新年小話(ホリーとプルート)








「こっちを食べてごらんよ、ホリー」
「ホリー、これをどうぞ」
「新しい年こそはいい人が現れるといいのだけど」
「そう急ぐことはないよなぁ、ホリー?」
ノースガルドの「奥」、ホリーの実家。
早朝にも関わらず、久しぶりに実家に帰ってきたホリーを囲んで両親と2人の兄はやや興奮気味だった。



「これ好きだったでしょ?」
「沢山食べなさい。ホリーは今のままでも十分可愛いですが、もう少しふっくらした方がもっと可愛いと思いますよ」
「そうよ。しっかりした身体じゃないと丈夫な子供が産めないんだから」
「子供なんて早過ぎるよ!」
「子供なんて早過ぎるでしょう!」
「子供なんて早過ぎるだろう!」
父と兄達が声を揃えて母の言葉に反応すると、ホリーは額を押さえて苦悩の表情をした。
この家の男達はホリーに対する愛情がイタ過ぎるのだ。



「おじゃましまーす。プルートだけど、上がりますねー」
ホリーの幼馴染のプルートは家同士でご近所さんの付き合いもあり、ホリーの両親にとって息子のようなもの。
当然のように食事の場に通された。
「早い時間にすみません、新年おめでとうございます」
「おめでとう、プルート」
「おめでとう、プルートも今年こそはお嫁さん見つかるといいわねぇ。何ならホリーなんてどう?それとももっと若い娘の方がいいのかしら。やっぱり男の人は若い方がいいわよねぇ」
「そ、そそそそそんなっ、ことっことっ……」
真っ赤になって何事かを言おうとモゴモゴしているプルート。
いい歳してピュアピュアで分かりやすい反応だが、分かってない1人がボソっと呟いた。



「そうですか、若い方がいいんですか……」



「いや……」
流れ的にはそうじゃないでしょうという空気に気付かずホリーはブツブツと話し続けた。
「見た目が若い方がいい?それとも実年齢が?そうすると……やっぱり……」
「あの……多分、何か勘違いしてそうなんだけどさ……」
ハッとするとホリーは真剣な表情でプルートに詰め寄った。



「ルナソルさんはダメです!!」
「はぁ?!」
「貴方の趣味嗜好をとやかく言うつもりはありませんが、ルナソルさんはダメです。というか、無理です。諦めた方がいいと思います」
「………前も言ったと思うけど、それはないし、僕はロリコンじゃないから……」
「隠さなくてもいいんですよ。長い付き合いです、貴方の考えそうな事は大体分かります」
ポンッと肩に手を置き慈愛に満ちた目で話しているが、ホリーは全然分かっていない。
毎度の事だが新年早々切ない気持ちでいっぱいになるプルート。
哀れ過ぎる。



「……えーと……プルート。こんなに早く来たって事は、ひょっとしてホリーと日の出を見に行くのかい?」
ビミョーな空気を何とかしようと奮闘した一家の主。
しかし、その内容にシスコン兄達の耳がピクッと反応した。
「あ、はい。久しぶりにこっちで新年迎えるんだし、一緒にどうかなって」
「そうだね。それはいいと思うよ」
「私達も一緒に行きますが、よろしいですよね?」
テレテレとするプルートの両脇に立ち、無言の圧力をかける兄達。
結構なオトナが酷い事をする。



「よろしくありません。ほら、プルート行きますよ。兄さん達は一緒に来ると鬱陶しいのでそれぞれ勝手に行って下さい。ついてきたら口をきいてあげませんからね!!」
2人をジロっと睨みつけると、ホリーはプルートの手をとって家を出て行った。
「そんなぁ…」
「小僧……許すまじ……」
ホリーの言葉に逆らう事が出来ない兄達は地団駄を踏んで悔しがった。



「……今年も家にはおめでたい話はなさそうねぇ」
子供たちのやり取りを見て、母は残念そうに呟いた。



※ ※ ※ ※ ※




「ありがとうございます」
「何で??」
家を出て夜明け前の暗い道を歩き始めると、少しゲンナリした声でホリーは言った。
「徹夜には慣れていますが、徹夜で家族に囲まれてあれやこれやと構われるのは流石に疲れました。日の出を見に行くという名目で連れ出して頂いて助かりました」
「久しぶりに帰ってきたからだよ。もっと頻繁に帰ってくれば………って事はないか。兄ちゃんだけじゃなくておじさんもおばさんもホリーの事が大好きだから仕方ないって。まぁ、僕も……」
語尾を濁しているプルートを気にせず、ホリーは深いため息をついて話し続けた。



