みずのきおく・7






「急なお願いになってしまってごめんなさい」
お夕飯の片付けを手伝ってくれながら風眞さんが話しかけてきた。
「ううん、私は全然構わないよ。明日になったら部屋の準備をちゃんとするから、今日は私の部屋で一緒に寝てね」
「ありがとう」



あの後、少しだけ事情を聞いた。
風眞さんは1人暮らしをする予定になっていたんだけど、帰国の直前になって大叔母さんに反対されて住む予定だった部屋を勝手にキャンセルされてしまったらしい。
東雲への編入手続きとか全部済んでいて、こっちに戻ってくるのを分かっていたのに。
「私ね、皐月さん…大叔母さんにすっごく嫌われてるの」
お皿を拭きながら風眞さんがポツリと漏らす。
「え…?」
「家に帰ってこいって言われるよりも野宿した方が100倍マシだわ。……とか言って、粋ちゃんの家にお世話になる事になっちゃったけど…本当にごめんなさい。秋まで居候させてなんて図々しいお願いで」
「気にしないでってば。あ、後の片付けは私だけで大丈夫だから先にお風呂に入ってきて。疲れた時はお風呂が一番だもんね。脱衣所の棚の上の籠の中に入浴剤が何種類か入っているから好きなの入れていいよ。緑茶の香りのヤツが最近の私のお気に入り」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら。創ちゃん、一緒に入る?」
「え?!」
驚く私の横で創司くんが頭を抱えてる。
「冗談デスよね?」
「当たり前じゃない」
サラリと流して案内したお風呂の方へ向かう風眞さん。
聞いてる方が赤面してしまいました…



「本当に有難うな」
「風眞さんも創司くんも、そんなに気にしないでいいのに。人が多い方が楽しいし、こんな事言ったら変だけど・・・2人とも他人って感じがしないから一緒に居られたら嬉しいよ」
それは本当のことで。
今日初めて・・・なのに、創司くんと風眞さんと一緒に居るのが自然な感じがする。
偶然?
必然・・・・?
すごく、不思議。


「風眞、粋の事をすっごく気に入ったみたいだ。信じられないかもしれないけど、あんな感情のままに行動をするなんて本当に珍しいんだよ」
「そう・・・なんだ」
物凄い勢いで熱烈愛情表現を受けた後なので、しっくりきません、はい。
「風眞は・・・色々あってさ、人と関わる事が上手くできないんだ」
「・・・・・?」
よく分からないけど、家族の問題とかかなぁ。
風眞さん、大叔母さんの家に・・・って言ってたけどご両親はどうしたんだろう。
あえてその話題には触れないようにしてる感じもするんだよね。
「ま、これからよろしくな。クラスは違うけど、同じ学年だからイベントは一緒に出来るし」
「風眞さん、高1なの?」
「そうだよ。この前誕生日だったから16になったばかり。因みに俺と同じ誕生日なのですよ」
え?!
何か、今、重要な事を聞いた気が・・・
「創司くん、誕生日いつ?」
「5月1日」
本当にこの前ジャーン!!
「え、え、それじゃあ、遅くなっちゃったけど風眞さんと創司くんのお誕生日祝わないと!!明日・・・でいいかな?お料理頑張って沢山作るし、ね?」
「あ、うん・・・・・ありがと。風眞も喜ぶと思うよ」
よっし!
お料理もだけどプレゼントも買わなきゃ。
何にしようかなぁ・・・





「それじゃあ、寝ようか。風眞さんはベッド使ってね、お客様なんだから遠慮しないで」
「ありがとう、お言葉に甘えちゃうわね」
「そ、そうだ・・・あのね、私・・・子供っぽいんだけど暗い部屋で眠れないの。だからその・・・今日は晴れてるからカーテンを開いて寝てもいいかなぁ・・・」
私は真っ暗な部屋で寝ることができない。
晴れている日はカーテンを開いて月明かりが部屋に入るようにしているし、天気が悪い時は電気を消さないでおく。
夜に光がない事がすごく怖い。
自分では何とかしなきゃダメだなって思うんだけど、お父さんもお母さんも「我慢しなくていいよ」って言ってくれるから甘えてしまってズルズルと・・・
もう16なのに恥ずかしいなぁ。
「大丈夫よ。私、どんな時どんな場所でも寝られるの。今まで病院で過ごす時が多かったから身体が慣れちゃったのね、ふふふっ」
そうだった。
風眞さんは『患者さん』なんだ。
でも、何処が悪いんだろう。
見た目は全然・・・・・?


