みずのきおく・16






「「迷惑?」」
思い切って聞いてみると、一瞬驚いた顔をした後に2人は同時に笑い始めた。

「ど、どうして笑うの?」
笑われる理由が分からない。
「じゃあ、どうして一緒に居たら迷惑かなんて聞くんだよ」

「・・・・だって。私が居たら2人になれる時間が減っちゃうでしょ。恋人同士っていつも2人でいたいものなんでしょ?」
ショボショボとした声で答えると、2人は私の手を握って答えてくれた。

「それはそうかもしれないけれど、私は貴女と一緒に居る時間も大切なのよ?」
「そうだよ、迷惑なんて聞かれたらお父さんショックで泣いちゃうぞ」
「・・・・・・そうなの?」

「「そうなの」」

お日様と甘い花の匂いは私を優しく包み込んでくれる。

一緒に居て。
大切な人達がそう言ってくれる。

嬉しい。
幸せ。
あったかい。

大好き・・・2人とも・・・




午前0時。
ダイニングで転寝をして、久しぶりに見た「私」の「夢」。
「ふうまさん、そうしくん・・・」
目が覚めた時に思い出したのは2人の事。


未だ短い時間しか一緒にいない2人。
でも、大好きで大切な2人。


2時間くらい前に創司くんから「意識が戻って落ちついたけど、今晩は病院に泊まっていく」って連絡があった。
少し安心できたけど、風眞さんのあの状態がいつ起こるか分からないものだと思うとすごく怖くなった。
ほんの一瞬前まで元気だったのに。
『いくら丈夫な身体でも、心臓が滅茶苦茶な動きをしたら哀しいくらいに何も出来なくなっちゃうのよ』
笑ってそう話していた事を思い出す。


あの発作を見たら、それを人に笑って話せる事がどんなにすごい事か分かった。
風眞さんは強い。
強くあろうとしてる。
しっかりと1人で立って生きていけると証明しようとしているかのように。



眠れないうちに夜が明けた。
明け方から降り始めた雨が窓硝子を濡らしている。

メールだよ、メールだよ

ぼんやりとしていると携帯にメールの着信が。


風眞です。創ちゃんの携帯を借りてメールしてます。
昨日は心配をかけてごめんなさい。
心配してくれたお陰でもう何ともないのよ。
今日の午後には帰るから待っててね。

粋ちゃんには情けない所を沢山見せてしまって恥ずかしいわ。
でもね、恥ずかしい所を見せられる友達がいるって事が今はとても嬉しいの。
本当よ?

帰ったら沢山ぎゅーっとしちゃうから、覚悟しててね?


「風眞さん・・・」
回復したっていっても昨日の今日。
わざわざメールで連絡をくれるなんて・・・・・
よし、回復祝いに風眞さんの好きなシフォンケーキを作ろう。
風眞さんに喜んでもらいたいから。
とびきり美味しい一品を作っちゃいましょう!!







「うぅ〜・・・びしょびしょ・・・」
昨日、大量にタマゴを買うつもりだったから家にタマゴがなくて雨の中を買い物に。
途中の水溜りにハマって靴下だけでなくスカートまでびしょびしょ。
私は小学生でしょうか・・・


ちょっぴり鬱な気分になりながらもタマゴは無事購入。
さてさて、家に帰ったら気分を変えてシフォンケーキ作るですよ〜。


帰り道は水溜りに気をつけて、 足元だけを見て歩いていたら目の前に人影が。
この雨の中、ピカピカのハイヒール。
すごーい、転んだりしないのかな?
ま、私には関係ないけどねぇ。
ポテポテと通り過ぎようとすると、


「お待ちなさい!」
「は、はい??」
あ、危ない・・・
タマゴを持ってる手を掴んでくるとは・・・


「雨の中、待ってて差し上げたのに本当に礼儀を知らない子だ事・・・」
うはぁ・・・オバさんですか・・・
雨の中待ってたとはご苦労様です・・・っていうか、執念を感じて気持ち悪いデス・・・
「こ、こんにちは・・・」
ぎこちなく挨拶をすると、例の人を見下すような笑い方をして話しかけてきた。
私に用事・・・?
「貴女、焔さんに好意があるの?」
「は・・・・・・い?」


