おっきくなっちゃった⇔小さくなりました(7)








「仕事終わったよ、龍主〜♪」
長い新緑の髪をピョコピョコと跳ねさせて、 喜々として執務室から水鏡の間へ走って来た風龍王ジェイドは、入口で襟首をむんずとつかまれた。
「入室禁止だ」
黄色の瞳をギラリと光らせ浅黒い肌の女が短く言う。
子供の姿をしているが仮にも風龍の王であり、仮にも竜界でもトップクラスの戦闘力を持つジェイドを恐れも敬いもしない彼女は・・・・・
「サンクタム・・・・・何で邪魔するんだよぉ!!」



地竜賢サンクタム。
竜界の知識とも言える才女であり、竜主交代という『異例』を行った竜。
言葉が少なくクール&ドライな性格で、「サンクタムが笑うと夏に大雪が降る」とか「サンクタムには表情筋がない」と言われているくらい無愛想で無表情。
ただ、ジェイドに関してだけは言葉より先に拳・・・否、手が出てしまう所がある。
現在も又、その状況。



「私の竜主がお休みなのだ。起こしたら・・・・・・・・・・潰す・・・・・」
ジェイドを捕まえている力が、話の途中の段階で既に木の実が粉になりリンゴがジュースになってしまう位に強くなっている。
普通の生き物だったら話が終わっている頃には潰されているところだ。
「アイツが来てんのか・・・・・・って、ぐぇっ・・・・・・・・」
「アイツとはドイツだ?失礼な事を言うと・・・・・」
ジェイドの顔が赤くなり青くなり黒く変わろうとしたその時。



「あらあら、サンクタム。そんなに強く締めたらジェイドが苦しくなってしまうわ?」
既に「苦」が全身に行き渡っているのだが。
「アクエリア?」
腰までの長さのふわふわとした水色の髪、マシュマロのように柔らかく白い肌、桜色の頬と珊瑚色の唇。
藍玉の大きな瞳は宝石のように美しく、常に優しく微笑んでいる。
全てを愛し全てに愛される慈愛の龍、水龍姫アクエリア。
彼女から溢れ出る癒しオーラによってサンクタムの怪力が僅かに弱まった一瞬の隙を見てアクエリアに抱きつくジェイド。
「あーぐーえーりーあぁぁぁぁぁぁぁぁんーーーー!!!」
「あらあら、甘えん坊さんねぇ」
アクエリアの豊かな胸に顔を埋めてウソ泣きをするジェイド。
仮にも風龍の王。



「アクエリア、エロガキを甘やかすのはよくない」
「エロガキじゃないやい!!」
「ほう、エロガキじゃなければタダのエロだな」
アクエリアからジェイドを引きはがすと、ぺいっと投げ捨てる緋色の髪をした長身の男。
端正な顔つきをしているが、こめかみにピキピキと青筋が浮いている。
「ムッツリスケベにエロとか言われたくないっつの!!」
「私はムッツリではない!!」
ムキになる所がすごく怪しい。



「あらあら、いい所に来てくれたわね、エアリー」
「何でしょう、アクエリア様」
ほわほわふわわ〜っと小花を散らせながらアクエリアが話しかけると、男・・・・・エアリーはピッと背筋を伸ばしてキリリとした顔で彼女に振り返った。
火竜将エアリー。
右腕を武器に変化させる特殊能力を持ち、剣を扱わせれば竜界一の腕前。
普段は戦闘系とは思えない程に物腰柔らかだが、キレると反動が物凄く激しい。
加えて言うなら水龍姫の恋人(下僕)。



「エアリーとジェイドにお願いがあるの」
「はい」
「何、何、なぁに?!」
恋人がいようと何だろうとアクエリア大好き!!を公言しているジェイドは、大張り切りでアクエリアの言葉を待った。
「あのね、」
「はい」
「うん」
「私の城で2人仲良く遊んでいてちょうだい?」
小首を傾げて可愛らしくお願い。
竹取物語的無理難題でも叶えたくなるような愛らしさ。
だが。



「アクエリア様・・・・・?」
「どういう事・・・・・カナ・・・・?」
「此処でじゃれて遊んでは迷惑でしょう?私の城だったらとっても丈夫だもの、2人がどれだけ暴れても何て事ないわ、ね?」
要約すれば「此処から出て行け(命令)」である。
拒否権はない。
顔色悪くその場を去って行く2人の男を見送ると、何事もなかったかのようにサンクタムに微笑むアクエリア。



「今の騒ぎの間も部屋の中には影響がないから安心してね。扉の向こうに守護壁張っておいたから」
「すまん・・・・・」
「サンクタム、心配でしょうけど今はジェイドの大事な龍主にお任せましょう?」
「いや・・・・・・・私は・・・・・・」
目を逸らし言いにくそうに言葉が淀む様を見ると、何も言わずにアクエリアはその場に座り込んだ。
水龍の姫ともあろう彼女が、冷たく硬い床の上に。
「それでは貴女の大事な竜主が目覚めるまで此処で一緒に待っていましょう。立っていたら疲れてしまうもの、サンクタムも座ったら?」
「あ・・・・・・あぁ」







