おっきくなっちゃった⇔小さくなりました(2)








「まって、まってよぉ、アーシュ!!」
「あ・・・ごめん・・・」
はぁはぁと息を切らして後ろから走ってくるルー。
ぼーっとして歩いてしまったせいか、早足になってしまったようだ。
まだこの身体での感じがつかめてないなぁ。



「アーシュおこってるの・・・」
暫く黙って歩いていると、ルーがポツリと呟いた。
「怒ってないよ、ほら、行こう」
「アーシュ・・・おこってるの・・・おっきくなっちゃったから・・・おこってる・・・」
「怒ってないってば」
「じゃあ、どうしててをつないでくれないの?いつもはてをつないでいっしょあるいてくれるもん。アーシュ、おこってるからてをつないでくれないんだもん」
「それは・・・・・」



大きくなった僕の手はそのまんま大きくなったのに、ルーの手は小さい時よりも華奢に見える。
今の僕が握ったら壊してしまいそうで怖い。
だから・・・触れない。
とても大事だから触れない。



「アーシュ、おっきいルーのこときらいなの?」
「嫌いじゃないよ」
ルーを嫌いになる人なんていないと思う。
ファルシエールさんみたいに周りに強烈なインパクトを与える美しさと、シイラさんみたいに優しさと柔らかい空気を周りに与える愛らしさを兼ね備えているんだもの。
大きくなったらそれがはっきりと分かるようになって、すれ違う人達(特に男の人)の視線を集めているのに本人は全然気が付いていないんだよなぁ・・・
「おこってないしきらいじゃないの?」
「怒ってないし嫌いじゃないよ」
2つの少し色の違う紫水晶の瞳でじっと僕の顔を見上げ、ほっそりとした白い手を差し伸べる。



「じゃあ・・・・・てつないで?」
「・・・・・」
躊躇う僕を見てルーは泣きそうな顔になった。
「やっぱりきらいなんだ・・・」
「ご、ごめん。あ、あの・・・」
「いいもん、ルーひとりであいしゅたべるもん。アーシュのぶんもたべちゃうもん!!」
「ルー!!」
意外に運動神経がいいルーは、本気で走ると物凄く早い。
ポツンと取り残された僕。
・・・・・ああ、もう、泣きたい・・・



「何やってんだよ、僕は・・・」
上手くいかない。
見た目は大きくなったけど中身は変わっていないって分かっているのに。
甘いお菓子の匂いがしてぽよぽよした小さな身体。
甘いお花の香りがして細いけど柔らかな大きい身体。
近くに居るとその違いが気になってしまって、いつも通りに出来ない。



大人になっても僕達は何も変わらないと思ってた。
だけど、僕は僕が思っていたよりも子供で気持ちに余裕なんか全然持てなくて。
ルーが困っているのに哀しんでいるのに何も出来なくて。



強く握った拳を太腿にぶつけると、チャリンという音を立てて硬貨が1枚地面に落ちた。
「・・・・・・・・・あ」
ルー、お金持たないで行っちゃったんだ・・・・・







「若いなぁ・・・」
「そうねぇ」
事の一部始終を「見て」いた母2人。
今まで通りに接する事が出来なくなってしまったのはアースが少しだけ大人だから。
しかし、どうして今まで通りに出来ないのか分からないのは子供だから。
「多分、アースの中では"好き"の位置が確定出来てないんだよね」
「幼児に与えるには難しすぎる試練だったかしら」
「息子にも容赦ないのね・・・」
「いい男になる為には幼少時代から頑張らなくっちゃ」
輝くばかりの笑顔大放出。
息子の成長云々よりも今の状況を楽しんでいるように見える。