「あ、気がついた?私の左目って義眼なの。パッと見ても分からないくらいよく出来てるでしょう」
「風眞さん、目が悪くて入院してたの?」
言い終わってからハッとした。
病気の話なんてしたくないはず。
私ってば無神経だ・・・
「えぇと、私の左目は生まれた時から使い物にならなかったの。逆に生まれた時からダメだったから不便はないんだけれど。入院していたのは心臓のせい。この子って時々暴走するのよねぇ。いくら丈夫な身体でも、心臓が滅茶苦茶な動きをしたら哀しいくらいに何も出来なくなっちゃうのよ、困っちゃうわ」
「ご、ごめんなさい。変な事聞いちゃって・・・」
どうしようどうしようどうしよう・・・
こんな話・・・普通したくないよ。
私が無神経なせいで・・・
「謝らないで。私だって話す必要のない人には話さないわ。それに、普段は全然なんともないし、発作が起きそうな時には創ちゃんが何とかしてくれるから」
「風眞さん・・・」
「さ、寝ましょう、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」


『人と関わる事が上手くできない』
風眞さんはどんな人なんだろう。
私の前では明るく振舞っているだけ?
心の中、深く深く隠す気持ち。
これから一緒に居たら分かるようになるのかな・・・





「急にごめんね」
「いいえ、気にしないでください。粋さんと過ごす時間は楽しいですから、声をかけてくださって嬉しいですよ」
次の日。
風眞さんと創司くんが明日からの準備をしている間に私は誕生会のためのお買い物。
プレゼントを買うお店がよく分からなかったから焔くんに聞いてみたら、一緒に行ってくれるっていうから好意に甘えてみました。
いい子だなぁ、益々以って弟にしたい。
「ええと、雑貨屋さんでしたよね。それじゃあ僕の叔父がやってるお店に行ってみましょうか」
「うん、お願いするね」


案内された雑貨屋さんは何人かの新人の職人さんの作品を扱っているお店で、 細工物とかが多くてちょっと値段が心配だったんだけど、リーズナブルでステキな物も沢山あって一安心。
「いらっしゃい、焔くん。こっちに戻っていたんだね」
「お久しぶりです。粋さん、こちらが僕の叔父の東雲蘇芳さんです」
「はじめまして、水波粋です」
焔くんの叔父さんって皇さんのお兄さんなのかな。
皇さんほどの爆発的美形じゃないけど・・・美形の叔父様。
東雲家ってどういう遺伝子なんだろう・・・
「はじめまして、粋さん。焔くんも大きくなったんだね、こんなに可愛らしい彼女を連れてきてくれるなんて」
か、彼女?!
「ち、違います。私はただの友達です!ね、焔くん?」
「・・・・・ええ」
「そうなんだ、お似合いだと思ったんだけど。まぁ、ゆっくり見ていって」
「ありがとうございます」
にっこりと微笑んで店の奥に戻って行く蘇芳さん。
あービックリした。
突然あんな事を言われるとは。
「商売をやってる人って褒めるのが上手だよね。私が焔くんの彼女なんて有り得ないもん」
「有り得ない・・・ですか」
「ん?」
有り得ないよねぇ?
私なんて2つも年上だし。
大体、焔くんに釣り合うわけないもん。
「いえ、あ、このペーパーウェイト綺麗ですよ」
「本当だ、いいねぇ。風眞さんに合うかも」
「風眞さん・・・?」
「昨日から暫く一緒に住む事になった人だよ。すっごく美人さんなの。そうだ、焔くんは今日の夜って空いてる?」
「はい、空いてますよ」
「だったら家に来てよ。風眞さんと創司くんのお誕生会をするの。頑張ってお料理作るから、ね?」
「あ・・・はい、ありがとうございます。それではお邪魔させていただきます」
「よかった。焔くん、食べたいものある?昨日と今日のお礼に私が作れそうなものだったら頑張って作っちゃうよ」




買い物が終了していよいよお料理の準備でございます。
今日の献立は。


■油淋鶏(創司くんのリクエスト)
■ふわふわ豆腐の麻婆あんかけ
■ラザニア(焔くんのリクエスト)
■マグロの赤身のカルパッチョ
■クリームチーズ入りポテトサラダ
■バニラのシフォンケーキ(風眞さんのリクエスト)


以上。
頑張ってみました。
洋中ごたまぜです。
気にしない気にしない。


「わぁ!すっごく美味しそう!!粋ちゃん、私のお嫁さんに来てちょうだいっ!!」
又もや熱烈愛情表現。
なにげに気持ちいいなぁ。
「じゃあ早速ご馳走になろうぜ」
「ま、ごめん、ちょっと待って。1人お客さんを呼んでるの、6時になったら来る予定だから・・・」

ピンポーン

「来たみたい、はーい!!」
ぽてぽてと走って玄関のドアを急いで開けると、花束を持った焔くんが。
・・・・・すみません、こんなに花が似合う男の子はこの世に2人と存在しないと思われます。
「お招きありがとうございます、少し早かったですか?」
「いらっしゃい、グッドタイミングだよ。さ、上がって」
「失礼します」
特に話題にならなかったけど、創司くんと焔くんの面識はあるのかな?
風眞さん、焔くん可愛いから熱烈愛情表現しちゃうかなぁ




「お待たせしました。お客様ですよ」
「こんばんは、はじめまして。東雲焔です、明日から東雲学園中等部3年に編入します。宜しくお願いします」
「・・・・・」

「・・・・・」

はれ?
何かしらの反応はあると思ったのに・・・
2人とも固まってる??
「双子ちゃんのお兄さんだよ。創司くんも会ったの初めて?」
「あ、ああ・・・えーと、よろしく」
「風眞さん、焔くん可愛いでしょ?」
「え、ええ・・・そうね」
んんん???
何だかぎこちないなぁ。
どうしたんだろう??
「えーと、えーと・・・・・食べよう!さ、さささささ」
何だかよく分からないけど、食べ始めれば何とかなる・・・かな?


