「あれぇ?創司くん来てたんだ?」 「あぁ、お帰り。征さん、ありがとうございました」 和泉ちゃんのお家から帰ってくると創司くんが来ていた。 お父さんに用事があったみたい。 「もう帰っちゃうの?」 「ちょっと考えを整理したいから。そんじゃな」 そう言って創司くんは帰ってしまった。 「おかえりなさい」 「ただいま、創司くんがお父さんに用なんて珍しいね。もしかして私の記憶関係?」 「いえ、昔話をしただけですよ」 「昔話?」 「お父さんとお母さんの馴れ初めですとか……」 「にゃにゃ!?にゃんですと!それは私も聞きたい!!」 「ふふふっ、娘には恥ずかしいのでナイショです」 「えぇーーーっっ!!」 なんだか理不尽だぁー!! 「……でね、結局何も聞けずだったの」 「あははっ、残念だったね」 どうにも納得いかず、昨日の事を焔くんに話してみた。 「お父さんとお母さんの恋話って興味ない?」 「んー……僕の場合は聞いてもいないのに勝手に話してくるんだよねぇ」 「えー、いいなぁ」 色々と複雑な事情があったらしいけど、美両親の恋話……ステキ!! 「ウザいよ。最近は特に恋愛の先輩面して話すのがウザウザしい」 「ウザウザしい……?」 変換活用した! それほどにウザいのだね! 「父さんが母さんに結婚の申し込みをしたのが15歳の時だったって聞いた事あるでしょ?」 「うん」 焔くんと風眞さんの家族の話を聞いた時に教えて貰った。 あまりの若さに内心びっくりしたんだった。 「でね、もうすぐ僕も15歳だし、その……粋さんと付き合っているんだから先の事を考える参考にとか……」 「…………」 「そんなに瞬きしてどうしたの?」 「いや、うん、何でも?」 そっか。 そっか、そうなのか! 私達って付き合ってたんだね!! ……って今になって認識しただなんて言えやしない。 言えやしないよっ!! 「隠し事……」 「ううん、違う、違う」 「何でも相談してくれるって言ったのに…」 「いやいや、あの、えっと……焔くんの誕生日もうすぐだったんだなって思い出して…」 「なんだ、そうだったんだ」 ごめんなさい、誤魔化しちゃいました! でも、これはこれで嘘ではない!のです。 「それで、焔くんは誕生日に何が欲しい?モデルのバイト代ちゃんと貯金してるからそこそこのリクエストには応えられるよ!」 自分で言っといてなんだけど、そこそこのリクエストっていうのが切ない… 「うーん……」 「直ぐに思いつかなかったら今じゃなくてもいいよ?」 「粋さん」 「ん?」 「だから、粋さん」 「ん?どうしたの?」 「………」 「………」 「粋さんが選んでくれた物なら何でも嬉しいよ」 「それって何でもいいって言われてるみたいなんだけど……うん、分かった。考えておくね?」 何でも嬉しいって言ったわりには無理して笑っているように見えるんだけど…… 欲しい物があるのに遠慮してるのかな? 風眞さんや創司くんだったら分かるかもしれないから後で聞いてみよっと。 「焔ちゃんの欲しい物?」 「うん。何か聞いた事ないかな?」 「物欲ない……っつーか、偏ってるからなぁ」 「例えば?」 「例えば………ほれ」 そう言って創司くんは私が食べ終わったお団子の串をひょいと取り上げた。 「ん?」 「粋が食べたダンゴの串でもアイツは喜ぶぞ?」 「え………」 それはない……と思いたい。 「止めてよ、それこそ変態じゃない」 「例えばの話だって」 「例えばでもありえないよ。串が欲しいなら使ってないのあげるもん」 いくら何でもいいっていってもゴミなんてあげないのに!ってぷんぷんすると、風眞さんと創司くんは揃ってゆる〜く笑った。 ……うん、きっと今、私はハズしたんだね! 「いやいや、そうじゃなくて」 「はい、私も何かハズした事は感じ取りましたです」 「焔ちゃんは、粋ちゃんが関係すれば何でもOKって事よ」 「はぁ」 「そうそう注意しておかないと。もし粋ちゃんが欲しいとか桃色の欲望ダダ漏れな要求をしてきたら即却下するのよ?」 