いや、なるべくしてなったのか。 「彼」のついた溜息は「にゃあ」というかわゆい鳴き声に変換された。 ■青の月7日 午後3時■ 「ねぇねぇ、アース。きょうのおやつなぁにかなぁ?」 「………」 「ねぇー、ねぇー」 「………」 「アースってばぁ!!」 「何!?どうしたの、ルー」 ようやくアースが気付いてくれたと分かると、ルナソルはもう1度、彼女的超大事事項を質問した。 「きょうのおやつだよ。なぁにかなぁ?」 「おやつ?えっと、確かホリーさんが戸棚に入れておくから食べてって言ってたなぁ…」 今日は午後から会議が入ってしまいサイとホリーが居ない。 おやつは子供達だけで食べてと言われていたのをアースは思い出した。 「なぁにかなぁ?」 「じゃあ、もうおやつ食べようか?一緒に取りにいこう」 「あいー!」 2人は研究室のミニキッチンへ向かった。 ………が。 「ない……?」 戸棚を開けたアースは首を捻った。 おやつが置いてあるであろう場所には何もなかったのだ。 「どしたの?」 「おやつが無いんだよ」 「ほぇっ!!」 おやつが、ない!! 超ショック!! ルナソルはガビーン!とした表情で固まった。 「い、いや、無いというか無くなった?ホリーさんが入れ忘れたわけないし」 「なくなったですか!?」 無いと無くなったは大いに違う。 事件である。 大事件である。 ガビーン!から彼女的にはキリリッ!とした表情に変わり、ルナソルは戸棚の中を覗きこんだ。 「じけんです!」 「うーん……」 「アース、アース、じけんはしょーしゃするんだよ」 「捜査……」 「むぐむぐ………何かあったのか?」 ルナソルが変にやる気を出しているから気を付けないとなぁ……とボンヤリ考えていたアースは突然の声にギョッとした。 と、同時に妙な寒気を感じた。 「あれぇ?スノしゃんだ!」 「久しぶりダ。るなしょる、アース」 純白の髪の美少女(正しくは女の子ではない)スノしゃん。 本名はスノウ・ホワイト。 お仕事の時は雪だるまに変化する。 オバケの世界の住人だが色々あってルナソルとアースの友達になったのだ。 「どしたのー?ゆきふったらあしょびくるいってたよねぇ?」 「今日は仕事の帰りに寄ったダけなんダ」 「しょなのー?おしごとたいへんねぇ」 「オトナだから仕方ないのダ」 「おとなですか〜」 「大人ですか………」 呑気にルナソルと会話しているスノウを見上げ、「あーあ」と思いながらアースはスノウにたずねた。 「スノウさん、さっき何かを食べましたか?」 「そこの戸棚に入っていたドーナツを食べた」 「どーなつ?」 「あぁ、ふわふわで美味しかったな。るなしょるとアースの分もあればよかったのに」 「どーなつ……」 「………」 悪気なく笑うスノウの口の周りにはドーナツの思い出ともいうべき粉砂糖がバッチリと付いていた。 「ごめんなさい。るなしょるとアースのおやつダと知らなかったんダ」 「しらなかったならしょがないよねぇ」 自分達のおやつじゃなくても人の物を勝手に食べてしまうのはいかがなものか。 そう思ったがオバケの常識とこの世界の常識の違いなんだと無理矢理納得し、アースはぼんやり「おやつどうしよっかなぁ…」と考え始めていた。 「アース、怒っているのか?」 「え?別に……」 「アースはおこってないです。いっぱいかんがえてるからむーんってかおしてるだけです」 「ナルホド。黙っていると怒っていると勘違いされるタイプなんダな」 「しょうなのです」 「私もそうダからなー。気持ちは分かるぞ!」 「しょうなんだぁ?ルーはねぇ、だまってるとおなかすいてるの?っていわれるよー」 「お腹空くと元気なくなるから困るな」 「ルーはげんきなのがとりえなのよ」 「………」 スペシャルマイペースな2人は放っておくと会話が果てしない旅に出てしまう。 