おっきくなっちゃった⇔小さくなりました(10)








「おとしゃん、おかえりなしゃーい!」
買い物隊がホリーの実家に帰還した直後、サイも竜界から戻ってきた。
「ただいま。ホリー、プルートくん、お子様達の面倒見てくれてありがとね」
「くん……?」
「お疲れ様です。お二人とも、とってもいい子でしたよ」
「そっかぁ、エライエライ」
現在の見た目なんてお構いなしにルナソルの頭を撫で、アースの頭も撫でようと息子の方を向くと、サイは微妙な表情になった。
息子であるはずの人が、何故かとってもよく見た事のある顔…自分だったからだ。



「あ、すみません。幻覚魔法を解除します」
「あぁ、うん」
自分が眠っている間にお子様達に何があったのかは聞いてきたが、メールディアは「アースがサイの姿になっている」という事だけは言わなかったのだ。
理由を聞けば「だって、その方が面白いじゃない」と答えるのだろう…と思い、サイは苦笑した。
「ルーをこの姿で人の前に出すと何だかよくない事が起きそうだったので、牽制のためにお父さんの姿を借りてました。ルー自身には幻覚魔法が効かなかったので已む無く…」
「そういやルナは4大属性の魔法がかかりにくい体質だとかシイラが言ってたっけ。 変に姿を隠した格好じゃ危険かもしれないし、それが妥当なのかなぁ。ファルの姿じゃ逆効果だし、オッサンの姿じゃ愛人同士みたいだし、考えてみりゃ俺って一番フツーだよねぇ」



普通とか平均とか平々凡々とか、そんな言葉が充分相応しくない見た目ですけど…と思いながら、ホリーはサイの言葉に疑問を感じた。

「変に姿を隠した格好じゃ危険かもしれない」

ぶかぶかローブを被っていたルナソルを「サンクタム」と勘違いし怯えた女性。
あの姿が「サンクタム」を連想させ、一定以上の年齢の人々に恐怖を与える。
何故?
それを聞いてもいいものか迷い考える。
はっきりとは言っていないがサイはノースガルドをよく知っている。
生まれ育った自分よりも詳しいかもしれない。
生まれ育った…?
もしかして、サイはノースガルド出身?



疑問と憶測で悩むホリー。
サイの態度からいって「聞かない」方が正解なのだろうが、学者故の探究心の強さから疑問を解決できないというのは気持ちが悪い。
「ホリー?」
「ホリーさん?」
「……えーと、家の中に入ろう。ここで立っていても仕方ないでしょ?」
さぁさぁ、と買い物隊達を家へと促す途中、サイはホリーの耳元で小さく囁いた。

「ごめんね」

話せないことへの謝罪なのか何なのかハッキリとは分からない。
ただ、今はその事を考え悩む時ではないと思い、ホリーは笑って「はい」と答えた。







「ルナソルさんはこのボールの中に皮を剥いたお豆を入れて下さいますか?」
「あい!ルーはおまめのかわむくのとくいなのでがんばります!」
テーブルの上に置いた豆を手に取り、側のボールにピコピコと中身を取り出していくルナソル。
超単純作業だがその目は真剣そのもの。
まるで伝統芸能の職人、匠のようである。



「僕も何かお手伝いすることありますか?」
1つの事に熱中し始めればウロウロも問題を起こしたりもない。
こんな機会は滅多にないのだから少しは休憩すればいいのに手伝いを申し出る健気なアース。
「それじゃあ、父さんと一緒にお菓子を作ろう」
「………はい?」
お父さんとお菓子作り……想像し得る手伝い内容に入っていない事に戸惑いを隠せない。



「ルナのお酒の強さを調べるためにお菓子を作ろうかと思って。ホリーはどう思う?」
「いいと思います。ルナソルさんは相当お酒に弱いようなので、小さいクッキーやケーキの中にお酒を混ぜたクリームのようなモノを入れてみるのはどうでしょうか。本当に酔っ払ってしまっては大変なのであくまで目安を知る程度になると思いますが」
「うん、それじゃ俺とアースで作るからキッチン借りていい?」
「どうぞ、お好きにお使い下さい」
上司と部下の間に完璧な意思の疎通が出来ているというのが分かる無駄のない会話。
サイはホリーが自分の答えを出していると信じているし、ホリーはサイが自分に求めているものを理解している。



「…ルート、プルート!!」
「え?!あ、あでで!!何、何??」
2人の信頼関係の強さにヘコんで呆然としていたプルートは、ホリーから本日何度目かの耳引っ張り攻撃の洗礼に合うことになった。
「ぼーっとしていないで貴方も何か手伝いなさい」
「ごめん、えと…何をすればいい?」
はぁ……、と深く溜め息をついてホリーはプルートにエプロンを手渡した。



