いれかわリング・シイラ編 A





「………」
「………」
「………はぁ」
積まれた書類を淡々と処理しながら時々横を向いて深い溜息をつくファルシエール。
シイラの気配はするのに横に居るのがシイラではないのが不満でならないらしい。



「(き、気まずい……)」
普段2人で居る時はベッタリとくっつかれるか延々と愛の言葉を囁かれるか双方同時進行か……であるため、何をされるでもなく不満そうな顔で見られるなんて事はない。
シイラにとってそれはそれで新鮮だが慣れていない状況なだけに息苦しい。
「………ねぇ」
「はっ、はいっっ?!」
裏返った声で返事をしてもファルシエールは気にしていない。
嘘や誤魔化しが苦手なシイラにとっては興味のある事以外に無関心な彼に救われている状況だが、それはそれでどうなのか。



「シイラは何処に居るの?」
「ん………て、庭園に……いる?かな?」
「いないから聞いてるんじゃん」
黙々と仕事をしながら自分がしたい事はちゃっかりしていたようだ。
「そう?おっかしいなー………(アクエリア、メーデ達が何処に居るか分かる?)」
「(メールディア様がよく行かれるお洋服のお店よ)」
「(ありがとっ!!)メー……わ、私がよく行くお洋服のお店デス」
「………」
「………」
「………」
「………ど……うしましたかしら?」
ジットリとした目で見られ、とうとう何か勘付かれたかと思い変な話し方になっている。
………が、それでも尚ファルシエールは何処か外していた。



「姉さん、本当に何か企んでない?」
「そんなことないない。至ってフツー」
「普通じゃないよ。さっきシイラの事を探索している時に何も突っ込んでこなかったり、今だって素直にシイラの場所を教えてくれたりしてさ。あまりに『普通』でかえって気持ち悪い」
あまりの言いようにシイラでさえも「メーデとファルの普段って一体……」と思ってしまう。
確かに2人が仲良く何かをしているところは見た事がない。
だがそれは人前で恥ずかしがっているのだろうとシイラは勝手に思い込んでいた。
思い込みに過ぎなかったと結論づけるとあまりに切ない。



「えと、えと、何も企んでないよ!聞かれたから教えてあげただけだもん!!あんまり怪しむならシイラに?言っちゃうんだからね!」
全くもってメールディアらしくない言い方だが、「シイラに言っちゃう」は効いたらしい。
むぅーっとした顔をして一言「ごめん」と言うと、ファルシエールは目を閉じ探索し始めた。
「(ふぅー、あぶないあぶない。でも、元に戻ったらちゃんとファルに事情を話さないと。このままじゃダマしてるみたいだもんね!)」
因みに「みたい」ではなく完全にダマしているのだが、シイラにその気はない。
彼女は「やるからには最後までやらなくちゃ!」という謎の使命感に動かされているのだ。



「………」
「(うーん…………)」
探索の為に目を閉じて3分。
真剣な顔、デレ〜っとした顔、ハッとした顔、諸々……。
目を閉じたままの百面相は、いくら愛する旦那さまとはいえチョッピリ変だ。
世間一般では大分、相当、変だ。
「………」
「(ちょっと変だけど………私を心配してくれてるって事なのかなぁ?)」
良心的な見方をすればそうかもしれないが、ぶっちゃけストーカー行為と言った方が正しい。



「…………!!!」
「えっ!?えぇっ!?」
くわっと目を見開いたファルシエールは突然、今までの何処かやる気のない仕事への向き合い方から一転して書類を処理し始めた。
まさしくこれはシイラが見たかった「旦那さまお仕事超頑張ってる」の図。
「(どっ、どどっどどっ、どうしたんだろ?いやいや、ひょっとしてこれって驚くところじゃない?これが普段なのかも!今までのは、私の態度が変で怪しんでただけなのかも?かも?)」
物事をいい方向に考え過ぎである。
「(お仕事頑張ってるし、私が見てるだけっていうのは悪いよね。お茶淹れてあげよっと!)」
そう決めると現在熱烈鋭意仕事中である愛する旦那様のために、シイラはいそいそとお茶の用意をし始めた。