焔くんとの会話を思い返してみると妙に私の名前を連呼していたような気が。 それって欲しい物=私って事? でもでも…… 「流石に私はあげられないなぁ」 あげるとか貰うって物じゃないし。 冗談だよね、きっと。 「人身売買的なボケか」 「なっ!?もしかして、私は又おもしろおかしい事を言いましたでしょうか?」 「粋ちゃんはこれくらいの反応がかわゆいのよ、うふっ♪」 「うふっ♪じゃないよ〜」 「いいじゃん。分からなきゃ分かんないで風眞が危惧するような事は起こらないって事だから」 「危惧って……そんなに深刻な問題なの!?」 そして2人は再びゆる〜く笑った。 くぅぅっっ!! 「迷走してるな」 「迷走してるわね」 「ううう……焔くんへのプレゼントは自分で考えます……」 「それでいいと思う」 「それでいいんじゃないかしら?」 結局、振り出しに戻ってしまいました。 「ハッピーホワイトデー♪」 「………」 「………」 「………」 「何、何、女子の皆さ〜ん。テンション低いんじゃな〜い?」 「ウチらのテンションがどうこうよりも、アンタのテンションがおかしい」 「どうしたんですか、祐月くん。頭の中が花粉症にでもなりましたか?」 「あっはっは〜!今日も僕への攻撃がハンパないね!愛情の裏返し?だとしたら僕って愛され過ぎ?」 何とコメントしたらよいものか分からないで曖昧に笑っていると、祐月くんは私達それぞれにカードを手渡した。 「って訳で、僕からのプレゼントはコレ。その筋ではすっごい貴重な品だから感謝してねー?」 「すっごい貴重な割には手書きじゃん」 「そこが貴重なんだよ。分かってないなー」 カードには『マドカくんが貴女のお手伝いをしちゃうぞ券』ってマジックで書いてあった。 お手伝い券なんだ……、これ。 「ただのお手伝い券じゃないよ。万一の事故でも壊れないくらいの防水防火加工もしてあるんだから」 「そんな事故が起きたら持っている人の方がエライ目に合いますよね」 「そうだよね」 「あははっ、ダメ出しも容赦ないねっ!」 なんだかんだ言いながら私達はそれを「ありがとう」と受け取った。 その後、安積くんと霧島くんから学園内の動物さん写真集を、九重くんから桜の花の形をしたペーパーウェイトを、土浦くんからハーブティーを、創司くんから緑茶の香りのハンドクリームを、そしてミクちゃんから…… 「うっわ、うわぁ〜!!」 「素敵ですね」 「勿論これって…」 「うん。母さんに少し手伝って貰ったけれど僕が作ったんだ。7つの色と味があるから楽しんで食べてね」 ガラスの小瓶に入ったビー玉に見えるキャンディ。 綺麗だし可愛いし食べるのが勿体ない!けど、美味しいって分かってるから食べたい! 何だか素敵な物を沢山貰っちゃったなぁ。 ホワイトデー万歳! 「スイちゃん」 「ん?」 特別講習の時間、音楽棟の裏庭で休憩をしているとミクちゃんが声をかけてきた。 「休憩中にごめんね。渡したいものがあったんだ」 「私に?」 「バレンタインのお返しなんだけど、これ……」 そう言って渡されたのはピンクのリボンがついた紙包みだった。 「え?でも、お返しならさっきもう貰ったよ?」 「あれはクラス用でこれは個人用という事で。受け取ってくれるかな?」 「ありがとう。じゃあ、遠慮なく頂いちゃいます。開けてもいい?」 「いいよ」 リボンを解いて紙を開くと中身は…… 「エプロンだ」 「カフェエプロンの方がオシャレだけど、普段使うには上半身も汚れない方が便利かと思って」 「私もこういうエプロンの方が使い易いんだ、ありがとう」 「よかった。…………」 「どうしたの?黙り込んじゃって」 「………よくよく考えたらバレンタインのお返しにエプロンって変だよね?母の日かーい!って突っ込む所だよね?」 「私は貰って嬉しいから変だと思わないよ?」 「そう……?」 「うん」 「それならよかった、それじゃあね」 「どうもありがとう」 本校舎に戻って行くミクちゃんに手を振って、私も音楽棟に戻ろうと立ち上がると膝の上から何かが滑り落ちた。 「ん……何だろ??」 