目がテン。
この人、突然何を聞いてくるのでしょう??
「聞こえなかったかしら?」
「い、いえ。好意って・・・言われましても・・・」
焔くんの事は好きだけど(好きじゃない人なんていないんじゃないのかな?)、友達としてだと思うんだよね。
でも、それを言っても分かってもらえない気が・・・


「焔さんにこれ以上関わらないで頂戴。あの子には私が相応しい相手を見つけてあげますから。貴女のような程度の低い子に絡まれて悪い噂でも立ったら大変なの。分かるかしら?」
「え・・・と・・・よく、分からないんですけど・・・」
よく、どころか、全然分からないんだけど。
「頭の悪い子ね。まぁ、あの娘の友達っていうんだから当たり前といえば当たり前でしょうけど」
・・・・・む、むぅぅぅ!!
「風眞さんを馬鹿にしないで下さい!あと、私と焔くんが(友達として)仲良くしてたって関係ないじゃないですか。焔くんが嫌がってるなら仕方ないですけど・・・他人に言われて「そうですか」なんて納得できません!!」


女の人を見上げると、パンッという音の後に左の頬が熱くなった。
叩かれた・・・
この人・・・気も短けりゃ手も早いのだね・・・
「頭が悪い上にやかましい・・・。貴女、私を他人と言いましたけど違うのよ。私はあの子の血の繋がった母親なの。あの子は淫乱女の子じゃなくて私の子。私と皇さんの子なのよ」
頭の中が真っ白になる。
今、何を言われたの?
焔くん・・・どういう・・・事?







「粋ちゃん!!」
それからどれくらい経ったんだろう。
雨の中でぼんやりと立ち尽くしていると、風眞さんと創司くんがかけ寄って来た。
「どうしたんだよ、こんな所に居たら風邪ひく・・・・って、どうした?ほっぺた赤くなって・・・まさか・・・・・・」
「粋ちゃん、家に入りましょう?」
無言で頷く。
あの人の言ってた事を組み合わせていくと・・・
風眞さん。
私に話せなかったって事が何となく・・・形になってきたみたい・・・



「その頬、大叔母にやられたのね?」
意外に強い力で叩かれたのか、私の頬がポッチャリ系のせいなのか結構腫れてきてしまった。
氷水の入った袋で冷やすとジンジンする・・・
「見た目より痛くないから大丈夫だよ。えへへ・・・ちょっとビックリしちゃった。叩かれたのなんて生まれて初めての経験デス。貴重、貴重」
心配かけたくなくて笑ってみたんだけど、2人は暗い顔のまま。
「ごめん・・・守ってあげられなくて・・・」
「大丈夫だよ、本当だよ?んと・・・多分、私の言い方が悪かったんだよね。あのオバさんを怒らせるような事を言っちゃったんだもん」



沈黙。
ええと・・・どうしよう・・・
「あの人に何て言われたの?」
「・・・・・・・」
「言いにくいかもしれないけれど、教えてくれる?」
「・・・・・焔くんに関わるなって」
はぁ・・・と溜息をついて創司くんが額を押さえる。
「あのババァ・・・」
「焔ちゃん、暫く粋ちゃんを避けていたでしょう。あれはね、粋ちゃんと自分の仲を大叔母に知られたくなかったからなの・・・」
「え・・・・」
そ、そう・・・だったの?
怒ってたとか嫌われたとかじゃなかったの??
じゃあ・・・・
うわぁぁ・・・折角、焔くんが気を付けてくれたのに、私が話しかけたからいけなかったんだ・・・


「まぁ、いくら隠した所でいずれは分かる事なんだけど。それよりなぁ・・・まさか粋に手を出すとは・・・そこまでは予想出来なかった」
「本当に本当にごめんなさい。何度謝っても足りない・・・・・・・」
困った顔をする2人。
「だ、大丈夫だよ!こんなの明日には治るし。それに、私が叩かれただけでそんなに・・・・・」


