創ちゃんと風眞の1週間・5日目








「梨紅さんから連絡がないから安心していたが、最近は発作が起きたりしていないか?」
「うん、大丈夫よ。ねぇ、創ちゃん?」
「そうだね」
体調を少し崩しはしたが発作は起きていない。
折角の外出が中止になっては困ると2人は前もって口裏を合わせておいたのだった。



「そうか………それでは何処へ行こうか。あまり遠くには行かれないが」
「あのね、お父さん。行きたい所があるの!」
「電車に30分くらい乗るんですけど……」
創司が目的地を風眞の父親……聖に告げると、聖は「うーん」という表情で創司を気遣うように見た。
「それくらいの町になるとアレがあると思うんだが…」
「大丈夫です、見慣れました」
何処か遠くを見つめながら創司は乾いた声で笑った。







3月14日(5日目)



「うわぁぁ……今年もスゴイわねぇ、創ちゃん?」
「………うん」
電車に乗って30分。
下車駅のホームで最初に3人の目に入ったのは東雲グループの巨大なホワイトデー広告だった。
「リクおかあさん綺麗ねぇ。お家でもこういう服着て欲しいなぁ」
「どうだろう。お母さんは服に関して機能重視だからね…」



創司の父親・天は普段からモデルをしているが、 クリスマス、バレンタインデー、ホワイトデーの年3回だけは天の相方として母親・梨紅もモデルをしている。
梨紅の普段は分厚いレンズのメガネを装備した小柄な地味っ子という見た目なのだが、素顔はウルっとした黒目の大きな和風美少女。
本来の年齢を無視したハイティーンの見た目で10年経っているが、天の持つ摩訶不思議な能力でその事を詮索する者は現れない。
天晴なご都合能力である。



「リクお母さんはね、赤が似合うと私は思うのよ」
「あぁ……そういえばアイツもそんな事を言ってたな」
何の気なしに聖が呟くと風眞は父を見上げて尋ねた。
「アイツってアマネさん?家では『リクは白が一番似合うよぉぉ!!』って言ってるのよ?」
「あ、いや、アマネは確かに梨紅さんには白が似合うと主張している。そうではなくて、その……」
明らかに聖は動揺していた。
久しぶりに会った娘の前で気を抜いてしまったのか、言わなくていい事を言ってしまったのだ。



「ごめんなさい、私の知らない人なのね」
父親を困らせてしまったと思い風眞が謝ると、聖は普段の彼からは想像する事が出来ない優しい表情で娘の頭を撫でながら答えた。
「梨紅さんのメイク担当の人だよ。風眞はアイツと気が合うのかもしれないな」
「そうなの?」
「あぁ。それはそうと、そろそろ駅を出た方がいいんじゃないか?行きたい所があるんだろう?」
既に後から来た電車が2本ほど発車している。
3人はようやく本来の目的地へと動き始めた。



※ ※ ※ ※ ※




「それで、何処に行けばいいんだ?」
「えぇと………あ、あのデパート!」
「かわいい動物大集合 ☆ 屋上で開催中……か」
「あのね、うさぎさんとか抱っこしたり餌をあげたり出来るんだって!」
目をキラキラさせ熱弁する風眞。
彼女は可愛いものは何でも好きだが、特に小さな動物が大好きだ。
そして……
「そうか、それは………楽しそうだな」
無愛想な顔に似合わず彼女の父も又、可愛いものが好きだったりする。



「あ、すみません。俺は後から行くんで風眞と一緒に先に屋上行ってて貰えますか?」
「えぇっ?!」
それまでウキウキご機嫌状態だった風眞はフリーズしてしまったかのように硬直してしまった。
外出する時はいつでも一緒にいてくれて、途中で何処かに行ってしまうだなんて事は今まで一度もなかったからだ。
「お父さんが一緒だから心配ないよ。用事が済んだら直ぐに行くからさ、動物さんと遊んで待ってて」
明らかに暗い表情になってしまった娘の頭を撫でると、聖は彼にしては最上級の優しい声で言った。
「父さんと2人ではつまらないかもしれないが我慢してくれるか?」
「ううん……そんな事ない。あの……待ってるね、創ちゃん……」
ようやく少し笑うと、創司に小さく手を振って風眞は目的地に向かった。



※ ※ ※ ※ ※




「うーん………」
風眞達と別れた創司は駅ビルのファンシーショップで唸っていた。
聖が一緒だから心配いらないと言った創司自身は風眞の事を物凄く心配している。
それでも単独行動を取ったのは風眞にプレゼントを買うためだった。
今日は3月14日、1月前に貰ったチョコレートのお返しをする日なのだ。



「うーーん……」
何をあげても喜んで貰えそうだが何でもいいという訳でもない。
可愛い動物のぬいぐるみやマスコット人形がよさそうなのだが、万が一にも「かわいい動物大集合☆」でお土産と被ってしまったらかなり微妙な空気になりそうだ。
子供向けのアクセサリー……どうせアクセサリーをあげるならオモチャじゃなくてちゃんとしたものをあげたいし、それだったら相応の年齢までは待った方がいい。
早く風眞の元へ行きたいけれど、妥協した物はあげられないと悩み続けている。
この様子では暫く結論が出そうにない。



「プレゼントを選ぶのに悩んでいるのかい?」
話し方からいって店員のようではない。
気安く話しかけられるような人の心当たりは全くない。
人違いをしているのだったら指摘してあげた方がいいのだろうか、と声の方を向いた創司は息を飲んだ。
緑柱石のような澄んだ濃い緑色の瞳以外にこれといった共通点はないのだが、声の主……20代と思われる非常に美しい女性に創司は風眞の面影を見たのだ。