地面に落ちたのは小さな袋で中に何かリング状の固い物が入っているようだった。 さっきまでは無かった物だしエプロンと一緒に入っていた? でも、ミクちゃんは何も言ってなかったし……? 大事な物だったら困っちゃうだろうから急いでミクちゃんを追いかける事にした。 「み、み、みー!」 「ど、どうしたの?!」 自分の足が遅い事は存じておりましたが……まさかゴールまで追いつけないとは思いませんでした。 「こ、これ、おと……」 「ま、まぁ、座って?」 「あい……」 調理室の椅子に座って一息つくと、ミクちゃんは冷たいお茶のはいったグラスを手渡してくれた。 「今は冷たい方がいいかと思って」 「ありがと、いただきます」 はぁ……生き返る…… 「落ち着いた?それで、僕に何か用だった?」 「あ、うん。これ、エプロンの間に挟まってたみたいなんだけどミクちゃんのじゃないかなって」 「僕の?……あ、あぁ!?」 小袋を取り出すとミクちゃんの顔が青くなってそれから直ぐに真っ赤になった。 「違った?」 「そう、と言えばそう…なんだけ…ど…」 「うん?」 「しまっておいたはずなのに……」 「しまっておいた物なの?じゃあ、何かの拍子に紛れちゃったのかもしれないね」 「あ、いや、その、あの……」 小袋を受け取るとギュッと目を閉じてミクちゃんは私にそれを差し出してきた。 ん?んんん??? 「め、迷惑だと思うけど、これ!」 「へ?私に、なの?」 「よくよく考えたらこんなの貰った方が困るだろうけど、スイちゃんに似合いそうだと思ったから……使わなくても全然構わないから……受け取って欲しいんだ」 「貰って困る物…???開けてもいいの?」 「う、うん」 袋の外から触って大体の形は分かっていたけれど、中身はピンクの石が花形に並んだ小さなリングだった。 「かわいい…。ピンク色のこれ、何かの石?」 「珊瑚だよ、3月の石なんだって」 「3月の石ってアクアマリンだと思ってた」 「日本だけみたいだけどね。桃の節句があるからピンク色…で珊瑚って節があるんだ。ピンキーリングだから気軽にして貰えれば……」 試しに小指に通してみたけれどスカスカしちゃってる。 私って全体的に子供サイズなんだなぁ……ははー。 「手が小さいから私には薬指くらいが丁度いいみたい」 「そうなんだ……え?薬指?!」 「うん。あ……」 「………」 「………」 沈黙。 こ、これは……とっても気まずい雰囲気だ…… 「ご、ごめん!本当にそんな……あぁ!!僕ってどうしてこうなんだろう!!」 「落ち着いて、落ち着いて!」 「東雲くんが知ったら気分良くないし失礼だよね!ごめん、ちゃんとサイズを直してくるから返して貰える?」 「そこまでしなくても……」 「誤解されるような物はダメだよ。気持ちが全く入ってないと言いきれないから尚更」 「………」 少し悲しげに優しく微笑むミクちゃんを見て、私は胸が苦しくなった。 私は彼に何度この表情をさせているんだろう? 「また困らせちゃったね。スイちゃんにこんな顔させるなんて僕って本当に情けない男だなぁ」 「違っ……違うよ。私が……私が……」 「スイちゃん……?」 「私、が……」 言葉に詰まってしまう。 どんな言葉も答えにならない。 「………待って。暫く此処で待ってて」 静かに微笑んでミクちゃんは調理場に入って行った。 「………」 優しさに甘えて何度も何度も私はミクちゃんを傷つけている。 私に向けられる好意を、私は受け止める事が出来ない。 ミクちゃんの事は嫌いじゃない。 一緒に居ると安心できるし、趣味が合うから話をしていて楽しい。 けれど、私にはもう焔くんが居るから…… ……って、あれ?ちょっと待って? 「焔くんが居るから」が理由なら、そうじゃなければどうだった? 「お待たせ。よかったら食べていって」 戻って来たミクちゃんは小さくて白い球体の物を硝子の器に盛って私の前に差し出した。 「ましゅまろ……??」 「そう。1口でパクッとどうぞ」 「うん……」 言われた通りにパクっと食べると、口いっぱいにイチゴの香りが広がった。 