12の月 黄の月の5日。 ファルシエールはどんよりしていた。 「何て顔してるのよ」 「………」 ファルシエールは超どんよりしていた。 クリスマス当日までファルシエールは真面目に仕事をした。 ルナソルに「おとしゃまおしごとがんばって★」と言われたからというのもあるが、連日メールディアから残業必至な量の仕事が回されてくるせいもあったからだ。 愛する妻と娘との触れ合い時間が減ってしまったが、「クリスマスになったらきゃわゆい格好をしたシイラとルナソルを思いっきり抱きしめてキャッキャうふふな事をするんだ!」という桃色妄想を糧にファルシエールは頑張った。 頑張った……のだが、 「……何で……何でシイラはいないの……?」 朝食を済ませた後、「色々準備があるから」と言ってシイラは何処かへ姿を消した。 それから数時間経ち、もう直ぐ魔道院へ行かなければならない時間になったというのに見送りに姿を現さない。 由々しき事態、大問題。 誘拐されたのではないかと錯乱し始めた所へ現れたメールディアに1発くらい……現在に至る。 「ほら、ぐだぐだ言っていないでとっとと行く所に行きなさい」 「やーだー!!シイラに行ってらっしゃいのチューして貰わないと行ーかーなーいー!」 「シイラは準備の手がはなせないって何度言ったら理解するのかしら。貴方の頭の中はスポンジで出来ているの?」 「おとしゃまめるしゃん、どうしたですか?」 「リュナショリュゥ〜〜!」 赤いワンピースを着たルナソルがちょこちょこと近づいて来ると、それまで沈んでいたファルシエールの表情はパァァっと明るくなった。 「おとしゃまおしごといくですね」 「ん〜、お父さんはねぇ、お母さんに行ってきますを言いたいから未だお仕事に行けないんだよぅ」 「おかしゃまはいってらっしゃいしましぇんよ?」 「えっ?!」 ニコニコした顔の娘にトンデモな事を言われ、ファルシエールは「がびーん!!」とした顔で固まった。 「おかしゃまはじゅんびしてます。しょれで……むーむー!!」 ご機嫌に何か話そうとしたルナソルの口を塞ぎ、アースは彼女の手に小さな細長い箱を握らせた。 「ルー、お父さんにプレゼントを渡すんでしょう?」 「もふぇ!ふぉみゃふぉみゃ!!」 コクコクと頷くとルナソルは箱をファルシエールに差し出した。 「おとしゃま、くりすますおめでとうです。これはくりすますのぷれじぇんとなのです」 「あ……ありがとう……」 開けて開けて!という期待の目に促され箱を開けると、中には細い銀縁の眼鏡が入っていた。 「………メガネ??」 視力の良いファルシエールにとってメガネは縁遠い物であり、今までお洒落メガネもかけた事がなかったのだが??? 「しょのめがねはほんとのめがねです」 「本当のメガネ?うーん、お父さんは目がいいから度の入っているメガネじゃなくてもよかった……」 「あ、誤解です。それは「本当が見えるメガネ」なんです。そのメガネを通せばどんな幻覚も通用しません」 「へぇ……それはスゴイ物だね。どうもありがとう」 便利アイテムではあるけれど今までのクリスマスプレゼントとはテイストが違うと思いファルシエールは首を捻ったが、箱を上着の内ポケットにしまい娘の頭を優しく撫でた。 「あのね、しょのめがねみんなでつくりました。だからね、みんなありがとなのです」 「みんな……」 言われてみればよく知った魔力を複数感じる。 っていうか、知人達全員の魔力を感じる! 「僕だけNO・KE・MO・NO?!」と思いファルシエールがガックリ肩を落とすと、背後から見事な角度で首筋に突っ込みが入った。 「うだうだしてないで早く行けと何度言わせるつもりなの?」 「だーかーらー」 「おとしゃまいってらっしゃい。ルーはアースとなかよししてるからきょうははやくかえってこなくてもだいじょぶです」 「えぇ!?」 