ふぁふぁふぁふぁ…… ふわふわであったかーいここはどこ? ふぁふぁふぁふぁ…… ここはきっと「くも」のうえ。 ふぁふぁふぁふぁ…… きもちいいなぁ、たべたらおいしいかなぁ? ふぁふぁふぁふぁ…… おいしいかなぁ? パクンッ 「みぎゃーーーー!!!」 ■緑の月2日 午前7時■ 「あらら……」 子猫の鳴き声に驚いたシイラとメールディアが寝室に戻ると、そこには衝撃風景があった。 すぴすぴ眠っているルナソルが子猫の尻尾をパクっと咥えていたのだ。 「よく我慢してるわねぇ、アース」 「みゃあ…」 「ご、ごめんね、本当に。ルナソル、起きなさーい」 「むにゅむにゅ……」 全く起きる気配がない。 それなのに口はモゴモゴ動かすものだから子猫の尻尾はヨダレだらけになっていた。 「はっはっは!!こんな時は頼りになるお父さんにお任せだよ☆」 「あ、ファル。おはよー」 「おはよう、シイラ。昨晩は寂しすぎて枕を涙で濡らし……」 「バカ言ってないでとっととやる事やんなさいよね」 シイラの方へ伸ばした手をメールディアにペシリとやられ、ファルシエールは小さく舌を出した。 「はいはい……と、いうわけでぇ、ルナソル〜朝ごはんだよ〜?お父さん特製のフレンチトーストだよ〜」 ファルシエールが何処からか取りだしたのは白い皿に乗ったフレンチトースト。 真っ赤なベリーのジャムとホイップクリームが添えられてありとても美味しそうだ。 「これ、何処から出したのかしら…」 「ファルは色々と器用だからねぇ」 器用とかいう問題ではない。 「ほらほら、ルナソル。起きて食べようね〜?」 「むーん………」 もぐもぐ。 「みゃ、みゃぁ〜〜〜」 「逆効果じゃないのよ、バカタレ」 「お、おかしいな……いつもなら起きるのに……」 「いつもは何も口にくわえてないからねぇ」 ポツリと呟いたシイラの突っ込みにショックを受けるファルシエール、その様子を冷ややかな目で見るメールディア、何とかルナソルを起こそうと試みているシイラ……身動きが取れない子猫アースは大人達をウルウルと見上げていた。 「朝から皆で何やってんだ?」 「みゃあ!」 本当の頼りになるお父さん…サイの登場にアースの瞳はキラキラと輝いた。 期待充分である。 「ごめんねぇ、ルナソルが全然起きなくて…」 「あー……頑張ってるなぁ、アース」 「みゃう」 「ほれ、起きろールナー」 「ふっ……そんな簡単にルナソルが起きるわけ……にゃにー!?」 「あ、起きた」 「むぅ〜」 メイクミラクル。 流石サイ、スーパーなお人である。 「何したの?!何の魔法を使ったの?!」 「え……別に……シイラと同じように起こしただけなんだけど」 「あー、そういえば、昔はよくサイに起こして貰ってたねー」 サイはシイラの元保護者兼パートナーなのである! 「シイラも寝起き悪かったからさ、朝の仕事に連れて行くのは苦労したもんだよ」 「たははー、その節はお世話になりましたー。って、そっかぁ、ルナソルも鼻をつまむと起きるんだね」 親なのに試した事なかったかんかーい!と突っ込みが入る所だがそこはそれ。 シイラったらうっかりさんなんだから☆で済む話なのだ。 「ふぇ〜、おはようごじゃます、おとしゃまおかしゃま、おとしゃんめるしゃん」 「おはよう、ルナソル」 「んーと、ねこちゃんのアースは?」 「あぁ、そこに………居ない……」 「………此処に居るよ」 ルナソルのもぐもぐ羽交い締めから解放されたアースは驚くべき俊敏さでサイの頭の上に避難していた。 「ねこちゃんのアース、おはよ!」 「にゃ」 「こっちおいでよう」 「………ふーっっ!!」 「いでででで」 この場から離れるものかと爪を立てて踏ん張るアース。 ようやく逃れられたのだから再び捕まる気は毛頭ないのだ。 「ねこちゃんのアース、どうしてきてくれないのかなぁ?」 しょぼーんとした顔に同情したくもなるが、先ほどまでの惨状を見ている為にアースの気持ちも分からないでもない……1人を除いて。 「みぎゃ!」 「い、いだだだだ!!」 妻と娘以外の都合はお構いなし天下御免の迷惑人物ファルシエールは、アースをサイの頭からひっぺがそうと苦心した。 だが、アースはアースで負けじと必死に爪を立てるものだからそう簡単には外されない。 そして最大の被害者はサイ…… 「アース、もっと力を抜いてくれないとサイの頭が大変な事になっちゃうよ」 「みぎぃーみぎぃー!!」 