「ホリーしゃん・・・・・」
「何ですか?」
「ルー、またわるいことしちゃったのかなぁ?アースどうしておこってるのかなぁ?」
丈の長いローブ+フードをかぶる+トボトボ歩く=ドヨドヨお化けちゃん
その式が導き出されるくらい元気のないルナソル。
こんな状態は滅多に見られない。
こんな状態を彼女の父親が見たら励ますために最大級の甘やかしモードになること間違いなし。



「怒ってなんかいませんよ」
「でも、ルーのてイヤってしたもん。ルーのことイヤなんだぁ・・・・」
鼻をスンスンさせながらイジイジと話すルナソル。
こんな状態は滅多に見られない。
こんな状態を彼女の父親が見たら慰めるために最大級のスキンシップをすること間違いなし。




トボトボ、イジイジ、トボトボ、イジイジ・・・・・




「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・何か話せよなぁ?」
「ルーが言ってたでしょう。僕はあまり話さないんです」
お互いに仏頂面で仲がよさそうでもないのに手を繋いで黙々と歩く少年2人。
嫌なら手を離せばいいのに変に気まじめな2人。
新しいカップルの形なのか?と変な勘ぐりをされそうなものだ。



「ルーってさぁ、アンタの事をスゴイって言うんだ。それがルーにとって誇れる事らしいんだ」
ボソボソっとした声で急にプルートが話し始める。
「はぁ・・・・・」
アースもそれは知っている事だ。
そして、自分の事でもないのに何でそんなに得意そうに話すんだろう?と常々思っていた。
「どうしてか分かるか?」
「いえ・・・・・」
だよな・・・・・と呟いて、プルートは話し始めた。
「・・・・・周りのヤツらが立派で自分は何やってもダメな時ってさ、すっげぇ情けなくなったり惨めに思うんだよな。引き合いに出される相手が両親だったら特に」



ルナソルの両親は、火と水属性のそれぞれで頂点に立つ神のランクの能力者だ。
魔法の能力以外では、父親は剣術においては国で一番の実力を持っているし母親は呪歌の稀少な歌い手という一面も持っている。
それだけではない。
父親は魔導院では家柄を抜きにして実力で上級職についている。
母親は治療院では能力の割に役職が低いが、誰にでも平等にそして迅速に対応してくれる事から主に能力を持たない民達に非常に尊敬されている。



「ルーのご両親は立派な方達ですが、誰もルーと比較なんてしません。ルーが気にすること・・・・・」
公園デート時、自分の魔法を見たルナソルが落ち込んだのを思い出しアースは口ごもった。
あの時はそれ程深く考えなかったけれど、ルナソルが落ち込んだのは自分のせいだったのではないだろうか?
だろうか?じゃない、きっと、多分・・・・・間違いなく、自分のせいだ。



4大属性の魔法を何も使えないルナソル。
4大属性の魔法を全て使えるアース。
不器用で何をするにも失敗ばかり、本人も思ってもみなかった事件ばかり起こすルナソル。
1度習った事は器用にこなし、人に迷惑をほとんどかけた事がないアース。
同じ神の能力者の子供で、同じ白竜なのにあまりに能力に差がある2人。



ルナソルが自分を「すごいね」って言ってくれる時、彼女はいつもどんな気持ちだったのだろう?
自分はルナソルの劣等感を浮き彫りにしていたのではないだろうか?
今までの自分を振り返り自己嫌悪。
真面目な分、考え考えて落ちて行く・・・・・




ドヨドヨ、ドヨドヨ、ドヨドヨ、ドヨドヨ・・・・・



※ ※ ※ ※ ※




ホリーは少し困っていた。



実はアースが何故あんな態度をとったのか分からなかったのだ。
普段のアースは非常に穏やかな性格で、声を荒げたりましてやルナソルを小突くなんて絶対にしない。
なのに何故?
あの時、何があったのか?
思い出しても特別何があったのか見当がつかない。



アースの様子は少しおかしかった。
いつから?
どうして?
自分が目を離した隙にアースに何か起きたのだろうか?



実際の原因は「ヤキモチ」なのだが、ホリーの頭の中には全くそれが候補に上がってくる事がなかった。
恋愛経験が少ないホリーは、そっち方面に関してイマイチ鈍い部分があるのだ。
少ない割には妻子持ちの上司に対して淡い恋心を持つというヘビーな恋愛をしているが・・・・・



手を繋いで横を歩いている昨日の朝までは幼女だった美女を見上げる。
フードと長い髪でほとんど隠れているが、綺麗な顔が鬱々と沈んでいる。
普段は可愛らしい笑顔を絶やさない娘さんなのに、今は明るさの欠片も見当たらない。
「ルナソルさん、あまり落ち込まないで下さい。さっきの事は絶対にルナソルさんの事が嫌でやった事ではないですよ。ルナソルさんとアースさんはいつもあんなに仲がいいんですもの。きっと、何か考え事をしていたとか・・・・・そうですよ、きっと」
「なかよしだったらイヤってしないです。なかよしだったらめーってしないです」
少し拗ねた口調でルナソルが呟く。



