創ちゃんと風眞の1週間・7日目








「リクおかあさん達は何時に帰ってくるの?」
「何時だったかなぁ、夕方には帰ってくるはずだよ」
「それならお家で夕飯食べるわね。昨日のハヤシライスでもいいかしら……」
「沢山作った方が美味しいよね!」という考えの元、大きな鍋いっぱいのハヤシライスを作ってしまったのだ。
「美味しいから全っ然問題ないよ。父さんにはコロッケ30個ぐらい追加すればいいんじゃない?」
天に関しては何より量が問題。







3月16日(7日目)



「ヨーロッパって飛行機でどれくらいかかるの?」
「乗り継ぎとか行き先にもよるけど、ドイツには14時間くらいみたいだよ」
「時間で聞くと案外近い気がするわね」
「そうだね」
お昼ごはんのハヤシライスを食べながら2人は梨紅が置いていった『旅物語☆絶対行きたい!!(ドイツ編)』を広げて見ていた。



「創ちゃんは何処か行きたい国ってある?」
「うーん……何処かなぁ……」
半年後にはアメリカに行く事になっているが風眞には未だ話をしていない。
今のところ家族全員で行く予定だが、風眞の体調を考慮して創司単身で行く可能性もある為に話せないでいるのだ。
「迷う?」
「うん。風眞は?」
「北極か南極」
「えっ?!」
「ペンギンさんとか白クマさんに会えるでしょ?」
あまりに突飛な答えに驚くと続けて風眞はにこやかに理由を言った。



「で、でもね、ペンギンはともかく野生の白クマってなかなか会えないんだよ?それに、あそこは一般の人が簡単に行けるような場所じゃないし、すごくすごーく寒いんだよ?それに……」
健康な人だって相当の準備が必要なのに風眞の身体では……と考えるのも悪い気がして口をつぐむ。
いつも一緒に居るのに行きたい国を知らなかっただなんて!とショックだったりもした。
「あ、あの、創ちゃん。私、行きたいけれど行かれないって分かってるわよ?」
「ん?!」
創司はいつも風眞のために何でもしてあげようと思っている。
願う事があるなら何でも叶えてあげようとする。
それ故に風眞の事になると冗談が通じない。
最近になって風眞もようやくその事に気付き始めていた。



「自分の身体の事は分かっているわ。私には出来ない事が多いのも分かってる。分かっているけど、思うだけなら別にいいかなぁって思って言ってしまったの。ごめんなさい、創ちゃんを本気にさせてしまって」
「あ………そうなんだ。俺こそごめん、頭カタくって」
「変ね、私達。別に謝るような話じゃなかったのに」
「確かに」
伝える言葉を持っているのなら、ちゃんとそれを相手に伝えた方がいい。
折角「大好き」な人と一緒に居るのだから、変に誤解した時間を過ごすよりいつも通りに過ごしたい。
それが分かっている2人は大人よりもオトナだ。



「リクお母さん達はヨーロッパのどの国に行ったのか知ってる?」
「ドイツ・フランス・スイスには行きたいって言ってたよ」
お昼ごはんを食べ終えると2人は並んで『うきうき☆トラベル(ヨーロッパ主要観光都市編)』の付箋チェックページを覗き込んだ。
「古城と美術館と時計………?ベッタベタだなぁ……」
「べったべた?」
「お約束っていうか、えーと、オムライスといえばケチャップみたいな?」
「お決まりって事?」
「そんな感じ」
「そうなのね……」
本当に行ったのか定かではないが、リクが選んだにしては普通過ぎる。
いや、普通に見えるが何か突拍子もない事を考えていたかもしれない。
旅行中は世界のニュースも気を付けてチェックしていたが目立った事件は発生していなかったようだし、何より事件に発展しそうだったら天がご都合主義な能力で揉み消してしまうだろう。
そう自分に言い聞かせ創司はガイドブックのページをめくった。







「もう外しちゃったのかぁ。勿体なーい、MOTTAINAI!!」
「今日は16日ですからね。残っていたら変でしょう?」
出発の日には空港内の一番目立つ所に貼られていたホワイトデーの広告は、天だけの広告に差し替えられていた。
「1年に3回って言わないで、いつも一緒にやろうよぉ。そしたらすっごいハッピーじゃない?」
「私の本業はモデルじゃありませんから」
「ぶーぶー」
口を尖らせて大人げなくブーブーと文句を言う天の頬に手を添え、梨紅は小動物のようにウルッとした大きな黒い瞳が榛色の瞳に映るように見上げて言った。



「広告用に演技で触れられるより、何も考えないでベタベタしてくる方が天らしくて私は好きですよ?」
「☆★☆★☆★リックゥーーーー☆★☆★☆★!!」
天然なのか天才故の策略なのか。
小動物のように愛らしい梨紅の表情にすっかりメロメロになった天は、本能のまま梨紅の小柄な身体を抱き上げその場をクルクルと回り始めた。
「流石にTPOは考えて下さい。こんな人通りの多い所で皆さんの邪魔になります」
「問題ナイナイ。その他大勢には気付かれないしぶつかりもしないから」
天の言う通り、都合のいい不思議な力の働きにより空港内で奇怪な行動を取っているにも関わらず誰も2人の事を気にしていないようだった。



「貴方は時々よく分からない事を言いますねぇ」
「少しくらい分からない事があってもいいじゃん。分からない事を言ってもオレはリクに嘘は言ってないし……」
「堕天使か………こんな所で何をやっているんだ」
「ちっ……お邪魔虫かよ」
「あぁ、聖さん。先日は子供達がお世話になりました」
天のクルクルからようやく解放された梨紅はフラフラとしながら聖に頭を下げた。



