カカオ 70%(前編)








2月13日(火)朝 桜組。
「ねぇ、柊さん」
「はい、何でしょう?」
1時限目の授業の準備をしていると、水波さんがコソコソと話しかけてきた。
「あのね、チョコ作ってみない?」
「は・・・・・・?」
思ってもみない言葉に、私は頭の中が真っ白になった。







2月14日(水)朝 常磐家。
「おはようございます、柊さん」
「オハヨ、柊ちゃん」
「おはようございます、兄さん」
食堂に行くと柳兄さんと楓兄さんが日本茶を飲んでいた。
大学に行くにはまだ早い時間なのに・・・・・きっと私を待っていたのだろう。



「お待たせしてすみません。大学でも沢山貰うと思うのですが、どうぞ」
バレンタインチョコを渡すと兄さん達はとても嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。学校で頂くのは全部義理です、気持ちの入った物はお断りしていますから。それに柊さんからの物が一番嬉しいですよ」
柳兄さんは大学院2年。春からは助手として大学の研究室に残る事になっている。
見た目の第一印象は私と似ているってよく言われるけれど、私はメガネをかけてる所しか似ていないと思う。
静かなグレー掛かった瞳をしていて、あまり言葉が多い方ではないから怖そうって思われてしまうけれど、私にはとても優しい。
それはそれは過保護な程に・・・・・



「兄貴はカタいよね、俺は貰える物は貰っちゃうもん。ありがと、柊ちゃん。俺も沢山貰う中でイッチバン柊ちゃんのチョコが嬉しいよ★」
楓兄さんは大学院1年。
常盤家の人には珍しく社交的で明るい性格をしていて、見た目も華やか。
優しくて過保護なのは柳兄さんと同じなのだけど、人前でも気にせずスキンシップをしてくるのが困る。
すごく、困る。



2人とも小学部の頃から常に学年1位の成績を維持していて、トキワの能力も充分に持っている。
運動神経もそれなりにいい。
見た目はバレンタインに両手いっぱいにプレゼントを貰えるくらい一般女子に受けがいい容姿をしている。
完璧といえば完璧な兄達なのだけど・・・・・
「兄さん達もいい歳なんですから、そろそろ本命の彼女でも作ったらどうですか?」
「必要ありません」
「柊ちゃんより可愛い子なんていないもん」
極度のシスコン。
それを2人とも何とも思っていないのが恐ろしい。
そもそも常盤本家の長男次男がこうなってしまったのは大人達のせいだ。
それなのに、今頃になって何とかして欲しいと私に泣きつかれても参ってしまう。



「何度もいいますけど、私はトキワにはなれないんですからね。いつか家を出るんですから、ちゃんとしてくれないと・・・・・・・」
兄さん達が息を飲んだ。
うっ・・・・・嫌な予感が・・・・・
「まさか、柊さん!!あの小僧に何かされたから家を出ようとか言ってるのではありませんか?!」
「い、いくら老人達が2人の交際を許しているからって未だ何かあるのには早すぎるよ!もっと自分を大事にしないとダメだよ柊ちゃん!!」
涙目になって何を妄想しているのだろう。
悪いとは思うけど、うっとおしい。



マトモに相手をするのは時間の無駄なので、朝食を食べていつもより早めに家を出る。
はぁ・・・・・兄さん達にも早く運命を感じるような相手が現れてくれないかしら。
溜息をつきながら手に持った紙袋の中をチェックする。
長方形の箱に入ったチョコはミクさんと九重くんの分。これは桜組の女子から。
兄さん達にあげたのと同じチョコは冥の分。毎年同じ、デパートで買った既製品・・・







2月13日(火)午後 調理室。
「水波さん、あの・・・・・先日お話したと思うのですが、私は料理をしてはいけないんです」
「うん。でも、手作りのチョコを土浦くんにあげたいと思わない?」
それが出来れば、って思う。
普通の女の子は義理だっていっても冥に手作りのチョコレートを渡す事が出来るのに、私は既製品しか用意できない。
仕方ないと諦めてはいるけれど、心の何処かがキリキリと痛む。
「それは・・・・・・」
でも、その痛みを私は我慢しなくてはいけない。
「もしも」が起きてしまった時、水波さんに迷惑をかけるわけにはいかないのだから。