ここらで軌道修正にかからねばならぬとアースはようやく口を開いた。 「あの、帰る途中だったんですよね?」 「そうダ!帰る途中ダった!寄り道バレたら母上が怖い!」 「ははうえってなぁに?」 「お母さんの事だよ」 「しょなんだー。ルーのおかしゃまこわくないよ。おうたとおりょうりじょうずでいつもにこにこなんだよ」 「るなしょるの母上か。確かジャックが「チョーかわいい!マジ天使!一回デートしてみてぇ!」って叫んでたぞ」 そんな邪心を抱いていると仮にファルシエールに知られたら、ジャック(かぼちゃ頭のオバケ)はきっと消炭にされるだろうなと思い、アースは小さく「うーん」と唸った。 「………世の中の平和の為にその件に関してはオフレコでお願いします。話を戻しますけれどスノウさん、それなら早く帰った方がいいんじゃないですか?」 「そうダそうダ!人の事をちゃんと憶えていてアースはしっかり者ダな」 「しょだよ。アースはしっかりなんだよ。ルーはのほほんだからちょうどなんだよ」 ルナソルはえへんと胸を張って誇らし気に話した。 「………ルー、おしゃべりおしまい。スノウさんもです」 「うむ、しかし、おやつの件は……そうダ!緑の月が1番強い夜、お詫びに来る」 「はぁ、おやつの事はもういいんですが…」 「そうはいかないのダ。私は王族として仁義を重んじねばならんのダ」 この世界の常識を逸脱した世界の仁義ってなんじゃらほいだが、「もう本当に面倒はイヤ!」と思ったアースは「はいはい」と軽く流した。 彼は後にそれを悔やむ事になる。 ■緑の月1日 午前0時■ 「約束だから来たぞ!とぅっ!」 「ふみゃ!」 「………何?」 アースとルナソルが寝ている部屋に飛び込んで来たスノウは、どっかーんと2人のベッドに飛び乗った。 「時間があまりないからさっさと始める!」 寝ぼけている2人に向かってスノウは銀色のステッキを向けた。 「む〜〜?」 「…………だから、何?」 『緑の月、変化の月、汝の望む姿に、のぞみ、かなえ、たまえ!!』 「ほぇ〜〜〜!!」 「だから、何なんだってばぁ〜〜!!」 ビビビビビ………ステッキの先端から摩訶不思議な緑色の光線が放たれアースとルナソルの身体を包みこんだ。 「じゃ、そういう事で!母上にバレる前に私は帰る!」 そう言ってスノウはあっという間に夜空へ消えていった。 「ルナソル!!………と、アース!」 子供達の(というかルナソルの)叫びを聞いてファルシエールは鬼の形相で部屋に飛び込んで来た。 「おとしゃま〜?」 彼の目に飛び込んだのは恐怖に泣き叫ぶ子供達(というかルナソル)ではなく、ベッドの上で目をこすりながら眠そうにしている姿だった。 面倒に巻き込まれる前に帰れたスノウ、ラッキーである。 「どうしたの、ルナソル。大声出してたからお父さんびっくりしちゃったよ。怖い夢でも見たのかな?」 「ふみゅ〜」 ねむねむな表情の娘も超きゃわいい!と思いながら抱き上げてたずねたが、ルナソルは既にウトウト眠り始めていた。 「ははは、しょうがないなぁ、もう♪アースは………アース?」 ルナソルをベッドに寝かせようやくアースの方に目を向けたファルシエールは「ハテナ?」と首を傾げた。 アースの姿がない。 そして、アースがいるはずの場所には白い子猫が座って窓の外を見上げていた。 「何で猫が……?」 「………」 ファルシエールが片手で持ちあげると、子猫は迷惑そうにパタパタと手足を動かし緑色の目を細めた。 「それにしても、アースは何処に行っちゃったんだろう?」 「にゃあん?」 「何か知ってるのかな、ネコさん」 「にゃ?にゃにゃ?!」 ビクン!と尻尾を立てた子猫はファルシエールの手から逃れ、ドレッサーの上に飛び乗り鏡の前で止まった。 そして、 「みぎゃーーー!!!」 