「痛い、痛いって、マジで」 「だから大人しく……」 「大変な事になるまでやるつもりなんかーい!」 「あうちっ!」 ファルシエールの後ろ頭を素早く叩くとメールディアはルナソルと目線を合わせて優しく話しかけた。 「ねこちゃんアースは早く朝ごはんを食べたいんじゃないかしら?ルナちゃんはお腹空いてなぁい?」 「おなかすきました!しょっかぁ、ごはんたべたらあしょぼぉね、ねこちゃんのアース!」 「………にゃ」 超一時しのぎである。 だが、とりあえずの平穏を求めアースは渋々と返事をした。 それによりサイの頭における危機は解除されたのだった。 「はい、アース」 「みゃ」 「はい、アース」 「みゃ?」 「ほれ、アース」 「みゃあ」 「はい、アース」 「みゃ…」 朝の食卓、テーブルの上に座らされたアースはモテモテだった。 スプーンにすくったミルクをペロペロと舐める姿の愛らしさに皆メロメロだ!! 「アースいっぱいたべるねー」 「みゃー!!」 しかし、途切れる事なく続く「ミルクどうぞ♪」攻撃にアースはキレた。 「獣化が進んでるのかな?何だか普段よりもキレ易くなってるような気がするけど」 「今のは俺達が調子に乗り過ぎたんだろ。悪かったなぁ」 「みゃあ」 短く鳴くとアースはトコトコと歩いてサイの膝の上にちょこんと座った。 「……本当に困ってる時って1番頼れそうな人に素直になるんだねぇ」 「あら、ジェラシー」 「あはは……まぁ、ここは喜んでおこうかな」 大人達の言葉なんて聞こえていないという様子でアースは目を閉じまるまった。 「さて、と。とりあえず思いつく事をしてみようか」 「思いつく事って?」 「日の光を浴びてみるんだよ。アース、好きな所へ行って日向ぼっこしておいで」 「にゃん」 「ふぇ〜、ねこちゃんアースまってよぅ〜」 サイの腕からスルリと抜け外へ出て行ったアースを追ってルナソルもトトト……と駆けだした。 「あ、待っ……ルナソ……」 「オマエが待てぇい!」 「なっ、何を……」 「事態がややこしくなるから貴方は何もしないでいなさい。シイラ、よろしくね♪」 「よろしく?よろしく??えーと……ファルはお留守番!!」 シイラがファルシエールの手を握りキラキラッと上目遣いで見つめると、部屋の中はあっという間にピンク色の薔薇で埋め尽くされた。 少女漫画的不可思議効果である。 「ふっ……毎度毎度、残念になるくらいチョロいわね。さぁって、私は様子を見に行きましょっと♪」 「あーあ……後で掃除が大変だなこりゃ」 「ごめんね、私が片付けるから…」 「いやいや、とりあえずシイラはコイツの面倒を見ておいて。待機って事でよろしく」 ファルシエールにベッタリとくっつかれているシイラに「それじゃ!」と手を振って、サイとメールディアは子供達(正しくは子猫と子供)の後を追った。 そして、その頃の子供達は…… 「ねこちゃんアースー!どーこー?」 「にゃうん」 アースはベンチの上に座っていた。 「おとなりすわるねー」 「にゃ」 「ねこちゃんアース、なでなでしていーい?」 「にゃぁ」 子猫が小さく首を縦に動かしたのを見ると、ルナソルは子猫の身体に手を触れた。 「ねこちゃんアースくびふぁふぁだねぇ」 「………ふにゃ」 小さな手で首周りを撫で撫でされると「超気持ちイイー!」のかアースは喉をゴロゴロいわせてルナソルにすり寄った。 完全にネコちゃんである。 「おはようございます、ルナソルさん。可愛い子ネコさんですね」 「あ!おはよごじゃます、ホリーしゃん。ねこちゃんはねこちゃんアースなのですよ」 「ねこちゃんアースさん……ですか?」 「あい」 「にゃ」 通りがかったホリーはルナソルの言葉に首を捻った。 そりゃまぁそうだろう。 「ホリーしゃんもねこちゃんアースくびふぁふぁしてくだしゃい。ねこちゃんアースよろこびます」 「は……い。それでは、失礼しますね」 ホリーはアースの隣りに座り、ルナソルに言われた通り首の周りを優しく撫でた。 「ふにゃん」 こうされるのが相当気に入ったようで、アースは機嫌よくホリーの膝の上に乗って丸まった。 「ふふふっ、可愛いですね」 「あー、アースあまえんぼだー。ルーもホリーしゃんにくっつきます!」 「どうぞ」 「わーい!ホリーしゃんのおひじゃ、やーらかいです。