みずのきおく・9






16年と4ヶ月の初恋は、
1ヶ月余りで消えました。
いわゆる『失恋』ってヤツです。



創司くんは風眞さんが好き。



うん、まぁ、分かってたんだと思う。
っていうか、あれだけ熱烈愛情表現をしてて分からない方がおかしいよねぇ?
ははは・・・おかしい、よね。



「・・・い、粋?」
「へ、あ、はい!!」
あれから時間は流れ、ここは自宅のリビング。
夕食後、午後の授業の内容を創司くんから教えてもらっている最中でございます。
・・・が、大層ぼんやりとしておりました。
「未だ体調がよくないんじゃないか?夕飯もほとんど食べてなかったし。今日はもう休んだ方がいいって」
一因は目の前のこの人なんですがね。
「・・・・・そうする。ごめんね、時間作ってくれたのに」
「気にすんなって。それより、早く元気になれよ」
「・・・・・・うん」
私の頭をぽんぽんっと軽く撫でて、創司くんは勉強道具を片付ける。
元気になれってね・・・
そりゃまぁ私も早く立ち直りたいですよ。
でもね、あれから未だ数時間後ですからね。
センチメンタルなヲトメ心が痛むんです。
痛くて痛くて・・・苦しいんです。





「・・・・・ふーまさん・・・?」
お風呂に入ってからぼんやりと。
ぼんやりぼんやりしていたのが原因なのでしょうか。
色々考えてしまったのが原因なのでしょうか。
次の日、土曜日の朝、数年ぶりに発熱をしてしまいました。
むぅぅぅぅ・・・平熱が極端に低いからしんどい・・・
「あ、そのままでいて。何か少し食べられそう?昨日からほとんど食べてないでしょう」
「むり・・・みたい・・・」
心配してくれる風眞さんには申し訳ないけど、全然お腹が空かない。
「じゃあ、白湯は飲める?熱があるんだから水分は摂った方がいいわ」
「ありがと・・・」
嬉しい。
すっごく喉が渇いて仕方なかったんだ。
「はい」
湯のみに入った白湯をゆっくりと飲むと、じんわりと喉の奥の方が潤っていくのが分かる。
はぁ・・・


一息ついてから横になると、風眞さんはお布団をかけ直して額に冷たいタオルを乗せてくれた。
「ふーまさん・・・」
「何?」
「ごめんね」
熱のせいかな。
目が潤んで熱い。
「どうして謝るの?」


早く気付かなくてごめんね。
私じゃダメなのに。
好きになってごめんね。


「ごめんね・・・」
じんわりと涙が浮かんでくる。
ああ・・・泣いても意味分からなくて心配させちゃうだけなのに。
涙が・・・溢れて・・・止まらない・・・
「粋ちゃん・・・」
ひんやりとした手がぎゅっと閉じた目の上にそっと被さる。
「なみだついちゃう・・・」
「気にしないから大丈夫。気が済むまで泣いちゃいなさい」
「うぇ・・・・」
ぷつりと自分の中で張り詰めていた糸が切れてしまったように、私は声を上げて泣いた。
多分、記憶する限り一番派手に泣いたと思う。
息が苦しくなる程泣いて疲れた頃、ようやく心が軽くなったような気がした。


「ありがと・・・」
「だから、気にしないでってば。泣いたら少しはお腹空いたでしょう?お粥作っておいたの、温めてくるわね」
濡れたタオルで顔を拭いて新しい冷たいタオルを額に乗せてくれると、風眞さんは静かに部屋の外へと出て行った。





「粋さんは?大丈夫なんですか?!」
普段は礼儀作法の指南書並の所作をする美少年が、チャイムも鳴らさず人様の家へと駆け込んでくる。
「不法侵入よ」
タマゴ入りのお粥に刻んだ万能ネギを散らした後、不法侵入者をチラリと見る事もなく風眞は器用にリンゴを剥き始めた。
「精神的疲労が主な原因。2、3日安静にしてれば元気になるよ。一応医者の言葉なので信用して下さい」
「一応、ですか・・・」
「元気にね・・・」
ポツリと言葉を漏らし、トレーにお粥とリンゴを乗せてキッチンを出て行こうとする風眞の目の前に立つ美少年。
「何?」
「・・・・・・・」





不思議な事に。
泣いたら思った以上に心が楽になったみたい。
風眞さんには迷惑かけちゃったなぁ・・・
風眞さんは悪くないのに。
心配かけて、迷惑かけて、恥ずかしい。


トントン


ドアをノックする音。
風眞さん?
「あ、起きてるよ」
「失礼します」
ん?
この声は。
「ほむらくん!?」


ドアの影からそっと中を覗き込んでいるのは、やっぱり焔くん。
「食事をお持ちしました。身体を起こせますか?」
「な、な・・・???」
何でここに居るんですかい?!
机の上にトレーを置いて、ベッドの横に立ってじーっとこっちを見ているのですが。
えーと・・・?
「未だ熱が下がりきっていないのにお見舞いなんて非常識でしたね、すみません」
「ううん、わざわざありがとう。お茶も出してあげられなくてごめんね」
「そんな事は気にしないでください。それより、さ、食事にしましょう」
「うん・・・あ、椅子使って。机の所ので悪いんだけど・・・」
「はい、ありがとうございます」


