常時発情期のエロガキが弟なんて。あぁ・・・私が男だったら粋ちゃんは私が幸せにするのに・・・」 「俺の立場がなくなる発言を・・・・すみませんすみません、もう余計な事は言いません!!」 吹雪を背負った笑顔を向けられた北杜さんが恐怖に怯えている。 ハハハ・・・おっそろしい彼女を持つと大変だね。 スパーン!! 「な・・・何度も止めて下さい・・・頭が悪くなったらどうするんですか・・・」 「ふふふっ、野獣は叩いて調教するものよ?大体ねぇ、私達を呼んでおいてその態度は何?あんまりフザけた態度を取り続けるようなら、おねえちゃん本気で怒っちゃうわよ?」 吹雪の次は雷ですか・・・ 姉さんの怒りのエネルギーを有効活用できたら世のためになるよねぇ。 「焔・・・頼むから本題に入ってクダサイ・・・」 「はい、すみません、北杜さん。ええと・・・ですね」 あの日、あの時、あの場所で。 僕は粋さんにキスをした。 額とか頬とか手の甲とかじゃなくて、唇に。 一瞬のようなものだったけど、あの感触は鮮明に残ってる。 老舗の有名和菓子店のわらび餅より柔らかくて、行列の出来る洋菓子店のスフレよりふわぁっとしてて、 世界中のどんなお菓子より甘い・・・ 「性懲りもなくおかしなコト考えてるわね・・・」 「無駄に背景に花を飛ばし始めたもんな・・・」 あぁ・・・もう、粋さん、サイコー!! 頭のてっぺんから足の先までかわゆすぎ。 あの唇が動いて、あの声で「焔くん」って呼ばれる度にラブ度が高まっていく・・・ 「帰りましょうか」 「そうだな・・・」 「待って下さい」 立ち上がり帰ろうとする2人を引き止める。 年長者なのに我慢がないなぁ・・・ 「・・・・・見返りは?」 実の弟に容赦ない・・・ でも、予想はしていたからスバラシイ特典を用意してたんだよね!! 「母さんが激選したサンプル品で、有希と望と粋さんを着せ替えし放題というのはどうでしょう。勿論、気に入ったサンプル品は何着でも差し上げます。そうそう、母さんが粋さんにメイクもしたいって言ってましたけど・・・?」 「おいおい、それってオマエの欲望も・・・」 じっと見詰め合う僕と姉さん。 表情の読めない人だ・・・ 「オッケイ♪」 「オッケイなのーーー!!!??」 上機嫌な姉さんの様子に呆然とする北杜さん。 こういう時は姉弟の血の濃さを感じるね。 ・・・・・・やりっ!! 「あの後の粋ちゃんね・・・」 「・・・無心に麺をこねてたな」 2人が家に戻ると、粋さんは何故かうどんを作っていたらしい。 「夕飯にうどんを食べて、その日は私達は早く寝ちゃったのよね」 「疲れてたし」 いやいや、誰もアナタ達のその後は聞いてませんから。 「次の日の朝はいつも通りだったわね」 「何かふっ切れた感じだった」 そう・・・そうなんだよ。 それが気になるんだって!! 次の日から中学部は中間試験があったから1週間会えなくて。 ようやく試験が終わった週末に一緒にお茶をしに行ったら至ってフツー。 あんなに衝撃を受けてたから目を合わせてくれないかも、とか、逃げられちゃうかも・・・って考えてただけに。 フツーすぎて怖いくらいフツー。 それから更に1週間。 フツー極まりない毎日が逆に気になって、姉さんと北杜さんに粋さんの様子を聞いてみたんだけど・・・ 「何とも思われなかったのかしらねぇ」 「風眞・・・それ、キツいですヨ・・・」 ・・・そう・・・そう言われても仕方ない。 あれだけしても意識してもらえてない・・・ 結構大分かなりとても・・・・ショック・・・ 「あれでも意識してもらえなかったからってそれ以上のコトをしたら、落雷警報発令よvv」 「注意報は既に発令されてるようだけど・・・」 「無理にそこまでしたら犯罪ですし、嫌われるからしませんよ」 僕の気持ちはかなりストレートに伝わるようにしてるつもりなんだけど。 