みずのきおく・13






何だかんだで体育祭も後半戦。
そこまでは白組がリードして競技は進んでいたんだけれど。


「す、すごすぎる・・・・」
「おっそろしいわね、赤色王子」
「アレには誰も対抗出来ないでショ」


赤と白で決定的な差が出ちゃう事が起きてしまったのですよ。
競技ではなく「応援合戦」ってヤツで。


「私、時が止まるっていう状況を初めて体験したよ」
「虫一匹微動だにしないって感じよね」
「風眞、確か・・・お茶飲んでたよな・・・」


応援っていったら「フレーフレー」っていうアレを想像してたんだけど(実際、白はそうだったし)、違うの凄かったの。
赤組の応援・・・演舞っていうヤツ?
指先から爪先までピッとしててそれでいて流れるような動き。
誰も目を離せなくなる程に綺麗な動き。


その後から。
赤の士気が上がっちゃって上がっちゃって・・・


「最後のリレーで逆転するしかないわねぇ」
「う〜、風眞さん頑張って〜〜」
そうなのです。
とうとう最後の競技。
競技の花形、男女混合リレーで勝負が決まる事になったのです。
「うふふ、楽しんでくるわね。あ、そうだ粋ちゃん。私が走る時に大きい声でこう叫んで欲しいんだけど」
「ん?」
風眞さんは耳元でコソコソっと「言葉」を告げてトラックへと向かって行った。
「風眞、何だって?」
「ん〜〜、応援・・・にしては不思議な事」


学年性別無関係に走る順番が決められるこの競技。
フツーだったら運動部(陸上とかね)の男子がアンカーに選ばれそうなんだけど、白組のアンカーは風眞さんなのデス!!
びっくりドッキリ、デス!!
実は未だ走ってる所を見た事がないんだけど、一体どんな速さなんだろう・・・


「いやぁ、今日ここに居るヤツらってラッキーだな。風眞が走ってる所を見られるなんて」
「ん〜?」
前も言ってたなぁ、「風眞の走る姿は必見!」って。
「綺麗なんだ、すごく。惚れるよ」
「惚れるですか・・・」
益々以って気になる〜。





スタートの合図と共に赤白の選手が走り始める。
200M全力疾走・・・アンカーは倍の400M。
私には信じられない距離を全力疾走ですよ。
こんなに走ったら、身体から心臓が分離しちゃうって。


第4走者、第5走者・・・
赤と白にほとんど差はない。
むぅ〜〜速いなぁ・・・


第8走者、第9走者・・・
赤が僅かにリードし始めた。
わわわ・・・あと2人だ・・・


風眞さんが最後の走者のスタートラインに立った。
隣に立ってるのは・・・焔くんだ。
わわ・・・わわわわわわ。
不思議対決。
どうなるんだろ・・・


第10走者からアンカーへ。
先に焔くんの手にバトンが渡される。


「え?????」


は、速い・・・
何なのですか?!
見た目は文系なのに、すっごい速い・・・
もう50Mくらい差がついちゃってる。
でも・・・


「始まった」
創司くんの声が嬉しそう。
「風眞・・・さん・・・」
速い・・・だけじゃない。
本当に綺麗。
多分、分かりにくいけど一番分かりやすい例えをするなら・・・


「風・・・」


空を雲を木を花を、自由に吹き抜けていく風。
どこまでも透明で清々しい。


少しずつ2人の距離が縮まっていく。
「頑張ってー!!」
少しずつ・・・うーーでも、ゴールまでもあと少し・・・
「・・・・・・・ん?粋、競技の前に風眞に何か言われてたよな??」
「え?あ・・・そうだ!!」


『私が走る時に大きな声でこう叫んで欲しいんだけど』


大きな声で。
歌で鍛えた腹式呼吸を生かす時が来ましたヨ!!
ええと、



「ふうまさん、だいすき、あいしてるぅーーーーー!!!」








「すごかったよねぇ!!風眞さんのおかげで逆転勝利!!」
「うふふっ、ありがとう。粋ちゃんの応援のおかげよ」
「うん、粋の精神的攻・・・いや、応援のおかげだろうな。おめでとさん」


私が叫んだ後、何故か急に焔くんの走りが減速して風眞さんは逆に加速した。
そして順位が逆転してゴール。
白組の勝利に繋がったのでございます、はい。


叫んだ後の事だったから、焔くんの事を大声で驚かせちゃったのかとドキドキしてたけど、別に周りの人達は気にしてなかったみたいだから大声云々って話じゃなかったみたい。
急に調子が悪くなったのかな?
今晩電話してみよっと。


「創司くんの言う通りだったね。風眞さんの走る姿、すごく綺麗で惚れちゃいそうだったよ」
「惚れてもいいのよ?粋ちゃんだったら拒まないわ」
「がーん!!浮気宣言ですか!!」
「根本的に何か違うよ・・・」
発熱事件後からやたらと関係をオープンにしてる気が。
むぅ、前からコレくらい分かりやすくしてくれてればよかったのに!
「ん?」
「何でもないですぅー!風眞さん、早く着替えてかえろー」
風眞さんの手をとって更衣室へと歩き始める。
本当に立ち直りが早い、私。



