おっきくなっちゃった⇔小さくなりました(5)








「ほぇー・・・・・」
「おはよ」
「おぁよー、アース。あれぇ?ここどこぉ?」
少し硬めのベッド、ラベンダーの香りがする枕、本と薬瓶で埋め尽くされた棚。
お昼寝から目覚めたルナソルの頭の中は「?」マークで埋め尽くされた。



「ホリーさんのお兄さんのお家だよ」
「ホリーしゃんのぉ〜おにぃしゃんのぉ〜おうち〜〜?」
ルナソルの頭の中で記憶がポコポコと出たり消えたり、消えたり出たりする。
「大丈夫?その・・・・・身体とか・・・・・」
「からだぁ?」
首を傾げて自分の身体を見るルナソル。



「うわぁ!めるしゃんみたいだ!!ほらほら、アースみてみて!!」
「見なくていい」
「ふぁふぁだよ、しゃわってみて!!」
「触らない!!」
「ぶー!!!」
「ぶーじゃないよ全く。はぁ・・・・・・」
成体化したルナソルは、キュッとしてぼいんぼいんでウッフンの「しぇくしー」な身体。
本人はその身体が周囲に与える影響を全然理解していない。
お陰さまでアースの溜息回数と頭痛の種がドンドンドンドンっと増えていく。



「ルー、おとななったの?」
「見た目はね」
「ほぇー・・・・・」
ほぇほぇ言いながら立ちあがってウロウロとベッドの周りを歩いてみたり、鏡の中の自分をマジマジと見てみたり理解不能な行動を取り始めるルナソル。
「どう・・・・・したの?何か気になる事があるの?」
そのあまりに不可解な行動に不安を抱くのは仕方ない。



「ルー、ほんとおとななのかなぁ?」
「見た目はって言ったでしょう?中身はちっちゃいままだよ」
中身も大人でこんな話し方だったらたまったものじゃない。
「しょっか・・・・・ほんとはおとなじゃないんだ・・・・・」
ポツリと残念そうに呟く様子が少し気になったが、アースはルナソルの乱れまくってる服装や髪を整えるのに専念した。







「う、うわぁ?!な・・・・・誰だよっ?!」
「ルーはるなしょるですよ?」
「子供達が休んでいる」という部屋から出てきた美女に衝撃を受けるプルート。
そう、これが普通の人の反応。



「僕はアースです。驚かせてすみません、見た目はこんなですが僕達は5歳児だと思って下さい。・・・・・無茶な話ですけど」
銀髪の美女の横に並ぶ金に近い銀髪の少年。
さっきの男の子供ってコイツかぁ!と思い、つい睨むような目つきになってしまう。
「おにしゃん、おこっちゃったよ・・・・・なんで?」
「え・・・・・うん・・・・・・」
アースがサイの息子だから睨まれてるなんて分かるわけもない子供達。
分からないけど、もしかしてひょっとして・・・・・



2人の頭の片隅にぼやーんと残る記憶。
窓から入ってきた男の人が小さくなったような・・・・・気が・・・・・



「ルナソルさん身体はどうですか?頭が痛かったりしませんか?」
「ホリーしゃん・・・・・」
「あぁ、すみません。私の服では小さかったみたいですね。胸が苦しくありませんか?」
トコトコと近づいてきたホリー(小)にひしっと抱きつくルナソル(大)。
非常におかしな光景。



「どうしたのですか?何処か具合が悪いのですか?」
「・・・・・・しょのおにしゃん、ルーわるいことしたからおこっちゃったの。ごめんなしゃいしたらゆるしてくれる?」
「僕があの時に驚かなかったら・・・・・。僕が悪いんです、ルーは悪くありません!!」
綺麗な顔を曇らせるルナソルとルナソルを必死に守ろうと弁護するアース。
そんな2人を見て、ホリーは暫く黙ると優しく頭を撫でて声を掛けた。
「・・・・・・・この子はルナソルさんに怒ってなんかいませんよ。さぁ、2人共、あっちに行って一緒におやつを食べましょう。私の下のお兄さんはクッキーを焼くのが上手なんですよ」
2人の手を握りプルートに背中を向けるホリー。
「ホリー・・・・」
完全に無視されたことにショックを受けて声を掛けると、チラッとプルートに目を向け一言。