「じゃあ、続きを見ようか。ルナソルは1人で大丈夫かなぁ・・・」
「今のところ大丈夫よ、寧ろ何かあった方が面白いんだけど。公園+美少女が1人なんて好条件で何も起きないなんて世の中には狼さんが減ったのかしらね・・・」
「減ったんじゃないよ、退散させてるんだよ。本当は退治したい所だけどね・・・」
母2人の後ろにユラリと現れた人影。
ルナソル激☆愛の父ファルシエール参上。
キラキラ笑顔に不釣り合いなどんよりドヨドヨオーラ装備中。
「あらあら、お仕事はどうしたのかしら?夕方まで終わらない量をあげたでしょ」
「何か嫌な予感がしたから母さんにお願いしてきたよ。今頃、父さんが必死でやってるんじゃないかな」
「チッ・・・・・息子に甘い両親なんだから・・・・・」
「メーデ・・・舌打ちしたね・・・」



「そ・れ・で、どういう事なのか説明して頂きましょうか」
「可愛い子供達が大きくなっただけよ」
「"だけ"じゃないでしょうが。それにこんな危険なことをして!僕達の可愛いルナソルが傷モノになったりでもしたら・・・もう・・・僕は何をしでかしちゃうかワカラナイヨ・・・」
紅玉の瞳が点滅信号の様にピカピカと輝く。
最早人外。



「だ、大丈夫だよ。危ない事にならないようにメーデが見ててくれてるし・・・」
「いい方向に解釈しちゃダメだよ、シイラ。この人は見てるだけなんだから絶対!」
「そ、そんな訳な・・・・・って、何故目を逸らすですか!?」
「だって、"幼馴染の美少女を狼さんから救う息子の図"を見たかったんですもの。お約束の展開になったらアースを即転移させるから心配するような事は起きないわよ」
4大属性の能力を使用出来、普通の成人男子を相手にするなら苦労しない程度の護身術は身についている天才5歳児。
・・・・・とはいえ。
「未遂でもダメに決まってるでしょうが!XXXX野郎の薄汚い手が可愛いルナソルの上質な絹のようにすべすべの肌に触れでもしたら・・・ヤル・・・僕は公園を火の海にしてしまうかもシレナイ・・・」
「だ、だめだよぉ!!冷静になって!!」
愛する妻にぎゅーっとしてもらう事で大災害は発生しなかったものの、有言実行の構え充分。



「シイラ、暫くその坊やを抑えていてね。ルナちゃんの様子を映してみるから」
「わ、わかった。ごめんね、ファル」
「全然いいよ!ぎゅっとするのも好きだけどされるのも大好きだから!!」
ぱぁぁぁぁっと輝く笑顔でシイラの柔らかですべすべの頬に頬を寄せるファルシエール。
「(XXな子でよかったわ・・・)」






急いで走って行った後を追っかけていくと、公園に近づけば近づく程変な魔力を感じるようになった。
・・・・・・・・
・・・・・・・・ファルシエールさんか。
成人男子がルーの傍に近づけないように、精神攻撃魔法を数種類ミックスしてるんだな。
毎度の事ながらやる事がダイナミックだ・・・



魔法の解除の方が楽だけど、そんな事をしたら何だかよろしくない事が起こりそうだからとりあえず自分の周りだけ相対する魔力で中和をしてルーを探す。
魔法の威力が強くなってるって事はこの近くに・・・



「いらしゃいましぇ」



サ行の発音が上手く出来ていない、気の抜けるような話し方。
もしかしてとか考える必要もなく・・・
「ルー!?」
「アーシュ!あ、いらしゃいましぇ!!」
アイスクリームの屋台でスマイル無料のキラッキラの笑顔でお客さんにぺこりとお辞儀をするルー。
ピンクのエプロンにはお店の名前が入ってる・・・・・って事は、遊びではないんだよね。
どういう事??