娘から落ち込んだ心を更に奈落へレッツゴー!させる言葉を投げかけられファルシエールはスーパーションボリーヌになってしまった。 「あぁ!もうっ!めんどくさい子なんだからっっ!!」 そう言うとメールディアはファルシエールを舞踏会会場へと強制転送してしまった。 「ふっ……最初からこうすればよかったんだわ。あっちで暴れる程おバカさんじゃなかろうし……」 と、呟く途中で暫く思案するとメールディアは更に小声で「ま、いっか」と言い、ニッコリ笑って子供たちと目を合わせた。 「さぁ、準備を続けましょうか。楽しいパーティにしましょうねぇ?」 「あいっ!」 「はい」 3人はガヤガヤと話しながら奥の部屋へと移動した。 「(マ ジ ア リ エ ナ イ ン デ ス ケ ド ーー!!)」 会場に送られたファルシエールは暴れこそしなかったが怒っていた。 「私がちゃんと見ているから皆で楽しんでおいで」と言って「門」の警備に行ってしまった為、ファルミディア欠席。 「年末は門が不安定になるから私も手伝おう」と言って白い歯をキランと光らせ嬉々としてファルミディアの手伝いに行ってしまった為、アストライト欠席。 ファルシエールに何だかんだ言っていたメールディアは未だ会場に現れず。 「(まさか姉さん、僕にあれだけ言っておいてサボる気?そういえば未だドレスに着替えてなかったし!!超信じられないんですけど!!!)」 信じられない、といえば。 先ほどの事を思い出し怒りのエネルギーは瞬時に失意へと変わった。 ルーはアースとなかよししてるからきょうははやくかえってこなくてもだいじょぶです はやくかえってこなくてもだいじょぶです おとしゃまかえってこなくてもだいじょぶです おとしゃまかえってこないでくだしゃい 悪い方へ悪い方へ言葉を変化させてしまい、ファルシエールの心は折れそうになっていた。 「どうなさったのかしら、ファルシエール様」 「憂いに満ちた表情も素敵……」 妄想で挫けそうになっているとは知らず、魔道院の人々はファルシエールのアンニュイな表情にメロメロっとしていた。 世の中平和である。 「(それにそれにっっ!シイラ〜!!一体何処に行ってしまったの?どうして見送りにも来てくれなかったの??まさか絶対ありえないけれど僕の事を嫌いになっちゃったの???)」 そんな事を考えながら涙目になってシイラの魔力も僅かに感じる例の「本当が見えるメガネ」を懐から取り出した。 「(シイラ〜!!)」 心の中で絶叫しメガネをかけるとファルシエールは大きな窓の傍で立ち止まり、外の風景を眺めた。 「倒れるって分かってても見に行った方がいいって」 「クリスマスの奇跡なのか天災の前触れなのか……」 舞踏会はとっくに始まっていたがダンスの相手と決められているメールディアが現れない為、ファルシエールは窓の外を見て……いるようでボーっとしていた。 「鉄仮面が笑ってる所、初めて見た!」 「可愛い……よね?意外すぎるわ……」 「ヤバ……こっち来た!!」 会場内が騒がしい。 寒くても静かな外に行っていた方がいいかもしれないと溜息をつき歩き出そうとしたファルシエールを、背後から彼にとって聞きなれたソプラノの声が呼び止めた。 「此処にいたんだ!」 その声はシイラの声。 いやでもまさか有り得ない。 舞踏会は魔道院に関わる人しか入り口で通してもらえないというバカバカしいルールがあるのだから。 あまりに思い過ぎて幻聴? ファルシエールは超絶混乱し始めた。 「あ、あのね、ちょっと耳を貸してくれる?」 幻聴なのに可愛い事を言ってくれると振りかえると、ファルシエールは驚きのあまり大声を上げそうになった。 「わ、わわわわわ!!もうメガネかけてたの??しっ、しーーーーっ!!!」 「んーーーーーーー!!!???」 驚くのも無理はない。 