みずのきおく・12






借り者競争で一緒にゴールした男女はカップルになる


東雲学園にはそんなジンクスがあったりする。
そのジンクスの被害にあっているのが・・・

「すみません、他の人を当たっていただけますか?」

穏やかに微笑みながら次々に訪れる借り者依頼を断る赤色王子。
男女混合競技だというのにも関わらず、競技参加者12名のうち11名が一点集中という異常事態。


「あぁ〜・・・こりゃオモシロい事になったなぁ・・・」
「みんな欲望に忠実ねぇ。坊やがOKするわけないのに何度もチャレンジするなんて、ドMなのかしら」
年長者は他人事のように傍観。
「それより、粋ちゃんよ。一体、どんな人を連れて行かなくちゃいけないのかしら」
「んー・・・あ、こっちに来るぞ」





あーーーーーーーーダルイ!!
いちいち断るのも疲れるし面倒だし。
でも、アノ件があるから邪険に出来ないし。
「本当にすみません、他の人に・・・」
粋さん来ないかなぁ。
今日は手袋してるから(このフザケた格好の唯一の利点だ)安心してギュ〜ってあの小さくて柔らかそうな手を握って・・・


「!!!」


す、粋さん!!
何で北杜さんの所に向かっているの?!


「あの・・・・東雲くん・・・・?」


一体、どんな人を連れていく事になったんだろう・・・?
自分よりも背が高い人?
いや、僕だって粋さんより背が高いし・・・
髪が黒い人?
それだったら西神さんだって黒いし・・・
ま、まさか!!
恋人になって欲しい人?!
え、そ、そんな・・・


「焔さま・・・微動だにしませんわね・・・」


あれ?
北杜さんが首を横に振ってる。
断ったのデスか?!
粋さんのお願いを断りやがったのデスか?!
えーと何か言ってるなぁ・・・口の動きは・・・

『やくにたてなくてごめんな』

『きにしないでいいよ』

粋さん、困った顔してる・・・
僕の所に来てくれれば、どんな条件でも強引にこじつけて一緒に行くのに。
黒い髪が必要なら今から染めてきますよ!!


「東雲・・・何か必死のオーラが出てる気が・・・」


西神さんが粋さんの耳元で何か言ってる・・・ちっ、口の動きで何を言ってるのか分かるって気がついているのか・・・
あ、あ、あ!!
こっち見た!!!

『でも・・・』

『だいじょうぶよ』

何が大丈夫なんだ?
あの人の考えてる事はよく分からないからな・・・
うーん・・・・



「ほぉーむぅーらぁーくぅーん!!」



幻聴なんかじゃない!
粋さんが僕を呼んでいる!!!
ポテポテという効果音が似合う走り方(メロメロに可愛い)で僕の方に来る!!
待ってたよ、待ってましたよ!!
さぁ、手に手をとって2人でゴールしましょう!!
ついでに人生的にゴールしちゃっても僕は全然オッケイですから!


「焔くん!!」
群集が邪魔で粋さんがこっちに来られない。
ぴょこぴょこと跳ねながら手を振ってる姿が凶悪に可愛いんだけど・・・あまり待たせちゃ悪いよね。
「すみません、ちょっと間を空けていただけますか?」
営業用の微笑みを作るとザザッと道が出来る。
こういう時だけは便利な見た目に産んでくれた母さんに感謝。


「焔くん、あのね・・・」
「待たせてしまってすみません、行きましょうか」
手を握ろうとして伸ばした掌に紙が乗せられる。
借り者用紙?
「あ、あのね、焔くん・・・」
借り者確認かな?
別にどんな条件でも判定に文句はつけさせないけど・・・
「ええと・・・?」
チラリと借り者用紙に目を向ける。
そこに書かれていたのは・・・



双子


「ゆうきちゃんとのぞむくん、何処に居るか分かる?」



がーーーーーん!!





「うふふっ、やっぱりショックを受けてるわ★」
「風眞しゃん・・・」
超ドSです。
「粋ちゃんは無事に双子ちゃん達を見つけられたみたいね。両手に双子ちゃんを連れてる姿、微笑ましいわねぇ」
「うんうん、あそこだけピュアピュア空間でこの異常競技の清涼剤になってるな」





「やったぁ!!」
「よかったね、すいちゃん」
「ぼくたちやくにたてた?」
1位のメダルを首に下げた私達。
何だかよく分からないけど、私、1位でゴールできた!!
もぉ、人生で有数の快挙!
「役に立ったなんてもんじゃないよぉ。2人のおかげで1位になれたんだよ。ありがとうね」
ぎゅーーっと2人の身体を抱き締めると、きゃははと笑いながら抱き返してくる。
ううぅ〜〜、青春だぁ!