「ごめん、急に話しかけられたら驚くね。アタシはリクの友達で、名前は言えないんだけど決して怪しい者じゃなくて……って初対面の人間の言葉を信じろっつったって無理があるか」
整った顔を崩して笑う女性には悪意を感じられない。
「梨紅の友達」というのは恐らく嘘ではないし、そうするとこの女性が何者なのか創司には予想できた。



「………僕のお母さんは何色の服が一番似合うと思いますか?」
「リクに?そうだねぇ、どんな色のどんな服を着ても可愛いけどね、一番といったら赤じゃないかな」
「そうですか……」
予想はほぼ確実になった。


「(この人はきっと、風眞のお母さんだ)」


「他にも何か聞きたい?………って、答えられない質問の方が多そうだけど」
「いえ、その………僕と同じ年齢の女の子が喜んでくれそうなプレゼントってどんな物がいいと思いますか?」
創司の質問に一瞬驚いたような顔をすると女性は優しく微笑んで聞き返した。
「どんな女の子か教えてくれる?」
「見た目は色白で小柄な子です。一番印象に残るのがとても綺麗な濃い緑色の目ですね」
「うん」
「身体があまり丈夫じゃないからそれを克服する為にコツコツと自分に出来る努力をしてます。自分にあまり自信がなくて引っ込み思案なところもあるけど、優しくて思いやりがある子です」
「そう……そうなんだ……」
「細くて小さいから気弱に見られるんですけど結構頑固……というか、我慢強くて頑張り屋さんなんです。あ、そうでした。小さくて丸くて可愛いものだったら結構何でも好きです」
「ソウシくんはその子の事をよく知っているんだ」
「好きなものは詳しくなるものですから」
「そっか……ありがとうね……あ、いやいや。えーと、そうだねぇ、その子は髪が長いかい?」
「肩甲骨辺りです。くせのない黒い髪をしてます」
「んー」……と言いながら女性はヘアアクセサリーの一角を指差した。



「あそこにあるバレッタ……髪を挟むピンみたいなヤツ。あれなんかどうかな?色も柄も沢山あるし普段使えるだろう?贈る方も使って貰えた方が嬉しいしね」
「あぁ……なるほど。早速見てみます」
「うん。それじゃアタシは行くよ。急に話しかけて悪かったね」
「いいえ、ありがとうございました。………風眞、きっと喜んでくれると思います」
風眞という言葉に一瞬肩を震わせると女性は涙を堪えた笑顔で創司に手を振り店を出て行った。



「(いい人そうだったな……)」



「大人の事情」で風眞と母親は会えないと創司は梨紅から聞いている。
あの女性は本当ならば娘と一緒にこういう店に来て買い物をしたいに違いない。
それが叶わないから創司に声をかけてきたのだろう。



「(………今できる事をするしかないか)」



2人のために何かしてあげたいが、今はその時ではない。
目に留まったバレッタを1つ購入すると創司は風眞の待つデパート屋上へ向かった。







「用事は終わったの?」
会場内に居るかと思われた風眞たちは屋上のベンチに腰かけて創司を待っていた。
「うん。あれ?もう動物さんと遊ばなくていいの?」
「動物さんの所には未だ行ってないの。さっきまでお父さんのお友達の子と遊んでいたのよ。双子の赤ちゃんでね、すごーく可愛かったの」
「聖さんのお友達……?」
聖の交友関係に詳しくないが、あまり人との付き合いが多いようには見えない。
どんな人が友達なんだろうと創司が首を捻ると聖は少し嫌そうな顔をして小声で答えた。



「友達ではない。昔から世話になってる?……いや、なってないな。とにかく仕事の雇い主だ」
「あぁ……っていうと、その双子の赤ちゃんって……」
「男の子と女の子の双子ちゃんでね、髪は栗色で綿毛みたいにふわふわしてるの。撫でてあげたら笑うのよ。それとね、目の色は緑なの。双子ちゃんのお母さんの目と同じ色なんだって」
「そうなんだ……」
風眞は気付いていないがその双子の赤ちゃんというのは風眞と父親の違う弟と妹だ。
双子の父親は何を考えて風眞に彼らを会わせたのか創司には理解し難かった。



「創ちゃんも双子ちゃんと遊べたらよかったのになぁ」
「うん、まぁ、そうだね。えーと……じゃあ、そろそろ動物さんの所に行こう。この後限定のイチゴパフェ食べに行く予定だもんね?あまり遅くなったら売り切れちゃうかもしれないよ」
「そっか。じゃあ行きましょう、お父さん」
「あ、あぁ」
イチゴパフェの件は初耳だが流れ的に行かされるんだろうと思い苦笑すると、聖は風眞の手をとり『かわいい動物大集合』と赤い大きな字が書かれた看板に向かって歩きだした。



「(そっか……風眞には弟と妹が居るのか……)」



双子の父親は風眞をどう思っているのだろうか。
どうして風眞と双子を会わせたのか。
いつか風眞に本当の事を教えるつもりなのか………



「(完全に隠すつもりはない……っつーか、寧ろ探れってか?!)」



「どうしたの、創ちゃん?」
創司が「何故」と思う事を見越しての行動だとしたら、双子の父親が風眞に接触した理由も何となく分かる。
……となると、今まで暗黙の了解で風眞の家族について詳しく調べないようにしていたがどうやらその必要はないらしい。



「(大人の事情は子供に無効……って事でいいわけね)」


「創ちゃん?」
隠された事を暴くのは相応のリスクが生じるだろう。
ただ、知らなかったで後悔はしたくはない。
風眞のことで後悔をするのは2度と御免だ。
「あ、ごめんごめん。行こう」














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