※※からきました・2








1の月青の月の1日 朝



稽古を終えたファルシエールが部屋に戻ってくると、シイラとルナソルは未だ眠っていた。
「2人は本当に可愛いなぁ」
うっとりとした声で呟き、ベッドサイドに頬杖をつくファルシエール。
すやすやと眠っている2人は無防備で天使のように愛らしい。
ルナソルに関して言えば、熟睡している時は滅多な事では目覚めない。
当然その事を熟知している彼は、いつものように愛娘の柔らかな頬を撫でようと手を伸ばした。
すると、



「!」
突如目を開けたルナソルは、何か信じられないものを見たかのようにファルシエールの顔を見つめた。
「ご、ごめんねルナソル。起しちゃったね」
「…………」
頭を撫でようとファルシエールが伸ばした手をササッと避け、ルナソルは警戒した様子でベッドから降りようとした。
「ど、どどどど、どうしたの?怒ってる?お父さん、何か悪い事した?!」
「…………」
無言でファルシエールの顔を見つめ、それから自分の手足、そして未だ眠っているシイラを見るとルナソルはピクリとも動かなくなった。



「ルナソル……ど、どうしよう……シイラ、ごめんね、起きてくれる?」
半泣きでシイラの身体を揺さぶるが、なかなか目を開けない。
普段から寝起きが悪いとはいえ、ここまで起きないという事はまずない。
つまり異常事態で緊急事態。
半泣きから半狂乱に移行しつつある時、ようやくルナソルがポツリと言葉を漏らした。



「夢………じゃない………?」



※ ※ ※ ※ ※




事件発生。


気分も新たに爽やかにいきたい新年の朝、目覚めた途端にアースの脳裏に浮かんだのはその言葉だった。
急いで身支度を整え部屋を出ると、サイとメールディアも何かあったと分かっているらしく小さく頷いた。
「とりあえず行った方がいいですよね?」
「そうね。何が起きたのかまでは分からないけれど、状況はあまりよくないみたい」
事件は現場で起こっているんだ!という何処かの誰かの言葉を思い出しながら、現場……ファルシエールの家に転移する3人。
そこで目にした光景は……



「ふぇぇぇ〜ん!!!」
「どうして泣くの?僕が何かしたなら謝るよ。だから泣かないで……」
「ふぇぇぇぇ〜〜ん!!!!!!」
大きな声で泣いているのはルナソルではなくシイラ。
ルナソルはというと、黙って両親の修羅場を離れた所で観察している。



「おとしゃ?おかしゃ?ふぇぇぇぇ〜〜〜ん!!!!!!!」
「シイラ……一体……どうしちゃったの……」
毛布を被って泣き続けるシイラ。
近づくだけで泣き声が大きくなり拒絶されているファルシエールは、存在が半透明になる程のショックを受けていた。
「何……かしら、この………コメントしづらい状況は……」
「さぁ……解決の糸口になるかは分かりませんがルーに聞いてみます」
少し失礼な言い方だが、ルナソルは何でもない事の説明すら怪文になってしまうのだから、今のこの複雑な状況を説明するというのはかなりハードルが高いのだ。



「ルー、おはよう」
「………」
いつもだったら「おはよ、おはよ」と言いながらアースに纏わりついてくるというのに、今のルナソルはアースの顔を見上げたまま微動だにしない。
しゃべらないし動かないルナソルは明らかに異常だった。
「…どうやらおかしいのはシイラさんだけではないようです」
両親にそう伝えると、アースはルナソルの正面に座りもう1度話しかけた。



「ルー、僕の声が聞こえる?」
「………」
じぃっとアースの顔を見つめたままルナソルは小さく縦に首を振った。
「声が出ないの?」
「………」
今度は小さく横に首を振った。
「だったら、何でもいいから話してくれる?」