「ありえないマジありえない却下却下却下書類提出前に確認しろってーの!!」
ブツブツと文句を言いながらも仕事の手は休めていない。
シイラに「最低」と思われない為、ただそれだけの為に頑張る男。
「ったくこんなの子供の頃の僕でもやらない間違いなんですけど仕事増やさないで欲しいんですけど」
一応、彼には酷い事を平気で言えるだけの実力はある。
念のため。
「それはそうと」
驚異的な早さで山積みだった書類を処理すると、ファルシエールはピタリと動きを止めた。
「さっきのシイラ、超可愛かったんだけど。勿論いつもどんな時でも可愛いけど?ふわふわでひらひらな服が似合い過ぎて犯罪的に可愛いみたいな?ルナソルとお揃いで着せちゃったら素敵に無敵みたいな?」
ダダ漏れさせるには非常にアホな独り言を吐いているが、表情は真剣そのものである。


「アレ、買ったのかな??」


彼の美しい紅玉の瞳がキラリと輝いた。


「ま、買ってても買ってなくても関係なし?素敵な服なら何着あってもいいもんね!そうと決まれば姉さんが席を外している事だしぃ新しい仕事が発生する前にさっさと帰らなくっ………」
「1段落ついた?よかったらお茶にしましょう?」
「………茶?」
今まさに「鬼の居ぬ間に帰ってやるゼ!!」な気分満々だった所に鬼……もとい、お姉さまが出現した事によりファルシエールの肩は分かりやすいくらいガクンと下がった。



「どうしたの?あ、もしかしてそんな時間ない?」
「………ロイヤルミルクティ?」
「(いつも此処に来るとお茶してるから分からなかったけど、普段はお茶しないのかも?うわぁー失敗したぁ!!)」
「………大丈夫、頂くよ。ありがと」
「よかったぁ、はい、どうぞ」
執務机の書類を片付けティーカップを置くと、ファルシエールは無言でカップに口をつけた。



「美味しい」
「そう……??う、うん、よかったよかった」
「ねぇ、」
「そ、それじゃ、私はそろそろ帰ろうかしら?引き続きお仕事頑張ってー」
お仕事見学も出来た事だし本格的なボロを出さぬ前にお暇しようと振った手を、ファルシエールはギュッと掴んだ。
「(にゃにーー!!!???)」
「待ってよ、姉さん。処理済の書類を置いてくるからさ、それまで待ってて。お願い」
ファルシエールがシイラの「お願い」に弱いのと同じくらい、シイラもファルシエールの「お願い」に弱い。
「う…………はい」
約束の時間まで未だ2時間近く余裕がある。
肯定の返事をすると椅子に腰掛けてシイラはファルシエールが戻るのを待つ事にした。







「今さら言うのも何だけどさぁ」
「何だ、その顔は」
ジトーっとした目でエアリーを見上げるとジェイドは鼻で笑って言った。
「アンタの主って超性格悪いよね」
「なっ………何て失礼なっ!!」
大抵の竜は「主万歳!主最高!!」と思っている。
エアリーも例外ではない。
「ファルシエール様は気高く美しく、剣術の腕が立ち、門の世界の平和を維持する為にご尽力なさっている立派な方だ!」
エアリーも自分の主の性格があまり褒められたものではないと分かっている。
それ故、無意識に性格には触れずに他の長所を言ってしまった。



「だとしても、性格は悪いじゃん?ボクは性格の事を言ったんですぅ〜、それに仕事面でも戦闘面でも見た目でもボクの主の方が上ですぅ〜。それにそれに、ボクの主は女の子と子供には優しいもーん。精霊達にもモテモテだもーん」
「ぐっ………」
その「うっかり」を見逃さなかったジェイドは意地悪くニヤニヤ笑い、アクエリアにピタリと寄り添った。
「あらあらジェイド。そんなに意地悪を言ってはいけないわ」
「だってぇ〜」
「アクエリア様………」
心優しいアクエリアが自分と主の為にフォローを入れてくれるのかと感動するエアリー。
だが、その思いはアッサリと打ち砕かれた。
「ファルシエール様は私の可愛い龍主とルナソルちゃんには素敵な旦那様でありお父様なのよ。性格に多少の難があっても些細な事だと思うべきだわ」
「おいおい、何気に酷い事を言ってるぞ」
勿論、アクエリアは悪気があって言っているのではない。
ただ、素であるが故にタチが悪い。
「あら、どうして?」
「ア………」
「気にしなくていいんだよぉ、アクエリア。だって、本当のことだもん!!そんな事よりシイラちゃんの様子、続きを見ようよぉ」
「そうね」
「………用が出来たら呼べ。私は外に行っている」
触ると崩れていきそうなエアリーに冷ややかな目(彼女としては憐れみの目のつもり)を向け、サンクタムは水鏡の間を出て行った。