「度が過ぎているんですよ。私がいつまで経っても一番年下だからでしょうか。孫でも産まれたら少なくても父さんと母さんは大人しくなってくれそうですね……」
「ま、孫ですとなっ!?」
「早朝から何を騒いでいるんですか。静かにしなさい」
孫とは聞き捨てならない言葉である。
超反応しても仕方ない。



「だって……孫っていったら……ホリーの子供じゃん……」
「………順番からいって兄さんの事を言ったつもりなのですが」
プルートのピュアピュアハートを弄ぶ事に関してホリーに敵う者はいない。
今回も見事にプルートは内側からボコボコにされたのだった。
「ほらほら、ボーっとしていないで少し急ぎますよ?」
「はい………」







年間を通して温暖な気候のノースガルドだが、12の月と1の月だけは外の世界と同様に寒さが厳しい。
小高い丘の上で2人は日の出をじっと待っていた。
「今さら聞いて悪かったと思うけど……そんなに薄着で寒くない?」
聞きたくなるのも不思議ではない。
早朝の寒さの中で、ホリーは防寒具となるものをコートしか着ていなかったからだ。
「それほどでもありません。外の方が寒い期間が長いですし書庫は冷えるので身体が慣れたみたいです」
「な、慣れちゃダメだよ。お、女の子は身体冷やさない方がいいんだから!」
「私は女の子と言える歳ではありません」
「そういう事言ってるんじゃないって!!」
プルートは自分のマフラーをぐるぐるとホリーの首に巻き付け、左の手袋をはめさせ右手を握ってコートのポケットに突っ込んだ。



「ほら、こんなに手が冷えてる」
「私はいつも手が冷たいです」
「それはまぁ……そうだけど、いいじゃんこうしてればっ!!」
「……そうですか」
ピュアピュア青年の最大限の勇気と気合に圧倒されたのか、ホリーは黙ってプルートのしたいようにさせておいた。



※ ※ ※ ※ ※




「あ」
「……」
うっすらと光が世界に射していく。
2人は黙って太陽が少しずつ昇っていく様子を見続けた。



「………」
「………」
完全に太陽が姿を現すと、ようやく2人は話し始めた。
「何か、願い事した?」
「ええ。貴方もしたのでしょう?」
この世界では新年の日の出に1年の願い事をするという風習がある。
そのため2人は暫くの間黙って願い事をしていたのだ。



「僕は……叶ったらいいなぁっていう願望だけだよ」


ホリーに男として見てもらいたい。
ホリーにもっと意識してもらいたい。
願わくば願わくば………
その内容は新年の日の出が「ガンバレ!」と肩を叩いてくれそうな可愛らしいピュアラブばかり。



「願望も願い事も同じだと思うのですが」
「微妙に違うんだよ」
「そういうものですか。さ、そろそろ帰りましょう。家で温かいお茶を御馳走します」
帰り道。
実は手を繋いだままだった事に気付いたプルートは、ふぁぁっと笑顔になり、それを見たホリーは訝しげな顔をした。



「何ですか、ニヤニヤして」
「ニヤニヤって……そんなだらしない顔してる!?」
「だらしないというか何処か抜けているというか。そんなだから怪我が絶えないんですよ?」
「子供の頃の話だろ?もうそんなにしてないよ」
やれやれと肩をすくめるホリー。
「そんなに、って事はしているんでしょう?」
「………まぁ、それなりに」



ごにょごにょと言葉を濁しているプルートに、ホリーは苦笑いをして軽く耳を引っ張った。
「だから、ちゃんとお願いしておきました。今年はプルートが怪我をしませんようにって。そういう事なので怪我をしないで下さいよ?私のお願いが1つ無駄になってしまいますから」
「お願い……」
自分の事を新年のお願いにしてくれたと気付き、プルートは感激していた。
感激のあまりいつもは踏み出せない1歩を踏み出してしまった。



「何ですか一体」
「だって嬉しいんだもん。暫くこうさせてよ」
「嬉しいから抱きつくんですか?………いつまでも子供ですねぇ」
呆れたように言いながら、ホリーの顔も優しい笑顔だった。





因みに、ホリーは「お願いが1つ」と言った………つまり願い事はいくつかあったのだが……
当然プルートは気付いていないのであった。




戻る





[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析