「これから鶏肉の香草焼きと野菜のスープを作ろうと思います。私はこの身体ですから色々と不便があるので手伝って下さい」
「勿論、喜んで!何でもやるよ!!」
「そのやる気に期待していますよ」
一緒に料理なんてトキメく設定じゃない!?と喜ぶプルート。
手伝って欲しいと言われて喜ぶなんて弟分の性なのでしょうかと考えるホリー。
相変わらず2人のベクトルは逆方向。



※ ※ ※ ※ ※




「いやいや、こんな所で息子と仲良くお菓子作り体験をするなんて思ってもみませんでしたなぁ」
「そうですね。えと…お父さんはお菓子作りをした事があるんですか?」
「ガキんちょの時はメーデ…母さんと一緒に作ったりもしたし、シイラと組んで仕事してた時は材料の計量とか生地をこねる手伝いをしてたんだよ。アースはもしかして初めて?」
「多分…。お母さんは子供と一緒にお菓子作りするタイプじゃなさそうですし、シイラさんは漏れなくルーが一緒にってなって面倒をかけるのが申し訳ないので…」


メールディアは基本的に1人でサクサクっと作業をしてしまうタイプだ。
だからアースは「子供と一緒にお菓子作りをするタイプじゃなさそう」と思っている。
だが、実際はそんな事はない。
クールな見た目に反して子供が大好きで面倒見がいい。


シイラは普通の人の予想範囲を超えるくらい心が広い。
ルナソルがいくらアイタタタな問題を起こしたとしても、面倒だと思いもしないし腹が立つこともない。
間違ったことは優しく正し、失敗をしたら成功するまで一緒に付き合う。


メールディアもシイラも「一緒にお菓子を作ろう」と提案されれば喜んで同意するだろう。
しかし、気を使い過ぎるアースは余計な事を考え過ぎてそっちの方向に答えが向かない。
性分とはいえこれから改善していかないとなぁ、と思いながらもとりあえずはポンポンと頭を撫でニッコリ笑うと、小麦粉の入った袋をアースに手渡した。
「それじゃ、初お菓子作りを父さんと楽しもう。先ずは小麦粉を計量してくださいな」
「あ、はい」



※ ※ ※ ※ ※




正確に計量しレシピの順序通りに作業をする父と息子。
余計な動きも会話もなく、淡々としている。
ルナソルと一緒に行動している時は彼女に注意を促す為に色々と口出しをするが、それ以外の時は黙って自分の作業をし続けるのが普段のアースだと分かっているからサイの方も何も言わない。
故に沈黙状態が続く。
周りから見れば楽しんでお菓子作りという様子にはまるで見えない……のだが。



「アースとおとしゃん、なにやってるのー?」
「わ、うわぁぁ!!」
「あぁ、ルナ。お豆の皮むきは終わったの?」
「あい、おわりました。ねぇねぇ、アースなにやってるの?おとしゃんといっしょでたのししょだよ」
キラキラとした目で興味津々に尋ねてくるルナソルには「楽しそう」に見えたらしい。



「お父さんとお菓子作ってるんだ」
「おかし?!なんのおかし?!」
「小さいシュークリームだよ。ご飯の後に食べような?」
「しゅーくりむですか。しゅーくりむはふぁふぁであまくておいしいのです。ルーだいすきです!ルーいっぱいたべられます!!」
いっぱい食べちゃうゼ!の決意表明をし、妙に張り切るルナソル。
彼女の為に作っているからそれはそれでいいのだが、小さい割には食いしん坊だったのが大きい身体ではどれだけ食べるのかとアースは内心ぞっとした。



「だったらルナがいっぱい食べれるように頑張っていっぱい作ろうなぁ、アース?」
「あ、はい。えと……」
思いの外早くルナソルの手が空いてしまい、どうしたものかと悩む。
お菓子作りを手伝わせるのは危険だし、かといってホリー達の手伝いに行かせるのはもっと危険だ。
座って待っていてと言っても大人しく待っているわけがない。
かといってルナソルを見張っていたらサイ1人にお菓子作りをさせる事になってしまう。
何が一番周りに被害を与えずに円滑に物事を進められるのか。


「ねぇねぇ、おとしゃん。ルーもてつだいますか?」


アースの結論よりもルナソルの行動の方が早かった。
どう答えるのかとサイを見ると、悩んだ様子もなくニカッと笑って言った。
「アースがルナのために作ってあげたいんだって。だから、ルナはそこで見ていてくれたらアースは嬉しいと思うよ」
「しょなのですか。アースありがと!!ルーね、ここでみてるよ!!」
嘘も何ちゃらとはよく言ったもので。
まんまと言葉を信じたルナソルは大人しくアース達の目の前に座った。
「(お父さんって……スゴい……)」