「ファルとメーデってやっぱりすごいんだなぁ」
執務室に置いてある資料や記録を手に取って見てもシイラにはサッパリ意味が分からない。
だが、ファルシエールとメールディアはそれらを理解し次々と上がってくる申請依頼や報告書を処理し、人々の日常生活を支えている。
それだけでも「スゴイ」のに、特務室に所属している彼らは頻度は少ないが異世界からの干渉対応も行っている。



「私だって同じランクなのにな……」
仕事内容も能力も違う相手と比較をしても意味がない。
それでもシイラは彼らやサイに比べて自分の力があまりに弱すぎると気にしていた。
守られて甘やかされて、それでいいとされている。
それは、シイラが誰にも相談出来ない悩みなのだった。



「失礼致します。火聖神様、東地区、エネルギー貯蔵庫付近に例のモノが現れました。至急………風聖神様?」
「ごめんなさい、火聖神は席を外しているの。え……と、『お客さん』よね?此処に来るくらいだから急……」
「本日はお休みと伺っておりましたが風聖神様、場所が場所ですので至急対応をお願い申し上げます」
少し待っていればファルシエールは戻ってくるかもしれない。
しかし、直ぐには戻ってこないかもしれない。
此処に来ている職員は、今すぐにでもファルシエールかメールディアに現場へ向かって貰いたいと願っている。
「(………私にも出来ること、あるはずだよね)」
周りの人々の戦闘能力が高すぎるだけで、シイラも余程おかしな異世界のお客さんでなければ対抗できるだけの力を持っている。
何より困っている人を放ってはおけない。
「分かりました。直ぐに行きます。連絡ありがとう」
ファルシエールの机の上にメモを残すと、シイラは転移魔法石を発動した。


※ ※ ※ ※ ※



「シイラちゃん、行っちゃったね」
「そうねぇ……」
主の性分を分かっている為、あの状況では行くだろうとアクエリアも思っていた。
「僕の配下の戦闘系2人を送ったから、危なくなる前に片付くよ」
「ペリドットとピジョンブラッドね?ありがとう、あの子達なら上手くやってくれると思うけど……」
澄んだ藍玉の瞳に憂いの影が落ちるのを見て、ジェイドとエアリーはクワッと目を見開いた。
「他にも何か心配?だったら僕が直接行ってもいいんだよ?決まり事なんて後でどうにだって修正できるんだから!」
「私に何なりとおっしゃって下さい。アクエリア様のためでしたら例え火の中、水の中……は少々苦手ですが必ずお役に立ってみせます!!」
2人とも周囲がドン引きするほどの必死さだ。



「……………」
そんな2人を素で気にすることもなく、アクエリアは静かに水鏡の中を見ていた。
彼女が心配しているのはシイラが危険な目に合う事だけではない。
「………ねぇ、ジェイド。ペリドット達には悪いのだけど、手を出さないようにお願いして貰えるかしら?」
「えっ?!でも………」
「お願い」
「う、うん。わかった」
どんな理由があるか分からないがアクエリアのお願いを聞かないわけにはいかない。
ジェイドは配下の2人に連絡をとった後、アクエリアと並んで水鏡の中の様子を見守る事にした。


※ ※ ※ ※ ※



東地区 エネルギー貯蔵庫


「どこに居るんだろ……」
エネルギー貯蔵庫とは自然エネルギーを家庭や公共の場で利用できるように加工したものを貯めておく場所のこと。
此の場所に被害が出ると人々の暮らしに多大な支障をきたしてしまう。
それ故に最小人数で迅速に周りに被害を出さずに対応をしなければならない。
つまり、お客さんの強さ云々を抜きにして難しい仕事なのだ。



「変わった魔力あるかなぁ……うーん……」
探索があまり得意でない上、エネルギーが集まっている場所であるため目標の位置が特定できない。
注意深く周囲を見ていたシイラは、ある一点でピタリと視線を留めた。
視線の先にあるのは一抱えくらいの大きさをした赤い卵型の塊。
ボールのようでもあるが、この場所に転がっているというのはあまりに不自然だった。
「まさか……??」
シイラがポツリと呟くと、赤い塊はグルッと反転し左右にユラユラと揺れ始めた。
「(なんだろう、アレ……)」
見た目で判断するのはよくないが、それはあまりにも変だった。
ただの赤い塊だったそれの裏側は白地にラクガキのような顔……よくよく見ると『へのへのもへ』で出来ている。
因みに手足は見当たらずおかしな顔しかない。



「流石。世界が違うと色々な生き物がいるんだなぁ……」
変な感心をしながらシイラが一歩近づくと、赤い塊は姿に似合わない野太い声を出した。
「…………ダル」
「だる?」
「ダルダルーー!!」
ハテナ?と首を傾げた瞬間、赤い塊は突如「への字」口からオレンジ色の炎をシイラに向かって放出した。
「きょ、きょわーーー!!!」
驚きながらも咄嗟に防御壁を張るシイラ。
自分を過小評価しているだけで彼女もランクに合った実力を持っている。



