同居生活1日目、創司くんに恋してると気がついて。 16年と3ヶ月、初めての恋。 初恋というやつです。 創司くんは最初の日から変わらない態度で接してくれて、私は毎日ふわふわした気持ちでいっぱいで。 あの時会った双子ちゃん(ゆうきちゃんとのぞむくんって名前らしい)のお母さんとはその後会ってないけれど、今だって鮮明に思い出せるくらいキレイな人だったなぁ。 『ひょっとして創司くんのタイプだったりする?』 『ん・・・そう・・・だな』 厳しいよねぇ、自分と対極にあるような人がタイプだなんて。 どう頑張ったらいいか分からないよ。 ベショっとテーブルに突っ伏して、冷めた紅茶の入ったカップを見つめる。 難しいなぁ。 今のままで充分だと思う私。 もっと仲良くなりたいと思う私。 自分でも何が正しいのか全然分からない。 どうしたい? どうされたい? 頭の中は疑問詞でいっぱい。 恋するって・・・複雑。 「何を悩んでいるんだ?」 背後からひょいっと覗きこんだ創司くんは、私のほっぺたに冷たい牛乳瓶を当ててきた。 「ひぎゃっ!!」 驚きの声にしても、もう少しどうにかならないもんですかね。 女子的にヤバイ声だったよね、今のは・・・ 「まぁまぁ、若いうちは沢山悩みなさい、はっはっはー」 悩みの元に言われると何だかヘコむんですが。 だから、 「おじさんっぽい事を言うねぇ・・・」 「おじさん・・・」 ちょっとばかり意地悪言っても罪はないでしょう、うん。 「明日から連休だな。粋は何をする予定なんだ?」 「私は宿題やって・・・少し遊びに行けたらいいなぁと。創司くんは?」 「俺は明日からアメリカに行って来るよ。休み期間をオーバーするかもしれないけど」 別に何かを約束していたわけじゃないけど、ちょっと残念。 そっかぁ、1週間は居ないのかぁ。 「家族に会いに行くの?」 「家族もだけど、すごく大事な患者さんが居るから。本人には症状が安定してるから来なくていいって言われてるんだけど・・・心配だし」 「患者・・・さん・・・?」 はて? 何だかお医者さんみたいな言い方してるけど。 「俺、外科医の資格持ってるんだよ。担当する患者は1人だけだけど」 「!!!???」 「合法的に治療するには資格が必要だったからさ。知識だけじゃどうにもならない事っていうのもあるんですよ、めんどくさいけど」 明らかにフツーじゃない事をフツーに話してるんだけど。 え、と。 お医者さんの資格があるって事は、もう、大学出てるって事・・・? じゃあ、どうして今、日本の高校に通っているの? 「不思議に思うかもしれないけど・・・いずれ分かるよ。暫くは謎の部分もあった方が影のある男風でカッコイイじゃん?」 「・・・・うーん・・・」 あんまり話したくないのかな。 いずれ分かるっていうんだから無理に聞かない方がいいんだよね。 「1週間も1人で残していくのも心配だからさ、こっちの知り合いに粋の事を話してみたら「家に泊まりに来てよ」って言ってくれたんだけど」 「え・・・と、気持ちは嬉しいんだけど、知らない人の家にはちょっと・・・」 ・・・・って思うんだけど。 折角なのに悪いかなぁ。 「いや、粋も知ってる人の家だよ?」 「ん??」 私も知ってる人? はてさて?? そんな人いないと思うんだけど・・・ 「あの双子の家」 「え・・・・・・・と?ゆうきちゃんとのぞむくんの事、前から知ってたの?」 「いいや、最初の日に買い物帰りに会ったのが初めて。双子の母親の空さん、俺の母さんの親友なんだって。小さい頃に何回か会った事があったんだけど、あの時は確信が持てなくてさ」 そうだったんだ。 だから、あの時、不思議な雰囲気になっていたのかな。 「偶然ってあるんだねぇ・・・」 「これ、住所。明日一緒に行ってあげられなくて悪いんだけど・・・」 「ううん、じゃあ、ちょっと挨拶に行ってみようかな。ありがと」 ゆうきちゃんとのぞむくんと遊べるし、空さんとお話してみたいしね。 「それと、これを渡しておこうと思ってたんだ。はい、何かあってもなくても時間も気にしないでかけていいから」 ポイっと渡されたのは・・・携帯電話。 「これ・・・・??」 「海外通話可能の携帯。使い方は分かる?ええと、ここを押すとアドレスが開いて、選択して通話ボタン・・・っと、俺のしか登録してないから分かりやすいだろ?」 「あ・・・ありがとう」 「電話しづらかったらメールでもいいけど。メールはした事ないから分かんないか・・・えぇと・・・」 「説明書読んで勉強する!ありがとう、嬉しい、すごく・・・」 携帯持ったの初めてだっていうのもあるけど、何より創司くんの心遣いが嬉しかった。 携帯を握って喜ぶ私の頭をポンポンっと軽く叩いて、優しい声で。 「ごめんな、1人にさせて」 その言葉は、クリティカルに胸をきゅっとさせた。 「大丈夫だよ、行ってらっしゃい。患者さん、元気でいるといいね」 「あぁ・・・」 次の日、創司くんは朝早くに出掛けて行った。 