2月14日。 放課後 和泉の家。 「はい、これ。お待ちかねの」 「おーきに。うっわ、何これ?新しいの出たん?」 和泉から手渡された紙袋を開き、達弥は中を覗き込んだ。 「そうそう。柚子コショウ味と七味唐辛子味なんてさ、製品化したスタッフさんの勇気に感動すると思わない?」 「まぁ、和泉みたいにネタで買うヤツがおるからやろなぁ……」 達弥が紙袋から取り出した2つの10円チョコの包み紙にはそれぞれ『柚子コショウ味』『七味唐辛子味』と書かれている。 「どっちにする?」という言葉に和泉は渋々といった様子で七味の方を選んだ。 「それじゃあ有難く頂きますか」 「どうぞ召し上がれ」 同時にチョコを口に入れると2人は何ともいえないビミョウな表情になった。 「………何ちゅったらえぇんやろか」 「不味くはないんだよね」 「せやな。あえて言うたら『わざわざチョコにせんでもえぇんちゃう?』やな」 「確かにそうかも。もっと美味しい味あるのにね」 苦笑して2人はコーヒーを飲みながら雑談をし始めた。 「でさ、今年はいくつだった?中学部卒業だからって後輩ちゃん達も張り切ってくれたんじゃなーい?」 達弥の顔を覗き込んで和泉はニヤッと笑った。 「話繋がっとらんやろ」 「いーじゃん、早く数えてよー」 「しゃーないなぁ。ちょい待ってな、えーと……」 手提げの紙袋から出したチョコの包みをテーブルの上に並べていく。 その数は結構なものだ。 「21」 「よっ!年下キラー!!パチパチヒューヒュー!!」 「褒めとんのか貶しとんのか分からんわ」 「褒めてるんですぅ。さ、さささっ、ア・ニ・キ☆ちょいとコレなんか開けてみて下さいよぉ!」 和泉が手に取ったのは金色のリボンがかかった焦げ茶色の箱。 達弥は知っているか分からないが有名なフランスのショコラティエの物だ。 「ほれ」 「ありがとうございますぅ!」 達弥が摘まんだチョコを魚のようにパクッとくわえ、和泉はニコニコしながらゆっくりそれを味わった。 「美味い?」 「とーぜんでしょー!さっすが数量限定、行列の出来る店!」 「うちのガッコの生徒やったら並ばんでも手に入るやろ」 東雲学園の大多数の生徒は金銭的に裕福な家庭の子供だ。 望む物があれば何でも手に入るし、手に入れる為に苦労もしない。 「そう言われたら身も蓋もないっていうか……。でもでも、美味しいのには変わらないからよしにしよう、うん」 「気に入ったんなら残りは和泉が食って。俺にはちょっと濃過ぎるわ」 「………ちゃんと1つは食べたね。それじゃ遠慮なく頂きます〜」 嬉しそうに受け取った箱に『イズミ・確保』とマジックで書くと、和泉は残り20個の箱から次の1個を選び始めた。 「好きやなぁ、ホンマ」 「だって達弥が貰うチョコって100%今年の話題のチョコじゃん?どれも確実に美味しいじゃん?どれから食べるか悩むじゃん?悩まなきゃウソじゃん?」 熱弁を振って選択作業を再開。 本当にチョコが好きなようだ。 「和泉」 「うん?」 「ミクにはチョコやらんかったんか?」 「お昼休みにあげたじゃん」 「アレはクラスのやろ」 「そだよ?」 「それが何か?」といった様子で大きな目をパチクリさせる和泉。 素なのか演技なのか。 和泉は美久の事が好きなんじゃないか?と思っている達弥には深い謎だった。 「俺だけ2重取りしとるようやな……」 「お返し2重取りしてるからおあいこだよ」 「そんなもんかねぇ」 理由になっていないような気もしたが気にしないふりをしていると、達弥の右手に今度は赤い小さな箱が乗せられた。 「これヨロシク!」 「………ほれ」 箱の中身はたった2粒のチョコ。 妙に高級感溢れ存在感がある2粒だ。 「うっわー、これって1粒1000円もするんだ?」 『バレンタイン特集』と表紙に大きくかかれたティーン向けの雑誌を片手に、和泉は1粒を手に取ってしげしげと眺めた。 「1桁間違っとるやろ」 「何か色々凝縮されてるんじゃない?」 和泉はクンクンと鼻を近づけ匂いを嗅ぐと、パクンと1粒1000円を1口で食べてしまった。 「うまかった?」 「美味しいけどボリューミー。1粒でお腹いっぱい」 「ほんまかい………って、ほんまやな。ヘビー級や」 「本日終了」 「賛成」 2人揃って「うへぇ」という顔をしてコーヒーを飲み、バタンと床に倒れた。 1粒で1食分の値段なだけはある。 「達弥のバレンタイン戦利品を一緒に美味しく頂いちゃおうの会も今年で3回目かぁ」 「バレンタインチョコ解禁になったんは中学部からやからそうやろな」 達弥のバレンタイン戦利品を一緒に美味しく頂いちゃおうの会。 達弥が貰ったバレンタインチョコを和泉が一緒に食べるというだけの会合。 決まりは貰ったチョコを達弥が必ず1つは食べるという事。 全てを食べ終わるまで2月14日から毎日開催。 「来年もやれるかなぁ」 「さぁな。来年は誰もくれへんかもしれんし」 「いや、そういう心配じゃなくて」 「んじゃ何や?」 「彼女が出来たら……って思ったの」 達弥に背を向けると和泉は元気のない声で言った。 「ありえへんわ」 「何で?」 「何でも」 「答えになってないじゃん」 自分だって答えらしい答えを言ってなかったくせに。 結構勝手なもんである。 「俺には彼女とか未だ早いって。和泉とアホやっとった方が楽しいわ」 まさか本人を目の前にして「和泉が好きだけど告白はしないつもりだから」とは言えず、誤魔化すようにヘラヘラ笑うと達弥は起き上がって10円チョコを1つ口に入れた。 「………まぁ、そうだよね。心配して損しちゃった」 「はいっ」と言って差し出した右手に乗せられた10円チョコを口に入れ、起き上がると和泉は照れたように笑った。 「心配してくれるっちゅーのは、まさか、俺に惚れとんの?」 「ち、ちがう!!イズミは幼馴染として寂しいなって思っただけだもんっ!!」 「真っ赤やないかぁ。否定しとるんか怪しいもんやなぁ」 「ちがうったらちがうのっ!!イジワル言うならチョコ返してもらうからねっ!!」 仲良く喧嘩をする幼馴染の2人。 1年後、自分達の関係が変わっている事をその時は考えもしなかった。 |
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