暫く何かを考えた後、ようやく口を開いたルナソルは躊躇いがちに声を発した。
「………あの………アースさん……ですよね?」
「アース………さん?!」
・アースの事を「さん」づけに呼んでいる。
・「さ」の発音が出来ている。
・ちゃんとした丁寧語で話している。
以上の3点だけでも確実に「おかしい」。



「ふっぇぇぇぇ〜〜!!!」
考えながらシイラの泣き声をよく聞いてみるとこちらもおかしい。
「ふぇっ、ふぇっ、おとしゃ〜!!」
口調が妙に子供っぽい。
シイラが子供っぽくてルナソルがちゃんと話している……それは……
嫌な答えに行き着いてしまったが仕方ない。
本人に聞いて確認をとるしかない。
意を決してアースはルナソルにたずねた。



「もしかして………貴女は……未来のルナソル?」
「………はい、この状況を見ると私の精神だけが過去に来ているようですね。お母様は逆に過去と入れ替わってしまったようですが」



嫌な答えが大正解。
見た目は幼児だが中身は未来のルナソル。
見た目は大人だが中身は過去のシイラ。
それが、今この部屋の中で起きている惨状の正体なのであった。



「何があってこうなってしまったのかは分かる……分かりますか?」
「それが……私にも……。目が覚めたらこうなっていたので……」
会話が成立しても分からないものは分からない。
どうしたものかと考え始めたその時、部屋の中に穏やかな男性の声が響いた。



『シイラ、心配しなくてもいいですよ』
「おとしゃ?おとしゃ、どこ?」
ぶわっっと毛布を退け、キョロキョロと天井を見上げるシイラ。
普段は笑顔で愛らしい顔が涙でぐしゃぐしゃになり、悲痛な声で「おとしゃ、おかしゃ」と叫んでいる。
『すみません、メールディアさん。シイラの背中を軽く擦ってあげて貰えますか?』
「はい、分かりました……ネオさん」
穏やかな声の主は、シイラの父ネオだった。



「ぼ、僕じゃダメなんですか?!」
シイラのために何かしたい!
この中で誰よりも強くそう思っているファルシエールがそう言うと、ネオは穏やかな声だが淡々と答えた。
『今はシイラを落ち着かせるのが先です。メールディアさんはシイラと僅かながら血の繋がりがあるのでお願いしているのです』
「………」
そう言われてしまうと無理に我を通す事は出来ない。
何も出来ない自分を歯痒く思いながら、ファルシエールはシイラを見守ることにした。



「おとしゃ……ふぇ……」
「怖がらなくても大丈夫よ、シイラ」
メールディアが小柄な身体を抱きしめ背中を優しく擦ると、シイラの嗚咽は少しずつ収まってきた。
「……だれ?」
「私たちはシイラのお友達よ」
「しぃの?」
「そう。私たちはシイラのお友達で、皆シイラの事が大好きなのよ。だから、怖がらないでも大丈夫なの」
「おとしゃは?おとしゃ、どこ?こえしたお?」
藍玉の瞳に涙が浮かび始めると、再びネオの声が部屋に響いた。



『シイラ、貴女は今、夢を見ているのです』
「ゆめ?しぃ、ねてうの?」
『そうです。だから泣くのを止めて、お友達と仲良くしたらどうですか?その方が楽しいでしょう?』
「しぃ、おとしゃとおかしゃもいっしょがいい!」
『お父さんとお母さんは目が覚めたらいっぱい遊んであげます。でも、お友達とは夢の中でしか会えないんですよ?』
「……しぃ、なかよししゅう……」
ぎゅっとメールディアに抱きつくと、シイラは潤んだ瞳のまま一生懸命笑った。



※ ※ ※ ※ ※




「そういう事……か」
シイラがようやく落ち着くと、サイは何かを納得したように頷いた。
「何がどういう事なのさ」
「結論から言うと、ネオさんが言うにはこのまま暫くすれば元に戻るんだそうだ」
「どうしてそんな事が言えるの?何でこうなったのかも分からないのに」
「これから説明するって。子供の前であんまり取り乱すなよ、心配すんだろ?」
最後の部分を子供たちに聞こえないように小声で言うと、サイは皆に向かって話し始めた。