「・・・・・・それは違いますよ」
立ち止ってしっかりと両手で手を握って、涙が少し浮かんだ紫水晶の瞳をじっと見つめて言葉を続ける。
「仲良しでも喧嘩をする時はあります。逆に喧嘩をしないから仲良しっていう訳でもありません。喧嘩しても、ごめんねって言ったら許してあげて、又遊んだりお話出来るのが仲良しなんです。私が見ていた限りでは先ほどの事はアースさんが悪かったと思います。だから、後できっとアースさんは「ごめんね」ってルナソルさんに言ってくれると思います。そうしたら、ルナソルさんは「いいよ」って言ってあげればいいんですよ」
「で、でもね、「ごめんね」いってくれなかったらどうするですか?ずっとあしょべないですか?ずっとはなしぇないですか?ルーいやです、しょんなのいやです」
じわぁぁと涙が零れ落ちそうになったのを見て、慌てて小さな腕をいっぱいに広げてルナソル(大)を抱きしめる。



「あ、あのですね、えぇと、えぇと・・・・・ルナソルさんはその・・・・・アースさんに怒ってはいないのですよね?一応念のため確認ですが」
「なんでおこるですか?」
きょとんとした顔で答える様子からその心配は全くなかったようだ。
「それでは、ルナソルさんの方から「怒ってないよ、大丈夫だよ」って言ってみたらどうでしょう。ひょっとしたらアースさんは「ごめんね」のきっかけをつかめないのかもしれませんから、ね?」
「ほぇ・・・・・・・・・・・」
今にも零れ落ちそうになっていた涙がしゅるるるる〜と戻っていく。
「ルナ・・・・・ソル・・・・・さん?」
「あい!!ルーはおこってないのです、ルーはだいじょぶなのです。アースにいってくるですよ!!」
ぴょこんと頷くとズルズルズルズル・・・・・・と少年2人組の方へ近づいていくお化けちゃん・・・・・否、ルナソル。
基本的には前向きゴーゴーな性格。
ホリーはホッと小さく安堵の息を吐くと、ルナソルの後をチョコチョコとついていった。







サンクタムは既にこの世を去っているかつての主を思い出していた。
自分勝手で誰にも何にも縛られない生き方をしていた最強の竜の心を動かした唯一の女性。
幼い顔に大人びた表情がアンバランスで不思議な魅力はあるが、絶世の美女ではないし妖艶な雰囲気もない。
ただただ、優しく穏やかで控えめな性格の女性だった。



特殊な能力を持っているが故に同種族の者達に迫害され、その能力を利用しようとする者達に監禁され酷い目にあってきたというのに人を恨む事を決してしなかった。
竜主として自分に命令してくれればその痛みを何倍にもして返せたのに、彼女はそれを望まなかった。



「お前とリク様は似ているな」
「そう?嬉しいわ」
冷たい床に座って暫くの後、最初に沈黙を破ったのはサンクタムの方だった。
「お前もリク様も、どうしてそこまで人に優しくなれるのだろうな。私には・・・・・理解できん」
「ソーシも優しいわ、とても」
時々、2人だけになると見た目も性格も正反対の友人はサンクタムになる前の名前を呼ぶ。
主を持たないただの竜だった時の名前を。



「ジェイド辺りが聞いたら腹を抱えて笑うな。それか、全否定するだろう」
「ジェイドは未だ子供だから分からないだけよ」
見た目は子供だが実際の年齢差は大してない。
精神的なものだろうと理解をし、サンクタムは苦笑する。
「それでは一生かかっても分かってもらえんな」
「うふふっ、そうかもしれないわね?」
再び沈黙が訪れる。
アクエリアは隣に座る友人の表情を見て、聞こえないように小さく溜息をついた。



アクエリアが心と身体を深く傷つけて長い眠りについていた間、サンクタムはリクの後を追う為に命を断とうとした事がある。
命は取り留めたものの精神状態が不安定になり回復に相当の時間がかかった。
その間に、サンクタムの今の竜主・・・・・サイは研究材料として物の扱いを受け、大人となった今でも消えないトラウマを抱える事になってしまった。



サンクタムは過去の自分を悔いている。
アクエリアも大事な時に友人を助けられなかった自分を悔いている。
悔やんでも悔やんでも何が変わるわけでもない。
時は常に一方向に一定の速度で流れ、戻る事は叶わない。
一部の例外を除いては。



「私は、無力だ」
「・・・・・」
アクエリアは何も言わず、ただ白く細い手を女性にしては無骨な手に重ねた。
きっとどんな慰めの言葉も励ましの言葉も今はサンクタムの心に届かない。
「私は・・・・・・・・無力だ・・・・・」



彼女の竜主は、未だ、目覚めない。









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