「ルナソルさんのお友達ですか?」
「アースっていいます。ええと、ルナソルはどうしてそこに・・・もしかしてお金がないから働いて払うとか言ってましたか?だったら今、ちゃんと代金をお支払します。手先があまり器用じゃないからアイスをコーンに乗せたり人に渡したりなんて危険過ぎてやらせられません。あ、でも、物覚えは決して悪くないんです。頑張り屋さんだし。ただ、ちょっとウッカリする事が多いっていうか注意力が散漫っていうか・・・本人に悪気はないんですけど・・・その・・・」
店の裏から出てきた少し顔色の悪い中年の女の人は驚いた顔をした後、声を出して笑い始めた。
わ、笑われるような事、言ってないと思うんだけど。



「ルナソルさんはアイスを売るのお上手ですよ。初めてとは思えないくらい」
「え??」
そんな、まさか、ありえない。
ルーの不器用っぷりは可愛いから許されるようなもので、何をするにも僕が手伝ってあげないとトンデモない事になってしまうのに。
「はい、れもんとおれんじのだぶるでしゅ。きをつけてくだしゃいね」
だぶる・・・・・ダブる・・・・・ダブル?
ダブルって2つのアイスを積み重ねたヤツですよね?
気をつけるべきはお客さんじゃなくてルーですから!
いや、ある意味お客さんも気をつけないとエライ事になりますから!!



ハッとしてルーを見ると、ダブルのアイスはグラグラ・・・する事もなく綺麗にコーンの上に乗って無事にお客さんの手へと渡っていってた。
す、すごい・・・
ルーにこんな特技があったなんて知らなかった・・・
「私が具合が悪くなって座り込んでいたら、お手伝いをしますって言って下さったんです」
「そう・・・・・だったんですか。お加減が優れないのに無理をさせてしまってすみません」
「いいえ、謝らないで下さい。私は感謝の気持ちでいっぱいです」
でも、具合が悪くて休んでいたのに無理に開けてもらってるんだもの。
やっぱりよくないんじゃないかな・・・



「"仲良しの人と公園に来て一緒にアイスを食べたら幸せだから、沢山の人に幸せになって欲しいからお手伝い頑張ります"って・・・・・嬉しかったです。長年ここでアイスを売っていてよかったなって思いました」
ルー・・・・・
何だよ、僕の方が子供みたいじゃないか。
「・・・・・・・・僕にも手伝わせて下さい。頑張りますから店長さんは休んでて下さい」
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きますね」
店の裏側へと戻って行った女の人がベンチに腰かけるのを確認。
さて・・・・・と。



「ルー」
「アーシュ、あのね、ルーね、みしぇばんしてるのよ。あいしゅいっぱいうったのよ」
「うん・・・僕もルーと一緒に頑張るから、やり方を教えて」
お父さんが僕達にやるようにポンポンっと頭を撫でてあげると、ルーはぱぁっと笑ってアイスをすくうスプーンみたいなヤツを手にとった。
「ルー、しぇんしぇいしゅるのね。いつもとぎゃく!」
「そうだね」
ルーは嬉しそうにそして少し得意そうにアイス屋さんの講師を始めた。







「可愛過ぎるわ・・・2人とも・・・」
「何だか甘酸っぱい気分になっちゃった」
はふぅ・・・と溜息をつく母2人。



「ルナちゃんにあんな特技があったなんてビックリ。アイスをコーンにちゃんと乗せるのって難しいわよね?」
「いっぱい練習したからね!」
暫くの沈黙を破ったかと思うと、自分の事でもないのに得意そうに話すファルシエール。



「練習って?」
とりあえずよく分からないテンションの男は無視してシイラに疑問を投げるメールディア。
「家でアイス屋さんごっこをしてるの。あのね・・・」
ごにょごにょ。
ふむふむ。
「最初の頃はねぇ、ぐしゃぐしゃになっちゃったりもしたんだけどね。"おとしゃまどーじょ♪"ってあの天使の笑顔で渡されたアイスの美味しさったらないね!!」
ごにょごにょ。
あらあら。



「そういう事・・・・・ふふっ」
幸せの世界に旅立ってるファルシエールは放置の方向。
実に賢明。
「それじゃあ、私達は社会科見学に行きましょうか。可愛い子供達のお仕事見学」
「でも、私達が行ったら仕事しづらいんじゃないかな・・・」
「ふふっ、私の得意な魔法の1つを思い出してみて」
「あぁ・・・・幻覚魔法!!そっかそっか、メーデの魔法だったらバレる事ないもんね」
「そういう事。じゃあ、シイラは幼体の時の姿にしてみましょうか。私は面白いから幼体のファルの姿にしましょっと」
メールディアがごにょごにょと口の中で何かを呟くと、ぐにゃりと母2人の姿が歪み・・・



