海へ行こう、リターンズ!【1】





赤い月が綺麗に輝く夜だった。


「ジャックノヤロウ……何処イキヤガッタ……」
雲と雲の間からモヤァ〜っとした黒い煙が空に広がり、その中から現れた物体Xは甲高い声で呟いた。
「コノ世界ニ居ルノハ分カッテイル。私ノ追求カラハ逃ゲラレンノダ!!フフフッハハハッアーッハッハッハッハッハッハックショーン!チクショーイ!!」
高笑いの後、大きなクシャミをした物体Xは鼻をズビズビとすすりフィヨフィヨと地上へ降り立った。
「ウィー、誰カガ噂ヲシテイルノカ?ハハハッハッハッハックショーン!チクショーイ!!」








夜が明けて、朝。
「どんぐりころころどんぐりしゃ〜ん♪」
研究院へと向かう道をルナソルは今日も元気に歌いながら歩いていた。
「おいけにはまってしゃ〜たいへ〜ん!」
今日の歌もDONGURI・CORO-CORO(ルナソルアレンジver.)である。
「ほぇ〜〜おひしゃまげんきねぇ〜」
元気いっぱいのルナソルに負けず劣らず8の月の太陽は存在感抜群だった。
「しょだ!おひしゃまげんきなときはうみでじゃぶじゃぶしたらたのしいよね!」
ぴこーん!と頭上に『閃いた!!』マークが輝くと、ルナソルは暑さなんてなんのその「しょだしょだ」と言いながら研究院に向かって爆走した。





「アースゥー!!」
「…………なに?」
ばぁぁーん!と勢いよく駆け込んで来る時は十中八九『すてきなことをおもいついた!』時であり、その『すてきなこと』とはアースにとって『事件の種』なのである。
それをよーく分かっているだけにアースは「何でもどんと来いや!」と一応は心の準備をした。
一応は。



「ねぇねぇアース、うみにいこうよ!」
「………僕はいいけど。誰か大人にお話した?」
「まだだよ。だってねぇ、ルーはアースといちばんなかよしだからすてきなことおもいついたらいちばんにおはなししたかったんだよ」
ニコニコと笑ってそんな事を言われたら悪い気はしない。
少し顔を赤くさせたアースは、コホンと1つ咳払いをして言った。



「じゃあ、海に連れて行ってって一緒にお願いしに行こう。ルーのお母さんは泳ぐのが好きだからきっと「いいよ」って言ってくれるよ」
「おかしゃまおしゃかなしゃんみたいすいすいおよぐもんね!かずすくないとりえなのっていってたよ」
「………ルー、よく分からない事は人に言っちゃダメだからね」
「あい」
理解しているんだかしていないんだか。
ルナソルはどうでもいい事ばかりよく記憶している。



「お、今日は少し早いんじゃないか?」
「こんにちは、ルナソルさん。外は暑かったでしょう。今、冷たい物を用意しますね」
「こんにちは。おとしゃん、ほりーしゃん。ルーはしってきました。すてきなことおもいついたからアースにおはなししにきました」
「素敵な事?よかったらおやつを食べながら俺達にも教えてくれるかな?」
「いいですよ。ねー、アース?」
「うん」
話をしようと思っていた所だし丁度いいや、と思いアースは頷くとホリーを手伝いにキッチンへ向かった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「海に行きたいんだ?」
「しょです。みんなでじゃぶじゃぶしたらたのしいです。おとしゃんとほりーしゃんもいきましょう」
「私もですか?いや、でも、私は……」
「ほぇ……」
俯いて言葉を濁すホリーにルナソルはショボーンと肩をおとした。
ホリーにとっては「すてきなおもいつき」じゃなかったのかなぁと思ったのだ。



「あ、いえ、ガッカリしないで下さいルナソルさん。えぇと……お誘い頂けたのはとても嬉しいです。私も出来ればご一緒出来ればと思います。けれど、その……」
「どしたのホリー?何か言いづらい事?」
「ほりーしゃん、ルーがこまらしぇちゃったですか?」
「違います、違います!ルナソルさんは悪くないんです。あのですね……」
意を決したといわんばかりに顔を上げキリっとした表情でホリーは告白した。