「「ふうまおねぇちゃーん!!すいちゃーん!!」」



後ろからの声に振り向くと、双子ちゃん達がポテポテと走りよって来てる。
「あらあら、ユウちゃん、ノゾムちゃん。どうしたの?みんなはもう帰っているでしょう?」
風眞さんが2人の頭を撫でると、顔を見合わせてモジモジとし始めた。
どうしたんだろう?
恥ずかしいのかなぁ?
「あのね・・・」
「あのね、あのね・・・」
バッと顔を上げて2人は同時に叫ぶ。
「「こんばん、おうちにきて!!」」
「ん?」
お家に遊びに来て、って事なんだろうけど・・・
どうしてこんな必死の表情なんだろう。


「・・・・・お母さんは知っているの?」
静かな声で風眞さんが尋ねる。
2人は又、顔を見合わせてモジモジしている。
「知らないのね?じゃあ、私は行けないわ」
優しく微笑んでいるのにきっぱりとした拒否。
子供相手なのにこれはちょっと・・・厳しいかも・・・
「ゆうきちゃん、のぞむくん。今度はちゃんとお母さんに許してもらってから誘ってね?」
「「・・・・・おとなはゆるしてくれないもん」」
大人は許してくれない・・・?
そんな事ないはず。
だって、私は泊まりにだって・・・





「何をしているんですか」
聞いた事のない女の人の声に振り向くと、モスグリーンのスーツを着た綺麗な女の人と数人の男の人達がこっちを見ていた。
綺麗な女の人・・・・・・・何処かで見たことある・・・?
ゆうきちゃんとのぞむくんは風眞さんの背中に隠れて、ぎゅっと運動着を握っている。
すごく・・・怖がっているみたい。
「お久しぶりです。大叔母様こそ何をしていらっしゃるのですか。私に用事があるとは思えませんけれど」
ぞっとする程冷たくて感情のない声。
風眞さんからこんな声が出るなんて思わなかった。


「淫乱女の娘が『約束』をちゃんと守っているか見に来たんです。怪しいと思っていたらやっぱり・・・」
「『約束』は守っています。大叔母様、あまり心配をなさると老けますよ。もう、化粧師の力では誤魔化しが効かない年齢なんですから」
「なっ・・・!!」
つかつかと近づいてきた女の人の手が振り上げられる。
「風眞さんっ!!」
「「おねーちゃん!!」」



「はーい、はい。大人気ない事は止めておきましょうね〜。孫の年齢の子にムキにならないで下さいよ、西神の女帝さん」
女の人の手を2人の間に立った創司くんが止めてくれた。
よかった・・・・・
「余計な事はしなくていいのよ、創ちゃん」
「何処の世に自分の恋人が叩かれるのを黙って見過ごす男がいますかね」
創司くんは自然な動きで私達と女の人の距離をとってくれた。


「その歳で男をいいように使うとは、流石、淫乱女の娘ね。容姿だけで男を騙して、挙句に貴女を捨てたあの女にね!!」
女の人は憎憎しげに風眞さんに汚い言葉を投げつける。
風眞さんは無表情に女の人を見返している・・・けど、その目は怒りと哀しみが混ざっているのが分かる。
・・・・・
・・・・・・・・こんなの、嫌だ。
「大叔母さんか何かよく分かりませんけど、酷い事を言うのは止めて下さい」
「他人が口を挟まないで下さらない?」
「他人だけど、友達です。友達に酷い事を言われて黙っていられません」
女の人は綺麗な顔を歪ませて笑う。
嫌な笑い方。
人を見下してる笑い方。
「この子の友達?あらあら、じゃあ貴女も可愛い顔して男を騙すようなろくでもない娘なんでしょうね?体型で誘惑は出来なさそうですけど、そういう趣味の男だっているでしょうし・・・」
体型・・・って・・・・
な・・・な・・・なっ!!
なーーーーーー!!!
人が気にしている事を!!



「今日は、西神さん。お久しぶりですね」
言われた事に対して頭がぐるぐる状態の所に、落ち着いた焔くんの声が耳に入ってきた。
「あら、焔さん。今日はご苦労さま」
優雅に微笑む女の人。
む、むぅぅぅ・・・
この人、あっという間に態度が変わったよ!
「有難う御座います。父が珍しく学園の方に来ておりますので、よかったら顔を見せて下さいませんか。父も喜ぶと思います」
「そう?それなら寄らせていただこうかしら。案内して下さる?」
「ええ、喜んで」
爽やかに微笑む焔くん。
当然、こんな顔されたら女の人は上機嫌だ。
むぅぅぅぅ・・・・



「有希、望、2人は早く家に帰りなさい」
2人にそう言うと、焔くんは学園の中央棟へと歩いて行ってしまった。
風眞さんや私をわざと見ないようにして。
「「はい・・・・」」
しょんぼりと項垂れた2人は、手を繋いで初等部へと戻っていった。


「何で、何で、何で!?」
途中から来て状況は分からないにしても、あの女の人が私達に向けてた感情は分かりそうなものなのに。
どうしてあんなに穏やかに接してるの?!
どうして私達を見ないようにしてたの?
「粋ちゃん・・・」


友達だって思ってたのに。
友達だって思ってたのに・・・・・
「焔くんの、ばかーーーー!!!」


聞こえるように叫んだのに、焔くんはこっちを振り向くことなく歩いていった。









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