「すいちゃん、おめめまっか」 「いたいの?だいじょうぶ?」 濡れたタオルを持って心配そうに私を見上げるゆうきちゃんとのぞむくん。 「ありがとう。わぁ〜冷たくて気持ちいい〜」 怖い夢でも哀しい夢でもない。 なのに涙が出てしまう。 切なくて、苦しい。 こんな夢みたくない。 だけど、みなくてはいけない気がする。 「私」はきっとそれを望んでいる・・・ 「「かえっちゃうの??」」 「うん、お休みも半分終わっちゃったから宿題しないといけないんだ」 すごく楽しい毎日で軽く忘れかけていたんだけど。 宿題。 一応、ここに持ってきてはいるんだけど・・・ 旅行先に宿題持っていっても全然やらないっていうのと同じで。 ほとんど手がついちゃおりません、あははははは。 「「しゅくだいだったら、いっしょにやればいいよ。かえらないでー」」 「うーん・・・」 一応高校生の私と小学生の2人が一緒に宿題とは・・・ どうしたのかなぁ。 いつもはこんなに我がまま言わないのに。 「もうすこしだけいて」 「おにいちゃんがかえってくるまででいいの」 おにいちゃん? 有希と望には歳の離れたきょうだいが居るんだ。 世界中を短期留学してて滅多に家に居る事はないから・・・ 「お兄ちゃん、帰ってくるの?」 「・・・・・」 「・・・・・」 2人は顔を見合わせて頷く。 「おにいちゃんはさがしているの」 「ずっとひとりでさがしているの」 「探している?」 ぎゅっと小さな手が私の手を握って一生懸命言葉を探している。 「うまれるまえからのやくそくなの」 「あうためにうまれてきたの」 「「すいちゃんは・・・おにいちゃんのとくべつかもしれない」」 何だか暗号のような言葉。 「特別」 それは、何? 探している。 約束。 会うために。 ・・・・・会う、ために。 私は貴方に会うために 私は貴方を愛するために 「「すいちゃん!!」」 2人の声ではっとする。 又、夢なの?? わけわかんないよ・・・ 「どこか痛い所とかない?」 心配そうに空さんが声をかけてくれる。 「大丈夫ですよ、ちょっとボーッとしちゃっただけなんで・・・」 ・・・・・って、あれ? 何で私、ソファに横になってるんだろう?? 「急に倒れたっていうから・・・幸いソファの上だったから怪我はしなかったみたいでよかったけど。本当に何ともない?でも、お医者さん呼んで診てもらった方がいいよね?」 「あ、本当に全然、何ともないです。どうしたんでしょうねぇ、疲れてもいないし寝不足でもないのに、はは・・・」 「「すいちゃん・・・」」 あぁ・・・2人とも泣いちゃったんだ・・・ 「心配かけてごめんね。大丈夫だよ、もう元気だよ?」 柔らかい髪を撫でてあげると、2人は同時にぎゅーっと抱きついてきた。 うーん。 ますます帰りづらくなっちゃったなぁ。 「ゆうきちゃんとのぞむくんのお兄さん、帰ってくるんですか?」 ゆうきちゃんとのぞむくんは泣くのに疲れてお昼寝に行ってしまい、部屋には空さんと私が残された。 「あぁ・・・2人が言ってたならそう・・・かな」 「???」 多分、顔に巨大なハテナマークが現れたからだと思う。 空さんは「信じられないかもしれないけど」って言葉をつけて説明してくれた。 「あの2人って、何だかよく分からないけど家族の考えてる事とか行動とかが分かる時があるんだよ。焔が帰ってくるって連絡は来てないけど、2人が言ってたなら帰ってくるんだと思うよ」 そう・・・なんだ。 すごいや、未知なる双子パワー。
携帯のボタンを押すのを止めて、じっと文章を読みなおす。 ・・・・・こんなメール貰っても困るよね。 繰り返す夢。 夢なのに、夢だと割り切れない。 忘れないでという「私」。 「私」は「忘れてしまった私」に何かを思い出して欲しいの? 「・・・・消そっと」 やっぱりこんなの送るのおかしいもん。 ええと、 「・・・・・・・・!!!!!」 な、ななな何で? 画面に「送信完了」ってガツンと表示されていらっしゃるのかしらん? こんな所でアホっ子発動しないでよぉぉぉ!! ガックリしても時すでに遅し。 仕方ないや。 変だと思ったら読み流してくれるよね、きっと。 創司くん優しいもん。 夢。 約束。 忘れない。 愛している。 「大丈夫ですか?」 ふっと意識が遠くなりそうになった時、何処かで聞いたことのあるような声がした。 そして、ふわっと周りに広がる甘い花の香り。 あれ? 何処で嗅いだ事があるのかなぁ? この香り、知ってるんだけど・・・ 「大丈夫ですか?」 再び声をかけられて、背中を支えられて自分が倒れそうになっていた事に気がついた。 今日は一体、何なのよー!! っと半ギレする前に。 「あ・・・いえ・・・大丈夫です。ありがとうございます」 未だ少し頭がぼんやりするけど、気分は悪くないから大丈夫。 助けてくれた人に感謝感謝。 「「すいちゃん、どうしたの?あ、おにいちゃん!!」」 駆け寄ってきた2人が私の背中に居る人を見上げる。 