おっきくなっちゃった⇔小さくなりました(4)








「ほぇー・・・・・」
「おはよ」
「おぁよー、アース。あれぇ?ここどこぉ?」
少し硬めのベッド、ラベンダーの香りがする枕、本と薬瓶で埋め尽くされた棚。
お昼寝から目覚めたルナソルの頭の中は「?」マークで埋め尽くされた。



「ホリーさんのお兄さんのお家だよ」
「ホリーしゃんのぉ〜おにぃしゃんのぉ〜おうち〜〜?」
「そう、皆待っててくれてるからちゃんとご挨拶しに行こうね」
「あい〜」
寝ぼけた顔を濡れタオルで拭き、わしゃわしゃになってしまった髪を梳いてあげるアース。
保育士レベルだけでなく執事レベルもMAXである。







「ホリーしゃんのおにいしゃん、はじめましてこんにちは。ルーは、るなしょるです。よろしくおねがします」
「私はウィローです」
「俺はメイプル、よろしく」
ほんわかほわわわわ〜んという音とキラキラの小花が飛び散る特殊効果を発生させる自己紹介にも、至って 普通に対応するホリーの兄2人。
グリーンヘイズ家の者には究極メロメロオーラが通用しないらしい。



「それじゃ、全員揃ったって事でちゃんと話をしようか」
アースとホリーの間にルナソルを座らせると、サイは事件について1から説明をした。
◇ルナソルとアースは本来は5歳の幼児である。
◆ルナソルとアースは白竜であり、それぞれ時と冥の能力を持っている。
◇昨日の昼間、ルナソルが果実酒を頭から被って酔っ払った拍子に時の能力を大暴走させ・・・・・
「こうなったって訳です。信じ難いかもしれませんけど」
「確かに信じ難いですね。竜ですか・・・・・」
「竜だもんなぁ・・・・・」



余程の縁でもない限り、一生のうちに一度でも竜を見ることなど普通はない。
無表情な少年と部屋の中をきょろきょろと見回している少女。
外見上の特徴は耳が丸いというだけでさして普通の民と変わらない。
少女が尋常ならない美少女というのは別にして。
「耳・・・・・貴方も竜に関係があるのですか?」
ふと、横に座っているサイを見てウィローは尋ねた。
丸い耳を持つ者は竜主になれる可能性があるか竜に関わる者だというのはこの世界での常識だ。
常識ではあるがその数は希少なので彼らもその目で見るのは初めてだった。



「あぁ、俺は竜じゃなくて竜主です」
「契約している竜が居るの?」
「居ますよ」
話をしているサイの様子がおかしいとホリーは思い始めていた。
普段のサイだったら、アースとルナソルが白竜であるというのを信じて貰うのは難しいだろうから、「自分は竜主で契約した竜も居る」と自分の方から話をしそうなものだ。
自分にも竜の血が流れているのを明かして、天の能力を見せてしまったら話は早いと思うだろう。
だったら何故、ホリーでも考えることをしないのか?
何か隠したい事がある・・・・・?



「貴方も地の民という事は、契約している竜は地竜でしょうか」
「・・・・・・・・・ええ、まぁ」
気のせいではない。
明らかにおかしい。
「地竜主って事は、もしかして『サンクタム』を知ってる?」
「・・・・・・・サンクタム」
「しゃんく・・・・・・もが・・・・・・もがっっ」
ルナソルが何かを話そうとする直前に、アースとホリーはその口を塞いだ。
「すみません、父さんの話はその辺にして本題に入りませんか?」
「そうですよ早くしましょう。それに、初対面なのに人のプライベートに踏み込むような話をするなんて失礼です。そんな兄さん達、嫌いです」



嫌いです
嫌いです
嫌いですぅぅぅ・・・・



「本題に入りましょう」
「俺、お酒持ってくる」
早。







「用意は出来たな」
「はい、大丈夫です」
ブカブカのワンピースを着たホリーは、アースとルナソルの子供用の服を綺麗に畳んでから頷いた。
「おとしゃん、ルーなにするの?」
椅子に座ってタオルに包まれたルナソルは、ぽやんとした顔でサイを見上げた。
「昨日みたいに、頭からお酒をかぶってもらうんだよ。ちょっと冷たいけど我慢してくれるかな?」
視線の高さを合わせて尋ねると、ルナソルは困った顔をしてボソボソという声で答えた。
「でも・・・・・ルー・・・・またぐりゅぐりゅしちゃってみんなこまらしぇちゃうのよ・・・・」
「今度は大丈夫だよ。ちゃーんとアースが傍に居て、ルナの力が暴れちゃわないように気を付けてくれるから」
「しょなの?」