「じゃ、シイラとデートしに行ってくるから。くれっぐれも邪魔するんじゃないわよ、坊や」
「ちゃんとファルの分も買ってくるからね」
「あ、うん、え、あ・・・・・うん・・・・」
小さい頃の僕達ってカワユイなぁ・・・・・とポヤンとした一瞬を見逃さずメールディアがパパパっと空に印を描くと、
「ごめんなさぁい。メールディアさまの言う事聞かないとぉ、風龍王さまに怒られちゃうんですぅ〜」
「失礼致します、ファルシエールさま」
ポンっという音と共に現れた淡い桃色の半透明の羽根の少女と鋼の翼を持つ少年が、両脇からファルシエールの身体をガッツリと抑え込んだ。
「なっ・・・・!?」
「それじゃ頼んだわよ、パール、プラチナ」
「はぁ〜い、いってらっしゃいませぇ〜」
「お気を付けて」



2人が転移した後、じたばたとするファルシエール。
そりゃもう彼的には当たり前っちゃ当たり前。
「あんまり暴れない方がいいですぅ〜、手荒な事はしたくないですぅ〜」
「それを言うなら僕の方・・・」
にっこりと笑う少年少女。
「私達、風龍王さま捕獲の為に日々鍛練をしておりますから・・・・・逃がしませんよ?」
「・・・・・・」







「いらっしゃいましぇ〜」
「いらっしゃ・・・・・」
・・・・・・・・お母さん。
と、シイラさん。
幻覚魔法を使って現れるとは。
しかもその姿は何ですか?
シイラさんとファルシエールさんの子供時代の姿?
「持ち帰り用にイチゴとバニラとチョコを2つずつ下さい」
「はい、しょうしょうおまちくだしゃいね」
ルーは全然気が付いていない。
一生懸命アイスをすくっている。



「お母さん・・・」
「あら、やっぱりアナタにはバレたわね」
「流石だねぇ」
小声で話しかけると、のほほんと返すお母さん達。
この状況で大物すぎる。
「・・・・・どうしたんですか、一体」
「子供の成長を間近で見たいという母心よ」
「ルナソルの面倒を見てくれてありがとうね」
今の見た目は僕よりも頭2つ半くらい小さいシイラさんは、ふわふわんと微笑んで手を握ってくれた。
こんな事を思っちゃ悪いけど・・・・・
か・・・・・可愛い・・・・・



「アーシュ!ふくろよういしてくれないとめーなのよ!!」
「あ、ごめん」
ぷくーっとほっぺたを膨らませてちょっと不機嫌な声。
ルーって仕事だと厳しいんだな。
急いで持ち帰り用の保冷袋を用意しているとお母さん達は顔を見合わせて笑い始めた。
「お仕事の邪魔をしてごめんなさい」
「2人とも仲良くしてね」
何でそんなに意味深な顔??
ルーは仕事をしてなかった僕にちょっと注意しただけなのに。



「ルーとアーシュはなかよしだもん。おねーしゃんよりなかよしだもん」
「は?」
さっきまでシイラさんが握ってた方の手をとると、ルーはぎゅうっと腕に抱きついてきた。
ど、ど、どうした、ルー!?
「うん、仲良し。これからも一番の仲良しね?」
「しょでしゅ。なかよしでしゅ」
再びふわふわんと今度はルーに向ってシイラさんが微笑むと、ルーは恥ずかしそうに僕の肩に顔を擦りつけた。
何なんだ?
さっきからルーの行動がサッパリ分からない。



「はい、お待たせしました」
「きをつけておもちかえりくだしゃいね?」
「どうもありがとう」
「お仕事頑張ってね」
お持ち帰り用アイスを手渡すと、お母さん達は楽しそうに話しながら帰っていった。
すごく満足したみたい。
そんなに子供達の働く姿を見たかったんだろうか?