※ ※ ※ ※ ※




「意外といっては何ですが」
「ん?」
「普段から料理をしているみたいですね。手つきが慣れています」
「まぁ、それなりに。1人暮らししてるからってのもあるけど、結構好きなんだ」
「そうですか」
「……」
「……」
急に黙りこんだホリーが気になりそっと見てみると、彼女は神妙な顔をしてハーブの調合をしていた。
会話終了なだけだったのかと肩を落として野菜切りを再開し始めると、ホリーはポツリとこぼした。



「1人でちゃんとやってるって聞いたら何だか変な気分がします」
「…僕が未だガキなのに1人暮らししてるのがおかしいって事?」
もう何度も子供扱いを受けているので激しい落ち込みはなく困ったように笑うと、ホリーは大きく横に首を振った。
「違います、そういう意味ではありません」
「じゃあ、どういう意味なの?」
調合の手を止めずにホリーは答えた。



「自分でもよく分からないのですが、寂しい気持ちがするんです」
「寂しい……」
「プルートはずっと私の弟だと思っていたのに、1人立ちしてしまったのが寂しいのでしょう。勝手ですよね、すみません」
「……僕は弟じゃないよ」
「手を休めない!」
「ご、ごめん…」
切り終えた野菜を鍋に入れて炒めながら、プルートは呟いた。
「僕は弟じゃない」
「分かってますよ、全然血の繋がりなんてありませんもの」
「そうじゃなくて」
調合し終えたハーブと調味料を鶏肉に混ぜ、一段落ついたところでホリーはプルートを見た。
そして、プルートの表情が酷く暗い事にようやく気がついたのだった。



「どうしたのですか?具合でも悪いのですか?」
「そうじゃなくて、僕が言いたいのは!」
「はい?」
「僕は……」
「話中にごめんね。ホリー、あっちにあるオーブンを借りていい?」
「はい。今、使い方を説明しに行きます。話の途中にすみません、プルート、そこのお肉をあと5分したらフライパンで焼いて下さい。直ぐに戻ってきますから」
「……はい」
お決まりの展開。
今回も状況は変わらず。
それでも長年の思いは揺るがない。
プルート=我慢の子。







「ごちしょしゃまでしたぁ〜。ホリーしゃん、おいしかったです!」
「おいしかったですよ、ホリー」
「おいしかったよ、ホリー」
「プルートがほとんど作ってくれたんですよ。ありがとうございます、プルート」
「いやいや、そんな…」
和やかに夕食が終了したところで、サイとアースはシュー皮とクリームをテーブルの上に置いた。



「それじゃ、食後のデザートにしましょ」
「はい、ルー」
「うわぁぁい!!ありがと!!」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
いつ食べるかどうなるかと観察していた一同は、いくら待っても食べようとしないルナソルに何かあったのかとハラハラしていた。



「ど、どうしたの?」
「食べていいんですよ?」
「ほぇ……みんなもいっしょじゃないと、たべちゃめーなのよ」

『ご飯もおやつも、皆で一緒にいただきますをしてから食べましょうね』

理解不可能な突発的行動を取るくせに、お母さんの言葉にだけは忠実な娘。
納得して全員でシュークリームを手に持つと、「いただきます」の言葉の後に一斉にパクリと食べた。



「しゃくしゃくだぁ!」
「……もう1個食べる?」
「たべるー!!」
手渡されたシュークリームをパクリ。
「おいふぃーねぇ」
「……もう1個食べる?」
「たべるー!!」
同じ会話と動作が繰り返し20回。
そこでルナソルに変化が起こった。



「・・・・・もう1個食べる?」
「たふぇりゅ〜〜!!」
「りゅ?」
ほんのりと頬を赤く染め、とろんとした目になってきている。
語尾も何だか怪しい。



「おいおい…こんなのお酒入ってるかなんて分からないじゃん」
「お酒を被って泥酔するんですよ。お酒が入ってるって分かるくらいの量では多すぎます」
「とはいえ……」
シュークリームを口に入れ慎重に味わってみるが、微かな風味があるくらいで入っていないにも等しい。
それを食べただけで気持ちよくなっているのだから、お酒に弱すぎる。