困った顔のまま隣を見ると、アースが静かな緑の瞳を優しく細めて微かに笑った。
「ちゃんと手を繋いでるから、ぐるぐるしても大丈夫」
「だいじょぶ・・・・・・だいじょぶ!!ルーだいじょぶだよ、つめたくてもがまんできるもん!」
ルナソルにとってアースの大丈夫は絶対。
一緒だったら何だって平気でへっちゃらなのだ。
「うんうん、ルナはエライなぁ。元に戻ってお家に帰ったら、シイラに好きな物いっぱい作ってもらえるようにお願いしてあげるからな?」
「うわぁーい!!ルーね、おっきくてふぁふぁのけぇきたべたい!!」
「よぉし、じゃあ、頑張ろうな?」
大きな掌で頭を2度3度と優しく撫でられると、ルナソルはようやくお日様のような笑顔を見せた。



「アース、やる事をおさらいしておこうか?」
「はい。先ず、空間閉鎖を行い外界に時の能力が漏れないようにします。次にルーにお酒をかけて時の能力が暴走しかかったら冥の能力で抑えて輪の形にします。それさえ出来れば、後は何もしなくても僕達の本来流れるべき時の回転速度や方向に修正がかかると思います」
淡々と何でもない事のように話しているが、アースのやるべき事は非常に難しい。
空間閉鎖と時の能力の制御という2つの異なる冥の能力を同時に使うのは、魔力も集中力も桁違いに高くなければ不可能に限りなく近い。
だが、アースはやり遂げられるとサイは思っていた。
ルナソルと能力のシンクロが出来るのはアースだけというのも理由だが、何より彼自身がやらなくてはならないという確固とした信念を持っているからだ。
「うん、そうだな。冥と時の能力が混ざった瞬間が一番繊細だから、気を散らさないように注意するんだよ」
「はい」



■□■□■□■□■




「それじゃあ始めますので、ウィローさんメイプルさん、暫くの間部屋から出ていましょう」
「はい・・・・・仕方ないですね」
溺愛する妹が心配+滅多に拝む事が出来ない高位能力を見てみたい等々の気持ちは抑える兄2人。
聞きわけがいい所は大人らしい、が。
「頑張れよ、ホリー!!」
「無事に終わりましたら、沢山甘えていいですからね」
「・・・・・応援する相手が違います。それに元に戻ったら直ぐに帰りますから」
虫を見るような目つきで、早く出て行って下さいと言わんばかりに手を振るホリーを見てショックを受ける兄2人。



「妹さんにご迷惑をかけてすみませんでした」
隣の部屋に移動すると、サイは兄2人に頭を下げた。
「ホリーが貴方達を責めていないのに、どうして私達が怒れるでしょうか。それに、起きてしまった事を今さら何かを言うのは意味がありません」
サイの顔を見もせずに冷たく言い放つウィローをフォローするように、メイプルが言葉を続ける。
「でもさ、今回の事があったからホリーが久しぶりに帰って来てくれたんだもの。こんな言い方してるけど、兄貴だって嬉しいんだよ。あ、勿論、俺もね?不謹慎かもしれないけど、ちっちゃいホリーをもう一度見られてそれも嬉しかったな」
パチンとウィンクをして明るく笑うメイプル。
気真面目な兄と気遣いの兄、2人の兄に愛されてホリーは育っていったんだなぁと思いサイは小さく微笑んだ。



「話は変わるのですが、サイさん」
「はい」
「貴方は『サンクタム』の関係者なのですか?」
椅子に座って少し落ち着くと、ウィローは詰問するような声で尋ねた。
「おい、兄貴。プライベートな話はするなって・・・・・」
「大事な質問です。ホリーは『サンクタム』の恐ろしさを知らない。もしも『サンクタム』に関係がある方なのでしたら、ホリーは直ぐにでも家に帰らせるべきです。貴方は研究院にとって必要でしょうが、ホリーに代わる人材なら幾らでも居るでしょう。問題はないはずです」
「・・・・・同じ名前だから答えたくなかっただけで、サンクタムは俺の守護竜の名前です。加えて言いますが、ホリーは優秀な研究者で薬学植物学部門に関して彼女を超える者はいません。残念ながら本人の意思を聞かずに手放せる程、俺は出来た上司じゃありませんよ」



穏やかな声で話すサイをジッと観察するウィロー。
話の中に嘘はない、それは確実だ。
但し、本当の事も話していない。
話さない理由は何か。
話せない理由があるのか。
ホリーが中央に戻ってしまう前に見極めなければならない。
目の前の黒い髪と瞳を持つこの男が危険なのか、そうではないのか・・・・・・




