※※からきました・3








「る、る、るるるる、ルナソル!は、早く返して!!」
「失礼致しました。武器を触られるのはあまりいい気分はしませんよね。お返しします」
クルっと持ち手を回しファルシエールの腰の鞘に剣をおさめると、ルナソルは父親の次の言葉を待った。



「気分の問題じゃないよ。危ないから触っちゃダメなんだよ?怪我をしたら大変じゃない!」
「大丈夫ですよ。普通の怪我では命に別状はありませんから」
ケロッとした様子で話すルナソルに、ファルシエールの顔色は真っ青になった。
「ち、ちちちち、違う!先ず以て着眼点が違うよ!」
「お父さまは心配性ですね。私はこの中ではサイさんの次に回復力が高いですし、それに……」
語尾を濁すとルナソルは下唇を噛んで眉を顰めた。



「どうしたの?」
「いえ…………あの……えっ、えぇっっ!?」
サイの腕の中から抜け出したシイラは、困った顔で下を向いたルナソルに物凄い勢いで抱きつき……というか飛び付き、2人は床にベショっと潰れた。



「げんきーだーしー?」
「あ……はい……」
自分の身体で下敷きにしているルナソルをなでなでするシイラ。
彼女なりに励まそうとしているようだ。
その光景はネコ科の生き物がオモチャで遊んでいるようにしか見えないのだが…。



「ルーが誰に似たんだか、今、はっきり分かっちゃいました……」
アースはおっとりほわわーんとしているシイラしか知らない。
いつも子供たちに美味しいお菓子を作ってくれて、綺麗な声で歌ってくれるシイラ。
彼女の周りの空気はゆったり穏やかで傍に居るだけで癒されるというのに、今の彼女の周りは嵐のようだった。
嵐の中でも記録的豪雨として発表されるくらいの勢いだ。



「泣き止んだと思ったら随分元気だな。ほら、こっちおいで」
サイは床でゴロゴロしているシイラをひょいっと抱き上げるとそのままファルシエールに渡そうとした。
だが、そう上手くいかないのが不思議なところ。
「おいで!!」
「やん!」
サイの事が気に入ったのかそれともファルシエールが気に入らないのか……シイラはぷいっと横を向きサイにガッシリしがみついた。
「うっ……ぐる…………」
頑丈なサイを苦しめるほどの怪力で。



「シイラ、こっちへいらっしゃい。あんまりギューっとすると息の根止まっちゃうから、そぉっと抱きついてね」
「あいっ!」
どこまで言葉を理解しているのか定かではないが、シイラはご機嫌でメールディアにピタッと抱きついた。
「あんっ!もうっ!可愛いんだからっ!!」
「くしゅぐったぁ!!」
シイラが可愛くて仕方がないメールディアは、ぱぁぁぁぁっと笑顔を大放出させた。
普段は全く似ていない双子の弟と、こういう部分だけはそっくりである。



※ ※ ※ ※ ※




「う……うぅ……シイラ……何で姉さんは大丈夫で僕はダメなの……?」
状況は逆戻り。
寧ろ悪化しているかもしれない。
「あ、あの……お父さま……気を確かに……」
間接的な責任を感じたのか恐る恐るルナソルが声をかけると、ファルシエールは突如立ちあがり涙目になって叫んだ。
いい大人が全く以て大人げない。
「りゅ、りゅなしょりゅうぅぅぅ!!!」
「っ!!!」
両腕を広げ思い切り抱きしめようと試みた瞬間、ルナソルは素早い動きで横に逃れ警戒の構えを見せた。



「あ……すみません、つい……」
直ぐに警戒を解いて謝ったが時すでに遅し。
ファルシエールの身体は白い灰になっていた。
微風でも吹き飛ばされてしまいそうな状態だ。
「なぁ、アース」
「はい、僕も気になりました」
「…………だなぁ。うーん………ちょっと試してみましょうかね」
暫く目を閉じ考えると、サイは生ける屍に話しかけた。



