みずのきおく・11






「はい??」
昼休み後に体育祭の各競技説明がありまして。
「かりもの競争」の内容も明らかになりました。
借り物競争・・・だと思っていたんだけど・・・・・・
借り者競争だったらしいんだ。


「ごめんな、何か異色競技だったみたいで・・・」
競技を選んでくれた創司くんが申し訳なさそうに謝ってくれる。
でも、内容を知らなかったんだもん。
「う、ううん。頑張ってみるよ」
借りてくるものが「物」じゃなくて「人」だから借りるのを拒否する場合があるらしく。
それがこの競技の難しいところなんだって。
運動神経は関係なさそうだから、そこは安心といえば安心。


「創司くんは競技の練習があるんだよね?」
「ああ、当日怪我をしないようにって。チョコチョコ身体を慣らしておけってさ」
「ふぅん」
創司くんは3kmマラソンに出るらしい。
短距離よりも長距離の方が好きだから、だって。
私には信じられません・・・


「私も少しは早く走れるように練習するんだよ」
「お、やる気だな?」
「赤組に勝つために頑張るのよねぇ?」
運動着に着替えた風眞さんが特待の教室に入って来る。
「さ、練習しましょう」
「風眞?」
そうなのです。
風眞さんに走りのセンセイをしてもらうのですよ!!
「風眞さんがね、一緒に練習してくれるっていうからお願いしたの。じゃあね、創司くん」
「じゃあねぇ、創ちゃん」


準備運動・・・よっし!
まさかこの私が走る練習をする日が来るとは思わなかったよ。
何があるか分からないもんだね。
「じゃ、ちょっとフォームを見たいから走ってみてくれる?」
「う、うん」

体育祭前の1週間は午後の授業がなくて運動施設は生徒に開放されている。
ここはグランドの隅の方、人気が少ない場所を選んだんだけどそれでも10人くらいがそれぞれ練習をしているみたい。
「用意はいい?」
「うん」

合図と同時に自分的全速力で走ってみる。
・・・・・・・んだけど。



「走ってるの、あれ?」
「遅すぎだよね・・・」



走り終わってクッタリした所に周りのヒソヒソ声が耳に入ってくる。
うぅぅ・・・やっぱりフツーの人には走ってる様に見えないんだ・・・
カクッと首を垂れていると、ポンっと頭に手が乗せられた。
「はいはい、大体は分かったわ。そうねぇ、うーん・・・粋ちゃん走っている時、何か考えている?」
「え・・・と、早く走らなきゃ・・・とかかな?」
「じゃあ、泳ぐ時は何か考えている?」
泳ぐ時?!
風眞さんは何を言おうとしているのかなぁ・・・
「多分、何も考えてないよ」
「じゃあ、走る時も何も考えないでみて」
そう言うと、風眞さんはニコッと笑って私の両肩に手を置いた。
「色々考えてしまうと身体が固くなって動きが悪くなるの。早く走れなくったっていいのよ。考えないで、風の声を聞くようにしてみて」
「風の声・・・?」
首を傾げるとフワリと私達の間に優しい風が吹きぬけた。


「風は粋ちゃんとお友達になりたいって思ってる。一緒に走って一緒に楽しみたいって思ってる。だから・・・・・おまじない」
風眞さんは両手で私の耳を塞ぐと何かを呟いた。
「何、何??」
「もう1度走ってみて、大丈夫だから。ね?」
「う・・・・ん」
大丈夫って何がだろう??
何だかよく分からないけど・・・


「いいわよ」
合図の後に再び自分的全速力。
何も考えない、何も考えない、何も考えない・・・・って考えてるジャン!
空しい自分突っ込み。
さっきとあんまり変わってないような・・・

−ガンバッテ

「!?」
甲高い子供みたいな声が耳元でした??
幻聴?

−モウスコシダヨ

やっぱり・・・・幻聴なんかじゃない。
誰かの声が・・・
「はい、おしまい。頑張ったわね、粋ちゃん。さっきよりもずっとよくなったわよ?」
「へ?な・・・何で??」
いつの間にかゴール位置。
途中のアレは何だったの???

「あの・・・」
「おまじない効いたみたいね。さ、この感じで本番に向けて頑張りましょ」
「あ、うん・・・ガンバロー」
ステキ笑顔に誤魔化された気がするんだけど・・・
ま、いっか。
とにかくガンバろっと!





「頑張ってるみたいですね、粋さん」
「あ、焔くんも練習なの?」
白い上下のジャージを着てグランドに現れた焔くん。
いやはや、ジャージだろうが何だろうが着こなすものですな・・・
「最近あまり走っていなかったので、身体を慣らしておこうかと思いまして」
「当日に足がツッて私に負けたら恥ずかしいものねぇ。ま、万全の状態でも私に勝てるとは限らないけど」
「・・・・・・」
うわぁ・・・2人の間に火花が見える気がする・・・
「そうだ、風眞さんは自分の練習はいいの?さっきから私ばっかりお願いしちゃってるけど」
「大丈夫よ。私は私なりの練習をしているから」
「している?」
「ええ」
現在形?
ここに来てから一度も走ってる姿を見ていない気がするんだけど・・・


「かりもの競争の意味、分かりましたか?」
「分かったよ。焔くん知ってるなら教えてくれればよかったのに・・・」
今にして思えば、昼休みに話した時の反応は知ってる感じだったんだよね。
むぅ。
「すみません。じゃあ、えーと・・・借り者の条件に僕が当てはまりそうだったら協力します。それで許してくれませんか?」
「敵の組なのにそんな事していいの??」
「敵って・・・・・。ええ、大丈夫ですよ。かりもの競争は「借りられる者」の意思が優先されますから。因みに条件はかなりのこじ付けでもオッケーですからお気軽にどうぞ」
「じゃあ、その時は遠慮なくお願いしちゃいます。ありがとう、あんまり知ってる人がいないからちょっと心配だったんだ」
これは本当に私にとってはありがたい!
実は10人程度しかいないクラスメイトすらも未だ話をした事ない人がいるくらいだから、どうしようかなぁって思ってたところで。
こじつけでもオッケーっていっても焔くんに当てはまりそうな条件・・・って何かなぁ?