「何だよ、これ?!」
「きゃーーー!!!」
「・・・・・っ、しまった」
「ほぇ〜〜〜〜〜ん」




扉の向こうの「いかにも問題発生」な声に3人は一斉に立ち上がった。
「「ホリー!!」」
「ストップ、心配でしょうけどお兄さん達は此処に居て下さい。多分、時と冥の能力が乱れていると思うんで、中は俺が見てきます」
「危険なのは貴方も同じでしょう、それでしたら・・・・・」
「同じじゃありません。俺は、上位能力者です」
そう言って天の能力を解放すると、サイは問題発生地に入っていった。



「金の瞳・・・・・上位能力者・・・・・」
「なぁ、兄貴。地の能力者の最高ランクになると天の能力が使えるようになるなんて話じゃないよな?」
「当たり前です。4大属性と上位属性は系統が全く違います。彼は・・・・・・何者なんでしょう・・・・・」
閉ざされた扉の外側で、ウィローとメイプルは呆然とするしかなかった。



■□■□■□■□■




「っく、っく、ほぇほぇほぇ〜〜〜〜、あーしゅ、おっきいままらよ〜〜〜ん」
「・・・・・・・・・・・はぁ」
「・・・・・・・・・・」
「怒んないでよ、悪気はなかったんだからさぁ。っつーか、何なんだよ、これ??」
「はいはい・・・・・・・・・えーと、誰か説明できる人、手を上げて〜??」



問題発生地。
ルナソル → べろべろの酔っ払い。更に成長。成体化してウッフンお色気レベルが格段にアップ。
アース → 溜息をついて額を押さえている。少年の姿のまま。苦労人レベルが爆発的にアップ。
ホリー → 膝を抱えて黙り込んでいる。幼女の姿のまま。怒りレベルがメーターを振り切りそう。
謎の少年 → 赤茶の髪と瞳をした少年。かなりの女顔。誰??



「せんせーい!!」
サイの姿を見るや、うぇぇーんと抱きついてきたホリーの背中を擦ってあげると、謎の少年は不機嫌そうにサイにつかみかかった。
「アンタ誰なんだよ、ホリーに馴れ馴れしくすんじゃねーよ!!」
「何ですか、その言い方は。こうなったのは誰のせいだと思っているんですか。失礼にも程があります、この方に謝りなさい!」
キッとホリーが睨みつけると(幼児なので迫力は全然ない)、謎の少年は一気に勢いを無くしてしまった。



「まぁ、ホリーも落ち着いて。えーと、うーん・・・・・・あのさ、俺はこの少年とアースを連れて外に出てるからルナソルにちゃんと服を着せてから眠らせてあげてくれるかな。ホリーも自分の身体に合う服に着替えてね。それが終わったら、こうなっちゃった理由を説明して貰える?」
「はい、分かりました」
シイラの娘とは思えない程ウッフンな体型に成体化したルナソル。
その状態でタオル1枚というあられもない姿を男の目に曝したとなれば、確実に彼女の父親は烈火の如く大暴れ・・・・・・・・阿鼻叫喚は間違いない。



「だ、だめ。くっつかないで」
「いやぁ〜〜ん!るーはあーしゅといっしょなのれしゅ〜〜!!」
酔っ払うとアースに絡むらしい。
ぎゅむっと抱きつくと頬を擦り寄せて離れる様子がない。
その何とも感想の言い難い状況に、問題は発生したがアースの身体年齢がこれ以上にならなかった事だけはラッキーだったと思うサイだった。







「・・・・・・・で、この少年は誰で何があったのか説明してもらえる?」
結局。
酔っ払いルナソルがアースをがっつりと抱いてそのまま眠ってしまった為にお子様2人は抜きにして、ウィロー、メイプル、サイという大人3人の前に恐ろしく不機嫌な幼児ホリーと謎の少年が座るという配置で会議を開始。
「少年じゃないっつの!!何があったのか僕の方が説明して貰いた・・・い、痛い!!」
「貴方は黙っていなさい。すみません、センセイ。彼はプルートという名の私の弟みたいな子です」
「弟じゃ・・・・・」
「いいから黙っていなさいっ!」
ピシリと厳しい声で言われ、ギュッと耳を引っ張られてしゅんとする少年・・・・・プルート。



