おっきくなっちゃった⇔小さくなりました(3)








「ぜーーーーーーーったい、ダメ、やだ、僕達も行く!!!」
お揃いのワンピースを着たシイラとルナソル(大)を両脇に座らせギュギュっと肩を抱き寄せる独占欲の塊男。
「我儘言ってんじゃないわよ、決まりなんだから仕方ないでしょう?」
冷ややかな目で弟を見るお姉さま。



「おとしゃまおこってるの?なんで?」
「何で・・・だろうね・・・」
「むぅ・・・・・」
眉を寄せて悩む愛娘を見ると、ハッとして急いで家族間限定の素敵笑顔になるファルシエール。
「怒ってないよ、お父さんはね、ルナソル達と一緒にホリーさんのお家に行きたいなってお願いしてるだけなんだよ?」
「お願いじゃありません、駄々をこねているだけです。あそこの地域は地の民しか干渉してはいけないのは昔からの決まりなんだから諦めなさい」
「い・や・で・す!!大体ねぇ、この決め事ってどんだけ前の話?今時そんなのおかしいって姉さんだって思ってるでしょ?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「だめっ!!」
苛立つファルシエールと冷たい眼差しのメールディアの間に入り、悲しそうな顔をするシイラ。



「すみません、もう遅いので僕達は先に休ませていただきます。急ぐ用事が出来たら僕だけ起こして下さい。ルー、行こう」
今までポヤンとしていたルナソルは、大好きな人達の今まで見たことがない様子を見て泣きそうになっていた。
「うん・・・・・あの・・・・・おやすみなしゃい・・・・」
アースに手を引かれ部屋を出て行くルナソル。
部屋に残されたのは大人3人。
「2人ともどうしたの?子供達の前で言い合うなんておかしいよ」
「・・・・・ごめん、でもね、僕は皆の事が心配なんだ。何が起きるか分からないんだから最高ランクの能力者である僕達が一緒に行くのはおかしい事じゃないよね?どうしてもダメだって言うなら、サイに直接お願いしてくる」
「・・・・・それは、許さない」



立ちあがり部屋を出て行こうとしたファルシエールの身体を緑色に輝く光の鎖が絡みつく。
「力づくでも許さない?じゃあ、僕も本気で抵抗しようか?」
光の鎖に赤い炎が纏わりつき、更に強い光を放つ。
「やめて、やめてよ!!」
普段だったらシイラの一声で穏やかな空気に戻るというのに、今回は違った。
どちらも引かない。
最強の攻撃力を持つ能力者の2人が互いに臨戦態勢を解かないというのは大災害の前触れにも近いものだった。



「はいはい、2人とも物騒な事は止めましょうね」
部屋に入ってきたサイはギリギリの所で暴発を抑えている2つの魔力を消滅させ、ぽふぽふと安心させるようにメールディアの髪を撫でた。
「・・・・・」
「ありがと。俺からちゃんと話すからさ、大丈夫だから心配しないで」
「・・・・・」
凍てつくような冷たい眼差しと固く閉じられた唇。
憎しみと悲しみが混ざった表情。


『 話さないで、苦しむくらいなら、話さないで 』


強い思いがサイの心に響く。
― あんまり大丈夫じゃないってお見通し・・・ですか
「・・・・・じゃあ、話の間は隣に座って手を握っていてくれる?話の途中で流されそうになったら握る力を強くして。そしたら、本当に大丈夫だから」
「・・・・・えぇ」
「あ、勝手に話を進めて悪い。少し長い話になりそうなんだけど聞いてもらえるかな、俺が知ってる限りのあの地域の話」
「うん」
「いいよ」
ぼんやりと光る緑の月をチラリと見ると、サイは2人に話を始めた。
自分が生まれるよりも更に前、もう知る人も僅かしか居ない話を。







「眠れないの?」
「ん・・・・・」
お母さんとファルシエールさんの間に不穏な空気が流れ始めたから寝るって言って出て来ちゃったけれど、ルーはベッドに入った後にボーっと月を眺めたままでいる。
僕は流石に大きい身体で一緒のベッドに入るのは色々とマズイだろうと思ってベッドの横の椅子に座ってルーの様子を見ているんだけど。
「お父さん達が怖かったの?」
「こわいんじゃないのよ・・・・・・かなしいのよ」
「悲しい?」
紫水晶の瞳に浮かんだ涙がゆらゆらと揺れる。