「私、泳げないんです」



「………そ、そうなんだ」
ガチガチ文系で運動音痴かと思われるが、ホリーは結構何でも卒なくこなす。
そんな彼女が「泳げない」と言いきっているのだから本格的に泳げないのだろう。
「せ、正確に言いますと泳いだ事がないんです。ノースガルドには海がありませんし……」
「あれ?でも、湖とか川で水遊びくらいは……」
サイが軽い疑問を口にするとホリーの顔にドドーンと影が落ちた。



「(泳ぐこと自体に何かトラウマがあるのかも……無理に誘わない方がいいんじゃないかなぁ……)」
「あのっ……」
ホリーの様子のおかしさをいち早く察したアースが進言しようと口を開いた途端、狙ったようなタイミングでルナソルが発言した。
「ルーのおかしゃまおよぐのじょうずです。ルーとアースはおよぐのおしえてもらいました。ほりーしゃんもルーのおかしゃまにおしえてもらうといいです」
「(えーーーーー!?)」
名案!とばかりニコニコしているルナソルの提案をホリーが……いや、誰も断れるはずがない。
少し強張った顔で「そうですね」と答えるホリーにアースは物凄く申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



「そうだホリー、プルートくんも誘ってみたらどうかな?彼も海に行く機会はあまりなかっただろうしね。ブレイズ家のプライベートビーチは砂浜が綺麗だから波打ち際で遊ぶだけでも楽しいよ」
「プルートですか?確かあの子も泳ぎは……」
ハッとしてホリーが顔を上げるとサイはニコッと笑った。
「(泳げない仲間を増やせば無理に泳がされる危険も減るだろうって事?お父さん、さっすがー!)」
「是が非でも連れて行きます」
ホリーが行くのなら喜んで参加するだろうが、プルートの予定は2の次な人達である。



かくして………









「ぷーしゃん、こんにちはー!」
「久しぶり、ルー。海へ行こうって言ったのルーなんだって?誘ってくれてありがとうな」
「えへへ。みんなとあしょぶとたのしいです。きょうはいっぱいあしょびましょうねぇ」
「あぁ、皆で………って………今さらだけどルーのお父さんはどうしたんだ?」
「おとしゃまとおとしゃんはおしごとなのよ。じゃんねんだけどたのしんできなしゃいって」
「へぇ………」
妻と娘に病的な愛情を持ったファルシエールがよく「残念だけど」なんて言ったなぁとプルートがぼんやり思っていると、ポンッとメールディアが肩を叩いた。



「こんにちは、プルートくん。今日は大人の男の人は貴方だけだから頼りにしてるわね」
「あ、どうも、こんにちは。メールディアさんはお仕事大丈夫だったんですか?」
「うふふっ、旦那様にお仕事をお願いしてきちゃったの」
「え?メールディアさんって魔道院の特務室所属でしたよね?あそこの仕事を替われるって旦那さんどんだけスゴイんすか……」
「私に釣り合う男ですもの」
鮮やかな笑顔を見せるメールディアにプルートは「おおぅ…」と思わず声を漏らした。



「でも、ファルシエールさんだったら何となく休暇を無理矢理ねじ込んで来そうですけどね。今ってもしかして特務室が関わらなくちゃならない問題があったりするんですか?」
「ええ、まぁ。ちょっとよく分からない『お客さん』が来ているみたいなの。氷結能力を持っているって事は分かるんだけど、姿を見た人がいないのよね」
「氷結能力ですか……。それって水の能力者でも一部の混血種の人しか発動出来ない珍しい能力ですよね?」
「そうよ。因みにシイラは氷結能力持ってまーす♪」
「マジですか。シイラさんには攻撃系の能力無いと思ってました。つか、シイラさんって純血じゃなかったんだ……」
「私は半分竜の血なの。だから、水属性の能力しか使えないけど私自身の属性は『無』だし、多分、プルートくんの何倍も身体が頑丈に出来てるんだよ」
穏やかな微笑みを浮かべて話すシイラだったが、一部「!?」な箇所にプルートは我が耳を疑った。