「こちらこそ、風眞がいつもお世話になってます」
「リクに触んな、根暗ヤロー」
フラフラとしている梨紅の身体を支えようと手を伸ばした聖を睨むと、天は梨紅を再び腕の中に収容しアッカンベーと舌を出した。



「すみません、聖さん……ところで、これからどちらに?」
「スイスへ。今、弟があっちに居ますので」
「あら、そうなんですか。私達、今回の旅行でスイスにも行ったんですよ。時計職人さんに1日弟子入りしたんです」
「そ……そうですか」
嬉しそうに話す様子からいって「1日弟子入り」によって何か新しい技術を会得できたに違いない。
梨紅の目指す方向性は一般人には理解し難い。



「天はフラーっと何処かに行ってしまったんですけど、お陰で邪魔されなくて助かりました」
「酷いよ、リクー」
「事実です」
ベタベタとする2人の前で聖は考え込むように眉を寄せた。
「何処かへ………おい、堕天使」
「二重人格の娘にしちゃ可愛かったな。リクには負けるけど!」
二重人格とは聖の双子の弟の事。
娘が事件に巻き込まれたショックで眠りから覚めなくなってから彼は家族でスイスに移住した。
事件が発生して約2ヶ月。
彼の娘は未だ目覚める気配がない。



「そうか……」
梨紅に関係する事以外は無関心を貫く天が弟一家を訪ねたのは以外だった。
「お姫さまは目覚めるまで眠らせておいた方がいいと思うよ。あの子が持ってる魂……まぁいいや、オマエが直接見りゃ分かるだろ。ほらほら、さっさと行ってらっしゃーい!!」
「………それでは梨紅さん、失礼します」
「はい、お気をつけて」
憎たらしい天の態度を完全スルーし、聖は梨紅に挨拶しその場を去って行った。



「今の話、又もやよく分からなかったんですけど、聖さんには弟さんがいらっしゃって、弟さんには娘さんがいらっしゃるんですか?」
「うん、そう」
「ええと、その娘さんは聖さんの姪にあたりますから風眞ちゃんの従兄弟になるわけですよね?」
「うん」
「風眞ちゃんには……」
「話さないっつか、気に食わないけど今は話せない」
話せない……天が梨紅以外の人の言う事を聞くなんて珍しい。
珍しいという事はそれなりの理由があるという事。



「今は……ですか。分かりました、貴方がそう言うのならそういう事なのでしょう。それでも、なるべく早く風眞ちゃんに教えてあげられればいいですね。貴方が気をかけてあげるって事は、きっといい子なんでしょう?2人はいいお友達になれるんじゃないでしょうか」
「まぁ、ね。そんじゃ名残り惜しいけどそろそろ帰ろう。お腹空いてきちゃった」
「相変わらず熱効率の悪い身体ですね。あれだけ食べた物が何処に消えるんでしょう……」
「んーーーーー、宇宙?」
「そうですか、宇宙ですか。それでしたら食べても食べても直ぐになくなってしまいますね」
「そうそう」
本気だか冗談だか分からない話をしながら梨紅と天は家路を急いだ。







「おかえりなさい」
「おかえり」
「はい、ただいま帰りました」
「健全な生活送ってたかー?」
「はい、元気でした」
「それはよかったです。さぁ、中に入りましょう」
天の言葉を天然でスルーする風眞と梨紅。
創司は父親を冷めた目で見ると女性陣の後について行った。



「やっぱりお家はいいですね。こうしてお茶を飲むとホッとします」
「ねぇ、リクお母さん。旅行楽しかった?」
「えぇ、お陰さまで。とても楽しんで来ました」
「よかった!やっぱり好きな人と旅行するのって楽しいのね」
「そうですね。慣れない環境では気心の知れた人と居た方が安心しますし、気を使う人と一緒よりは旅に集中できるので楽しいのだと思います」
風眞が持つ純粋乙女的思考とはかけ離れた意見にも関わらず天は大喜びだった。
「そうだよね、いつも一緒がいいに決まってるよね!!」
子供達の前でもお構いなしに梨紅を膝の上に乗せギュウっと背後から抱きしめ「リクーっ!好き過ぎるーっ!!」等と感情の赴くまま自制心ゼロ本能だだ漏れに騒ぎ続けた。
彼の中に常識というものはない。



「創司、風眞ちゃん。お夕飯御馳走さまでした。片付けは私がやっておきますからお部屋に行っていいですよ」
「片づけなら私が……」
「………風眞いいよ。部屋に行こう」
「でも……」
創司は流しに食器を下げると風眞の手を取り廊下へと出て行った。



「旅行から帰ってきたばかりなのに、洗い物させちゃったら悪いわ」
「いいんだよ。お母さんはお母さんのペースでやるから。父さんがあの状態だからね……流石に教育上よろしくないと思ってオレらを出したんでしょ」
「教育上よろしくない???」
「いやいや、こっちの話。………ったく、ドア1枚挟んでもウルサイなぁ」
廊下に出ても天の声が聞こえてくる。
愛情表現は自由だが度を過ぎるとウザい。



「2人での1週間も楽しかったけど、皆が一緒も楽しいわね?」
ゲンナリとした顔の創司を見て風眞はクスッと笑った。
「まぁ、ね」
好きな人と一緒なら、何時でも何処でも何をしても楽しい。
それが、皆の答え。














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