ねこちゃんアースふぁふぁです」 「にゃー」 ぽかぽか陽気、膝には子猫とお子様。 普段はお昼寝をしないホリーもついウトウトとして目を閉じた… 「はっ!」 「あら?ごめんなさい、起こしちゃった?」 目を開けたホリーの視界にはニコニコ〜っと微笑んでいるメールディアの姿が入ってきた。 「す、すみません…ついうたた寝をしてしまいました。ショールありがとうございます」 「うふふっ。可愛かったからいいのよぅ☆それより、膝、重くない?」 「膝?…………え?!」 そういえば子猫とルナソルが……と思い出したホリーは驚いて自分の膝の上を2度見した。 「やっぱり太陽の光を浴びると元に戻るんだなぁ」 「センセイ!」 「あ、だいじょぶだいじょぶ。女の子の寝顔を見たりしないから」 「それは分かってます……いえ、あの、この状況は一体……??」 膝の上ですぴすぴ眠るアースとルナソル。 そして、消えた子猫。 「アースがね、オバケの世界の魔法をかけられて子猫になっていたのよ」 「オバケの世界の魔法で子猫……ねこちゃんアースさん……あぁ……」 ルナソルが言っていた事にようやく合点がいきホリーは頷いた。 「ん………」 「あら、お目覚め?おはよう、アース」 「んーーー、おはようござい……はっっ!!」 むにゃっていたアースは現在の自分の状況に気付き、跳ねるように起き上がった。 「おはようございます。急に起き上がったりして大丈夫ですか?」 「はい、あの、ご迷惑をかけてすみませんでした」 「ふふっ、迷惑なんかかけられていませんよ?小さくてふわふわでとても可愛らしかったです」 「か、かわいい……」 かぁぁっと真っ赤になって俯くアースにホリーとメールディアは『きゅ〜ん☆』と心トキメかせた。 成人女性キラーである。 「まぁ、元に戻れてよかったなぁ」 「はい」 「楽しかったか?」 「は………い?あぁ?!」 いつの間にか話の輪に潜り込んでいたのは、騒動の張本人であるスノウであった。 「残念ながら私の魔力では1晩しかもたなかったようダな、すまんすまん」 「いえ、謝る所が全然違うんですけど」 悪気のない様子のスノウに温厚なアースも流石にカッチーン!ときてしまったのは仕方あるまい。 「何を怒っているんダ?私はアースの望みを叶えたんダぞ?」 「はぁ?僕はネコになりたいだなんて望んでません」 「そんな事はない。アレはオバケの世界の秘宝『ノゾミカナエタマエステッキ』ダ。自分のなりたい姿に変身出来るんダ。ネコになったならアースはネコになりたかったんダ」 「だから、違……」 モメモメしている2人のやり取りを聞き、サイとメールディアは首を捻った。 「ん?ネコになる魔法じゃなかったんだ?」 「違う。「自分のなりたい姿に変身する魔法」ダ。アースがネコになりたいと思ったからネコになったんダ」 「思ってません!」 「はぁ……何となく分かったような気が」 「私も」 流石両親、サイとメールディアは何故アースがネコになってしまったのかを察した。 「僕はネコになりたいだなんて思ってませんよ?」 「あぁ、うん。具体的にはね」 「具体的に?」 「アースは『のんびりお昼寝したい』って思ってるんじゃないか?」 「え?あ、はい……」 アースは寝る事が大好きだ。 特に何もする事がなければ、ずーっと寝ていたいと思っているくらいだ。 ……思っているだけでルナソルがそうさせてくれないわけだが。 「アースは『のんびりお昼寝したい』。で、それを叶える『望む姿』に変身した」 「それがネコちゃんだったってわけ」 「ほらみろ。アースの望む姿になったんじゃないか」 「はぁ……」 鼻高々にふんぞり返るスノウに、アースは怒りを通り過ぎ脱力した。 何より自分が深層心理ではネコ的なモノになりたかったのかと思い愕然とした。 「あれぇ?アース、ねこちゃんアースじゃなくなっちゃったー」 珍しく自力で起きたルナソルはアースの姿を見ると残念そうに唇を尖らせた。 「……そんなに残念そうな顔されると微妙な気分になるんだけど」 「るなしょるはどんな姿になったんダ?」 「あれぇ?スノしゃんだ!」 「ルナソルは何にも変化しませんでした。魔法がかかりにくい体質なんで」 「魔法がかかりにくい体質?ムムム……」 スノウは心底残念そうな顔をした。 「ほぇ……ルーがまほうかかりにくいからスノしゃんがっかりなの?」 