おっきくなっちゃった⇔小さくなりました(1)








「アーシュ、あっしょぼぉー!!」
元気よく研究院の一室に飛び込んできたルナソル。
しかし、普段なら黙々と読書をしているアースか、書類の束を整理しているホリーか、ニコニコ笑ってお菓子を渡してくれるサイの誰かが居るはずなのに誰もいない。



「あれぇ・・・?」
一通り部屋の中を見回った後、お子様用の椅子に腰かけ誰かが部屋に来るのを待つ。
待つ、待つ、待つ・・・
「アーシュ、ここいるってきいたのになぁ?」
ぽやーんとテーブルの上を見ると、琥珀色の液体の入った瓶が1本中央に置いてあるのが目に入った。
見たことのない瓶。
何だか美味しそうな色の液体。
「なぁにかなぁ?ジューシュかなぁ?」



小さな腕を一生懸命伸ばし、瓶に手が触れた所でルナソルの頭の中に大好きなお母さんの言葉が浮かんだ。


『人の物を勝手に触ってはダメよ?』


「しょぉだ。かってにしゃわっちゃめーなの!」
パッと手を引っ込めると反動で身体がグラリと後ろに倒れ、 慌てて咄嗟に掴んだテーブルクロスがズルっと滑り、テーブルの上にあった物がガタガタと倒れていった。
連鎖事故発生。
ガタン!!
ドサドサドサドサッ!!!
ゴトッ・・・・
「ひっ、ひゃぁぁあああ!!」




静寂。




■□■□■□■□■




「一体、何の音でしょう」
「さぁ・・・」
大量の本を抱えて研究室に戻ってきたホリーとアースは、誰もいないはずの研究室からする怪しい物音に首を傾げた。
「ちょっと私が中を見てきますから、アースさんは此処で待っていて下さいね」
「だいじょうぶですか・・・?」
「はい、私、こう見えても意外に強いですから」
静かに研究室の中に入り様子を伺うホリー。
両手の本を入口近くの台に乗せ、ゆっくりと奥へ・・・
「あ・・・・」



目に飛び込んできたのは物が散乱した床と、テーブルの上で倒れた瓶の中身を頭から被って座り込んでる幼児・・・ルナソルだった。
「ルナソルさん!!」
ぽやんとしているが怪我をしている様子はない。
ただ・・・
「っく・・・ひっく・・・」
ルナソルの頭から漂う強いアルコールと甘い果実の香り。
「この匂いは・・・・・やっぱり!!ル、ルナソルさん!しっかりして下さい!!」
「ふぇ〜?ホリーしゃんくるくるしてるぅ〜〜??」
紫水晶の瞳の中央がグルグルしている状態。
液体・・・アルコールを飲んでしまったのか、匂いにやられてしまったのか完全に酔っぱらってしまっている。



「ルーの声がしたんですけど・・・・・ルー?!」
「アーシュもぐりゅぐりゅしてりゅぅぅぅ〜〜??」
心配になって中に入ってきたアースは、バンザイをして後ろに倒れかけたルナソルの身体を支え惨状に眩暈を覚えた。
「とりあえずベッドに運びますね」
「はい・・・」
「いや〜ん!アーシュといっしょがいいのぉ〜〜!!」
離れようとしたアースの身体にガッシリと抱きつくルナソル。
眩暈と頭痛と困惑のトリオに襲われるアース。



「仕方ありませんね、それではちょっと窮屈ですが椅子の上で横になって頂きましょうか」
換気の為に窓を開け、ホリーは薄い毛布と濡れタオルを持ってきた。
「ルナソルさん、危ない目に合わせてしまってすみませんでした。身体を拭いてから少し休んで下さいね」
「む、むみゅみゅみゅ・・・・ふ、ふぇぇぇ〜〜???」
「え?!」
「あ・・・・・しまった・・・!!」
ルナソルの身体から強い銀色の光が溢れ、一瞬ぐにゃりと空間が歪み、そして・・・







「どうしたっ?!」
爆発的に膨れ上がった妙な魔力を不審に思い、会議の途中で自分の研究室に戻ったサイ。
「い、いやぁぁぁ!!来ないで下さいっっ!!」
ホリー・・・のようだがホリーよりも少し甲高い声。
そして、声はすれども姿は見えず。
開いた窓。
テーブルの上にあった物と服が散乱した床。
「服・・・・???」
「だ、だめですっ!!触らないで下さいっっ!!」