「ダルッダルダルッ!!」
炎を出してテンションが上がったのか、赤い塊は戦う気満々のようだ。
横揺れだけだった動きからピョンピョンとその場を跳ねる動きに変化した。
「ま、待って。ちょっと落ち着こうよ。えとね、この世界にアナタが居るとお互いに都合がよろしくないんだよ」
相手が「ダルダル」しか言わないのだから言葉が通じている確率は極めて低いのだが、平和的解決を望むシイラは話し続けた。
「だからね、無益な戦いは止めてお家に帰ってくれないかな?世界を超える手伝いならするし……」
「ダル………」
赤い塊の動きが急に止まった。
奇跡的にシイラの話が通じたのか………



「ダールー!!!」



世の中そんなに甘くなかった。
赤い塊はその場で回転をし、四方八方に炎を撒き始めてしまったのだ。
「ちょ、ちょちょっ……そりゃないよ!」
現在の惨状にショックを受けながらも周囲への被害を抑えるために魔法を使おうと両手を突き出したシイラは、ハッとして動きを止めた。
「…………やっぱり」
空気中の水分を集める水属性の魔法を使おうとしたのだが、メールディアの身体では完全な水属性の魔法は使えない。
「(どうしよう………今から元の身体に戻る時間はないし………アクエリア達を他の世界の生き物と関わらせるのはよくないし………ファルがメモに気付いて来てくれるまで………)」
赤い塊を見つめ、シイラは両手の指を周囲に燃え広がる炎を追うように動かした。



「今の私が何とかするしかないじゃない!!」
火を消すものは水。
………だけではない。
火が燃えるエネルギーとなるものを除いてしまえば消えてしまうのだ。
「ダ、ダルダル??」
「………ビンゴ。火の周りの空気を風の力で圧縮したら消えちゃうよね。よーし、1個問題解決。ダルダルさんの火は片っ端から消しちゃうからね!」
全ての火を消し終えるとシイラは赤い塊(ダルダルさんと命名したようだ)にビシッと指を向けた。
「ダルダル、ダル……(やるじゃねぇか、オネーチャン)」
「望むところだ!このまま魔力使いまくって疲れて帰ってちょうだいよ!」
両者の会話は当然のことながら成り立っていない。



「ダルッダルダルルダル!!ダルダルダッ!!(オネーチャンに免じて潔く国に帰ってやるゼ!!帰り方を教えやがれだゼ!!)」
シイラの力を見て「自分、ちょっと調子に乗っちゃってたかもNe!」と気付いた赤い塊が、帰り方を聞いているだなんて流れ的に分かるはずがない。
「おーけー!!ばっちこーい!!!」
周囲に被害が広がらないように細心の注意をはらい、シイラはバッチリ臨戦態勢を取っている。
「ダ、ダルダルダル……(いやいや、そうじゃなくて……)」



「………ダルダル煩いんですよ。少し黙ってて頂けませんか?つか、黙れ」
「ダ〜ル〜〜〜(ふ〜ぎゃ〜〜〜)」
突如、赤い塊の背後に現れたファルシエールは、むんずとその頂点をつかみ大きな黒いゴミ袋に押し込めギュッと縛り上げた。
「(え、えぇ〜〜〜!?)」
あまりの突然の出来事にシイラは口ポカン状態だった。
まさか「お客さん」をゴミ袋に入れるとは想像もしていなかったのだから。



「ごめん遅れて。大丈夫?怪我してない?」
「だ、いじょぶ、だいじょぶ。全然、平気……」
慣れない力を使った為に少し疲れてはいるが怪我はしていない。
というかファルシエールの心配する顔を見ると、かすり傷でも万が一あろうものなら異世界の赤い塊が消炭にされてしまいそうな勢いなため、とりあえず平気と答えるしかなかった。
「よかったぁ。心配したんだよ。あ、ヘンテコ生物の処理は終わったから安心してね」
「処理が終わったの?袋に入れただけじゃ……」
「袋はもう空だよ?」
「へ?」
「ほらねっ」と言って開いた袋の中には本当に何もなくなっていた。
「ただのゴミ袋に見えるけど4次元空間に繋がっている??」と手近の枝で袋を突くとファルシエールはクスリと笑って答えた。