「元に戻れると言いきれる理由は、昔、シイラが時の狭間に住んでいた頃、未来のシイラと入れ替わった事があったらしいからなんだ。暫く親子3人で話しているうちにシイラが眠ってしまって、目が覚めたら元に戻っていたんだとさ。だから……」
「その時に入れ替わったシイラが今、此処に来ているって事ね」
「そゆこと」
話が分かっていないシイラはきょとんとした顔で辺りを見回している。
見慣れない人たち……お友達の様子をうかがっているようだ。



「それだったら前もって教えてくれればよかったのに……」
ファルシエールが愚痴ると、ルナソルは辛そうに項垂れた。
「時の能力者であっても確実な未来を知る事は出来ません。例え未来に起こると分かっていてもいつ起きるのかまでは分かりませんし、無理に未来を知ろうとするのは非常に危険なのです」
「いやいや、ルナが責任を感じる事ないし。それに、そんなに深刻になることないって。折角違う時代に来てるんだから何かしたい事とかない?久しぶりに抱っこしてやろうか?」
「抱っこ……ですか……」
「だっこ!しぃ、だっこ!!」
ルナソルが下を向いてモジモジしている隙に、目をキラキラさせたシイラはサイの身体にぴょこんと飛び付いた。



「げっ!」
「!!!」
成り行きでお姫様抱っこ状態のシイラは、ご機嫌でサイの首に腕を回して頬を寄せた。
「おひしゃまのにおい!しぃ、だいしゅき!!」
流石ルナソルの母。
場の空気が凍りついたのを物ともしない。
ちびっこシイラも超マイペースである。



「シイラ、僕が抱っこしてあげるよ!」
「やぁん!!」
我こそはシイラを抱っこしてイチャイチャする者なりと名乗りをあげるファルシエールだったが、シイラは断固拒否の構えでサイの首に強く抱きついた。
否、抱きつくなどという可愛らしい表現ではなく渾身の力でしがみついた。
「ぐ……ぐるじい……」
普段のシイラからは想像もつかない怪力で首を絞められたサイはたまったものじゃない。
浅黒い肌が土気色に変わっていくのを見ると、流石のメールディアも手助けしなければマズかろうとシイラの背中を撫でて落ち着くようになだめた。



「うっ………うぅ………シイラ……」
自分という存在を作り上げているのはシイラであり、シイラを愛しシイラに愛されることは他のどの案件にも比較できないほど重要なこと。
現在のファルシエールはアイデンティティ・クライシスを起こし、見るも無残であった。
「………えぇと、ルー……じゃなくて、ルナソルさん」
「私は私ですから普段通りで構いませんよ。何でしょう?」
「ファルシエールさんに何かお願いして貰えない?あのままだと病気にでもなりそうだし、元に戻った後のシイラさんが苦労しそうだよ」
「成程。アースさんらしいですね。お願い……お願い……」
暫く考え込んだルナソルは、べそべそしながら床に「の」の字を書き続けているファルシエールに近づき遠慮がちに声をかけた。



「あ、あの……お父さま……お願い……があるんです。聞いて頂けますか?」
更にルナソルが近づくと、ファルシエールはブルッと身体を震わせ次の瞬間には満面の笑顔を大放出した。
「なぁに、ルナソル?お父さん、なーんでも聞いてあげちゃうよっ!」
「単純ね」
「そう言わないであげて下さい、お母さん……」
渦中の外のメールディアとアースは、生温かい目で事態を見守った。
「有難う御座います。それでは……」
「えっ!?」



ルナソルは、すぅっとファルシエールの腰から剣を抜き、身体と不釣り合いに大きいそれを軽く振って言った。
「私と手合わせをお願い出来ますか、お父さま……いえ、剣王」









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