「見損ないました。子供達のせいにするなんて、最低です」



最低です
最低です
最低ですぅぅぅ・・・・







「流石の貴方でも、あぁなってしまうとは予想できなかったでしょ?」
「まぁね」
「とりあえず、ルナちゃんの大変身が「外」で起きなくてよかったわね。愚弟が大暴れして周囲に多大な迷惑をかけちゃうもの」
「ソウデスネ・・・・・」
情報や人の移動に規制が厳しいノースガルドには、外からの『探索』魔法が効かない。
だからこそ、わざわざメールディアは竜界まで来て子供達の様子を見ていたわけだが。
因みにシイラも竜の血が濃いので竜界に来ることが出来る。
しかしシイラまで来てしまうと、1人残されたファルシエールが暴走したり爆発したり常識では考えつかない奇怪な行動を取ってみたり・・・・・兎に角、予想出来ることは全て最悪なので「子供達の無事を祈りつつファルシエールの様子を見ている」という特別任務をシイラは与えられたのだった。



「さてさて、どうしましょうか」
「ルナが成体化しちゃったからなぁ。精神は子供のままだけど、体質が変わってる可能性があるんだよな」
「だったら、お酒の耐性検査をしておいた方がいいわね。次はお酒を被るんじゃなくて飲む方に変える事になるかもしれないから」
「さっすが、その通り。ホリーもいずれ気付くと思うから帰ったら何種類かお酒の入ったお菓子とか用意されてるんじゃないかな?大まかだけど、判定するにはやらないよりいいから」
「・・・・・・それで、私は何をすればいいのかしら?」
言い方はそっけないが声は優しい。
両手を広げて全身でサイを抱きしめると、メールディアはサイの背中を子供をあやすように静かに撫でた。



「少しの時間だけど休んで。私が此処に居るから」
「・・・・・・・うん」
苦しそうに眉をしかめると、サイは目を閉じ床に膝をついた。
「大丈夫。私が傍に居る限り、夢の中だって守ってあげる」
「・・・・・・・うん」



「これからの事をちゃんと話して相談したいから」サイはメールディアの元へ来たのではない。
「これからすべき事はホリーもいずれ気付くから」サイはメールディアの元へ来たのだ。
人には決して見せないが、サイの精神状態はかなり疲弊していた。
「大丈夫・・・・・」
自分にも言い聞かせるようにメールディアは繰り返す。
サイの心の傷はあまりに深い。
記憶に刻み込まれ、決して忘れる事の出来ない悪夢のような過去。



「大丈夫・・・・・」
苦しむと分かっていたから、本当ならばノースガルドに行く事は何をしても止めたかった。
だが、上位能力者の制御が出来るのはサイ以外いないとメールディアも分かっていた。
「貴方が皆を守ってくれるから、私は貴方を守る」
少し硬めの黒緑色の髪に指を通して、メールディアは自分の胸にサイの頭を抱き寄せた。
「・・・・・・」
メールディアの心音を聞くと、サイはガクリと力を抜き、息も動きもほとんどしない特有の眠りについた。







プルートは落ち込んでいた。



海よりも深く、深く、深く落ち込んでいた。
ホリーが言い放った「最低」という言葉は、彼のピュアピュアハートをガツンとえぐり取って塩を揉みこんで海風にさらしている状態に陥れたのだ。



「ホリー・・・・・」



今さら敢えて言わなくても分かる事だが、プルートはホリーが大好きだ。
LIKEではなくLOVEの意味で。



「ホリー・・・・・(涙)」



言葉にも傷付いたが、あの妻子持ち(名前を覚える気はないらしい)への表情にも傷付いていた。
あれは恋するオ・ン・ナ・ノ・コ★以外の何者でもない。
プルートが記憶する限り、ホリーはあんな表情をしたことがない。