「あ〜しゅ〜、りゅ〜ねみゅいにょ〜〜」
前回までのような急激な酔いではない為、身体ポカポカで眠くなってしまったようだ。
「お父さん…」
「もう分かったからいいよ。ルナを部屋に連れていってあげて」
「はい。ルー、行こう」
「ふぁい〜、みにゃしゃん〜おやしゅみ〜にゃしゃい〜〜」
元お子様2人が居なくなると、大人達(元を含む)はホッと胸をなでおろした。



「後は明日。まぁ、大丈夫でしょう」
「明日は邪魔が入らなければいいんですけど…」
「悪かったって、本当」
しゅんとするプルート。
ここまで面倒な事になった原因は自分にあると自覚しているらしい。
「いや、俺が甘かったんです。明日は外部からも空間閉鎖をかけるんで、それこそ隕石が降ってきても大丈夫ですよ」
「そうなっちゃ俺達が大丈夫じゃないよねぇ?」
「あぁ、そういえば」
和やかな雰囲気に戻ったところで夕食会終了。
片付けを下の兄のメイプルが引き受けると、上の兄のウィローはサイとホリーを自室へ呼んだ。



※ ※ ※ ※ ※




「単刀直入に言いましょう」
椅子に腰かけると同時にウィローは口を開いた。
「ホリー、中央の仕事を辞めてノースガルドに帰って来なさい」
「何を訳の分からない事を。無理ですし、嫌です」
「……」
同意を求めるようにサイを見上げると、珍しく無表情に何かを考えているかのようだった。



「少し苦労をしましたがサイさん、貴方の事を調べさせて貰いました」
「はぁ、それで、何か分かりましたか?」
「いいえ、特には、何も」
「兄さん何を言ってるんですか、センセイに失礼ですよ!すみません……兄が本当に失礼な事を…」
「いいや、妹思いのいいお兄さんだよ。だって、素性の知れないヤツの傍に大事な妹を置いておけないですもんねぇ?」
「そういう事です。出身も家族も研究院に入るまでの経歴も全く分からない、しかし誰も貴方について詮索しない。これがおかしくない訳がありません。それに、守護竜の名前がサンクタムというのも引っかかります」
「兄さん」
咎めるような妹の声を無視してウィローは話し続けた。



「100年以上前、『地の民殺しの魔女』サンクタムは、多大な被害をノースガルドに残した後に忽然と姿を消したといいます。貴方の守護竜は、もしかして魔女と関係があるか……魔女本人なのではありませんか?」
「……」
「黙っていないで答えて下さい」
「いい加減にして下さい!センセイ、何も話さなくていいですからね!さぁ、もう部屋を出ましょう」
立ち上がろうとしたホリーに、座っていなさいというように肩を小さく叩くとサイは溜息混じりに答えた。
「関係、ありますよ」
「!?」
「せ、センセイ……」
「サンクタムの最初の主が貴方達の言う魔女でした。魔女はもう……とっくの昔に死んでます」
「そうですか……もう1つ質問します。貴方自身は魔女と関係がありますか?」
「お答え出来ません」
即答したサイの表情が一瞬酷く冷たく見えて、ウィローは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。



「何故?」
「さっきご自分でもおっしゃったじゃないですか。俺には血縁者の記録がないんです。物心ついた時には俺は天涯孤独でした。分からないものはお答え出来ませんよ」
「…何処まで信じればよいものやら」
「何も信じなくても構いません。証明できるものがありませんから」
ウィローは非常に優秀な薬師であり生物学の研究者でもある。
ノースガルドから出る事はほとんどないが、中央にも名前が知られていて人脈も意外にあることから大抵の情報は調べようと思えば調べられる。
例えば赤の他人の個人情報であっても。



いくら個人の能力を重視する研究院でも身元不明の人間を置くことはない。
それ故に、情報が少なすぎるのにそれでよしとされているサイは不可解であり不気味であった。
少なからず魔女と関係ありそうだというのも無視できない。
そんな人物だと分かった以上、大事な妹を傍に置いておくわけにはいかない。
そう思っていても妹自身が頑なにサイから離れる事を拒んでいる。



普段は冷静で沈着な行動をとるウィローが、焦り混乱し答えを見出せないでいた。
妹を守るにはどうすればいいのか。
どうすれば……?