中にイチゴのジャムが入っているんだ… 甘酸っぱくて美味しい! 「美味しい?」 「もちろんだよ!」 「よかった。スイちゃんに喜んで貰えたらいいなって思って作ったから嬉しいな」 私が笑うとミクちゃんも安心したように微笑んだ。 「スイちゃんが気にする事なんてないんだよ」 「え……?」 「僕がきっぱりと諦めるべきなのに、そうしないのがいけないんだから」 「………」 何て答えればいいのか分からなくて黙っていると、ミクちゃんは話を続けた。 「スイちゃんに再会できてこうして友達になれた事だけで奇跡なんだもの、僕は幸せだよ」 「でも、辛い……よね?」 「多くを望んでスイちゃんを困らせる方が、僕にとっては辛いよ」 『もしも東雲くんよりも先にミクと仲良くなっていたら、ミクの方を好きになっていた?』 こんなに優しくて、こんなに私を大事に思ってくれる人なんだもの。 もしも焔くんより先に仲良くなっていたら、私は…… 「スイちゃん?」 「………」 きっと私は…… 「どうしたの?大丈夫?」 「……大丈夫、だよ」 気付けてよかった? 気付かなければよかった? 和泉ちゃんに聞かれた時、すぐに答えを返せなかったのは完全な否定が出来ないからだ。 自分の中に異性としてのミクちゃんに惹かれる部分がないと言いきれないからだって。 「本当に大丈夫?気分が悪いんじゃない?少し顔が赤いけど……」 私の額に手を当てるとミクちゃんは首を捻った。 「僕の手って暖かいから分からないんだよなぁ……ちょっとごめんね?」 「へ!?」 うーん?と考え込んだ顔でミクちゃんは私と額を合わせた。 ち、近い……ものすごく顔が……近い!! 「スイちゃんは平熱が低いんだっけ?熱くないみたいなんだけど…」 「だ、ダメダメダメ!」 「どうしたの、急に?」 私が言っちゃあ何だろうけど、ミクちゃんはド天然な部分があると思う。 「あ、あの、あのですね?恥ずかしくないのですか?」 「え?何で?」 「だって……その……顔が近くて……唇が……」 「くち…………あ。あぁ!!!」 ようやく気付いてくれたみたい。 真っ赤な顔で卒倒しそうになってる… 「だ、大丈夫大丈夫。未遂だから。私達の間には何も起きていないから」 「う、うん………」 「私の事を心配してくれたんだもんね、ありがとう。熱があって顔が赤かったわけじゃないから大丈夫だよ」 「……なら、よかった……けど…」 すごいショックだったのか未だ頭を抱えてる… 「や、やだなぁ。知り合った頃はほっぺにチューとかしても平気だったじゃない〜」 初めてのちゃんとした自己紹介でいきなりだったからなぁ。 あれは衝撃的だった… 「あ、あれはクセというか何というか……その節もご迷惑を……」 「あははは……大丈夫だよ。まぁ、今だったらほっぺでも私の方が意識しちゃってムリだけど」 「………え?それ……どういう意味?」 「どういうって……」 「すごく嫌って事?」 「ち、違うよ!」 「………じゃあ、自惚れて解釈してもいいの?」 「あ……」 誤魔化せないほど自分の顔が赤くなっているのが分かる。 今のは「ミクちゃんを意識してる」って告白したようなものじゃない! 「今のスイちゃんは、僕の事を恋愛対象として見てくれてるの?」 「あ…あ…あの…」 「違う」って言うべきなのに言葉が出て来ない。 私には焔くんがいる。 私には焔くんがいるから、ミクちゃんを好きになっちゃいけない。 だけど……今の私の気持ちは私自身で制御できない状態になっている。 「否定、しないんだね?」 「ち、あの……」 「………いいよ、無理に答えなくても」 「待って!」 立ち上がったミクちゃんの手を咄嗟に掴んでしまった。 でも、やっぱり言葉が出てこない。 「………」 「………」 「………僕の手を掴んだ事を後悔しても遅いんだからね」 「え?」 ミクちゃんのキスは焔くんより冷たくて、苦しくなる程に優しかった。 |
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