「ラブレター?誰宛てに出すのか分かりませんが文法が間違っている部分は赤で訂正しておきました。綴りも幾つか間違っていたので書きなおした方がいいですよ」
・・・・・・と、本気で言うし、
「付き合って欲しい?すみません、私、これから薬草を採りに行かなくてはならないので、他の人にお付き合いをお願いして頂けますか?」
・・・・・・と、素で返す位にホリーと恋愛は結びつかない。
化粧っ気もないし機能性重視の地味な服しか着ない。
折角の可愛い容姿を全く有効活用していない。
それが、プルートの知ってるホリーだった。
なのに、それなのに。



5年前に久しぶりに帰ってきた時には冗談みたいに皆が驚いた。
化粧って生活する上で何の意味があるんですか?と言ってたはずなのに、薄くだけどちゃんとお化粧をしてるし!!
パステルカラーって汚れが目立つから嫌なんですよねと言ってたはずなのに、薄いグリーンの裾がひらひらっとしたワンピース着てるし!!
ペンダントって首がこりますよね?と言ってたはずなのに、大事そうにペンダントを付けてるし!!(クリスマス・昼でサイがプレゼントした物)
「ホリーちゃんもお年頃なのねぇ」とかオバちゃんは言うし、「都会で垢抜けたんじゃないか」とかオジちゃんは言うし、若者たちは色めき立つし(兄2人がしっかりガード)・・・・・まぁ、そんなちょっとした話題の人になっていたのだ。



「はぁ・・・・・・アイツのせいかよぉ・・・・・・」
お年頃でも垢抜けたでもなく、恋するオトメだからホリーは変わったのだ。
アイツ(妻子持ち)はどんな奴だった?
もやもやっとしながら思い出す。



・最初は金髪金目だったのに気がついたら黒髪黒目になってた変な奴!
・背は高かった。僕だって成体化したらそれなりに高いんだけどさっ!
・顔はまぁ・・・・・個人の好みじゃん!一般的には爽やか系の男前かもしれないけど?
・ランクは見たことない形の痣だったけど・・・・・まさか・・・・・地聖神!?
・そういや、研究院で薬学植物学の主任のホリーを「助手」にしてるんだっけ?
・っていうかさ、ホリーのあの「全・信・頼」の目は何?!



「・・・・・・・・」
幼い頃から「ホリー大好き!!」なので彼女がいた試しがないが、プルートは結構モテる。
顔は少し女顔だが、整った顔立ちをしている。
ランクは地聖司で、家は有名な薬師の家系。
口調は乱暴な所があるが、優しくて結構お人好し。
顔・性格・資産の3つのモテ要素は兼ね備えている。
だがしかし!
プルートはズーーーーーン!と『敗 北』の2文字が頭上に降ってくる気がした。
妻子持ちに。




え?ホリーって頼りになる系が好きなわけ?
あ、そうなんだ、そうだったんだ。
それじゃ弟にしか見られてない僕ってば射程外って感じ?
寧ろウザいどっか行けって感じ?
そうだよね、そうですよね。
何か大事な魔法の発動中に邪魔してしまいましたものね。
ホント、「最低」ですよね。
うん、あはははは・・・・・・




人生後ろ向き。
背中に哀愁。
もう、何ていうか・・・・・・・かける言葉なし。







ルナソルはぽえーんとしていた。



「ホリーしゃん、なにかてつだいますか?」
「大丈夫ですよ、ルナソルさんは座って休んでいて下さい」
優しく微笑んで目の前に美味しいクッキーとミルクを置いてくれるホリー。
「アース、ルーも・・・・・」
「ルーは動かないでいて」
動かないで下さいという懇願を込めてルナソルに言い聞かせるとホリーの手伝いに行ってしまうアース。
兄2人もそれぞれ忙しそうに何かをしている。
ルナソルは大人しく座っているのが仕事らしい。
「ぶぅ・・・・・」
手持ちブタさん否、手持ち無沙汰。



「・・・・・・・ほぇ?」
窓の外でボーーーーっと雲を眺めているプルートを発見。



みんなでおやつたべてるとき、おにしゃんいなかった。
おなかすいてないかな?
くっきーあげたらうれしいかな?
くっきーおいしかったからもらったらうれしいよね!
ルーにおこってないかな?
おこってたらごめんなしゃいしなくちゃ!