ファルシエールの背後には銀色の生地をベースに淡いブルーの薄布が何層もあしらわれたドレスを着たシイラが居たのだから。 そしてファルシエールはシイラの左手で口を押さえられていた。 「コホン。説明をしますのでお口にチャックして下さい。それからメガネを取って下さい」 黙って頷きメガネを取ると目の前のシイラはメールディアに姿を変えた。 「!!」 「………と、いうわけ。皆には私がメーデに見えてるから、そういう風にふるまってね?」 「……って事は………本物のシイラなんだよね?」 小声で尋ねるとメールディア(の姿をしたシイラ)は嬉しそうに頷いた。 「えっと、皆から私達にクリスマスプレゼントなんだって。私、舞踏会って初めてだからどうしたらいいのかよく分からないしダンスも下手なんだけど、ファル、それでもいい?一緒に踊ってくれる?」 「勿論だよ、僕に任せて。ふふっ、嬉しいなぁ。こんなに綺麗な姿のシイラを見られるのは僕だけだし、今日はずっと一緒だし!」 「え?ちょっと待って?もう踊るの??」 メガネをかけ直したファルシエールはパートナーであるメールディアの手をとりホールの中心へ向かった。 「おとしゃまとおかしゃまよろこんでくれたかなぁ?」 「まぁ……」 「もっちろんよぅ!2人とも喜んでいるし楽しんでいるに決まっているわ。ルナちゃんのおかげねぇ〜」 「えへへっ」 メールディアに頭を撫でられルナソルは照れ照れと笑った。 『あのね、おかしゃまね、きえーなどれすきておとしゃまとおどったらいいんだって!』 ファルシエールとメールディアが毎年参加している舞踏会。 本人達は嫌々参加しているから気付いていないだけで、参加出来ない人の中には「いいな」と思う人だっている。 今までずぅっと彼らを笑顔で送り出していたシイラも実は心密かに「いいな」と思っていた。 「いいな」と言葉に出せば彼女の旦那様は嬉々として無理無理にでも押し通して願いを叶えてくれるだろう。 けれども、それはあってはならない。 魔道院の管理職という立場の人間が正面切ってルールを破るなんて絶対に許されない。 だからシイラは自分の気持ちを決して表に出さないように何年も過ごしてきた……のだが、ある日の夜、娘を寝かせつける時にポロッと言ってしまった。 「お母さんも綺麗なドレスを着て、お父さんと踊れたらいいなぁって思うんだ」 その時のシイラの言葉をルナソルは彼女なりにしっかりと憶えた。 大好きなお母さんが「いいな」って思ってる事だもの。 しっかりと憶えてバッチリと叶えてあげたいんだもの。 そうして「準備」が始まった。 ・当日まで秘密を我慢出来そうにないファルシエールには何も教えない事。【最重要。兎に角、ルナソルのお口にチャック】 ・シイラに完璧な幻覚魔法をかける事。【幻覚魔法はメールディアの十八番なので楽勝】 ・但し、ファルシエールにはシイラの姿だと分かるようにする事。【マジックアイテムの開発。サイが主担当】 等々、途中色々ありーのではあったが何とか結果オーライになったようだ。 「一番大変だったのはシイラさんだったと思うんですけどね」 真っ赤なイチゴが乗ったケーキを取り分けながらアースはボソッと呟いた。 「そうねぇ、ケーキだけでいいって言ったのに、結局全部作ってくれたものねぇ」 朝食後にファルシエールの前から姿を消したシイラは、普段のおっとりとした動きからは想像できないスピードで家族パーティのご馳走を準備していたのだ。 「それじゃぁ、まぁ、ファルとシイラが楽しんでいると思って、こっちはこっちでパーティを始めるとしましょう」 サイの合図で全員が手元のコップを片手で持ちあげた。 「クリスマス、おめでとう!」 |
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