みずのきおく・10






「おはよう、すいちゃん。今日はよろしくね」
「おはようございます、来て下さってありがとうございます」
月曜の朝、創司くんと風眞さんが学校に行った後に空さんは家に来てくれた。


「具合はどう?」
「もう大丈夫みたいです。今日は様子見のために休んだ方がいいって創司くんに言われたんです」
「それならよかった。さて、じゃあ・・・どうしようか。私が留守番しているから、すいちゃんは寝ていてもいいよ?」
・・・・って言ってくれたんだけど。
「実は・・・寝すぎたみたいで眠くないんです」
今日も本当は学校に行っても大丈夫じゃないかなぁと思ってたくらいだし。
「んー・・・じゃあ、今日は私と遊ぼう」
「・・・・・・はい??」





空さんは若い頃に(って今も充分若く見えるけど!!)モデルをやっていた(超納得)らしい。
その時、髪のセットとメイクは自分でやっていたらしくて・・・


「ん〜、やっぱり若いと肌理が違うねぇ。ファンデーションの伸びがすっごくいい」
「うぅ・・・あの・・・」
目を閉じて動かないでいてね、と言われて10分くらい経ったと思うのですが。
むー・・・何が起きているのか気になる・・・
「もう少しだけ動かないでね。ええと・・・はい、終わり」
ポンッと肩を叩かれて目を開けると、空さんがニコニコと笑いながら鏡を手渡してくれた。


「・・・・・わぁ」
「いい仕事したでしょう?」
わぁわぁわぁ!!!
「ハリウッド仕込みの特殊メイクですか?」
「フツーの化粧品でフツーにメイクしただけだよ?すいちゃん・・・若いのに面白い例えを出すね・・・
なぜなぜどうして?
鏡に写っているのは私だよねぇ?
自分で言うのもアレだけど・・・何かすごく可愛くなってる!!
「すごい・・・」
「メイクはその人の魅力を引き出す助けをしてるだけ。可愛いのはすいちゃん自身が持っている魅力だよ」
そう言われましてもね、コレは本当に詐欺的劇的変化じゃないですか!
私こんなに睫毛長くなかったよね?
唇もプルップルになってるし。
不思議、不思議魔法!!


「女の子は誰だって可愛いんだ。それが分かりやすくなるのが、何か特別な輝きが加わった時。それはメイクだったり・・・恋、だったりね」
恋っていう言葉にドキッとしてしまう。
恋が終わってしまった私。
私の中の輝きは、消えてしまったの・・・かな。
「ねぇ、すいちゃん。恋は1つじゃないんだよ」
「!」
私の髪を梳きながら言葉を続ける空さん。
空さんは・・・気付いて・・・
「恋を失うのは辛いから、次の恋が怖くなってしまうよね。だけどね、すいちゃんが誰かを思うように、すいちゃんも誰かに思われていて、いつかその思いが繋がる時が来るから。だから、恋をする気持ちを失うことはしないで」
「空さん・・・」
「はいはい、眉は寄せない、眉間のタテ皺がクセになっちゃうから。・・・・・恋は幸せだけど苦しくて思い通りにいかなくて・・・・・難しい、ね」
最後の方の声は少し暗くて・・・何か哀しい思い出があるみたいだった。
こんなに綺麗な空さんにも上手くいかない恋ってあったのかな・・・


「あの・・・私・・・」
「思う事、悩む事は大切な経験。メイクでは出せない内側の魅力を成長させていくの。すいちゃん、最初にあった時から一月しか経っていないのにすごく綺麗になった。本当だよ?」
「・・・・・ありがとうございます・・・」
空さんの言葉は私の中のチクチクした痛みの元を柔らかく包み込んでくれて・・・
あれ?
何だかこんな感じ・・・
つい最近、同じように・・・
「髪も終了!次は服。ちょっと成長したすいちゃんにプレゼント」
「え?そ、そんな悪いです!!」
「悪くないよ、私、可愛い女の子に可愛い格好をさせるの大好きだから★」
い、いや・・・
何かズレてマスよ・・・
「だ、だってそれ・・・」
柔らかそうな素材といい、細かいレースといい・・・
いかにも一点物のブランド品って感じじゃないデスか!!
すごく可愛いんだけど値段は可愛くなさそうだよぅ。
「あ、これ、ウチのブランドの試作品なの。プレゼント〜とか恩着せがましい言い方してゴメン。家にあってもユウキが着られるようになるには10年近く先になるし、私には若すぎるし、着てくれると嬉しいな〜?」
わ、わわわわわわ。
空さんも「お願いの目」をするんだ!!
逆らえない・・・絶対に・・・
「あ、ありがとうございマス・・・」





「こんにちは、粋さん、具合はどうですか?」
午後4時。
チャイムの音とインターホンから焔くんの声。
「ホムラ・・・お母様が居る事を忘れていないよね・・・?」
「あ、あははは・・・」
やれやれとした顔で空さんが玄関に向かう。
私は此処に居てね、って言われたんだけど・・・


「いらっしゃい」
「失礼します、粋さん。お見舞いにケーキを買って・・・」
「ありがとう!今、お茶淹れるから座って待っててね」
はて?
何で固まっているのかな??
「焔くん・・・?」
「・・・・・・・あ、あぁ、あの・・・」
顔が赤い??
「大丈夫?」
焔くんがやってたみたいにおでこを合わせてみる。
うーん、熱はないなぁ?
「わ、わわわわわわわ!!」
ざざざざざっと音がするくらいの後ずさり。
ど、どうしたの?!