「いまのおにいしゃん、おとしゃまとめるしゃんとママしゃんとおなじにおいがしたのよ。ルーともおしょろい」
「ああ・・・そうだったね」
幻覚魔法は嗅覚を誤魔化すことはできない。
星恋花の精霊が傍にくっついているお母さんとファルシエールさんとファルミディアさんとルーは、いつも甘い花の香りがする。
ちっちゃいルーよりも大きいルーの方が花の香りがより強くなってる・・・って事は、精霊が大張り切りで香りを撒き散らしてるって事か。



「アーシュ、ルーのにおいしゅき?」
「うん・・・いい匂いだし好きだよ」
「よかったー。ルーもアーシュのにおいしゅき。おひしゃまのにおい!」
ぱふっと僕の胸に顔を押し付けて嬉しそうな顔をしてる。
おひさまの匂い?
何だか具体的じゃないけどルーが喜んでるなら、まぁいいか。



■□■□■□■□■




「ルナソルさん、アースさん、お2人共どうもありがとうございました」
暫く店番をしていると、店長さんがやってきた。
大分顔色がよくなったみたい。
「やしゅんでてくだしゃい。おみしぇはだいじょぶでしゅよ」
「ありがとうございます、お蔭様で身体は回復しました。後は私1人で大丈夫ですからお2人でアイスを食べて行って下さい。バイト代というのもおかしいですが、お好きなものをご馳走します」
遠慮なくどうぞ、と言ってくれたから2人でアイスのボックスの前に並んで中を覗きこむ。



「・・・・・・」
真剣な顔でアイスを選ぶルー。
・・・・・・・
「ルー、よだれ・・・」
「んー」
大きくなってもこれは変わんないのか。
ハンカチで口を拭いてあげてる自分を客観視すると何だかおかしい。
「何が食べたいの?」
「ちょことばなな・・・どっちがいいかなぁ?」
真剣に悩んでいたのはそこか!
「ダブルにしてもいいですよ?」
「んー・・・ルー、あいしゅいっこしかたべられないの。いっぱいたべるとあたまいたくなっちゃうのよ」
そして再びうんうんと悩む。
答えは簡単なんだけど。



「すみません、じゃあ、チョコとバナナをカップで下さい」
「アーシュ・・・?」
「はい・・・・・どうぞ。あちらの噴水の前のベンチで食べるのがおすすめですよ」
「ありがとうございました、行こう、ルー」
「うん、えと、ありがとごじゃいました」
「こちらこそ、又、来て下さいね」
「あい!」
受け取ったアイスの1つをルーに渡して、空いている手を握る。
冷たくて細い指。
華奢で小さな手。
でも、ルーの手だ。



「アーシュ、ばにらがしゅきなんだよね・・・?」
「チョコもバナナも好きだよ。半分こしよう、僕達仲良しだもんね」
「うん!」
店長さんに言われた通り噴水の前のベンチに座ってアイスを食べ始めると、噴水の周りから7色の光の輪がふわふわと天へと舞い上がっていった。
「おかしゃまとおとしゃまここがしゅきなのよ。ここにくるとふたりでてをちかづけて、ひかりをつくるのよ」
「手を近づけて光を作る・・・・・ああ、火と水の魔力を融合させてるんだね。この噴水の光の輪と同じ原理だ」
「ゆうごうがげんりなの??」
ルーには難しすぎたか。
口で説明しても分からないよね。
「えーと、ちょっとアイスを持ってて、あ、溶けちゃうから食べてもいいよ。それで、僕の手を見ててね」



左の掌に水、右の掌に火の魔力を集めて両方の掌を向い合わせ、ゆっくりと少しずつ2つの魔力を中心で融合させていく。
ん・・・・なかなか難しい。
「わぁ・・・きらきらだぁ・・・」
「こうすれば・・・・ほら」
融合させた魔力を小さく分散させて、地の魔力で安定してからルーの目の前に移動。
「しゅごい、しゅごい!!しゃぼんだまみたいだよ!」
「アイスを置いて触ってみて」
「うん・・・・・わ、わぁ!!」
ルーがわくわくとした顔で小さな球体を突くと、弾けて解放された中身が風の魔力で音に変換されていった。
ぽろんぽろんという不思議な音が曲になって僕達の周りを包んでいく。