「よかったわね、粋ちゃん」
「おめでとう、粋」
風眞さんと創司くんがゴールまで来て頭を撫でてくれる。
「ありがとう、風眞さん!ちゃんと走れたのは一緒に練習してくれたお陰だよ〜」
「私は少しお手伝いをしただけ。これは粋ちゃんが一生懸命努力した結果。これからも風と遊んであげてね」
ふわりと柔らかくてくすぐったい風が私の髪を揺らす。
頑張ったねって笑っているように・・・



「「・・・・・」」
私の腕の中にいたゆうきちゃんとのぞむくんが、もぞもぞと動いてジッと風眞さんを見つめる。
あ、そっか。
初対面・・・だったよね?
「紹介するね。このおねえちゃんは私のお友達の風眞さんだよ」
「「ふーまおねえちゃん・・・・?」」
「・・・・・こんにちは。ユウちゃん、ノゾムちゃん」
優しく微笑んだ風眞さんは、2人の頭をそっと撫でた。
はにゃ?
熱烈愛情表現をするかと思ったのに・・・意外だなぁ。


「ふーまおねえちゃん、てをつないでいい?」
「ぼくも」
「いいわよ、はい」
伸ばした両手を2人の小さな手がギュっと握る。
「「おねえちゃん・・・」」
「あらあら、あまえんぼさんねぇ。でも、2人はそろそろ見学席に戻らないとダメでしょう?おねえちゃんは何処にも行かないから大丈夫よ」
「「うん・・・・・」」
2人は手を繋いで何度もこちらを振り向きながら見学席へと戻っていった。


何だろう。
何かが引っかかる。


2人の穢れのない澄んだ翠の目。
風眞さんの真っ直ぐに前を見詰める翠の目。
そして・・・・・・


あ・・・・・れ・・・?
何か引っかかる。
数日前に感じた既視感。


「あの、風眞さん・・・」
「借り者競争も終わったし、席に帰りましょう?粋ちゃん、喉渇いたんじゃない?」
私の言葉を遮るようなタイミングで風眞さんは私の腕をとって歩き始めた。
「・・・・・・・うん」
何も聞かない方がいいのかな。
ふと横を歩く創司くんを見上げると、
「もう少しだけ、待ってて」
そう小さく言って何だか哀しそうに笑って私の頭に手を乗せた。





「いやぁ〜、疲れましたなぁ〜。さてさて、昼、昼、昼ごはんにしまショー」
「全然そんな風に見えないよ・・・」
3kmマラソンを楽々ゴールして、ケロリとした顔で戻ってきてお昼ごはんと言いなさる。
長距離を走ってよく直ぐにごはんを食べる気になるなぁ・・・
「本当に体力バカねぇ」
風眞しゃんはサラリとキツい事を又・・・
「で、でもでもトップなんてスゴいよね!運動部の人達も一緒に走ってるのに」
そうそう。
マラソンとかリレーみたいな速さが関係する競技には、運動部の人達が選手として出ているんだよね。
東雲って運動部にも力を入れてるし大会での成績もいいみたいだから、 創司くんのトップでゴールって本当にスゴい事なんだ。
「感心しなくていいのよ?創ちゃんにとって3km程度は本当に全然大した距離じゃないの。多分、ボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと適当な公式か、今晩の夕飯の献立を考えて両足を動かしていたらゴールしてたに決まってるわ」
「え・・・そんな・・・」
「・・・・・・・・」
創司くん、無言で固まってる。
ハハハ・・・・・・・図星だったんだね。



「やっと・・・来られました・・・・・」
ゲンナリとした顔で焔くんが私達の所にやって来る。
赤い服から中等部選抜クラスの標準運動着に着替えちゃったんだ。
「あらあら、あのステキな服は脱いじゃったの?似合ってたのに、残念ねぇ〜」
ニコニコとしながら風眞さんが尋ねると、焔くんは僅かに口元を引きつらせた。
はにゃ?
「焔くんはあの格好が嫌なの?すごく似合ってたよ?(王子さまみたいで)格好よかったよ?」
「格好よかった・・・ですか?」
「うん。焔くんだから似合ってたんだと思うけどね」
「僕だから・・・・」
ブツブツと何か言ってるけど、機嫌はよくなったみたい。
「焔の格好はいいから昼ごはん〜!!」
お弁当箱をぎゅーっと抱いて創司くんが訴えてる。
「うん、食べよ」


小学部の子達はお昼は小学部に戻るっていうから、ゆうきちゃんとのぞむくんは一緒に食べられないんだって。
残念。
「そうだそうだ、借り者競争の時はありがとう。お陰で1位になれたよ」
お弁当箱の中から焔くんの好きな卵焼きとおかかおにぎりを取り分けて渡すと、嬉しそうにふわふわっと笑った。
むぅぅ〜可愛い・・・
「お役に立ててよかったです。でも、僕は・・・僕を選んでくれたらよかったのにって思いました」
「え?そんなの無理だよ。焔くん、双子じゃないもん」
「いや、その、そういう事じゃなくて・・・」
物凄く困った顔をしてる。
はにゃにゃ??
何が違うんだろ?
「欲に塗れたお子様の言葉は無視していいのよ〜?それより、このシラスと青ジソのタマゴ焼き美味しいわねぇ」
「あ、それはね、白ゴマをちょっと入れてるのがポイントなのデス」
「・・・・・・ある意味残酷だな、この娘さんは」
「???」
唐揚げを食べながらポツリと呟いた創司くんは、何故か同情の目で焔くんを見ていた。









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