「本当に、どうしたの焔くん?」
「か・・・・・」
「か?」
「お母様の仕事の素晴らしさに感動しちゃったんだよねぇ?」
うりうりっとほっぺたを引っ張られてる真っ赤な顔の焔くん、かわい〜♪
「あ、あの・・・・・す、すみません。今日は失礼します!!」
「え?な、あれ?焔くん!?」
ダッシュで出ていっちゃった。
ケーキ一緒に食べたかったのに・・・
「オトナぶっててもまーだまだオコサマなんだから。それじゃあ、私も帰ろうかな。今日はすっごく楽しかった、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます。とても楽しかったです」
「又、遊んでね」
「はいっ!あ、あの、今度は友達と一緒でもいいですか?」
「友達?」
「今、家で一緒に住んでいる女の子で、すっごく美人さんで・・・あ、あれ?多分・・・目の色とか・・・少し空さんに似てる・・・かも・・・って、空さん?」
顔が強張ってる・・・。
え??
何か変な事、言っちゃった・・・?
「・・・・・あ、うん。機会があったら、ね」
無理して笑ってる。
どうしたの?
「空さん・・・」
「何でもないよ、じゃあね、すいちゃん」
空さん・・・





「きゃー☆☆☆」
空さんと入れ替わりくらいに帰ってきた風眞さんと創司くん。
おかえりーって出て行った途端に熱烈抱擁デス。
あわわわわ。
「粋ちゃん、カワユ過ぎ!!犯罪的にカワユい!!」
「ふ、ふーましゃん・・・くる・・・」
苦しい・・・
「あ、ゴメンなさい!つい取り乱してしまったわ」
ようやく解放です。
風眞さん・・・興奮するとオソロしい力を出すですね・・・


「いつも可愛いけど、今日は本当にすっごく可愛いわ!このまま永久保存しておきたいくらい!」
「あ、ありがとう。焔くんのお母さんが全部やってくれたんだよ」
「・・・・・」
「・・・・・」
「すごいよねぇ、平凡な顔の私もここまで変えられるんだから、風眞さんなんてやってもらったらスッゴイ事が起きちゃいそう、ね、創司くん?」
「あ、あ・・・うん。でも、風眞はそのままが一番綺麗だと思う・・・な」
「あらやだ、褒めても何も出ないわよ」
目の前でノロけられました。
やれやれです。
・・・・・あれ?
私、結構立ち直っちゃってる??
は・・・・早っ!!
熱まで出したのに、早過ぎですよっ!!
「あ、あのね。焔くんがケーキを買ってきてくれたの。皆で食べよう」
「焔は?」
「それがね、すっごく様子がおかしくって・・・ケーキを置いて直ぐに帰っちゃったの。顔も赤かったし、どうしたのかなぁ?」
「・・・・・思い当たる事はないの?」
「全然。本当、どうしたのかな。明日のお昼に聞いてみよっと」
「・・・・・何か、俺、涙が出そうになった」
「ええ」
2人とも何かを哀れむような目をしてるけど・・・ま、いっか。





「今日のHRで体育祭の出場種目を決めたんだ」
体育祭。
あー・・・・忘れようとしてたねぇ・・・
折角の美味しいケーキ様の味が失われていく気がするよ。
「えーと、私は・・・」
「運動神経があんまり関係なさそうな競技を選んでおいた。『かりもの競争』ってヤツ」
借り物競争?
確かに・・・あんまり運動神経は関係ないかも。
「ありがとう、頑張らないとね!」
「かりもの競争っていえば・・・何だかよく分からないけど、選抜クラスでは妙に人気あったわね。何なのかしら?」
「さぁ・・・・・楽・・・なのかな?」
究極の運痴でもやりやすい競技だったらいいな。
切実。


「組み分けもあったんだけど、粋と風眞は白組なのに・・・俺は赤組なんですって!一緒がよかったのに・・・」
「そんなの知らないわよ。体育祭は中高、特待選抜関係なく組み分けされてるの。私達は一緒に頑張りましょうねー」
「うん、がんばろー」
すごーくすごーく憂鬱な体育祭だけど、一緒に頑張ろうって言ってくれる友達がいるから。
少しだけ楽しみ、かな。





「粋さんは白組なんですか・・・残念です、僕は赤組なんですよ」
昼休み。
今日の焔くんはいつもと変わらないみたい。
昨日のアレは何だったのかなぁ・・・
「私は借り物競争に出るんだけど、焔くんは何に出るの?」
「僕はリレーです。粋さん・・・かりもの競争に出るんですか?!」
な、何でこんなに驚くの?
「おかしい?」
「いえ・・・・・おかしいという訳ではなくて・・・あ、うん、何でもないです。お互い頑張りましょうね」
「そうだね」
なーんか引っかかるなぁ。


「ほむらちゃんはリレーなのね。じゃあ、私と戦うって事ね、うふふ」
「昨日、話を聞いた時も思ったんだけど、風眞さん大丈夫なの??」
心臓に病気を持ってるのに。
走っても大丈夫なのかな・・・
「心配してくれるのね、ありがとう。主治医が何とかしてくれるから大丈夫よ、ね?」
「ああ、大丈夫。ここの所、心電図に異常が見られないし、当日もちゃんと様子見てるし。それになぁ、風眞の走る姿は必見!」
「そう・・・なんだ・・・。でもよかった、大丈夫って聞けて安心」
でも、走る姿が必見ってどういう事なのかな?
何だかよくわからないけど。
色々ありそうな体育祭。
うーん・・・どうなる事やら・・・









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