美少年。

うはぁ、これ以外思いつかない。



「別にこの坊やを無理に選ばなくてもいいのよ?私は勿論、創ちゃんも協力してくれるハズだから。大体、当日のこの子を連れて行くのは恥ず・・・」
「西神さん・・・」
「いいじゃない、どうせ当日にはバレるんだから」
はず?
はず?????
「何、何、どうしたの??」
「何でもないですよ、ね?」
「はいはい、何でもないわ。じゃ、粋ちゃん、もう少し練習したら今日は帰りましょう。駅の近くに抹茶パフェの美味しいお店があるんですって。一緒に行ってみましょう」
「うん、行く行く!焔くんも・・・?」
「焔ちゃんはこの後に「やる事」があるから無理よね?」
「・・・・・・はい」
「残念、また今度ね」
「はい、ありがとうございます」





そんなこんなで1週間が経ちまして。
本番当日です。
素晴らしい快晴です。
主催者に晴れオトコか晴れオンナがいらっしゃるのでしょうか・・・


『只今より、第32回東雲学園体育祭を開催します』


開催しちゃうみたいです。
白組のリーダー(高等部の2年の人らしい)が白い学ランを着て前に出てる。
本番はこういうの着るんだ。
衣装まで作るとは凝ってるなぁ。
「ようやく始まるわねぇ」
横に立ってる風眞さんがやれやれといった顔をしている。
「そうだね。1週間練習に付き合ってくれてありがとう、おかげで少しは走ることに抵抗がなくなったみたい」
「そう?それはよかった、本番も気楽に頑張りましょうね?」
「うん!」
あ、リーダーが動いたみたい。
いよいよ始まるんだ。


中高合同といっても元々の人数が少ないから入場はあっという間に終了。
創司くんと焔くんは何処に・・・
「!!!!!」
何デスカ!アレは!!??
「うふふっ、気がついた?あんなの着られるの、あの子くらいよねぇ?」


真紅の学ラン(長ランっていうのかな??)を着てる赤組のリーダー。
た、確かにあのような服を着こなせちゃう人なんて極々限られると思われます。
「焔くん・・・」
王子様属性が倍増してるわぁ・・・
「自分が出場する競技以外ではアレを着ていなくちゃいけないみたい。暫くからかうネタに困らないわね、うふふっっ」
風眞さん・・・ものすっごく楽しそう・・・
「もしかして、ここ暫く放課後残っていたのって・・・」
「アレの採寸とか、アレの練習とかみたいね。うふふふ、それにしても似合いすぎてシャレにならないわね。いっその事アレを制服にしちゃえばいいのに」
「風眞さん・・・それこそシャレになんないよ・・・」
皇さんの耳に入ったら実現しちゃいそうで何だか怖い・・・



「ようやく来れた」
競技が開始して少し落ちついた頃、創司くんが私達の所にやってきた。
「あらあら、赤組さんがこっちに来ても大丈夫なのかしら?」
「だーいじょうぶだって。競技に差し支えないし、誰も気にしてないみたいだし、まぁ・・・焔は流石に無理だけど・・・」
「王子様は敵国には侵入出来ない、って事ね」
「ははは・・・・・」
そうだよねぇ。
あの姿で白組に居たら目立つもん。
何処に居ても目立つといえば目立つけど・・・


「そうそう、小学部のちびっこ達も見学に来てるんだ。さっき焔が双子に絡まれてた」
「そうなんだ、お昼の時に会えるかな?一緒にご飯食べられたらいいよね」
「・・・・・・あ、粋ちゃん。そろそろ出番みたいよ。かりもの競争、どんな人を連れていかなきゃいけないのか分からないけど頑張って」
「ガンバレ」
わぁわぁ!!
のほほんとしてたら意外に早く出番デスカ!
「が、がんばってきマス!!」
よーっし、がんばって借りてきますヨ!






「双子と会う?」
「そうねぇ・・・会ったら気がつくでしょうけど・・・偶然だったら仕方ないわよねぇ」
「ん・・・まぁ、なるようになるか」
「ならなきゃ困るわ。あ、粋ちゃんがこっち見てる。頑張ってねぇ〜〜」
ポカポカ春の陽だまりのような笑顔で手を振る風眞。
一瞬前まで無表情に淡々と話していた人と同一人物はとてもとても思えない。
「風眞さん・・・キャラが変わり過ぎですよ・・・」






いよいよいよいよ私的本番。
風眞さんとの練習のおかげで末期的ビリじゃなくてフツーにビリで「借り者用紙」に到達。
ええと、私の借り者は・・・・
「こ・・・れは・・・・」









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