みずのきおく・8






「お昼だ!!」
お昼前の授業の終了の合図を聞くと、輝くような笑顔で立ち上がって私の腕をぎゅっとつかむ創司くん。
空いた片手にはしっかりとお弁当の入った袋が。
週が明けてあっという間の1週間。
毎日この調子です。
これからもきっとこの調子です。


「す〜いちゃん♪」
にっこり微笑んで教室の外で手を振る風眞さん。
今日は「椿」(選抜のクラス名ね)の方が早く終わったんだ。
「風眞〜〜!!」
「みぎゃぁっーー!!!」
ぐいんと教室外へ素早く移動する創司くんに連れられていく私の身体。
身長差30cm近くあるので漫画的に飛んでるように見えますよ!


「お待たせ致しました。4時間ぶりの再会に乾杯」
「・・・・・アホ。さ、行きましょう粋ちゃん」
私の腕から創司くんの手をペシリと払って、優しく私の手を握って歩き始める風眞さん。
そして、私達の後をショボショボついてくる創司くん。

風眞さんは創司くんに対してはクールアンドドライ。
創司くんは風眞さんに対してはものすごく熱い。
やっぱりよく分からないなぁ、2人の関係。
うーん・・・





「粋さん!」
きらっきらの天使の笑顔を提供してくれる焔くん。
「焔ちゃんもファンクラブの皆さんもお元気そうで何よりねぇ」
ウフフ、と笑って楽しそうに風眞さんが話しかけると、明らかに不快そうな表情に変わって凍りついた。
はは、ははははは・・・・


焔くんの人気は想像以上のもので。
編入初日から「ファンクラブ」なるものが出来ちゃって、中等部だけじゃなく学園全体に会員(男女問わず!)を増やしている。
凄まじいアイドルっぷりデス。


「焔は愛されてるなぁ」
創司くん・・・悪気はないと思うの。
思うんだけど・・・
「男女問わずに人気なんて、そこらのアイドル以上だよな。パンダ初来日くらいスゴイ事じゃないか?」
創司くん・・・もう、何ていうか・・・
火に油注いで、ついでに可燃物を放り込んでる勢いですよ・・・
「パンダですか・・・」
「ご、ごはん食べよう!中等部は私達よりも10分早く昼休みが終わっちゃうんだもん。今日は焔くんのために甘いたまご焼きを作ってきたんだよ、ささっ、食べよう食べよう!!」
ぱぁぁっと輝く笑顔。
『甘いたまご焼き』で機嫌が直るなんて可愛い♪

「今のは『焔くんのために』って言葉のお陰よねぇ」
「それに気がつかないとは、罪作りな娘さんだなぁ・・・」
「・・・・五月蝿いですよ、年長者」
「ねぇ、食べよう?」
「はいっ!!」
「「お子様・・・」」





「6月に入ったら直ぐに体育祭だってね・・・」
中高合同の体育祭。
イベントは全員参加の義務があるらしく・・・
はっきり言って運動音痴の私には憂鬱以外の何でもない。
「皆さんと一緒にイベントが出来るから僕は楽しみです」
「『皆さん』じゃないくせに」
「変な所で見栄はるのよねぇ」
「・・・何ですか?」
「「べっつにー」」
「・・・本っ当にいやな年長者達ですね」


たまご焼きをモグモグ食べながら一連の会話を観察。
んんんーーーー
「3人って仲良しさんだねぇ」
「「「え?」」」
うわぁ〜、声が揃った〜
お、面白い・・・
「だから、仲良しさんだよねぇ?」
「そ、そう見えるの?」
知り合って一週間とは思えないほど打ち解けているというか・・・何だろう??
何だろう・・・えーと・・・
「上手く言葉に出来ないんだけど・・・特別な繋がりがあるっていうか・・・」
うぅ〜、上手く言えないどころか変な事を口走り始めたよぉ〜。
私は一体、何を言いたいんだろ??