ふわふわの体毛を逆なでさせ、子猫は悲痛な声で?鳴いた。 アースがいなくなった? その代わりに何かよく分からない子猫が現れた? 事件である。 早速アースの両親であるサイとメールディアが呼ばれて来たのだが…… 「ちっちゃーい♪かっわいいー♪ふわふわ〜♪」 「みゃみゃみゃみゃみゃ!!」 「あらあら、そんなに尻尾を立てちゃってどうしたんでちゅかー?」 「話し方がおかしくなってるよ、メーデ」 「ついなっちゃうのよぅ☆あん!今まであった動物さんの中で一番かわいいわ☆」 現在子猫はメールディアの腕の中にいた。 最初のうちは何とか逃れようとジタバタしていたが早々に不可能と理解し、なされるがまま状態になっていた。 諦めがいいというか冷めた子猫ちゃんである。 「うーん」 「みゃう……」 子猫の目をジーッと見つめ、何やら考えるとサイは「うーん」と唸った。 「何か分かった?」 「まぁ、一応。皆も状況から予想してたと思うけど、この子猫はアースだよ」 「信じ難いけど……サイがそう言うならそうなんだよね、きっと」 「みゃうみゃう」 「そうだ」と言うように子猫は小さく鳴き尻尾を振った。 「でも、おかしいのよねぇ。幻覚魔法とはちょっと違うみたい。というか、この世界の魔法とタイプが違う感じね」 「え?え?え?えーと?アースはどっかの世界の魔法でこのネコちゃんになっちゃってるって事?」 「そうそう。お、ここ触るといい感じ?」 「みゃうー」 サイが子猫(アース?)の小さな額を指で撫でると気持ち良さそうに目を細めて鳴いた。 「………すっごくネコちゃんっぽいけど、本当にアースなんだよね?」 「みゃっ!?」 ハッとして子猫はメールディアの腕の中でペチペチと手(足?)を動かした。 「あぁん!かわい過ぎるけど本人にとっては大問題よね。さて、どうしましょうか?」 「何らかの事情を知ってそうなのはルナだろうから聞いてみるか」 「起きればいいんだけれど………」 何か特別な事でもない限りルナソルは寝起きが悪い。 自分も子供の頃は相当寝起きが悪かったシイラは力なく笑って言った。 「うーん。あまり時間が経つと元に戻れなくなるかもしれないからなぁ」 「みゃう!」 「あら」 突然やる気を出した子猫はメールディアの腕をすり抜け、すぴすぴ眠っているルナソルの頬をぐにぐに押し始めた。 「あーあー!!何て事を!!」 容赦ないぐにぐに攻撃でルナソルのふくふくほっぺは変形しそうなほどに動かされていた。 「みゃあみゃあみゃあみゃあ!」 「…………ふぇ〜〜」 そのかいあって朝まで起きない様子だったルナソルは、うっすらと目を開けた。 「みゃあ!」 子猫歓喜。 しかし、 「ふぇ〜〜〜ねこちゃん!ねこちゃんだ!!」 「みぎゃーーー!!!」 目の前のふわふわ子猫を、ルナソルは見た目にそぐわぬ力でムギュッと握りしめたのだった。 嗚呼、哀れ子猫。 「えー?ねこちゃん、アースなの?いいなぁ〜」 「みゅ!みゅ!!」 本人は「よくない!」と抗議の声を上げたつもりなのだろうが人の耳には子猫特有の可愛らしい鳴き声にしか聞こえず、場にちっとも緊張感がない。 「なぁ、ルナ。今日、何か変だなぁって思った事はあるか?」 「きょーう?んーーー???」 「今日というか、今晩ね。ベッドに入った後、何かなかった?」 「んーーーーー???」 「みゃあ、みゃあみゃあ」 考え込んでいるルナソルを見ると、子猫はピョーン!と高く飛び上がりボイーン!とルナソルに乗っかった。 「あら、仲良しさん」 「微笑ましいね」 じゃれているのかと母2人が温かい目で見つめているのに気が付くと、子猫は背中の毛を逆撫でさせて再びジャンプ&アタックをルナソルに仕掛けた。 「こら、アース?じゃれるのもいい加減にしなさい」 「まぁ、待て待て。