本当は空港まで見送りに行きたかったんだけど、朝の弱い私には無理でした・・・ 遅い朝ごはん、ミルクたっぷりのカフェオレを飲んでると何だかポツンとした気分になってきた。 今まで結構1人で居るの平気だったのに。 寂しい、のかな。 うーん・・・・・ ピンポーン あれ?宅配便かな?? 「はーい」 玄関のドアを開ける、と。 「「すいちゃん!!」」 「あ、あれ〜??ゆうきちゃん、のぞむくん」 トトトト〜と駆け寄ってくる2人の後ろから、あのキレイなお母さん・・・空さんがゆっくりと歩いてくる。 「こんにちは、「すいちゃん」」 「こ、こんにちは。あ、あの・・・???」 「おむかえにきたの」 「おとまりくるんでしょ?」 「え、あ、えーと・・・」 な、ななななな。 お泊りが決定事項になってるの?? 「ごめん、この子達に「お泊りに来てくれるかも」って言っちゃったら・・・「かも」が都合よく消去されたらしくて」 「「すいちゃんいこうよ」」 クイっと小さな手に引っ張られる。 うぅぅぅ、きゃわいい!! うーん、じゃあお言葉に甘えちゃおう!! 「お誘いありがとうございます。ゆうきちゃん、のぞむくんちょっと待っていてね。おねえちゃん、お片づけとお泊りの準備をしちゃうから」 「「はーい」」 「中、どうぞ。直ぐに用意しますんで」 「ありがとう、本当に朝から騒がしくて悪いね。じゃ、お邪魔します」 急いで用意して、ゆうきちゃんとのぞむくんに引っ張られてお宅訪問。 子供でも歩いて来れるって事は、結構近いのかな? 「「ついたー」」 家から歩いて10分くらい。 本当に近かったなぁ。 っていうか、家からこのマンション見えてた。 すっごい立派なマンションだなぁって思ってたんだよね。 「さ、どうぞ」 中に入ると広いホールに座り心地のよさそうなソファとか、観葉植物や蘭の鉢植えがバランスよく配置されてたりとか・・・何というかホテルのロビーみたいな感じで。 でも、ここに住んでる人は誰もいない。 たまたま、かな。 「え?」 5Fのランプが点灯し、エレベーターの扉が開く。 開く・・・と、廊下があって玄関のドアがあって・・・のハズ? ハズだと思っていたのですが。 何故かフツーにリビング(といってもすごく広い!)が目の前に。 ゴシゴシっと目を擦って前を見て後ろを見て。 やっぱり。 エレベーターを出て直ぐにリビングだよねぇ・・・ 「ごめんごめん、驚くよねぇ。普通の来客だったら下の階で応対するだけなんだけど、すいちゃんは個人的なお客さんだから生活の部屋にそのまま来ちゃったんだ」 どうも話を聞いてみると。 ロビーみたいな1Fが既に玄関だったらしくて。 2〜4Fは来客用フロア。 5F〜10Fが自宅で家族や個人的なお客さんしか入らないフロアだとか。 ・・・・・・・もしかして、スゴイ所に来てしまったのでわ。 「すいちゃん、こっちすわって」 「すいちゃん、じゅーすのんで」 暫く呆然としていた私は、気がつくとふかふかソファに座って手にはオレンジジュースの入ったグラスを持っていた。 「ありがとう。ゆうきちゃん、のぞむくん」 私の両脇でぴったりとくっついてくる2人。 あー本当にかわいいー。 アイちゃんも居ればなぁ・・・ 「いらっしゃい、すいちゃん」 背後から男の人の声。 はて? 「待ち伏せしてたのかい、アンタ・・・」 「「おとーさん、まちぶせ?」」 おとうさん? 振り返るとソファの背に手を置いて微笑む男の人。 身体の周りのオーラがキラッキラしてる。 おとうさん、王子属性ですか!? 「こ、こんにちは!お邪魔してます」 立ち上がって挨拶しようとした私を優しく止めて、向かいのソファに腰を降ろした「おとうさん」。 空さんと並んでると凄まじい輝きを放つ美両親なのですが。 何、何?? ここのご両親はモデルさんとかやってるの?? 「はじめまして、有希と望と遊んでくれているみたいだね。ありがとう」 「いいえ、こっちこそ遊んで貰っているというか・・・あ、すみません。ちゃんと自己紹介してませんでした。水波粋です。東雲学園高等部に通ってます」 空さんと「おとうさん」が顔を見合わせる。 何かおかしな事言ったかな・・・ 「学校はどう?東雲は結構授業が難しいでしょう」 「はい、授業は付いていくのが大変で・・・あ、でも創司くんのおかげで今のところ何とか。 設備も充実してるし敷地内は緑が多くて公園みたいで・・・とても綺麗で素敵な学校だと思います」 「生徒にそう言ってもらえると嬉しいよ」 ん? 「すいちゃんが不思議そうな顔してるじゃないか。アンタも自己紹介しなよ」 「そうだね。私は東雲皇。一応、東雲学園の理事長をしてるんだよ」 理事長で東雲って苗字・・・・って事は。 お母さん、お父さん、アイちゃん。 いつの間にかスゴイ人達と知り合いになってしまいました・・・ |
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