「で、何でプルートが此処に居るの?今日はノースガルドの外に仕事行ってたんじゃない?」
「検問の名簿見たらホリーの名前があったから急いで来たんだよ」
「だったら玄関から入りなさい。何故、窓から入って来たんですか?!」
「いや・・・・・来たのはいいけど何か入りづらくてさ。外をウロウロしてたら中にホリーに似た子が居たから気になって・・・・・・」
「気になったら即実行ですか。首の上に乗っかっている物は何ですか、飾りですか。貴方、アホですか、単細胞生物ですか。少しは考えなさい!!」
仕事には厳しいが穏やかな性格で、滅多な事・・・・・いや、サイが知る限りでは1度も声を荒らげて怒った事がないホリーが、感情を露わにして怒り全開で少年を叱り飛ばしている。
これは結構かなり衝撃的な出来事だった。



「ええと、もしかして、時と冥の能力が混ざった瞬間に窓から少年・・・・・プルートくん?が入ってきて、それでまぁ・・・・・・こうなったってわけか。プルートくんの時がルナソルに移動したとすると、プルートくんとホリーは本来は同じくらいの歳なのかな?」
「プルートは2つ年下です。私と同じ歳ではありません」
「能力者に2年なんて年の差になんねーっつの」
「そういう事はもっと精神的に大人になってから言・い・な・さ・い!!」
ホリーの耳引っ張り攻撃は手加減がない。
プルートの目の端に涙が浮かぶのを見て、気の毒な気持ちになる大人の男3人。



「了解。じゃ、今日は1度家に戻ろうか。ルナソルを酔っ払い状態に出来るのは1日1回が限度だろうし。ウィローさん、明日、又、お邪魔してもよろしいですか?」
「明日もう1度いらっしゃるのなら泊まっていって下さい」
「そうだよ、あんまり広くないけど客室ならあるし、ホリーの部屋もちゃんと掃除しておいたからね。何日だって泊まってもいいんだよ?」
「何日もという訳にはいきません、私もセンセイも仕事があるんですから。あ、でも、その・・・・・センセイ、今日は泊まっていって頂けませんか?ルナソルさんもアースさんもゆっくりとお休みになった方がいいと思いますし」
先ほどまでプルートの耳を引っ張っていた小さな手をモジモジさせて頬を桃色に染めて話すホリー。
「ホリー・・・・・」
その様子を見て眉を顰めるプルート。
そして、顔を見合わせる兄2人。
そしてそして、目を閉じて何かを考えていたサイは、
「ありがとございます、それではご厚意に甘えさせて頂きます。状況は理解してると思うんですけど、ちゃんと話して相談したいんで妻の所に行ってきます。ホリー、少し出掛けて来るからアースとルナの様子を見ていて貰える?」
「はい、お任せ下さい」
ホリーの返事を聞くとニコッと笑って外へ出て行った。



■□■□■□■□■




「妻・・・・?」
「妻って、奥さんの事だよね?」
「おい、アイツ、結婚してんのか?」
サイの姿が消えた途端、ホリーに質問が集中。
「ええ、とても綺麗で優しくて知的で・・・・・本当に素敵な奥様がいらっしゃいますけど?」
何故、兄と弟(みたいな人)がこんなに熱心に質問をしてくるのか分からないホリーは首を傾げた。



「妻帯者だったとは・・・・・」
「え、それってすっごくアレだよね・・・・・?」
「何をゴチャゴチャ言ってるんですか?センセイはご結婚なさってますし、お子さんだっています。ちゃんと話を聞いていなかったんですか?隣の部屋でお休みになってるアースさんは、センセイの息子さんですよ」
「「「妻子持ち?!」」ぃぃい、いでででででで!!!」
声を揃えて驚きの声を上げると、ホリーは満身の力でプルートの耳を引っ張った。



「本当に、貴方は何なんですか。隣で子供達が眠っているというのに大声で騒ぐなんて信じられません」
「でも・・・・・・」
「言い訳は聞きません。ところで兄さん、今日は私がお夕飯を作ってもいいですか?」
「勿論です、何か手伝う事があったら言って下さい」
「ホリーの手料理かぁ、久しぶりだから楽しみだな!買い物だったら行くからね?」
「ありがとうございます、兄さん」
素直にお礼を言う愛妹の笑顔に歓喜する兄2人。
とりあえず、一瞬前の騒ぎはどうでもよくなったらしい。



「ホリー・・・・・あの・・・・・あのさ、」
「何ですか。何か手伝ってくれるのでしたら、貴方も泊まっていっても構いませんよ。・・・・・・その姿じゃ帰れないでしょう」
「うん・・・・・・ありがとう」
背延びをしてホリーが頭を撫でてあげると、プルートは少し息を飲んで頷いた。









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