「おとしゃまとめるしゃんなかよしなのにけんかしちゃったのはルーのしぇいなのよ。ルーがちゃんとしてたらけんかしなかったのよ。ルーがわるいのよ、ルーがみんなをこまらしぇちゃったのがわるいのよ」
ポロポロと目の端から玉のように涙が落ちていく。
「ルーのせいじゃないよ。お母さんもファルシエールさんも・・・ちょっと疲れてただけだよ」
「ちがうもん!みんないわないけどわかるもん!ルーがのうりょくをちゃんとつかえればいいのにっておもって・・・・・うわぁぁぁん!!」
「あ・・・・・」
枕に顔を押し付けて声を上げて泣き出してしまった。
こうなってしまうとシイラさんに来てもらわないと収まらない。
どうしよう・・・
険悪なムードの大人たちの中に入っていくのも問題だし、もしかしたら暫くしたらファルシエールさんが烈火の勢いで飛んで来るかもしれない。
それはそれで問題だよなぁ・・・



「失礼しますね」
ホリーさん(小)は泣き続けるルーの傍に寄ると、ぽふっとベッドに座ってルーの背中をさすってくれた。
「ホリーさん・・・」
「泣きながらでいいから話を聞いて下さいね」
「っ、うっ、うっ・・・・」
「ルナソルさん、人は失敗をする生き物です。失敗は悪い事ではありません、その後の行動が大事なんです。どうして失敗してしまったのか次はどうすればいいのかを考えるのです。人は考え学び取り成長をしていく生き物なのですから」
泣き声が次第に小さくなっていき、ルーは起き上がって僕とホリーさんの方へ身体を向けた。



「ルー、しっぱいばっかりなのよ・・・」
「それは沢山考え成長するチャンスがあるという事です、よかったじゃないですか」
ホリーさんはルーの目の端に残った涙を柔らかいタオルで拭くと、くしゃくしゃになってしまった銀色の髪を優しく撫でた。
「ホリーしゃん、ごめんなしゃい。いっぱいこまらしぇてごめんなしゃい」
「ルナソルさんだけのせいじゃありません。元はといえば私があんな所にお酒を置いておいたのがいけなかったんです、私こそすみませんでした。さぁ、そろそろ休みましょう。そして明日から沢山頑張りましょうね」
「ホリーしゃん、いっしょねよ?」
「はい、そうさせて頂きます」
ホリーさんがついていてくれるなら安心だよね。
だったら・・・



「それじゃあ、僕は他の部屋で寝ますんで。ホリーさん、ルーをよろしくお願いします」
「アースいっしょねないの?なんで??」
何でもかんでも御座いません。
「あ・・・・・すみませんアースさん。時の能力がいつ発動するか分からないので「なるべくお子様3人は一緒に居てネ」とセンセイがおっしゃってました。気まずいかもしれませんが一緒に寝て頂けませんでしょうか」
「え・・・・・?」
理屈は分かります、分かりますけれどね。



理屈を理解してくれなさそうな人が若干1名いらっしゃるのですが・・・・・



「しょだよ、いっしょねよー!!ホリーしゃんはルーとアースのあいだにねるのよ。なかよしおやこするの、アースはルーとホリーしゃんをぎゅってしてねるのよ?」
「仲良し親子・・・・・」
ファルシエールさん、頼みますからルーに余計な事を教えないで下さい。
貴方自身が娘さんの身を危険にさらしているようなものですよ・・・







翌朝。
転移魔法で移動出来るギリギリの場所、ノースガルド入口。
「サイ、アース、ホリーさん、ルナソルをよろしくお願いします。ルナソル、みんなの言う事をちゃんと聞いて、1人でどっかに行ったりしないように気を付けるのよ?」
「あい、ルーはアースからはなれないようにしますっ!!」
「はい、ルーから目を離さないようにします」
似たような言い回しだが意味が違う。



「みんなが元に戻って無事に早く帰って来るように、お母さんと一緒に祈っているからね」
愛する娘をぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅっと抱きしめて涙目になるファルシエール。
「あい、ぶじにはやくかえってきますっ!!おとしゃまとおかしゃま、なかよししてまっててね?」
「もっちろんだよぉぉぉ!!!ルナソルが帰ってくるまで片時も離れずに仲良くしてるからねっ!!!」
おいおい、それに何の意味があるんだよ・・・・・とかいう突っ込みをしない一同。
慣れって恐ろしい。