「叩かれたんですか?」


空気が凍った。
そう感じたのは私だけじゃないはず。
ダイニングの入り口に立つ焔くんは、じっと私の左の頬を見ていた。


「あの人に、叩かれたんですね?」
無表情に淡々とした声で尋ねてくる。
怖い・・・すごく・・・怖い。
「待て、焔!!」
創司くんは身を返して出て行こうとする焔くんを引き止め、自分の隣に座らせた。
「怒るのは分かる。分かるけど、キレんな」
「分かる・・・?じゃあ、貴方は西神さんが傷つけられても黙っていられるんですか?」
うっと創司くんの言葉が詰まる。
「人が大人しくしていれば図に乗って・・・許せない・・・あんな・・・人間のクズ・・・」
・・・・・・
・・・・それ以上は・・・


「怒ってくれてありがとう。でも、もう過ぎた事だからいいんだよ」
「粋さん・・・・」
納得してくれない?
でも、でもね・・・
「お願いだから・・・もう、止めて。お母さんの事を悪く言うなんて、よくないよ」
「どう・・・して・・・」
3人の顔が強張る。
この感じだったら皆、知ってたんだね。


「自分は焔くんの母親だって。焔くんは・・・・・皇さんとの子だって言ってたの」
「・・・・・他に、何か聞いた?」
風眞さんと目が合う。
・・・・・
「話の中からの推測でしかないけど、風眞さんのお母さんは・・・空さん・・・?」





時々感じていた既視感。
風眞さんと空さんの周りに流れる雰囲気はよく似てる。
それに、ゆうきちゃんとのぞむくんと風眞さんと空さんは同じ目をしてる。
確信を持って考えれば繋がる部分は沢山出てくる。


「もしかして・・・だけど、話しちゃいけない事情があったんじゃないの?あのね、あの・・・空さんも話せないのが苦しそうだったの。ゆうきちゃんとのぞむくんの兄弟の話をしてる時に、焔くんともう1人いる・・・って・・・」
「もう、『約束』は無効でいいわよね」
目を伏せポツリと呟く風眞さん。
「約束?」
「私とお母さんの関係を誰にも話してはいけない。私とお母さんは会ってはいけない。オトナの事情で・・・・・バカみたい」




風眞さんの昨日の発作の原因は、心労によるものだった。
ここ最近、あのオバさん絡みで疲れていたんだ。
この話題を続けるのは今の風眞さんには辛いだろうから、休んでもらう事にした。


「すみません、僕のせいでこんな・・・」
ソファでぼーっとしていると焔くんが話しかけてきた。
「気にしないで。本当に見た目より痛くないから」
「嘘・・・ですね」
ピタリと頬を付けられると、ピリピリとした痛みが中心から広がっていった。
痛みよりも何よりも。
・・・・・とても恥ずかしい体勢なのですが
焔くんは気にしてないのでしょうか。
「ほ、ほんとうだよ・・・えーと・・・はなれ・・・まショ?」
「嘘ついてるからダメです」
きっぱりと答えられましてもね。
うーん・・・



頬をくっつけたまま数分。
ちらっと横目で焔くんの様子を伺ってみると、フクザツな表情で空を見つめていた。
・・・・・


「えいっ!!おねーさんの薄い胸で泣いちゃいなさい!!」
さらさらの髪に指を絡ませて、ぎゅっと胸に顔を押し付ける。
「粋さん・・・?!」
「叩かれた所の痛さより、焔くんがそんな顔して我慢してるのを見る方が痛いよ」
「・・・・・・」
「誰にも言わないよ、本当だよ?だから・・・」


焔くんの心は短い間に酷く傷ついてしまった。
心の傷は身体の傷よりも治るのに時間がかかるもの。
きっかけがなければ治らないまま心の中を痛め続ける。


私の「歌」が持っている癒しの能力は傷の原因の根本解決にはならない。
だけど、何もしないではいられない。
出来ることをしてあげたい。



「すい・・・さん・・・」
「私を、信じて」
目を閉じて、髪を梳きながら歌う。


焔くんの心が少しでも穏やかになるように。
あの優しい目に戻ってくれるように。


ぎゅっと胸元を掴んで、焔くんは肩を震わせて泣いた。
「・・・・・何を言われても、何をされても、私は焔くんに関わってやるんだから!!」
背中を擦ってあげながら強く宣言する。
オトナの事情なんかに負けないんだから!!





「粋様様だな」
「よかった・・・焔ちゃんの心が憎しみに支配される前で・・・」
ベッドに横たわり、右目から流れる涙を掌で抑える風眞。
「そろそろ女帝と決着つける頃か」
「そうね・・・」









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