おにいちゃん? おにいちゃんが帰ってきたんだ。 振り向いて「おにいちゃん」の顔を見てみる。 ガクっとする程に超美少年なんですけど。 空さんと皇さんのいい所取りの上に更に磨きをかけた・・・王子だ!王子様だ!! いやいや、天使? すっごいすっごいすっごーい!! 生きた芸術品だ!! こんなキレイな子、アートでしか見たことないよ。 「どうしましたか?」 「いや、キレイだなぁって思って・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」 はっ! 私、何で本心を漏らしているのですか? 絶対、絶対、変な人だって思われたー! 「ありがとうございます。貴女みたいに可愛い女の子に言われると嬉しいですね」 「・・・・・・・え?」 思わず目を擦りましたよ。 この子が微笑んだ瞬間、周りにキラッキラと星が煌いて白い薔薇の花びらが舞った様に見えたんだもん。 すごーい。 究極の美は特殊効果を発生させるんだねー。 「おにいちゃんのえがおをみるとみんなめろめろになっちゃうの」 「きらーすまいるなんだよ」 ごもっとも。 心臓の弱い人なら昇天しちゃう笑顔でした。 当に天国への誘い。 「そんな事ないよ。有希も望もオーバーなんだから」 いやいやいやいや、そんな事ありました。 ある意味、再び気を失いそうになりましたよ。 「おにいちゃんがほんとうにわらうなんてめずらしいね」 「やっぱりすいちゃんはとくべつなのかな?」 ひそひそと2人が何かを話してる。 久しぶりに会ったお兄ちゃんだから、ちょっと恥ずかしいのかな? 「・・・・・・自己紹介が未だでしたね、東雲焔です。弟と妹が仲良くしてもらってるみたいですね。ありがとうございます」 「私の方こそ遊んで貰ってるって感じで・・・すごく可愛くていい子達ですね。あ、私の名前は水波粋です。何だか縁があってこちらにお世話になってます」 差し出された右手を握ろうと指先が触れた瞬間。 「っ・・・・」 バチッと季節外れの静電気が発生してお互い手をはなしてしまった。 いたたたた・・・ 何だろう、サイアクのタイミング。 「すみません・・・手・・・」 「あ、ううん、全然何ともないです。ちょっとビックリしちゃって・・・」 東雲くんはジッと自分の手を見つめてる。 そんなに気にしなくてもいいのにな。 「焔、此処に居たのか。さっきの話なんだが・・・」 「今、父さんの部屋に行きます。それじゃあ、水波さん、ゆっくりしていってくださいね」 「ねぇ、東雲くん」 「はい?」 「又、会える・・・よね?」 「・・・・・ええ」 東雲くんの後ろ姿を見送りながら、私は又もや変な事を口走ったと一人大反省会を開催していた。 又、会えるよね?・・・・って、オイオイ。 いつからそんなに軽〜い事を言えるようになったのかしらん? 「「おにいちゃんにめろめろ?」」 「ちっ・・・違うよ!!」 小学生相手に何を本気になっているのでしょうかね・・・ でも、私の好きな人は創司くんなんだもん。 東雲くんがいくらステキ少年でも・・・好きにはならない・・・と思うし。 「「ざんねん」」 そう言うと2人は手を繋いで部屋を出て行った。 どういう事なんだか・・・ 「メールだよ、メールだよ」 可愛らしい声が携帯から発せられる。 メールだ! さっきのあのヘンテコ誤送メールの返信だ!
「創司くん・・・」 嬉しい。 変だとか笑ったり無視しないで、ちゃんと言葉を返してくれる。 すごく優しくてあったかい。 「ありがとう」 次の日。 東雲くんとはあの後会えないまま、又留学先に戻っちゃったらしい。 ちょっと残念。 今度はいつ会えるかな? それで、現在の私は。 「本当に、ありがとう、創司くん!!」 久しぶりの我が家、創司くんの部屋の前で合掌。 問題の宿題は数学以外は奇跡のスピードで何とか終わったんだけど、数学の1問だけが・・・ 本当にどうしても分かりませんでした・・・ そのまま提出しても問題はないんだけど、見ていいって言うからちょっと参考に。 ・・・・まぁ、本音はちょっと部屋に興味があったんだけど。 ドアを開けて中に入ると、自分の家なのにすごくドキドキした。 ベッドと机とクローゼット。 片付いてるというより、最低限の物しかない部屋。 男の子の部屋ってそうなのかなぁ? 目的の宿題はメールにあった通り机の上に。 揃えておいてあるソレの1番上を手に取った時、銀の縁の写真立てが目に入った。 物があまりない部屋なのに珍しい。 家族の写真かと思って見てみると、そこにあったのは1人の女の子の写真。 透き通るように白い肌と対照的なサラサラの黒い髪。 エメラルド色の右の瞳は綺麗なだけじゃなくて力強さが宿ってる。 写真でも目を引き付けられる魅力的な女の子。 すごく大事な患者さん。 ただ、その人のために医師の資格をとった。 大事な大事な、女の子。 「風眞さん・・・?」 |
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