沸点低いアースがここまでムキになってやってんのには理由があって然りでしょ。どうだ、ルナ。何か思い出したか?」 「んーーーーー、あ!えとね、スノしゃんがぼーん!ってきたよ」 「スノしゃん?あの雪だるま又来たの?ちっ……惜しい事をした……」 数日前に「スノしゃんどーなつたべちゃった」という情報を聞き、ファルシエールは次に遭遇したらシメてやると大人げない事を考えていたのだ。 「しょれでねぇ、むにゃむにゃでぼうをえいってやったらびびびーってなってびっくりしちゃった!」 「むにゃむにゃでぼうをえいってやったらびびびー?」 「みゃうみゃう!!」 「むにゃむにゃでぼうをえいってやったらびびびー………ひょっとしないでも、アースはオバケの世界の魔法をかけられたって事だなぁ。ルナは魔法がかかりにくい体質だから何ともなかったのか」 「マジでか。やっぱ1回やっとくかあの雪だるま」 「るっさい、アンタは黙ってなさい。……にしても、オバケの世界の魔法?カボチャさんのロクでもない魔法かすら微妙な魔法しか見た事がないからビックリだわ」 「みゃーみゃー」 そうだそうだと子猫(アース)も頷いた。 「ん?びびびーってなってびっくりして、アースが子猫になったのは見てないのか?」 「あい。アースもびっくりしたのはしってるけどねむいからねちゃった!」 「成程、直ぐには効果が表れないんだな。時間がかかるのか、きっかけが必要なのか……オバケの世界の魔法……きっかけ……あぁ、月だ」 「そういえば、僕が子猫…いやいや、アースに気付いた時、窓の外を見ていたよ」 「みゃー」 「月なんか見なきゃよかったー!」とがっくり尻尾を垂れた子猫に女性陣は胸をキュン☆とさせた。 正体がアースだと思うと尚更かわいく愛しく見えてしまうのだ。 「はいはーい。オバケの世界の魔法に「月」が関係しているっていうのだから、逆に太陽の光を浴びたら何か変化が見られると思うの」 「あぁ、そう考えるのは自然だよな」 「って事は、朝までこの件に関して進展はないんじゃないかしら?」 「え?姉さん、何が言いたいの?」 メールディアはにっこり微笑むと子猫を抱き上げて言った。 「今晩は久しぶりに可愛い息子と寝まーす♪」 「みぎゃ!」 「ルーもねこちゃんとねるー!おかしゃまもいっしょねよー?」 「え?いいのかなぁ?」 いいのかなぁ?とか言いながらまんざらでもなさそうなシイラを見ると、ファルシエールは勢いよく手を挙げた。 「はいっ!僕も一緒に寝たいでっす!!」 「はい、却下」 スパッと要望をぶった切るとメールディアはルナソルとシイラを傍に寄せた。 「にゃにーおー!?」 「アンタ、いい歳してお姉ちゃんと一緒に寝たいなんて冗談ポイでしょ」 「ちょ、意味が違……」 「そういうわけでー、ファルはお留守番でーす。シイラとルナちゃんは家にいらっしゃい。子猫ちゃんを真ん中にして皆で仲良く寝ましょうねー?」 「あーい!」 「それじゃあ遠慮なく…」 「遠慮してーー!!シイラだけでも遠慮してーー!!」 「1人でおやすみなさーい♪ぷぷっ……」 笑いをかみ殺しシイラとルナソルを連れてメールディアは転移した。 残されたサイとファルシエールは…… 「大丈夫。俺が皆を寝ずの番で見守ってやるから心配すんなよ!」 「え?え?」 「じゃ、俺も帰るわ」 「えーーー!!??」 爽やかな笑顔であるが「この場に残るのは面倒」とサイもとっとと転移してしまった。 「マジですかーーー!!!???」 「アースふぁふぁだねー」 「にゃあ」 「ふぁふぁ……ふぁ……」 「にゃあ……」 ルナソルの腕の中でぬいぐるみのように抱かれた子猫アースは、窓の外の月を見上げ小声で鳴き目を閉じた。 |
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