「うふふっ、信じられないって顔してるわね。小さくて華奢に見えるけど、シイラはファルよりも体力と回復力が高いのよ」
「うわぁ……竜の血すげぇ……それじゃあ、まんま竜のルーとアースってばもっとすごいんでしょうね」
「多分……そうね」
「うん、多分」
「多分?」
「おかしゃま、めるしゃん、ぷーしゃん、はやくおきがえしてうみいきましょ?」
毎度毎度ルナソルは絶妙のタイミングで声をかけてくる。
気になる所はあったが待たせるのも悪いと思い、プルートは着替えをしに向かった。









「マジありえんのですが!!」
「サボってないでちゃんと仕事しろー。盗み見ばっかしてっとメーデにどつかれるぞー」
窓の外に向かって叫ぶファルシエールにやれやれと肩をすくめると、サイは机上に山と積まれた書類を手に取った。
「そ、そんなに落ち着いているけどさ、サイは何とも思わないの?!水着でムフフな愛する妻の姿を他の男にガン見されてもいいってわけ??」
「ガン見って……。プルートくんはそんな事しないって」
「でも見られはするじゃない。いくらルナソルの友達だといっても許される事と許されない事があるよね……」
両眼が赤く点滅する人外生物のような姿にサイは苦笑いするしかなかった。
この異常な生物を日々相手にしているシイラと仕事をさせているメールディアは結構すごい。



「だーいじょうぶだって。プルートくんはシイラとメーデに興味ないから」
「なんですと!?まさかルナ……」
「違うから。本気で言ってんならオマエはアホか?アホなのか?」
「本気……じゃないけどさ。彼ってホリーさんと付き合ってるんでしょ?」
「付き合っては……いないなぁ。ホリーはプルートくんの気持ちに気付いてないみたいだし。あんなに分かり易いのにねぇ。ほらよっ、これだけ承認でこっちは戻しね」
「はーい」
渋々とだがファルシエールはようやく机に向かい渡された書類の確認をし始めた。



「2人は幼馴染だそうだし、今さら見方を変えるっていうのは難しいのかなぁ?俺達はちっちゃい頃からいちゃいちゃラブラブだったからねぇ……」
「サイはそう言うけどさ、僕には信じられないんだよね〜。なんてったってドSでツンツンで女の子大好きってイメージしかないから」
「メーデは恥ずかしがり屋さんだから。まぁ、俺だけ知ってればいい側面ってヤツだから………い、いでっ!!」
話の途中で突然サイは後頭部を抑え痛がった。
「ねえさん……」
壁に〜どころではなく何処にでもメールディアの耳はありそうだ。
「ほ、ホント……恥ずかしがり屋さんなんだか………いだっいだだっっ!!」
2発目、3発目の攻撃が入ったらしくサイの首が「ガクン、ガクン」と前後に揺れた。
照れ隠しにしては凶悪な突っ込みである。



「………うん、もうこの話題については触れないようにするよ。何だか居た堪れない」
「はは……は……」
基本的に他人に無関心なファルシエールだったが、流石に目の前で友人が姉にボコボコにされるのを黙って見ているのは忍びなかった。
彼にも僅かながら人の心があったようだ。



「あーあ、デスクワークだけだったらとっとと終わらせて海に合流するのにー。待機なんてヤーダー!」
「「ヤーダー」とか可愛く言っても俺しか聞いてないから無意味だっつーの。とっとと終わらせられんなら終わらせろよ。俺は預かってた分は終わってるぞ?」
「うーー!!」
アホっぽい事をしててもサイはやっぱり「デキる」。
ヘルプで来ているのに特務室のややこしい書類を涼しい顔をして処理してしまうのだから、仕事に対するプライドがそれ程高くないファルシエールだって闘争心にちょびっと火がついた。
「おーおー、頑張れー。おまえさんはやれば出来る子なんだからなー」
通常3倍速で働くファルシエールの様子を見ると、サイは最近の日付の特務室担当事件報告書を読み始めた。









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