みずのきおく・6






連休が明け、学校が始まった。
宿題を提出して、授業のノートをとって、フツーの学生生活を送る。
中庭の芝生に座って1人で食べるお弁当。
あんまり美味しくないな・・・


創司くんの部屋にあった写真の女の子。
きっとあの子が「風眞さん」。
創司くんの大事な人。
すごく、すごく、大事な人。


同じくらいの歳だと思うけど、大人っぽくて綺麗な人だったな。
やっぱり、彼女だったりするのかなぁ。
それとも親戚とか・・・?

本当のことはメールで聞いちゃえば早いけど、何だか怖くてそれが出来ない。
そして1人でぐるぐるうじうじしちゃってる。
私ってばサイアク。
すごく心がちっぽけで子供っぽいんだもん。



そんなこんなでうじうじ1人で一週間を過ごして、今日は土曜日。
一昨日、土曜の夜の飛行機で帰ってくるってメールが来てた。
「気をつけて帰ってきてね」とだけ打って、それ以上の文章は書けなかった。
本当のこと。
今日の夜になったら分かるのかな・・・


いつまでも部屋でじっとしてたらどんどん暗くなっていっちゃう。
「さて、と。夕飯のお買い物とかしちゃおうかな」
夜ごはんどうするか分からないから、煮物とか作っておけばいいかな。
食べなくてもとっておけるし。
あとは今日のお買い得品次第。
よっし!気分転換のつもりで行って来よっと。





「水波さん」
買い物帰りの道で聞いた事のある声に名前を呼ばれて、周りをキョロキョロと見てみる。
えーと・・・・・この声って・・・
「おにいちゃん」だ。
あれー?先週、留学先に戻ったんじゃなかったけ??
「東雲くん、帰ってきてたんだね。今回も直ぐに戻っちゃうの?」
「いいえ、イギリスでの留学は終わったんです」
そうなんだ。
5月の始めに終わるなんて短期の留学って区切りが色々なのかな?
「じゃあ暫くはお家に居られるんだ。ゆうきちゃんとのぞむくんも喜んでるでしょ?」
「よく・・・わかりません。僕はあの2人にあまり兄らしい事や相手をしてあげた事がないので」
穏やかに微笑んでいるのに寂しそうな目。
「でも、2人は「おにいちゃん」の事が分かってるんだよ?おにいちゃんはずっとひとりでさがしてるって。だから、一緒に居られなくても我慢してたんだよ?一緒に居られるなら嬉しいに決まってるよ・・・」
「・・・・・」
あ。
何を私は余計な事を語っているのでしょうか。
「・・・・と思うのデスが」
すごく気まずくなって、その場を去ろうと思った時。
「・・・・ありがとうございます」
な、ななななななな??
命を獲られるかと思う殺傷力のキラキラ且つ柔らかい笑顔。
危なかった・・・
「どうしたんですか?」
「いえ・・・なんでもありまセン・・・」
美形フラッシュで昇天しそうになったとは言えまセン。


「そうだ、この後お時間ありますか?近くに美味しいケーキのカフェがあるのですが、もしよかったら行きませんか?」
美味しいケーキ・・・何て甘美な言葉。
「ケーキ?!行く!行きたい!!」
お買い物用エコバックに人参とかグリンピースが入っててとっても生活感溢れる状態ですがね、ケーキさまの元へ行く気満々ですよ。
きゃー、ケーキー!!
「それでは行きましょう。僕もケーキ、大好きなんです」
にっこりと天使の笑顔。
よし、段々慣れてきた感じ。
意外に順応力あるなぁ、私。


住宅街にひっそりと紛れ込んでいる小さなカフェ。
上品な感じの年配の男の人・・・東雲くんの知り合いなんだって・・・が一人で経営してるらしい。
案内されたテーブルはアンティークなのに傷1つなくて、そしてとても落ちつく色合。
棚に飾るように置いてあるカップは、シリーズ物で揃えてあるのかな。
このお店の中の物はどれも「ここに在るべきもの」って感じに馴染んでる。
お洒落だなぁ。


そしてそして。
目の前にそっと置かれたイチゴのタルト。
つやつやぴかぴかでキラキラしたイチゴが沢山乗ってて美味しそう。。。
「いただきます♪」
先ずはイチゴを1つ。
うわぁ〜瑞々しくてあまーい!!
次に中身のクリームを1すくい。
生クリームとカスタードを混ぜてあるのかぁ。
甘さは控えめでコクはあるね。
イチゴの自然な甘さを邪魔しないで引き立てる感じ。
そして肝心のタルト生地。
サックリ・・・香ばしい!
底にアーモンドスライスが敷いてあるんだね。
口の中でもろもろっと崩れていく感触がたまんない。
「どうですか?」
「すっごいおいしい、おいしい、おいしい!!」
「喜んでいただけてよかったです。あ、僕のも食べてみますか?チョコレートシャルロットです」
「じゃあ遠慮なく1口」
細かく刻んだホワイトチョコレートの中に甘さのない生クリーム。
そしてその中に少し固めのチョコレートムース。
すっごいチョコの味が濃い。
チョコ好きにはたまんないかも。
側面のビスキュイは外側がサックリで中はふんわり。
軽い食感と甘さが濃厚なケーキに絶妙にマッチしてる。
このケーキにロイヤルミルクティの組み合わせとは・・・東雲くんってかなりの甘党なのかな。