「面白かった?」
「うん、うん!!しゅごいねぇ、アーシュはいろいろできてしゅごいねぇ。ルーもはくりゅうなのにどうしてなにもできないのかなぁ?ときのまほうもうまくつかえないし、ルーはだめなんだ・・・」
一瞬前まで楽しそうだったのに、しょんぼりと項垂れてしまった。
難しいなぁ・・・
「ダメなんかじゃないよ。ルーは僕よりもアイスを上手につけられるし、歌だって上手だし、かけっこだって早いじゃないか。僕達は2人で1人の白竜なんだからお互いに得意不得意があってもいいんだよ。ルーが出来ないことは僕が助けるし、僕が出来ないことはルーが助けてくれるといいな」
「しょなの?しょなの・・・・ありがと・・・・・・アー・・・・・・・・・・」
そうそう、例えばサ行の発音が出来るようになるとか。
未だ子供なんだからちょっとずつ得意な事を増やしていけばいい・・・・て?!



「ルー、僕の名前、呼んでみて」
「アー・・・・・ス?」
「これは?」
「あい・・・・す」
「ルーはお母さんとお父さんの事が好き?」
「だい・・・すき!!」
言えてる!
多分、「す」しか言えないだろうけど苦手なサ行の発音が出来るようになってる!!
「すごいよ、ルー!ちゃんと「す」って言えてるよ!」
「いえてるの?しょれってすごいの?」
「すごいよ。お母さんもお父さんもビックリして喜ぶよ、頑張ったねって褒めてくれるよ!!」
「ほめてくれるの?やったぁ!」
自分では何がどれ位すごい事なのか分かっていないようだけど、褒めてもらえる事が嬉しいらしくて物凄い上機嫌だ。
ファルシエールさんの恐ろしい精神攻撃魔法がなかったら今頃は花に寄ってくるミツバチのように男の人がわさわさと来ちゃうくらい強烈なフェロモン大放出だ・・・



「ほらほら、アイスが溶けちゃう前に早く食べちゃおう」
「うん。あのね、ルーねアースのことすきなのよ」
「・・・・・・・・アイスは?」
「すき!」
・・・・・・・
ルーの好きは当てになんない。
僕とアイスは同列と見た。
「僕もルーのこと好きだよ」
「ルーとアースはすきどうしなのね!しょれじゃ、こうえんでいっしょにあいすたべるとずっとしあわしぇになれるんだ!!」
「・・・・・・うん?」
「じゃあ、あーんするのよ?すきどうしはあいすをあーんしてたべるのよ?」
「・・・・・・・・・・・・え?」
ふぁふぁふぁふぁ〜んという音楽と花びらと光が舞い散る特殊効果を発生させて、ルーは「あーん」と言ってスプーンを僕の口の前に差し出してきた。
ぜ、絶対にこれはファルシエールさんの教えだ!!
何だか大体分かってきた。
ルーが公園でアイスを食べたいって言うそもそもの原因もファルシエールさんのせいかっ!!



「どしたの?ぱくってしてくれないととけちゃうよ?」
「・・・・・・・・」
仕方なくスプーンを口に入れる。
「おいし?」
「うん・・・・・」
「じゃあ、ルーもあーんなの!」
やっぱりそうくるのかっ!
これってものすっごいバカップルじゃん・・・
そして、きっとどっかで見てるファルシエールさんを想像すると・・・・・頭が痛い。







