創ちゃんと風眞の1週間・6日目








「創ちゃん、創ちゃん。これ……やってくれる?」
「いいよ」
さらさらとした髪を器用にまとめ受け取ったバレッタでとめると、創司は手鏡に風眞の後ろ髪をうつして見せた。
「これでいい?」
「うん、ありがとう!」







3月15日(6日目)



「留めたところ痛くない?」
「痛くないわ」
「着けてて気にならない?」
「大丈夫よ」
「そっか、よかった」
「そんなに心配しなくていいのに」
「自分で使うものじゃないから具合が分からないんだよ」
創司の言葉に風眞はクスリと笑った。



「どうしたの?」
「だって真面目な顔して言うんだもの」
「でも本当の事じゃん?見た感じで買っちゃったけど、使った感じまで気が回ってなかったからさ……」
風眞の性分だったらあげた物を毎日でも使ってくれそうだ。
毎日使ってくれたらそれは嬉しい。
「創ちゃんは本当に優しいのね」
「いやいや、そうじゃなくて……」
嬉しいけれど、例えそれが使い勝手の悪い物であったら……と思うと何度でも確かめてしまうのだ。



「そんなに心配だったら自分で着けてみる?」
「残念ながら髪の長さも質も違うから俺が着けても分からないんだよ」
「本当に本当に何ともないし、すごく気に入ってるのよ?創ちゃんは私の好きなものをみんな知っているじゃない。だからこれは本当に嬉しいのよ。それとも、信じてくれないの?」
真面目に答えた創司を笑うと風眞は少しだけ意地悪に言った。
「ごめんなさい、信じてます」
滅多にない攻撃にコロリとやられると創司は風眞の隣に腰かけた。



「昨日は楽しかった?」
「勿論よ。動物さんといっぱい遊べたし、いちごのパフェを食べられたし……」
「1日お父さんが居てくれたしね」
「うん」
滅多に会えない父親の事を風眞は慕っている。
風眞が認識する限りたった1人の肉親だからなのかもしれないが、一緒に過ごす時間を本当に嬉しそうにしている。
「風眞はお父さんが好きなんだな」
「1番好きなのは創ちゃんよ?」
「ありがとう……えーと、流石に聖さんがヘコむからそれはここだけの話という事で」
「お父さんも好きだけど」
「いやいや、その言い方もアレだから……」
無愛想な割にピュアな心がショックを受けるのは間違いない。



「あのさ、変な事聞くんだけど」
「なぁに?」
「お母さんの事どう思う?」
「リクお母さん?色々できてすごいなぁって思うわ」
「いやいやそうじゃなくて。風眞のお母さん」
それまで穏やかだった風眞の表情が急に固くなった。



「分からないわ」
「あ、うん、会った事ないもんね。その……こういう人じゃないかな?って予想でいいんだけど」
「………分からないわ」
「ごめん、本っ当に変な事聞いた。今のはナシにして」
分かるはずがないのだ。
生まれて直ぐに引き離され抱かれた記憶すらないのだから。
「……………目が同じ」
どうしてこんな事を聞いてしまったのだろうと創司が困った顔で笑うと、風眞は小さな声で呟くように話した。



「ん?」
「お父さん、1度だけ話してくれたの。私とお母さんは同じ目をしているんだって。だからね、鏡を見るとお母さんが私の事見ていてくれるんじゃないかなって思うの」
「風眞とお母さんには確かに繋がりがあるっていうのは分かってるじゃないか。お母さんの事、全然分からないわけじゃないよ」
「そう……ね。うん、そうよね」
風眞に少し笑顔が戻ると、創司は彼女の手を握り尋ねた。



「そう言えるって事は、会えなくても嫌いにはなってないって事だよね?」
「嫌いになんかならないわ」
「そっか……分かった」
「分かったの?何を?」
風眞は母親を恨んだりしていない。
誰にも言わないで我慢をしているけれど会いたいと思っている。
それが分かればいい。
風眞の母親の事、過去に何があったのか調べる前にそれさえ分かればいい。



「今は秘密。誕生日には教えてあげるよ」
「あと2ヶ月?」
「1ヶ月半だよ。それまで待っててくれる?」
「えぇ、いいわ」
待つのは得意だし創司は必ず約束を守ってくれる。
風眞が素直に頷くと創司は安心したように笑った。