暫く感動のケーキ様を堪能してからアイスのアールグレイを1口。
幸せ〜。
「水波さんって東雲の高等部なんですよね?」
カップを置いて東雲くんが尋ねてくる。
そういえば私達って未だ2回しか話した事ないんだっけ。
「そうだよ。高等部からの編入だから学校の事はあまり詳しくないけどね」
「僕も来週から東雲に通う事になったんです。残念ながら中学部なんですが・・・校内で会えるかもしれませんから、その時は声をかけてもいいですか?」
中学部は高等部と校舎が繋がってるし、合同のイベントもあるみたいだし・・・何より東雲くんって目立つから居たら気がつくよねぇ。
「え?そんなのいいに決まってるよ。お友達のおにいちゃんだもん」
「僕達は未だ「お友達」じゃないんですか?」
わぁ・・・何とも罪作りな顔をなさる・・・
「そんな事ないよね。じゃあ改めて言うのもおかしいけど、お友達としてよろしくね」
握手をしようと手が触れた瞬間。

「っ・・・!!」
何で?
静電気ってそんなに頻繁に起こるものなの?
「すみません・・・」
「ううん、謝らないで。何だろうね。偶然も2回あると不思議」
この前と同じ。
手が触れた瞬間にバチっときた。
変なの・・・



「あ、あの・・・ですね。未だその・・・それ程親しくもなっていないのに何なのですけど」
「うん?」
改まってどうしたのかな?
「僕の苗字、呼び辛くありませんか?」
「しののめくん・・・って?まぁ・・・そう、かもしれない」
確かに。
でも仕方ないよねぇ。
苗字だもん。
「水波さんが構わないのであれば名前で呼んで下さい。「ほむら」っていうのもあまり言い易くはないですけど」
ニコッと笑う東雲く・・・焔くん。
か・・・かわいいかもしれない。
「焔・・・くん・・・って・・・」
「はい」
「弟にしたい・・・」
「・・・・・はい?」
呆然とした顔してる。
うー、こんな表情もカワイイ・・・。
「こんなにカワイイ弟いたらいいのになぁ。一緒にケーキ食べたり・・・楽しいだろうなぁ〜」
「弟・・・・」
「あ、私の事も名前で呼んでね。おねえちゃんでもいいけど」
「弟・・・・・・・・」
ん?
何だかちょっと沈んだ顔してる。
も、もももももしかして・・・
「ご、ごめんね!!もしかして・・・カワイイって言われて傷ついちゃった??」
どうしよう、どうしよう・・・
男の子だもん。
カワイイなんて言われたら嫌だったのかもしれない・・・
「そんな事ないですよ、気にしないで下さい・・・粋さん」
・・・・う。
「粋さん」って言われて今度はちょっとドキっとしちゃった。
一瞬前まで「弟にしたい」って思った相手なのに。
何だかなぁ・・・





まったりとお茶の時間を楽しんだ後、焔くんは家の前まで送ってくれた。
紳士だ・・・
「月曜に校内で会えるといいですね」
「もしよかったらお昼休みに音楽棟の裏の中庭を覗いてみて。晴れてたらそこでお昼食べてるから」
「はい、行ってみます」
それじゃあ、何かデザートを作っていこうかな。
甘いもの好きみたいだし。
「今日は本当に有難う。ケーキ美味しかったし、一緒に話せて楽しかった」
「又一緒に行きましょう」
「何だかデートの約束みたい、あははっ」
「ふふっ、じゃあ今日もデートだったんですね。僕の初デートです」
「?!」
サラリとドキっとする言葉を言うなぁ。
デート・・・
そう言われたら、私も初デートですよ・・・
「それでは名残惜しいですけど、さようなら」
「ばいばい」


焔くんって社交的でオトナっぽくてしっかりしてるなぁ。
それでいて時々カワイくて結構人懐っこい?
見た目だけじゃなくて、不思議な魅力の子だよねぇ。






でもね、僕にとってそんな事は全然意味がないんだ

僕に必要なのは唯、キミだけ

キミがいなければ、世界すらも意味がないから






「粋さん!!」


ユラユラと揺れる視界の向こうで、焔くんが駆け寄ってくる。
う〜・・・声が出ない。
もう慣れちゃったから心配しなくても大丈夫だよ〜って言いたいのに。
困ったなぁ。
困ったなぁ・・・・



忘れない
ずっと、ずっと



アイシテル



何だろう、すごーくいい気持ち。
あったかくて・・・涙が出そうな程に懐かしい・・・?
「・・・・・」
ぼーっと目を開けると、青空と甘い花の香りと心配そうに私の顔を見つめる焔くん。
「気分はどうですか?」
「・・・・・ありがと・・・・・だいじょうぶだよ・・・」
やっぱり、又、倒れちゃったんだ。
焔くんにも迷惑かけちゃって情けない。
「もう少しだけ、こうしていましょう」
家の庭の木陰で焔くんに抱きかかえられるように座ってる私。
早く体勢を直さないと・・・なんだけど、身体が動かない。
動きたくない?
いやいや、ダメダメ。
こんな状態はマズイってば。


「だいじょうぶだよ、ありがと。焔くんの肩が疲れちゃうでしょう?」
身体を起こそうとすると、背中にまわされた腕にぎゅっと力が入った。
「もう少しでいいんです」
ほ、焔くん?
何だ?これは??
ええと・・・甘えんぼさん?