「いい加減にしろって言ってるでしょうがぁ!!」


バーンと机を叩いて、ホリーは全身から怒りを発した。
「ホリー、私は貴女の為を思って…」
「私の為ですか?だったらこんな会話は即終了して下さい。センセイは私達の為にわざわざノースガルドまで来て下さったのに不快な思いをさせて失礼にも程があります。これ以上の非礼は許せません。明日、全てが終わったらもう一生……」
「はいはい、ストップ。怒らないで怒らないで」
「むーむー!!」
最後まで言わせるべきではないと思い、サイはホリーの口を塞いだ。
兄に対しての激しい怒りが徐々に鎮火していくと、ホリーは額を押さえて黙り込んでしまった。



「……分かりました、色々とすみませんでした。勝手な話ですが、今の話はお互い忘れる事にしましょう」
これ以上の話は誰の利益にもならないとウィローは判断した。
ホリーの強い怒りに負けたというのもあるが。
「それがいいですね」
「これからもホリーを宜しくお願いします」
「はい、それでは失礼します」
「ホリー……」
「……」
兄の顔を見ることなく、ホリーは下を向いてサイと共に部屋を出て行った。



※ ※ ※ ※ ※




「本当にすみませんでした。センセイには何とお詫びすればいいのか…」
「気にしないでいいよ、俺も気にしてないし。俺の方こそ、怒らせてしまってごめん。感情的になっていたとはいえ、お兄さんにもホリーにも辛い事を言わせるところだったね」
「本当に、本当に…すみません…」
ホリーの頭を撫でながら、サイは腰をかがめて俯く彼女の顔をのぞきこんだ。



「あのさ、ホリーもお兄さんが聞いてきた事を本当は知りたいんだよね?」
「わ、私は……」
吸い込まれそうに澄んだ黒い瞳は、どんなに誤魔化そうとしても本音の部分を引き出してしまう。
いけないとは思っていても、心に引っかかっているものを。
「いいんだよ。疑問に思うのは悪いことじゃない。いつもそう言ってるでしょ?」
「はい……」
頷いた拍子に涙が落ちそうになり、ホリーはグッと下唇を噛んだ。



「仕事のことだったら何でも教えてあげるし答えてあげるよ。だけどね、この事に関しては嘘はつかないけれど全てを話せない。何ていうか……俺自身の問題で」
「だったら尚更、知らなくていいです」
「本当に?」
「本当です」
「子供が嘘ついちゃダメだぞ?」
「こ…?!子供じゃありませんっ!!」
かぁっと赤くなって怒ると、サイは宥めるように数回背中を撫で、そして小さく微笑んだ。



「知らなくていいなんて思う研究者はいないよね?だったら調べてごらん。知らなければよかったと思う答えになるかもしれない。それでも答えに向き合う気持ちがあるなら、その時は俺もできる限りの対応をするよ」
「私は……」
「さぁ、お子様はもうお休みの時間でしょ?明日になったら全部終わるからさ、今日はもう寝てしまいなさい」
「………はい、お休みなさい」
ホリーの表情が穏やかに戻ったのを確認すると、サイは優しく微笑みかけて外へと出て行った。





「大丈夫か?さっきスゴイ声が聞こえたけど…」
「……」
入れ替わりにやって来たプルートの言葉に反応せず、ホリーはじっと考え込んでいた。


自分やプルートが知らないノースガルドの秘密。
サイが話せないという事。
知らなくてもいいのかもしれない。
しかし、僅かながらでも関わってしまった以上、もう、知らないままでは済まされない。



「……お願いがあります」
「え?僕に??」
キョロキョロと周りを見ても自分しか居ないのが分かると、プルートは首をひねった。
「はい、貴方に頼みたいのです」
真剣な顔で頷くホリーに、プルートも背筋を正して答えた。
「うん、何?」
「私と一緒にサンクタムについて調べて欲しいのです。魔女と呼ばれる彼女は何者だったのか、ノースガルドで何があったのか、そして、何故、私達の世代はそれを知らないのか……真実を知りたいのです。私の我儘に巻き込む形になってしまうのですが、お願いします」
「いいよ」



あっさりと承諾したプルートを訝しげに見ると、ホリーは手を伸ばして彼の耳を引っ張った。
「い、痛っ、いだだ……っっ!何で引っ張るかな……」
「あまりにも軽く返されたので」
「軽くなんて答えてないよ。僕だってその事は気になってたし、それに、ホリーのお願いだもの。聞かないわけないじゃない」
「それは……」
「勘違いしないで、僕がホリーの弟分だからって訳じゃないから。っていうか、弟分でいるつもりはないから」
「はぁ……よく分かりませんがありがとうございます」
「分かんないのか……まぁ、今はいいよ。さ、部屋に行って休もう。明日は明日で忙しいんだろうからさ」
「はい」







そこは、過去に何らかの建築物があったとは思えない草地だった。
「形あるものは消えてなくなるのにな……」
その場にしゃがみこむサイの髪を、ふわりと柔らかな風が撫でていく。
何度も何度も、小さな子供をあやすように。
「大丈夫……大丈夫……あの時とは……違う……」









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