「おーい、聞こえてるかぁ?」
「………きこえてない………」
消え去るようなか細い声だが、返答はある。
やれやれと思いながらサイはファルシエールに話し続けた。
「ルナのお願いを叶えてやれよ」
「…………やだ」
「何で」
ノロノロと頭を上げ深いため息をつくと、ファルシエールはルナソルを見つめきっぱりと言い切った。
「ルナソルは女の子だから」



そう言い終わると同時にファルシエールの後頭部からスパーン!という何かが叩きつけられた音が発生し、前のめりに顔から床に倒れた。
音の正体はメールディアのスーパー突っ込み。
彼女は口元を引きつらせてお怒りの表情になっていた。
「それが理由?ふざけんなだわ」
「ふざけてなんかいないよ。ルナソルは女の子だもん。剣なんてやる必要ないんですぅー!!」
「………目の前に居る私も女ですが。剣以外の武器の扱いに関して貴方よりもずぅっと上なんですが何か?」
「姉さんはか弱い女の子じゃないでしょ?!」
「か弱い女の子じゃなくて悪かったわねぇ?次の現場作業の時は手伝ってあげないから憶えておきなさいよ!」
「それとこれとは話が違うじゃん。ってか、話がズレてんじゃん」
「はい、よく思い出しました」



どさくさに紛れて連れて来たシイラを抱えファルシエールの正面に立つと、サイはずいっと前に差し出した。
「シイラ……」
「むぅ………」
再び顔を背けられ完全なショック状態に陥る直前、近づいてきたルナソルがおずおずとシイラの手に触れた。
「お母様……」
「おかしゃ?」
「お願いします」
「???」
「お願いします」
首を傾げパチパチと何度か瞬きをした後、シイラは何を思ったのか急にファルシエールの方を向き砂糖菓子のような甘い笑顔で一言ずつハッキリと言った。


「お・ね・が・い?」


ズキューン!という何かが打ち抜かれた音が部屋に響いた。
そして、ファルシエールの全身から閃光が発せられた………ように見えた。
「しょうがないなぁ〜、ちょっとだけだからねぇ?」
マイナスからプラスへ切り替わった反動が大きい。
慣れている者達にも一瞬眩暈を与えるシャイニングスマイルの真っ正面に居るシイラは未だ彼に会う前のシイラだ。
ようするに免疫がない。
想定外の威力にサイも「しまった」と思ったが、当のシイラは更に想定外の反応を見せていた。
本来ならば気絶するところをケラケラと楽しそうに笑っていたのだ。



「時の狭間にはこんな面白生物が居ないからか?」
少々失礼な事を呟くと、笑い続けるシイラをメールディアに預け、サイはファルシエールとルナソルを部屋の外に促した。
「気は抜かない方がいいぞ」
「抜くわけないじゃん。怪我させたら大変だもん」
直前まで渋っていたくせにやると決めたら中途半端にしない主義。
「ならいいけど、多分、ルナは強いよ」
「………だろうね」
ファルシエールは腰に下げた剣に触れると、プライベートでは見せる事がない冷たく鋭い目つきになり稽古場へと向かった。



※ ※ ※ ※ ※




「ルナソルはどんな剣を使うの?」
「基本的に何でも使えます」
「普段よく使っているのは?」
「大型の両手剣です」
「ふぅん……今の身長だったら小剣以外だったら全部両手剣になっちゃうから、これで丁度いいくらいかな」
「ありがとうございます」
渡された剣を軽く素振りすると、ルナソルは小さく頷き稽古場の中央へと向かった。



「やっぱりアースの服を貸してあげればよかったんじゃないかしら」
「本人が大丈夫って言うんだからなぁ」
流石に寝間着からは着替えたが、ルナソルは普段着……しかもヒザ丈スカートで構わないという。
その格好で剣を持った姿は非常にアンバランスで見ている方が心配になってくる。
「どんな状態でもベストを尽くせるって事なんでしょうか」
「だとしたら、未来のルナちゃんはどうしてそう成らざるをえなかったのか………今の私達は知る事が出来ないけれど気になるわね」
「………まぁ、とりあえず2人の様子を見てみよう」
「みーるー?」