服を拾い上げようとした手を小さな手がガシっと止めた。
「・・・・・・・えーと」
「あ、あぁぁぁぁぁ・・・・・」
小さな手の主は、身体に大きめのタオルを巻きつけた濃灰色のおかっぱの髪の愛らしい幼女。
「もしかして・・・・・・・ホリー?」
「・・・・・・・はい」
がっくりと項垂れたホリーらしき幼女の姿を見て、サイは物凄く嫌な予感がしたのだった。



■□■□■□■□■




「おとーしゃん、こんにちはー」
「・・・・・・・」
嫌な予感超的中。
毛布にくるまって頭だけ出している銀髪の超美少女と金髪の少年。
「ルナとアースだよな?」
「しょだよ、おっきくなっちゃったー!!」
「・・・・です」
事の重大さがよく分かっていないのかニコニコ笑顔のルナソルと疲れた顔のアース。
「えーと・・・・・事情を説明して貰う前に服を何とかしようか」
「すみません・・・・・」
散乱した服を几帳面に畳み項垂れるホリーの頭をポンポンと撫でると、サイはメールディアに連絡した。



「あらぁ〜、ルナちゃん予想通り綺麗に育ったわねぇ。アースもルナちゃんに並んでも見劣りしない位いい男になれてよかったわねぇ。そ・れ・に♪ホリーさんってば何て可愛いのかしら!!」
「あ、ありがとうございます・・・」
「私は此処で女の子達の着替えを手伝うから、アースは外で着替えてきなさいね」
「はい」
「アーシュいっしょきがえないの、なんで?」
着替えを受け取ってモソモソと部屋を出て行こうとしたアースに、疑問を投げかける中身幼児で見た目10代後半超絶美少女。
「・・・・・はずかしいから」
「ルー、はじゅかしくないよ?おふろはいるときといっしょだよ?」
「・・・・・ぼくがはずかしいの!」
真っ赤になって部屋を出て行くアース。
「アーシュ・・・おこっちゃった・・・なんで・・・?」
彼の態度の意味が良く分からずにショボンとするルナソル。
「怒っていないから大丈夫よ、さぁ、普段と違う姿をしているんだし折角なんだから楽しんじゃいましょうね?」
大輪のバラが咲き誇るような笑顔で喜々として服を取り出す姿を見て、ホリーは「無敵です・・・」と呟いたという。



■□■□■□■□■




「はぁ・・・」
「溜息つかない方がいいぞ、幸せが逃げていっちゃうからなぁ」
服を着てサイと一緒に部屋の片づけを手伝うアース。
されど、溜息をつきたくなるのも仕方のない状況。
「お父さんはいつでも余裕があって、スゴイと思います」
「長く生きてそれなりに経験が多けりゃ考えの幅も広くなるし、気持ちに余裕だって作れるようになるもんよ。で、お前さんは一体何をそんなに気にしてるんだ?」
じっと澄んだ黒い瞳に見つめられて心の中を隠せる人は居ない。



「・・・ルーは能力を上手く使えないから僕がちゃんとセーブしてあげなくちゃいけないのに、力が暴走する前に融合してしまえばこんな事にはならなかったのに・・・僕がもっとちゃんとしていれば・・・」
「・・・・・もしかして、今、融合が出来ない状態なのか?」
「はい・・・だから、今の僕はルーの能力をコントロールすることが出来ないんです・・・」
ルナソルが産まれる前からアースはルナソルを守る使命のようなものを持っていた。
白竜の繋がりがそうさせるのか、それとも運命的なものがあるのか・・・兎に角アースにとってルナソルは『特別』で『最優先』な存在なのだった。
「アースのせいでも誰のせいでもない、事故だ事故。大丈夫、お父さん達が何とかしてやるから。 とりあえずは今の状況を楽しんでごらんなさい」
今は頭1つ分ほどしか身長差がない息子の頭をガシガシと撫でると、サイはお日さまのように笑った。



「お待たせ、2人ともちゃんと片付けは終わったかしら?」
両脇にバッチリお着替えをした女の子を侍らせ、全身から『至福』のオーラをバンバンに放出しているメールディア。
因みに彼女のこんな状態は職場では絶対に拝む事が出来ない。
「ばっちりですよ。お茶用意してくるから座ってて」
「あ、お茶は私が・・・」
小さな身体でトトト・・・と移動するホリーを捕まえ抱き上げると椅子に座らせて一言。
「危ないから子供は大人しく座っていなさいね。今、おにーさんが美味しいココアを作ってきてあげるから」
「おにーさん・・・ですか」
「え、何?!俺ってばおじちゃんの方が正しい??ショッッック!!」
がくっとしながらキッチンへ向かう背中に思わず笑うと、メールディアはそんなホリーの様子を見て微笑んだ。