デンワだよ、デンワだよ



「電話・・・出なきゃ・・・」
「・・・・・はい」
ゆっくりと上体を起こして、カバンの中の携帯を取り出す。
これに電話してくる人は1人しかいない・・・
「もしもし、創司くん?」
「久しぶり。飛行機が変更になってさ、もう着いたんだ」
あー、久しぶりの創司くんの声。
何だか和む・・・
「じゃあ夕方には戻ってこれるの?」
「うん・・・あー・・・その・・・」
どうしたのかな?
歯切れが悪いけど。
「どうしたの?」
「お願いがあるんだけど・・・」
「ん?」
「・・・・とりあえず帰るわ、じゃ」
「・・・・・?」
切れちゃった。
うーん??


「・・・大事な人からですか?」
「え、え、え?!いやいやいやいや・・・あはは・・・」
焔くん・・・鋭い・・・
「家の中に入りましょう、立てますか?」
「うん、あ・・・よかったら上がっていって。手とか汚れちゃったでしょ」
「いえ・・・・・粋さん・・・あの・・・」
「ん?」
「お大事に・・・それでは」
「え・・・あ・・・うん・・・」
ふわっと微笑んで焔くんは立ち去ってしまった。
哀しい目をしていたような気がするんだけど・・・気のせい・・・?
私・・・何かしちゃったのかなぁ・・・





さてさて、今日の夕飯は。
■グリンピースで豆ご飯。
■じゃがいもと玉ねぎのお味噌汁。
■筑前煮。
■小松菜と油揚げのおひたし。
・・・といった感じで。
和食でまとめてみました。
やっぱり一人分を作るよりも楽しい〜!


ピンポーン


「はーい」
あれれ?意外に早かった?
「風眞さん」をお家に送って行ってからじゃなかったのかな?
「や、帰ってきましたよ」
「おかえりなさい、早かったね」
「道が空いてたんだ」
「ちょっと、早く会わせなさいよ」
ん?
女の人の声。
も、もももしかして・・・
「はい、スミマセン・・・粋、紹介したい人が居るのデスガ」
「かざまさん?」
「「ふうま」っていうのよ。西神風眞です、よろしくね、粋ちゃん」
創司くんを押しのけて私の前に現れたかなり長身の女の子。
写真で見たよりも、もっともっと綺麗。
華やかな綺麗じゃなくて、静かで何処か惹かれる綺麗。
それに・・・誰かに・・・似てる?
「ふうまさん・・・?」
ぽやんとした顔で呟く私をじっと見つめ、ぱぁぁっとした笑顔でぎゅっと抱擁。
わぁわぁ。
「すっごいすっごいカワイイ!!「ちっちゃくて、かわいくて、いちごみるくみたい」って創ちゃん、アナタたまには上手い事言うじゃない。あーもう!!声も姿形も全てがストライクゾーンよっ!!今度一緒にショッピングに行きましょうね。可愛いお洋服いっぱい試着しましょうね、うふふふふふふふ」
「ふ、ふうまさん・・・創司くん・・・これは・・・」
「スミマセン・・・暫く我慢してクダサイ・・・」
あぁ・・・合掌してる・・・



「ごめんなさいね、粋ちゃんがあまりに可愛い過ぎて、つい冷静さを失ってしまったわ」
「え・・・えと・・・」
にっこりと微笑む風眞さん。
笑顔だと更に綺麗。
「奇跡だ・・・風眞が笑顔の大放出なんて・・・」
「創ちゃん、シメるわよ?」
「ハイ・・・スミマセンでした・・・」
創司くん、風眞さんの前ではキャラが違う・・・
どういう関係なのかなぁ?
親戚・・・にしては髪の色くらいしか似てないし。
恋人・・・にしても甘い雰囲気が全然感じられないし。
「とりあえず、お夕飯にしようか。風眞さんもよかったら食べて行って・・・って、でも久しぶりにこっちに帰って来たならお家での方がいいのかな?」
家族も待ってるだろうし。
早く帰ってあげた方が家族の人達も喜ぶよね。
「その・・・粋、お願いがあるんだ」
「何?」
「・・・・・暫くの間、俺の両親が日本に来るまで風眞もここに一緒に住ませて欲しい」
「は・・・・はぁ・・・」


お母さん、お父さん、アイちゃん。
私の周りで一度に色々な事が起きてる気がするんだけど・・・気のせい?









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