モソモソとお布団から出て身体を起こすと、ハンガーに掛けてあった上着をサッと肩にかけてくれる。
紳士・・・本当に紳士ですヨ。
「ありがとう」
「いいえ。それじゃあ、はい」
「はい?」
にっこりと微笑んで蓮華に乗せたお粥を口元に差し出してくれるわけですが。
「あ、この場合は『あーん』って言った方がいいですか?」
「い、いやいやいや。そうじゃなくて」
これは・・・えーと・・・
「え?違うんですか??」
「違うっていうか、自分で食べられるから・・・」
何とも恥ずかしいじゃありませんか。
「でも・・・僕、粋さんのために何かしてあげたいんです」
わぁぁぁぁ・・・・反則だぁ。
そのちょっと困ったようなお願いの目は。
これを断れる人は・・・・・・この世界に居ないでしょ。
「お、お願いしまス・・・」
「はいっ!それでは、あーんしてください」
焔くん、可愛い笑顔で結構ムリを通しちゃうんだね・・・


「ごちそうさま」
薄味なんだけど出汁の味が利いてて卵のふんわりした食感が優しくて。
風眞さんの味。
美味しかったなぁ。


「はい、ほうじ茶です。未だ熱いので気をつけてくださいね」
「何から何まで・・・」
親切丁寧。
そしてこの常識離れした(失礼な言い方だけど)綺麗な見た目。
サービス業についたら相当・・・
「粋・・・さん・・・?」
「は、はいはい。何も変な事は考えてませんですよ」
何を言っておるのでしょうか。
アホですか、私は。
「熱が上がってきてしまったんでしょうか・・・顔が赤いですよ」
「そ、そうかなぁ・・・??」
「失礼、目を閉じてもらえますか」
「ん?うん」
おでこに手を乗せるのかな。
前髪を上げて・・・・はれれ?
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「僕、手が暖かいんで熱があっても分からないと思って」
「そう・・・なんだ・・・」
うわー、ちっちゃい時以来だよ。
おでことおでこを合わせるなんて。


「未だ熱いですね」
「ん・・・・」
おでこくっつけながら話すですか。
結構ぎりぎりな事するですね。
「・・・・早くよくなりますように」
「・・・・・・・・・・・???」


今、おでこに柔らかいものが。


パチッっと目を開けると超至近距離でキラキラの天使の微笑み。
「又来ます。お大事に」
えーと。
おでこにチュウした?
特に意味はない・・・んだよね。
フツーに部屋出て行ったし。
えーと、えーと。
焔くんの家ではフツーの事なのかな。
深く考えない方がいいよね。
気にしないようにしよっと。







「・・・・・やっぱり見てたんですね、アナタ達」
「いや、暴走するかと思ったら案の定」
「あんなの暴走のうちには入らないわ。大体、私が居るって分かっててムチャな事する程は根性ないわよ、この坊やには」
「そういう事にしておきましょうか」
「あんまりフザけた事したら、私もちょっとだけ本気出しちゃうから。覚悟しておきなさい、ね?」
「ご忠告ありがとうございます」
「そっくりだな、この2人・・・」







「どうしたんだ?」
「ん?別に・・・」
2人の関係を知ってから、何となく一緒に居づらい。

私と一緒に居ていいのかな?
私と一緒に居たら2人になれる時間が減っちゃうのに。

パートナーだから?
保護者だから?

「話して楽になる事?」
「・・・・・・あの、あのね!!」

聞いた方がいい?
聞いてもいい?

私、迷惑をかけてる?






日曜日。
熱は下がったんだけど身体は未だダルい。
そういう訳で今日もベッドの上で大人しくしてるとお昼頃に焔くんが。
ピンクのカーネーションとストロベリーキャンドルの小さなブーケと、ゆうきちゃんとのぞむくんが作ってくれた折鶴を2つ、お見舞いにって持ってきてくれた。


「2人も来たいって言ってたんですが、今回は我慢してもらいました」
「そうなんだ。2人に「ありがとう、元気になったら遊んでね」って伝えてくれるかな?」
赤と青の折鶴。
一生懸命折った感じがあって微笑ましい。
元気になったらお菓子作って持っていこっと。
「分かりました。あ、そうでした。明日の昼間、粋さんが構わないのであれば母が留守番兼看病に来たいと言っていたのですが」
「え、悪いよそんな、私、大丈夫だよ」
「そうですか・・・・でも、僕も病床にふせってる粋さんを家に1人にしておくのは心配です」
うっ・・・又、お願いの目だ。
「それでは、お、お願いしマス・・・」
「はいっ!」
乗せられた気がする・・・



「それじゃあ、又明日。学校帰りに寄らせてもらいます」
「ムリはしないでね」
「ムリなんてしてません、僕は来たいから来てるんです。だから心配しないで、早くよくなって・・・」
・・・・で、おでこにチュウ。
むむむむむ、焔くんの家では体調回復のおまじないなのでしょうか。
「うん、ありがと」


焔くんが部屋を出ていった後、額に手を当てる。
柔らかい感触が何となく残ってる気が・・・


何だろう・・・何でかな。
雰囲気に流されてるだけ?
あんなに紳士的で優しいんだもん。
きっと皆にも同じようにしてるはず。
「勘違いしちゃうよ・・・」
皆も私も・・・・私も?!


いや、いやいやいや。
勘違いとかそういう問題じゃないない。
焔くんは弟みたいなものだし・・・って、失恋したばかりなのに何を考えているんだか。
うん、ないない。
よし、寝よう!







「ただいま。母さん、明日は粋さんの事をよろしくお願いします」
「大丈夫、焔が来るまでしっかり看病してるから」
「はい、お願いします。・・・・あ、同居している北杜さんと西神さんとは顔を合わせないように調整しておきましたから。ご心配なく」
「・・・・・・そう」
「・・・・母さん、これでも僕は母さんの味方ですから。いつだって助けになりますからね」
「ありがとう」
母親の瞳の端に光るものに気付かないふりをして、焔は自室へと入っていった。









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