「違う。るなしょるにドーナツを食べてしまったお詫びが出来ないのが残念なのダ」 意外に律儀である。 「スノしゃんごめんねしたからいいよ!」 「るなしょるはいいヤツダ……」 スノウはルナソルを抱きしめ、感動の涙を流した。 「眼福ねぇ」 「何だかなぁ…」 見た目は美しいのでメールディア的には「よし!」なのだが、行動的には「何だかなぁ」が正しい。 「スノウさん、1つ聞きたいのですが」 「えぐえぐ………何ダ?」 「僕にかけた魔法って……もう効力は無くなったんですよね?」 「ん?分からない」 「は?!」 アースは珍しく動揺の表情を見せた。 それはまぁ、そう反応するのは当然だろう。 「分からないって事は、まさか又ネコになるとか……?」 「かもしれない」 「かもしれないって…」 「母上ダったら毎晩姿を変える魔法になるが、私はこの魔法が上手ではないからな!」 「上手じゃないものをかけたんですかい…」 得意げに話すスノウに対し、サイは小声で突っ込んだ。 「って、威張って言う事じゃないでしょう?!どうやって責任取ってくれるんですか?!」 「何ダ何ダ、何で怒るんダ?なりたいものになれるならいいじゃないか」 「しょだよ。ねこちゃんアースかわいくていいよぉ」 「よくないですっ!」 ぷりぷり怒るアースにスノウとルナソルは首を捻り、大人達は「まぁまぁ」と宥めた。 「とりあえず、オバケの世界の魔法の解析は父さんに任せなさいな。これから先も悪気はないけれど迷惑以外の何物でもない魔法をかけられる可能性があるだろうからさ」 「あらあら、サイってば何気に毒舌ねぇ」 いくら寛大な心の持ち主であっても、やはり迷惑なものは迷惑なのだ。 「ムゥ……お詫びとは面倒なものなのダな」 「お詫びが必要な面倒をかけなければいいんでしょう?」 「いやいや、違う世界の住人同士で常識が通じる方が難しいよ。雪だるまさんが「お詫び」って考えただけでも奇跡でしょ」 「お詫びは仁義ダと母上にキツく言われているのダ」 「仁義ねぇ…」 「雪だるまちゃんのお母様、どんな方なのか気になるわぁ」 いたずらを生業とする世界の女王様でカワイイものが好きで仁義を語る人物。 そして、雪だるまに相当の恐怖を植え付けている人物。 「母上か?母上は……説明が難しい。会いに来い。私の友達ダと知ったら喜んでもてなしてくれるゾ!」 「もてなしという言葉を素直に喜べないのは僕だけでしょうか…」 「おもてなし」に喜びピョンピョン跳ね回るルナソルとまんざらでもなさそうな両親を見て、アースはガクーンと肩を落とした。 「まぁまぁ、人生色々経験しといた方が面白いって」 「面白いと思うには僕は未だ若すぎる気がします」 サイにポンポンと頭を撫でられるとアースは何となく諦めに近い気の抜けた笑みを漏らした。 些細な事でも面倒な事件に変化を遂げてカウンターパンチを仕掛けてくるのは容易に想像できる。 それなのに「面白い」と言ってしまうのだから… 「それでは早速、お願いをしに行かねば!」 「すのしゃん、もうかえっちゃうの?」 「うむ。母上はチョー多忙ダからな!機嫌のいい時を見計らってお願いせねばならんのダ!」 「それは、忙しくてイライラしている時にまかり間違ってお願いをしたらドエライ事になるとも言えるのでしょうか?」 「アースは察しがいいな!」 「そんなの察しがよくなくたって察します」 手を振りながら「ドロン」したスノウが次に現れる時、己の身にどんな災厄が襲いかかってくるのか……アースは考えるのを止める事にした。 考えても起きる物は起きるし、有事の予防線を張り様がないのだから。 「成程ねぇ〜、今度はそうきたかぁ」 「………」 「あらやだ、かわいい☆」 「……………」 その夜、緑の月の光を浴び…… 「ねぇねぇ、ルーもぴょこぴょこしたいなぁ」 「皆、楽しまないで下さいっ!!」 頬からネコひげとおしりにネコしっぽが生えたアース。 スノウの中途半端な魔法は、中途半端な効力を残してしまったようだ。 「まぁまぁ。明日の昼間には無くなるし、急いで魔法の解析をするからさ」 「あらぁ、緑の月の夜だけならこのままでもいいかと思うけど」 「よくないですっ!!」 アースの苦悩はまだまだ続くのだった…… |
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