「おいしい!」
「うまいっ!」
「美味しいですね」
あーいいなぁ。
皆でニコニコしながら食事って。
それにさっきまでのビミョーな雰囲気が解消されて一安心だよ。
「いっぱい食べてね。ええと・・・はいっ、風眞さん、創司くん、プレゼントだよ」
和やかな雰囲気になったところで用意しておいたプレゼントを2人へ。
「ありがとう!」
「開けていいか?」
「どうぞどうぞ」
風眞さんへはコンパクトミラー。裏の装飾が上品で、中央に埋め込まれた緑色の石が風眞さんの目みたいに綺麗だったから選んでみました。
創司くんには写真立て。・・・1つ持ってるのは知ってるけどこれから色々と増えるかもしれないし、ね。
「本当にありがとう、粋ちゃん。これから毎日持って歩くわ」
「そう言ってくれると嬉しいな」
「今、みんなで写真撮るか?これに入れておいたら記念になるし」
「え、あ・・・そ、そうだね!私、カメラ取ってくるよ」
何だかラッキーな事に!!
写真、絶対に焼き増ししなくっちゃ!!







「はじめまして、ですよね」
「そうねぇ、はじめましてよね。こんなに綺麗に育ってて驚いちゃったわ」
「日本に戻っていらしたんですね。東雲に通うとは驚きました」
「唯一以外に関心が持てない坊やだものね」
「ええ、そうですよ。僕には『彼女』しか見えていませんから。そうでした、はい、これ。お誕生日おめでとうございます、貴女のイメージに合っているでしょう」
「白百合・・・あらあら、私って清楚で可憐なイメージなのね」
「ご想像にお任せします。あ、粋さんが戻って来ました。僕たちはこの先も『お誕生会ではじめて会った他人』って関係でいいですよね?」
「ええ、そうね。私達は・・・本当に他人だもの」
「・・・・・」






あったあった。
前にいつ撮ったか忘れちゃったインスタントカメラが。
デジカメが一般的な現代にある意味スゴイよね〜。
「お待たせ・・・・わぁ、風眞さんって白百合が似合うねぇ」
「そう?」
「うん、潔くて凛とした感じ。それに、真っ白で綺麗。ちょっとやそっとの汚れなんて物ともしない勢いがある・・・ってご、ゴメン。変な例えで・・・」
又やっちゃったー!!
風眞さんに呆れられる・・・って・・・あれ??
「ありがとう」
わぁわぁ!!
本日2度目の熱烈愛情表現。
「ユリは種類が色々あるけれど、白いユリの花言葉は『純潔・威厳・無垢』だからなぁ」
「創司くんが花言葉とは・・・意外」
「ソウデスカ・・・」
はい、意外です。


「はい、実は粋さんにも用意してたんです。お招き頂いたお礼に、受け取って下さい」
にっこり微笑んで手渡してくれたのは赤と桃色のチューリップの花束。
わぁ〜、可愛い!!
「ありがとう!」
「喜んでいただけてよかったです。粋さんにはチューリップが似合うと思ったんですよ」
「そう?あ、創司くん。チューリップの花言葉って知ってる?」
「え・・・と・・・思いやりとか博愛とか・・・」
「そうなんだ、何だか優しい感じがして嬉しいな。早速活けないと。風眞さんのユリも活けてくるね。いい大きさの花瓶あったかなぁ・・・」
花瓶、花瓶。
お父さんの仕事の関係でお花貰う機会が多いから、それなりの数があったはず。
どこだったかなぁ?



「赤は『愛の告白・愛の宣告』、桃は『恋の告白・真面目な愛』、全体には『永遠の愛情』・・・バラより直積的じゃない所が又・・・」
「深読みしないで下さい。僕は単純に粋さんに似合うと思っただけです」
「ふーん」
「ふーん」
「嫌な年長者達ですね・・・」



「さてさて、お待たせしました。写真撮ろう!」
ユリは大きめのクリスタルの花瓶に、チューリップは細めの白い花瓶に活けてテーブルの上に飾って。
いい感じの高さにカメラを置いてタイマーをセットっと。
「粋ちゃんは私の隣ね」
ピトッと私にくっついて座る風眞さん。
「僕も粋さんの隣で」
私と肩が触れるくらいの近さに座る焔くん。
「おとーさんは後ろデスか」
私の頭の上に手を置いて後ろに立つ創司くん。
「はい、笑いマショ!」


私達4人が集まったのは偶然じゃない。
その事を知るのは未だ先の話で。
私はただこの時を楽しんで笑っているだけだった。









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