ゆっくりと腰の剣を抜き、正面で構えるルナソルを静かな目で見据えるファルシエール。
娘に対する普段のデロ甘な表情は欠片も残されていない。
「いいよ、かかってきなさい」
「はい」
返事をするとルナソルは目を閉じ僅かに右手首に力を入れた。
刹那。



「止められましたか……」
刃がぶつかり甲高い金属音が室内に響いた。
「なかなか重い一撃だね。いい角度で打ってきてる」
「これが見えていたとは流石です」
軽くバックステップをし距離をとると、ルナソルは両手で持っていた剣を右手に持ち直した。



「その身体だと直接攻撃を続けても力負けするって気付いたのかな?」
「その通りです」
「次は止められないと思う?」
「そのつもりでいきます」
今の1回でルナソルは自分との力の差を理解し、その上で次の一手を打とうとしている。
敵いっこない相手に対し何を考えどう動くのか。
数年前、自分が父親に対していた気持ちと同じなのか。
今の自分の気持ちが当時の父親の気持ちと同じなのか。
変な所で時代は繰り返すとファルシエールは苦笑した。



「おいで。止めてあげるから」
「………では、遠慮なく」
ルナソルは一端剣を払うと跳躍し勢いよく刃を床に叩きつけた。
すると、切っ先が触れた部分からファルシエールが立つ場所まで一瞬にして亀裂が走りガラガラと床が崩れていった。



「派手ですね」
「スピードがあるパワー型っつーのは相手にしたくないなぁ」
「……やっぱり、おかしいわ」
「何が………って、ちょ、ちょっと待っ……」
「ふぇ……けんかめーなの……」
ポツリと呟いたメールディアの言葉も気になったが先ず何より注目すべきはシイラだった。
目の前の惨状を見てショックを受けたシイラは、ポカーンとして直ぐにウルウルと目に涙を浮かべ始めてしまったのだ。
時の狭間純粋培養の幼児にとって刺激が強すぎたようだ。
「お、落ち着いて下さい、シイラさん。喧嘩してるわけじゃないですから……」
「ふぇ……ふぇ……ふっっ……」



涙の大洪水になる寸前、光の速さで登場したファルシエールは拒否されようが何だろうが知ったこっちゃないんだぜ!思いっきりギュウゥっとしちゃうんだぜぃ!!とばかりにシイラを抱き上げた。
「僕は大丈夫だからね!泣かないでいいんだよっっ」
「けんか……めー……めーなの……」
零れ落ちそうだった涙はシュルルルル……と戻っていったが未だ目はウルウルのまま。
「喧嘩なんかしてないよぉ。ねぇ〜ルナソル?」
「あ、はい。もちろんです」
ルナソルの同意を聞いてもシイラの眉は八の字。
納得していないようだ。



「床だってね、こんなのすぐに直るんだから!!」
「ね?」と言いながらの視線の先には巻き込まれたサイ一家。
「ハイソウデスネ」という棒読みのセリフを言いながら3人はあっと言う間に修繕作業を終わらせた。
「すみません……」
当事者のルナソルが申し訳なさそうに謝ると、3人は口を揃えて言うのだった。
「「「大丈夫、慣れてるから!」」」



※ ※ ※ ※ ※




「これじゃあ続行不可能だわ……」
「気にしないで下さい。今ので十分いい勉強になりました」
ファルシエールに対して拒否反応を示していたシイラはここにきて態度が一転し、機嫌よく抱っこされていた。
となると、ファルシエールにとって剣を握るよりもシイラを抱っこしている方が100万倍有意義なわけだから、当分再戦は不可能ということになってしまうのだ。



「僕の事はファルって呼んでね」
「あーるー?」
「なぁに、シイラ?」
原型を留めていない呼ばれ方をされているにも関わらずデレデレと返事をするファルシエール。
シイラに呼んで貰えれば何でもいいようだ。
「あるー!」
「うぅん、もぉうっ、かぁーわいいんだからぁんっ!」
至近距離で最高の笑顔を見せられ興奮最高潮。
何らかの爆発事故が発生したかのような閃光と花吹雪で稽古場はドエライ事になった。
この環境下でケラケラと笑い続けられるシイラは事故発生の中心人物と同じくらいオモシロで大物だ。