「おまたせー」
「当麻さんまで・・・・・どうしたのですか?」
パタパタと調理室に入ってきた当麻さんは、大きい紙袋を調理台の上に乗せた。
「柊ちゃんのチョコ作りのお手伝い?いや、ウチは手を出さない方が絶対いいから協力??」
「え、ええと、当麻さん、私が料理出来ないのは充分過ぎる程ご存知ですよね?」
中等部でこのクラスに入った時、兄さん達がクラスにわざわざ来て皆に言い聞かせたんだもの。(あれは私が記憶する中で指折りの恥ずかしい出来事だ・・・)
「知ってるよ。でも、でもね、一昨日水波ちゃんと一緒にチョコを作ってて思ったんだ。す、す、す、好き・・・・・」
「和泉ちゃん、頑張って!」



当麻さんは真っ赤になって口をモゴモゴさせている。
普段ハッキリと物を言う方なので珍しい。
「う、うん。ウチ、料理の才能全然ないし、だったら料理なんてしなくていいやってずっと思ってた。だけど、今年は達弥との関係も変わったしダメ元でチョコ作ってみようって、それで水波ちゃんに教えてもらいに行ったの。でね、その・・・・やってみたらさ・・・・・・えと、好きな人にチョコ作ってあげるのって自分が思っていた以上にすごく嬉しくて楽しかったんだ。バレンタインってさ、女の子のお祭りじゃない?だったらさ全ての恋する女の子に楽しむ権利があるんだよ。柊ちゃんもさ、もっと楽しもう?この日だけでも我慢しない方がいい。やれる事をやってみようよ?」
「でも・・・・・」
当麻さんは気遣いをする人だから、きっと私が我慢していた事を知っていたのだと思う。
当麻さんと水波さんの気持ちは嬉しいけれど・・・



「柊さんにも色々と事情があるんだろうけど、答えに困るって事はやりたくない訳じゃないんだよね?私が考えたチョコの作り方を聞いてみてくれるかな。普通の手作りチョコとは少し違うんだけど・・・・・・お願い!」
お願いポーズをとる2人を前に言葉が出ない。
どうして2人はこんなに一生懸命になってくれているのだろう。
私はとっくに諦めた事なのに。
私は・・・・・・・
「・・・・・分かりました。お話だけ聞かせて頂けませんか?」







2月14日(水)朝 桜組。
「おはよう、シュウちゃん」
「おはようございます、ミクさん。あ、あの、先日はお母様にお世話になりまして・・・・・改めてお礼に参りますが有難う御座いましたと伝えて頂けますか?」
「母さんに言えばそう分かるのかな?だったら伝えておくよ」
「すみません、宜しくお願い致します」
ミクさんは笑顔で頷いてそのまま何も聞かずに席に着いた。



「おはよ、柊。今日は早く来たんだね、家まで迎えに行ったんだけどなぁ・・・・・」
「すみません、朝、家がバタバタとしていましたので早く出てきてしまいました」
「ニィ達のせいでしょ?もぉ、妹に迷惑かけるなんて信じられないよね!!」
ぶーぶー文句を言いながら席に着いた冥は、手に持っていた可愛らしい紙袋を無造作に机の横のフックにかけた。
・・・・・・・・・
・・・・・・・袋の大きさからいって、例年よりも数が少ない感じがする。
悪い事だと思っても気になって横目で紙袋の中を見てみると、1番上のいかにも手作りな雰囲気の包みに手紙が付いているのが見えてしまった。



急に苦しくなって口の中がザラつく嫌な感じがした。



「おはよう、柊さん、土浦くん」
「おはよ」
「おは・・・ようございます・・・・・水波さん」
自分でも少し不自然な反応をしてしまったと思ったけれど、水波さんは一瞬立ち止まって直ぐにミクさんの方へ行ってしまった。
気がつかなかったのか。
気がつかないフリをしてくれたのか。
「柊、どうしたの?」
「いえ・・・・・何でもないですよ」
冥と顔を合わせないように返事をして、私は教科書を開いた。














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