「何かよく分かんない話をしちゃったね。そろそろフツーの子供らしい話をしよう。えーと………今晩は何を食べよっか?」
「創ちゃんは何が食べたいの?」
「うーん……じゃあ、今晩はハヤシライスが食べたい」
「…………ふふっ、わかったわ。今晩はハヤシライスにしましょう」
「じゃあ一緒に作ろう。昼間から煮込んだ方が美味しそうだからさ、今から買い物に行こう」
全く以て普通の子供らしい会話ではないのだがそんな事はどうでもよかった。
創司は風眞が穏やかな心でいてくれればいいし、風眞は創司が難しい顔をして考えこまなければいい。
普段通りの2人で過ごす時間が続けば結局のところ何だって構わないのだ。



「明日はリクお母さんとアマネさんが帰ってくるわね」
「母さん、無事だといいけど……」
「え?どうして?」
「すっごく疲れて帰ってきそう。父さんと2人で過ごすなんて重労働だよ。我儘で自己中で母さん命だから」
「えっえっえ???最後がよく分からなかったんだけど……」
「無事に帰ってくればいいなって事」
今頃は何処かの国を出国して飛行機の中だろう。
2人の無事を……いや寧ろ梨紅のみの無事を祈り創司は天を仰いだ。







「………ちっ、言いたい事言ってやがる」
「どうしましたか?」
「う、ううん。何でもないよ。ただの寝言」
「眠っていたんですか。気が付かなくてすみませんでした」
「謝らないでよ。眠っているのに気が付かない距離に座らせているのが悪いんだから。もう、こうなったらオレの膝の上に来るしかないよね!」
「それはナシです」
キッパリと言い放ち梨紅は読書を再開した。
因みに2人の座席は隣り同士であり、肘置きが境になっているだけである。



「冷たいんだから。でも、そんなクールな所も愛しすぎ!!」
「はい、ありがとうございます」
首に腕を回され熱烈抱擁を受けても読書は続ける梨紅。
最強マイペースな人である。
「(……今回のリクも読書好きか)」



「リク」は正常な転生のサイクルに乗らない。
前世までの記憶を思い出さないが、最初の「リク」の魂を持って誕生する。
アマネは「リク」が誕生した世界を探し出し、その世界の「リク」の一生が終わると次の世界に移動する。
世界の常識をひっくり返す程の能力を持ち無限に近い命を有する神のような存在でありながら、やっている事はストーカー行為のようである。



どの世界に生まれる「リク」も不幸な少女時代を過ごしている。
それは特殊な転生の為、最初の「リク」の運命を引きずってしまうから。
そもそもの原因はこのような転生をさせているアマネの責任なのだが、「そんなの帳消しにする位その先の人生を幸せにするから無問題なんだよ!!」と豪語している。
とんでもない自分勝手な生き物だ。



「子供たちはどうしてるでしょうか」
「昨日はヒジリと出かけたって。途中で東雲のぼっちゃんが双子のガキ連れてフーマちゃんに会いに来たってさ」
「皇さんが……?」
「ソーシはオレとリクを引き裂こうとするあの女に会ったって。何で出て来たんだかねぇ」
「空さんも……一体、どうしたんでしょう……」
本を閉じ考えを整理しようとした梨紅の顔を自分の方に向けると、アマネは額を合わせてニコリと笑った。



「あいつらがやりたいようにやってんだから、今はリクは考えなくていーの」
「また勝手な事を……」
「困ったら相談してくんだろ。リクとあの女はムカツクけど親友とかいうヤツなんだからさ。そしたら一緒に考えてやりゃいーじゃん?」
「アマネ……」
「それまでリクはオレとイチャイチャライフをするといいよ!」
「………寝ます」
「じゃあ、一緒に………」
「自分の席で、1人で、寝ます。おやすみなさい」
スッと身体を離すと梨紅は直ぐにアイマスクを装着し、あっという間に眠りについた。



「これが世に言うツンデレってヤツなのか?」
それは違うとツッコミを入れたい事を呟くと、アマネは窓の外に広がる雲を見下ろした。














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