「手続き終わったし、こっから先は歩きだからそろそろ行くな」
「しょだしょだ、めるしゃんは?いってきますいってないのよ」
「竜界に行ってるんだよ。あっちから様子を見てくれて僕達が困ったら助けてくれるんだって」
「しょなの?じゃあ、かえってきたらありがといわないとね?」
「うん・・・・・」
本能のまま破天荒な行動を取る比率が高い割には律儀な娘さん。
見た目の可愛らしさだけでなくこういうちょっとした心遣いが出来るから、周りも彼女の為に動いてくれるというもの。



そんなこんなで大した事件も発生せず、シイラとファルシエールに手を振られ一同はノースガルド・・・ホリーの家へと出発したのだった。



■□■□■□■□■




「おはないっぱいだぁー、きれいねぇ?」
「そうだね」
ポカポカ陽気の歩道の脇には小さな花が道に沿って咲いている。
様々な色と種類の花が咲き、綺麗な声で鳥が鳴き、年間を通して穏やかな気候が続く楽園のような土地。
人の形をするものは地の民しか入れないという暗黙のルールがある特別指定区域ノースガルド。
「他の民が入る場合は1人につき地の民1人の同行が必要」、「同行する地の民はノースガルドの者が1人は必要」というかなり厳しい規制がある。



「疲れてない?」
「は、はい、大丈夫です。体力には自信がありますから・・・ですから、あの・・・手・・・」
「握られるの嫌い?」
「いえ・・・・・」
かぁぁっと赤い顔で俯くホリー。
「ルーもおとしゃんとてつなぐー」
「はい、どーぞ」
「おとしゃんのて、あったかくていいねぇ、ホリーしゃん」
差し出されたサイの左手を握り、ほわほわとした笑顔を見せるルナソル。
なーんにも考えていないだけに妙に癒される笑顔。
「そうですね、センセイの手は温かいですね」
「女の子って手が冷たい子が多いのかな。メーデもシイラも冷たいし」
「お父さんが特別温かいんだと思います」
「アースもおとしゃんとおなじくらいあったかいのよ?」
「ああ・・・そうなんだ・・・」



4人で手を繋いでのほほんと歩く。
家族でピクニックにでも出かけているようなのどかな光景。
「ホリーの家族はお兄さん達とご両親?」
「はい。父と母は『奥』の方・・・ここからだと乗り物を使っても3日はかかる所に住んでいます。兄達は『外』の方、子供の足でも歩いて2時間くらいの所で薬屋をしています。例のお酒は兄達の所に有るので昼前には目的が果たせると思いますよ」
「2時間も歩くんですか。ルー・・・大丈夫かな・・・こんな時に融合出来たら楽なんだけど」
「んーーー、女の子にはしんどいかな。ルナ、疲れたらちゃんと言うんだよ?」
「あい。ホリーしゃんもつかれたらちゃんとおとしゃんにいうですよ?」
「ありがとうございます」
幼い頃から植物採取で野山を1日中歩き続けるのが当たり前だったので、2時間くらい歩いてもお散歩程度にしか感じないんですよ・・・・・とは勿論口に出さない礼儀の女性。



「お兄さん達には連絡ついたんだよね?」
「はい、あの、でも、ちゃんと話が出来てないんです、すみません・・・」
「仕方ないよ。今の状況を口で言ってもイマイチ理解できないでしょ」
「あ、いえ、その・・・・・話にならなかったんです・・・・・」
ゴニョゴニョと語尾を誤魔化すように話すのを見て首を傾げるサイとアース。
普段は1から10までを順序立ててハッキリと丁寧に話をするというのに。
「何か問題があった?」
「い、いいえ。大丈夫です、何があってもセンセイの事は私が守りますから。心配しないで下さい!!」
「・・・・・はい?」



■□■□■□■□■




出発から約2時間。
まったりゆるゆる速度で移動する一行。
「おやつおいしかったねぇ、みんなでおしょとでたべるともっとおいしいねぇ」
「うん、おいしいね・・・・・」
大好きなお母さんの言いつけを守って「アースから離れないように」ガッツリと手を繋いでいるため、「きれいなおはなだよぉ」とか「うしゃぎしゃんいたー!」とかいって本能のままにウロチョロする度に必然的にアースが引きずられていくという事が何度も発生し、流石のアースも疲れの色が見えてきた。