「さっきヘンテコをつかんだ時に火の魔力を吸い取っちゃったから消えたんだよ。別にゴミ袋に入れなくてもよかったんだけどダルダル煩いんだもん。暗い所に入れたら静かになるかなって思って」
ウフフッと素敵な笑顔を見せているがやってる事は酷過ぎる。
だが「お客さん対応って色々あるんだなぁ」とか「手際がいいんだなぁ」とシイラは妙に感心していた。
「あ、そうなんだ……。すごいなぁ、あっという間に解決しちゃうんだもんなぁ」
「顔違いで同じのが前にも出た事があるんだ。人前で炎を吐き出して勝手にテンションを上げて、そこら中に炎を撒き散らすんだよ」
「あぁ………うん、そうだった……」
全く同じ事をするとは、赤い塊達は単細胞生物なのだろうか。
対応する側としては有難いが。



「やる事は結構派手なんだけどビビリだからさ。相手側が優位だって気付くと途端に弱腰になるんだ」
「そうなの?」
「うん。だから、僕の対応が早かったんじゃなくて、シイラが段取りを上手くしといてくれたから僕は後始末をしただけだったってわけ」
「そ、そんなことないよ。私は特別なこと…………あれ?」
「うん?どうしたの?」
つい先ほどまでとは打って変わって素敵な微笑みを湛えているファルシエール。
それは、シイラがよく見慣れている表情……つまり。
「………気付いてた?」
「うん。確信したのはお茶を飲んだ時だけど。メーデはロイヤルミルクティなんて手間のかかるもの淹れてくれないし。先ずお茶を率先して淹れてくれたりしないし。何よりあの味はシイラ以外出せない味だったし。でもねでもね、言い訳させて貰えるならね、メーデだったら僕をからかう新しい魔法とか開発しちゃうと思ったんだよ。もー、悪趣味だよね!人をからかうのが趣味だなんて!」
「あ、あはははは………」
歪んだ仲良し姉弟である。





「ふぅん、この指輪にそんな力があるんだぁ?研究院の院長って自分の欲求を満たす為に自分の能力を出し惜しみしない人だよね」
お前には言われたくないと突っ込まれそうな言葉である。
「ごめんね、そんなつもりはなかったんだけど結局ファルをダマした感じになっちゃって」
「うーん、でも、シイラが僕の仕事に興味を持ってくれて、僕がどうしているのか気になったからしたんでしょう?だから別にいいよ。僕がシイラにどれだけ愛されてるかって実感できたし?」
「う………」
恥ずかしげもなく紡ぎ出される言葉にシイラが赤面して俯くと、ファルシエールは「うーん」と唸って彼女を凝視した。



「な、何……?」
「外見が同じでも中身が違うと変わるものだね。メーデを可愛いと思う日が来るとは思わなかった」
「メーデは可愛いというか美人さんだもんね。子供っぽい私が入ると可愛くなっちゃうのかな?」
「どちらかというと、姿形が変わってもシイラは可愛いって事だと思うけど?」
「・・・・・」
恥ずかしがるシイラを見るのが快感らしく、褒め褒めモード大全開。
生粋の変態である。



「メーデの身体にシイラが入っているって事は、シイラの身体にはメーデが入っているんだよね?」
「ううん。私の身体にはホリーさん。メーデはホリーさんの身体に入っているの」
「………それは又、複雑な。あ!!だから……」
「だから?」
だから彼女はあんな言い方をし、そして自分はまんまと乗せられた、とようやく気付いたファルシエール。
しかしながらそれがシイラにバレるのは流石に恥ずかしく笑顔で沈黙を守ることにした。
彼が黙っていようともいずれはメールディアの口から明かされてしまいそうなものだが。



「それはそうと、いつ元の身体に戻るの?」
「えーと………あと1時間ちょっとかな。みんなでもう1度集まって元に戻る事になってるの」
「そっか。だったらそれまで僕に付き合ってよ」
「お仕事は?」
「今日は十分働いたからもういいよ」
そういうものなのか?と思うような事をしらっと言い、ファルシエールはシイラの手をつかんだ。



「何処か行くの?」
「うーん………人間観察」
「まさか………」
「心配するような事じゃないよ。入れ替わってる他の人達の様子を見に行くだけだよ。面白そうなんだもん」
「あう………やっぱり……」
現段階でシイラの身体を使っているホリーがプルートとデート中(!?)だという事を2人は知らない。
果たしてファルシエールがそれを知った時、「中身は別人だから……」と割り切れるのか、それとも「シイラの身体に近づくんじゃねぇ、ボケェ!」となるのか。
どちらにせよプルートの身の安全は神のみぞ知る、なのだった。




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