「とりあえずあの2人は放っておこう。それよりさ、答えられる範囲でいいんだけど」
「はい、何でしょう」
「今の手合わせはその身体ベースの強さ?」
「はい」
「じゃあ、未来ではもっと強いんだ」
「それなりにですが」
「時の魔法を使えるようになったみたいだね」
「ええ」
そっか、と言い頷くとサイは目を閉じ黙って思索にふけった。



「あーるー、ごはんたーべよ?」
ノンキな声とその内容に緊張した空気が一気に和らいだ。
「そうだねー。まだ朝ごはん食べてなかったもんねー。今朝は僕が作っちゃうゾ!」
「ごっはーーんっ!!」
「直ぐに用意するからねっ!ルナソルもキッチンへ一緒に来る?来るよねっ?おいでっ!!」
キラリンと白い歯を輝かせ、ファルシエールはシイラを抱いたままウキウキと稽古場を出て行った。



「あ……えぇと……」
ルナソルは話が終わったのかどうか判断が出来ず困惑していた。
大した会話もしていないし、話の途中で抜けるのは失礼だと思ったからだ。
「質問はもういいよ、ありがとう。お父さんの所に行っておいで」
少しホッとした様子を見せるとサイ達に会釈をして、ルナソルも両親を追って稽古場を出て行った。



「未来のルナちゃんが居るのって………」
床に転がったままの剣を拾うと、メールディアはアースを見て黙り込んだ。
「中央地域ではない……あまり治安がよくない所に居るんでしょうか」
「もっと言ったら治安のよくない、此処とは違う世界かもしれないな」
サイの言葉にアースはギョッとした。
それはアースもチラリと考えはしたが却下したものだったからだ。



「あり得なくはないから可能性を否定できないのよね。でも、それをルナちゃんに確認する事は出来ないから困っちゃうわ」
「ルーが魔道院で仕事してて、危険な地域に派遣されてるだけでは……」
「常に警戒を解けないほど危険な状況下にある場所に魔道院がルナを派遣するわけなくないか?この世界の未来か他の世界の未来か分からないけど1つだけ確実じゃないかと思うのが……」
サイはアースの表情を見て一瞬躊躇ったが最後まで自分の考えを言った。



「ルナの居る未来に俺たちは居ない。俺たちが居る限り世界の歪みは今以上に酷くなる事がない、って事は武力行使が必要なお客さんがそう頻繁に現れる事もない。子供の身体でもあれだけ強いのに必死に強くなろうとするのは、普段の相手は『お客さん』じゃなくて『敵』なんだろう」
「もう1つ不可解な点があるわね」
メールディアは先ほどのルナソルの動きを思い出し、手の中の剣を弄びながら続けた。
「ルナちゃんの剣技はファルと似てるけど違うのよ。特定の何って型に当てはまらないオリジナルっぽいわ。ルナちゃんはファルに剣を習わなかったのかしら?」
両親の言葉にアースの顔から血の気が引いていった。
アースとルナソルは全くの別人だが、かけがえのない絆で結ばれている。
2人は一緒に居るのが当たり前で、明日も明後日もずっと先の未来でもそれは続くと思っていたのだ。
別々の世界で暮らす未来なんて考えられるはずがない。



「僕……聞いてきます」
「リスクの方が大きいって分かってる?」
サイの問いにしっかりと頷くと、アースはルナソルを追って駆け出した。
「その質問によって影響する未来の軌道修正はネオさんがやってくれると思うけど、アースの心に与える影響は私達が何とかしないといけないわね」
「基本的にはアース自身が何とかしないといけないんだけど。ま、悪い方向に考えない方がいいな。未来のルナの傍に俺たちは居ない確立が高い、だけど……」
途中で言葉を止めるとサイは最後まで言わずただ微笑んだ。









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