思いついたら即実行。
それがルナソル。
クッキーの皿を持つとトトト・・・・・とプルートの元へと移動を開始した。







「おにしゃん」
「・・・・・・」
ぼーーーっとするプルート。
流れる雲は何処に行くのかしらん?等という詩人的な事は考えていない。
「おにしゃん?」
「・・・・・・」
あれ?あの雲ってばホリーの顔に似てない?
頭の中はホリーでいっぱい。
涙もいっぱい。



「おにしゃん、どしたの?」
「・・・・・・・・わぁ?!」
ぐるんと正面から間近でルナソルに声をかけられたプルートは、喉から魂が出る程に驚いた。
究極の美は時として凶器。
「ひぁ・・・・・おどかしてごめんなしゃい」
「あ、あぁ・・・・・・えーと・・・・・・」
「ルーはるなしょるです」
「あぁ、そうだっけ」
いくらホリー大好きだっていってもプルートは普通の健全なる成人男子。
間近に超ウッフンな美女がいたら顔は赤くなるし心臓バクバクになってしまう。



「あのね、くっきーもってきたのです。おいしいのです。たべますか?」
「別に・・・・・いらない・・・・・・・・・いぃ?!」
いらないと言われるとは思ってなかったし、いらないと言われた時のシミュレーションをしていなかったので超ショック!!
顔面蒼白でがびーんとした顔の目の前の超ウッフン美女がクッキーの皿を地面に落としそうになった所をスレスレで止め、あたふたとするプルート。
彼の頭の中にホリーの声で「最低」とリフレインされる。



「い、いるいる。すっごい、丁度食べたかったんだ!!」
「ほんとですか?しょれはよかったのです!!」
曇り空に太陽が顔をのぞかせるように、あっという間にぱぁぁぁっとした笑顔に変わるルナソル。
常人には堪え難いキラキラスマイルにくらくらしながら、プルートはルナソルに自分の横に座るようにお願いをした。
真っ正面からマトモに見るのは、もう限界だったらしい。



「ねぇ、おにしゃん」
「ん?」
「おにしゃん、ルーにおこってるですか?」
「・・・・・・いや、怒ってないよ。僕が悪かったんだろ、あれは」
プルートも悪気があったわけでないし何が起きたのかもよく分かっていないが、流石に子供のせいだとは思っていないし怒ってもいなかった。



「しょなのですか?!おこってないですか?!」
「うん」
「でも、えと、ちっちゃくしちゃってごめんなしゃい」
「いいよ、もう。アンタ・・・・・じゃなくてルー?ルナショル?」
「ルーはるなしょるです」
「まぁいいや、ルーでいい?」
「あい」
「ルーとあの坊やが何とかしてくれんだろ?だからまぁ、暫くは久しぶりに子供の身体でノンビリするよ」
お互いに顔を合わせてニコニコっと笑う。
親密度アップ。



「おにしゃんのなまえはなにいうですか?」
「プルートだよ」
「ぷるーとしゃんですか。るなしょるをルーっていうからぷーしゃんっていっていいですか」
「ぷーしゃん・・・・・」
何だか黄色いぬいぐるみ的クマみたいな呼ばれ方である。



「だめですか?」
「別にいいよ」
「えへへ・・・・・ぷーしゃん、なかよしです」
「あぁ」
ガッツリ友情の握手。
味噌っかす同士に生まれた熱い友情。
意味とか理由は謎。







「ルー、ルー?!」
振り返るとそこにはルナソルがぽえーんとした様子でクッキーをもぐもぐ食べているはずだった。
だがしかし。
ルナソルの座っていた椅子は空席。
テーブルの上にはミルクの入ったカップだけがポツーンと残されている。



「ルナソルさん?!・・・・・あ、あそこにいらっしゃいました」
ホッとした声でホリーが指差すのは窓の向こう。
「ルー・・・・・」
「ルナソルさんとプルート、仲良くなったようですね。よかった・・・・・」
何があったのかは分からないが笑顔で、何の共通の話題があるのか不明だが楽しそうに話す2人。



「・・・・・・」
ズキンと何かが刺さるような痛みを覚え胸を押さえるアース。
自分の知らない人とルナソルが話している。
自分の知らない人にルナソルが笑っている。
それが痛みの原因だとアースは未だ気付いていなかった。









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