「大変な時、辛い時、困った時こそ笑わないとね。笑顔は心に余裕を作る、余裕が出来れば冷静な考えも出来るわ。あの人って女ゴコロなんかちーっとも理解できないクセに人の心はよく分かってるのよね」
「はい・・・・そうですね」
サイの助手を務めて7,8年経つが、ホリーは彼が焦った所も苛立った所も見たことがなかった。
思い出す顔はいつも笑顔で、どんな問題が起きても「大丈夫、何とかなるって」と言って何とかしてしまう。
だから彼を信じていれば間違いはない。
何があっても、何が起きても。



「はいはい、お待たせしました。熱いから気を付けて」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ほかほかと湯気の立つココアを女性陣に渡すと、少年少女に目を向ける。
並んで座る2人は微妙な雰囲気。
チラチラと横の少年の様子を窺いながら何かを言いたそうな少女。
少女の視線に気付かず無表情に空を見つめる少年。
― 先ずはお子様達か・・・



「折角大きくなったんだからさ、ルナは何かしたい事ある?」
突然の質問に驚くルナソル。
大きくなったら・・・・・
「急に言われても困っちゃうか。じゃあ、大人っていいなぁって思う事はある?」
「・・・おとなはね、なかよしのひととあいしゅをかってこうえんでたべるのよ。でもね、ルーはちっちゃいからおかねをもってないの、しょれにね、こどもはこどもだけでおかいものしちゃめーなの。だからね、ルーはあーしゅといっしょにこうえんであいしゅをたべられないのよ」
「ルナは自分で好きなアイスを買って、アースと一緒に公園で食べたいんだ?」
チラリと横を見て小さくうなづくルナソル。



「・・・・・だってさ。アース、ルナと一緒に公園デートをしてきなさい。彼女のこわーいお父さんには見つからないように気を付けてな」
「ちょ、お父さん、今はそんな事してる場合じゃ・・・」
2人分のアイス代をアースの手に握らせるとサイはこそっと耳に囁いた。
「女の子のお願いを叶えてあげるのは男の役割なんだよ、行って来なさい」
「・・・・・・」
「アーシュ・・・・・」
困ったような哀しそうな普段見たことのない遠慮がちな目。
「行こう、ルー。今日は暖かいからアイスが美味しいよ」
「うん、あ、あの・・・おとーしゃん、ありがとござましゅ」
ぺこりとお辞儀をしてアースと共に外に行くルナソルを見送る大人たち。



「ごめんな、ホリー。もう少しだけそのままで我慢してもらえる?」
「はい、大丈夫です。センセイが何とかしてくれるって信じてますから」
「そうね、何とかしなさいよ?さて、私は可愛いお子様達に邪魔が入らないようにしましょうか。一番邪魔な存在に仕事を押し付けて来たらシイラも呼んで来なくっちゃ♪ルナちゃんとシイラにお揃いの服を着せるのよ!!」
素晴らしい笑顔で転移魔法を発動したメールディアを見送ると、ホリーは敬愛する上司が自分に向ける暖かい視線に気が付いた。
― な、何でしょう・・・も、もしかしてセンセイって幼女趣味・・・い、いいえ、そんな訳ありません!センセイにはあんなに綺麗で素敵な奥様が・・・



「ホリー・・・」
「は、はひ!!」
裏返る声。
固まる体。
「どうした、そんなに緊張して?」
「あ、いえ、あの、はい、大丈夫です」
「女の子って可愛いなぁ」
大きな掌でよしよしと頭を撫でられ、うっとりとした気分になってしまった所でブルブルと激しく首を振るホリー。
― いえ、あの、センセイの事は好きですがダメですから!何と言うか社会的にタブーですからぁ!!



「あ、あの、私は、私ですから。こんな姿はしてましても私、中身は成人女性ですので、ですからその・・・」
「メーデも喜んでただろう?次は女の子がいいとか言われちゃったらどうしよう!でもさぁ、性別の選択って出来ないもんねぇ。悩ましいなぁ」
「・・・・・・・・・・・ソウデスネ」
僅かにガクリとしたホリーの気持ちなんかちっとも分からずに、サイは小さな頭を色々と妄想しながら撫で続けた。









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