「いらっしゃいませ・・・・あぁ・・・」
「こんにちは」
「こんにちは、火聖神様、水聖神様」
「今日は娘達がお世話になりました」
「やっぱりお嬢さんだったんですね。こちらこそお世話になりました、本当に助かりました」
「あまり驚かなかったみたいですね」
「あんなに綺麗なお嬢さんがこの世に2人居るんだとしたら、もっと驚いたと思いますよ」
キラキラ夫婦を目の前にしてもおっとり丁寧な口調の店長。
2人とは知り合いの様子。



「ルナソルさん、お家でアイス屋さんをやってるとおっしゃってたんですけれど?」
不思議な顔をする店長。
もちろんブレイズ家ではそんな事業拡大は行っていない。
「ごっこ遊びです。あ・・・えと・・・私達がここで仲良くアイスを食べる様子をずっと見てきてたんで・・・家でもって・・・」
「火聖神様と水聖神様の熱愛風景は此処での名物にもなってますものね」
名物になる程だったのか・・・と赤くなるシイラと涼しい顔のファルシエール。
自分達の仲良しっぷりを世に知らしめる為の確信犯。



「それで、娘・・・ルナソルは?」
「今は彼氏さんと一緒にいつもの所でアイスを食べてると思いますよ」
「彼氏・・・一緒に・・・アイス・・・」
さぁぁぁぁっと顔色が悪くなっていくファルシエール。
「そうですか、じゃあそっとしておいてあげた方がいいよね、ファル・・・・・・ファル?!」
「彼氏・・・彼氏・・・・うわぁぁん!!」
「ちょ、だ、ダメ!!あ、すみません、又来ますっ!!」
彼氏という言葉に超反応をし、泣きながら噴水に向って走り出そうとするファルシエールを止めようと全力で後ろから抱きつくシイラ。
「はい、お待ちしてます」
穏やかに微笑む店長。
「仲がいいですねぇ・・・・・ふふふっ」







一方、その頃の研究院。
「この瓶の中身ってお酒だったんだよな?」
「はい。実家で作っている果実酒で、薬効が高くて地元ではちょっと有名なんです」
「ホリーさんのご実家って有名な薬師の家系なのよね?」
「そうそう。薬の調合もすごいけど、植物の知識が半端ないんだ。ホリーが研究院に入ってくれたおかげで、薬学植物学部門は充実できたようなもんだし」
「いえ・・・そ、そんな事ないです・・・」
照れ照れとアイスを食べるホリー(小)。
そっち方面の男衆には有害な愛らしさ全開。



「薬効の高い果実酒・・・・・なぁ、このお酒って未だある?」
「すみません、センセイに差し上げようと思って1本だけ送ってもらったので・・・」
「そうだったんだ、ありがとう。じゃあ・・・・・お子様達と一緒にホリーの家に行ってもいい?」
「はい?」
ポカンとした口からアイスが零れそうになった所をメールディアがササッと刺繍入りの綺麗なハンカチで拭きとる。
その時間僅か2秒。



「元に戻るにはもう1度時の能力を最高潮まで高める必要があると思うんだ。普通のお酒でも酔っ払って同じ事が起きるかもしれないけど、条件は同じにしておいた方が安全だろ。今回は時の能力が暴走する前にアースにコントロールしてもらうよ」
「まぁ、それはそうかもしれませんけど・・・」
「ホリーの実家の辺りって転移魔法で直接行けないだろ?それじゃあ誰かが付き添って行かなくちゃ、子供達だけじゃ心配だから」
「私・・・子供じゃないんですけど・・・」
「体力は子供でしょ?いいから甘えなさいって」
ニッコリ笑顔で撫で撫で。
ダメだ、ダメだと思いながらもウットリしてしまうのは幼児の哀しい性。



「わかり・・・ました。ただ・・・あの・・・兄達が・・・」
「お兄様がいらっしゃるの?」
「はい、2人いるのですが・・・その・・・少々変わってまして・・・センセイにご迷惑をかけるのではないかとそれが心配なんです」
「研究院なんて変わった人ばっかじゃん。慣れてるから平気だよ」
「いえ・・・センセイだから大変な目に合うと思うんですよ・・・」
俯いてゴニョゴニョと呟くホリー。
その表情は重く暗いものだった。









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