どうして気がついてもらえないんだろう。 「北杜さんはいいですよねぇ、男として見てもらえて」 「残念ながら、俺はどこをどう見ても男だからなぁ」 ズレた返答に溜息をつく我ら姉弟。 この人に負けたのか、僕は・・・ 「じゃ、約束を忘れないでね♪」 「勿論です。あ、母さんは姉さんにも色々したいと・・・」 「約束の日には是非俺も見学に行かせて下さい!!」 「・・・・ど、どうぞ」 結局。 大した情報は得られず。 着せ替え大会の約束はできたけど。 姉さんから誘えば粋さんもオッケイしてくれるだろうし。(確信犯) ぼんやりと歩いていると無意識に公園の噴水前に来ていた。 そういえば、夢の中で「僕」は「彼女」と何度も噴水のある公園に来ていたな。 「彼女」もかなりの天然で、なかなか思いが伝わらないんだよね。 『今も、これからも、ずっと好きだから』 「ほむらくん?」 「わぁ?!」 ひょこっと背後から現れニコニコ笑う粋さん。 かわゆいけど、びっくりした・・・ 「公園に入って行くのが見えたから追いかけて来ちゃった」 「そうだったんですか、あ、座りませんか? 遠くに子供達の遊ぶ声。 サラサラという噴水の音。 あれ? 「焔くん・・・」 あれれ? 「なかなか言えなかったんだけど、この前はびっくりしちゃった。ばかなんて言ってごめんね?」 モジモジと地面を蹴りながら、そっと伺うように僕を見つめる。 あれあれあれ??? 「僕こそ、驚かせてすみませんでした」 「えへへ、謝れてよかった」 はにかんで笑う粋さん。 あれあれあれあれあれあれ?? ものすっごい既視感。 っていうか、これってさっきまでの じゃあじゃあ、続きは・・ きゅっと袖をつかまれる。 え、え、え、え??? 「あのね・・・今度は私からしても、いいかな・・・?」 キ、キターーーーー!!! 落ちつけ、落ちつけ、落ちつけ僕。 このラブvチャンス★を逃しちゃダメだ!! 僕的最高位の微笑みで頷くと、細い両腕が僕の首にまわされて顔が近づいてきた。 「目、閉じて・・・恥ずかしいよ・・・」 艶やかな桃色の唇。 潤んだ瞳。 ぎりぎりまで見ていたいけど、粋さんが嫌がるコトは出来ない。 目を閉じるとふんわりとイチゴの香りが近づいてくるのが敏感に分かる。 そして。 「えい!」 「・・・・・・・え・・・・と・・・・・」 でこピン、された・・・ 「焔くんに驚かされてばかりなので、仕返ししてみましたよ。なけなしの色気を出してみようと努力してみたんだけど・・・それは無理があったみたい。あははははは」 「・・・・・・・・・・・」 ええと・・・・・ 仕返し・・・ですか・・・ 「え、え、え・・・もしかして、痛かった?」 「え・・・・・」 額を押さえて呆然としているのを痛いと勘違いしてしまったみたい。 「ご、ごめんね。うぅ・・・綺麗な顔に傷がついたらどうしようぅ・・・」 「え、あ・・・・・」 ぴこーん★ 「痛いの痛いのとんでけーってチュウしてくれたら治ると思います」 「え、そ、そうなの?じゃあ、痛いの痛いのとんでけー」 そして。 世界で一番甘いお菓子が、僕の額に落とされた。 「だまされてる、だまされてる、だまされてるのよ!!粋ちゃん!!!」 「お、お願いデス・・・首・・・しめないで・・・クダサイ・・・」 すみません、北杜さん。 暫く絞められていてください。 遠く目の端に見える北杜さんに心の中で合掌。 「もう、痛くない?」 「う・・・ん、どうかなぁ・・・」 「え、え、え??じゃあ、もう1回?」 「そうですね、じゃあ・・・もう1回」 このキスが恋人のキスに変わるには、あとどれくらい? 今日は1歩近づいたかな? それとも10歩近づいた? 答えは今、僕の目の前で困った顔をしてる彼女の中に。 |
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