「それは多分、粋ちゃんのお陰ね」
「私?」
「粋っていう繋がりがなかったら、俺達は繋がらないから」
「?????」
その謎かけみたいな言葉は何?
「まぁ、いいじゃないですか。粋さん、たまご焼きとても美味しいです。もう1つ頂いてもいいですか?」
「あ、うん。どーぞどーぞ」
はぐらかされた?
謎は謎のまま。


風眞さんと創司くんと焔くん。
この3人の関係も不思議。
本当に一週間前に知り合ったばかりなのかなぁ。

不思議といえば、私もこの3人の中に居る事に違和感を感じないんだよね。
偶然?
必然?



『あなたを1人にはさせないから』



「粋さん!!」
「粋ちゃん!!」
「粋!!」
3人が同時に私の名前を呼ぶ。
ダメ・・・倒れちゃ・・・
心配かけちゃ・・・ダメ・・・
ぶんぶんと首を振って意識をはっきりさせる。
頑張れ、私。
「だいじょぶ・・・」
少し頭がクラクラするけど、きっと多分、首の振りすぎのせい。
大丈夫、大丈夫。


「保健室に行った方がいいですよ。少し休んだら一緒に行きましょう?」
どこまでも紳士なのね、焔くん。
「みんなごめんね、折角のお昼の時間なのに・・・ええと、心配かけるのも何だし素直に保健室に行って参ります。1人で大丈夫だから、お弁当ちゃんと食べてね」
「私が一緒に行くわ。男共はそれぞれのやるべき事をやるように、以上」
ほけっとしている私の肩を抱いて、風眞さんは歩き始める。
か、かっちょいー!







「やるべき事をやるように・・・ですか」
「それは、ちゃんと弁当を食えって事かね」
「・・・・・」
「殺意を含んだ目付きは止めろって。今の俺達に出来る事はほとんどねぇんだから」
「・・・・・」
「だからこそ、俺は俺のやれる事はするって。お前さんは・・・暴走するなよ」






「ありがとうね」
「気にしないで、粋ちゃんはゆっくり休んでちょうだい」
「うん・・・・・」
保健室の先生は私達と入れ替わりに会議に出て行ってしまった。
午後の授業が始まる時間になったけど、 風眞さんは「私は特に許可を取らなくても保健室に居られるのよ」と言って一緒に居てくれてる。
申し訳ないけど・・・何だか優しい気持ちが嬉しい。


「ねぇ、風眞さん」
「なぁに?」
「風眞さんって、おねえちゃんみたい。変だね、私の方が年上なのに」
驚いたように少し目を見張った後、ふわっと微笑む。
あぁ、この表情、好きだなぁ。
春の風みたいに優しくて、すごく綺麗。
同性の私だって綺麗だって思うんだもん。
きっと、
「創司くんは、風眞さんが好きなんだよね・・・・・いいなぁ・・・」
「えっ・・・」
ぽつりと呟くと私はゆるゆると夢の世界に落ちていった。





それは恋人同士の口付けだった。


身寄りのない私にとって親身になってくれる大事な人と、
綺麗で優しくて、そして仕事面ですごく尊敬してる人。


大切な2人。
だから、
痛かった。


痛くて、どうしようもなく哀しくて、
「私」は2人に気づかれる前にその場を後にした。





夢・・・・
何か・・・いつもとちょっと違ったな・・・

暫く目を閉じたままでいると、保健室に誰かが入ってきた。
「粋は?」
創司くんだ。
午後の授業はどうしたのかな。
私、どれくらい寝ちゃってたのかな・・・
「眠ってるわ。『夢』を見ているのかもしれないわね」
「ん・・・そうか・・・」
仕切りの向こうで2人が話している。
心配かけちゃったし、早く起きなきゃ・・・


「ねぇ、創ちゃんは私の事が好きなの?」


突然の言葉。
ドキリと心臓が大きく音を立てる。
盗み聞きなんてダメだって分かってるけど、動けない。


「好きだよ。愛してる、すごく大事、自分自身より、ずっと・・・」


ああ、そう・・・だよね。
もう、私の中でも分かってたんだと思う。
分かってたけど。


「・・・・・そうなの」
ふうっと風眞さんが小さくため息をつく。
「そうなの」
薄く目を開くと仕切りの向こうの2つの影が重なる様子が見えた。


分かってたけど。
痛い。
胸が締め付けられるように、痛い。
分かってたけど。
気持ちの行き先が分からなくて。
強く目を閉じて、気持ちが収まるのを待ち続けた。









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