「あとどれくらい?」
「何事もなければ20分くらいだと思います」
段々と歩みがノロノロとなっていくホリー。
彼女自身は意識していないようだが表情も暗い。
「・・・・・・・よっと」
「わっ!わ、わわわわわわわわわ!!!!」
「こらこら、暴れるなって」
「すみませんすみませんすみません・・・・」
急に抱き上げられて顔と顔が急接近。
驚きのあまり後ろに倒れそうになった所を強く支えられた為に反動で顔が首筋に超密着。



「ホリーしゃんだっこいいなぁ。アース、ルーも・・・」
「ルーはおっきいからダメ、無理」
「ぶぅ」


― だっこ、だっこですよね。大人が小さい子によくしてあげるアレですよね!?何で今、このタイミングにやるんですかぁ?!!!


「はいはい、落ち着いてね」
「は・・・・い・・・・・」
そりゃ無理ってもの。
手を握られただけで赤面してたのに、抱きあげられて普通でいられるわけがない。
・・・・・周りから見れば単に幼児が抱っこされているだけでロマンの欠片もありゃしないのだが。
「不安な時ってさ、こうやって人に全身を支えてもらうと安心しない?」
「えと・・・・・そう、かもしれません・・・・・」
「気を張り過ぎだよ。暫く頭の中も子供に戻ってなーんも考えないでいなさい。考えなきゃいけない時は頼りにさせてもらうから」
「・・・・・はい」
背中を優しく擦られて嬉しいような泣きたくなるような相反する衝動にかられる。


― ばかですね、私・・・









「あそこの緑の屋根の家です・・・・・・・・・あ」
ゆるゆるポテポテ徒歩の旅。
目的地到着。
「入口付近に居る男の人がお兄さん達かな?」
「・・・・・・・残念ながらそのようです」



緑の屋根の家の前でウロウロウロウロ・・・・とする2人の男達。
1人は濃灰色の髪と目をした眼鏡をかけた男。
もう1人は焦げ茶色の髪と目をした男。
「待ってるね」
「待ちわびているようですね」
「・・・・・お恥ずかしい限りです」
トコトコと近づいていく一同。
気付かずウロウ〜ロし続けるお兄さん達。



「すみません、グリーンヘイズさん?」
「・・・・・・・・・・・」
ナチュラルに無視。
「・・・・・どうしようか」
「ルー、真っ正面から声をかけてみて」
「あい。おにいしゃん、こんにちはー」
「・・・・・・・・・・・」
精神的攻撃発生装置並に男性の心に衝撃を与える超美少女の近距離からの挨拶にも無反応。
「こりゃスゴイ」
「そういえばホリーさんにもファルシエールさんのメロメロオーラが効きませんもんね」
「はぁ・・・・・」



「「ホリー!?」」



ホリーの溜息1つで今までウロウロするだけで無反応だったお兄さん達の歩みが止まった。
そして、お兄さん達はサイに抱っこされている女の子にグァッと注目。
「私は夢を見ているのでしょうか。目の前にいるお嬢さんは私の可愛いホリーの幼い頃にそっくりではありませんか」
メガネを外し磨いてかけなおすお兄さん1。
「ま、まさか!!俺の可愛い可愛いホリーの娘だったりするのかっ?!」
興奮するお兄さん2。
「そ、そんな・・・・・まさか、貴方が私の可愛い可愛い可愛いホリーを・・・」
サイに殺意の目を向けるお兄さん1。
「俺の可愛い可愛い可愛い可愛いホリーを汚したのかっ?!嫌がるホリーに無理矢理・・・・う、うわぁぁぁ!!」
地面をダンダンと叩くお兄さん2。



「おにいしゃんたちどしたのかなぁ?」
「ルー・・・・・ちょっと離れていようね・・・」
余計な騒動に巻き込まれないようにルナソルと共に少し離れた所に在る大きな木の下に座る。
ぽかぽかおひさま。
優しくそよぐ風。
「ねぇ、アース」
「ん?」
「ルー、おひるねしたい」
「・・・・・首が痛くなっちゃうから頭を僕の膝の上に乗せて」
「あい、おやすみー」
コロンと横になってアースの膝に頭を乗せてアッという間に夢の中へ旅立つマイペースお嬢さん。
仕方ないなぁ・・・と呟いて膝の上の銀色の柔らかい髪を撫でながらアースはモメモメ(一方的)な大人たちの様子を観察した。


「・・・・・僕も眠くなってきたよ」









前へ
次へ
戻る



[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析