双子サンタのクリスマス(後編)




※ 時間軸は本編37話の次の日です





12月25日 朝 北杜家

「ねぇ、お願い」
「ごめん、やっぱりダメだよ。俺は招待されてないし家族じゃないから」
「創ちゃんと私は家族と同じでしょ?」
「嬉しいこと言ってくれてもダメ」
「………」
「そ、その目もダメ」
対創司最終兵器『おねがい☆創ちゃん』を発動したにも関わらず失敗。
風眞は少し頬を膨らませ、緑色のカードを眺めた。



クリスマス会のおしらせ

12月25日3じにクリスマス会をおこないます。

きてください。


有希







12月25日 午後3時 東雲家

「「メリークリスマス!!」」
サンタ衣装を着た双子達がクラッカーを鳴らし、クリスマス会はスタートした。



「はい、おかあさん」
「クリスマスプレゼントだよ」
「ありがとう、2人とも」
画用紙を切って作ったお手伝い券(10枚綴り)。
有希のお気に入りで特別な時にしか使わないクマのキャラクターシールを惜しげもなく貼り付け、望が大事にしている金と銀のインクペンで綺麗に縁取りされている。
お祝事がある度にお手伝い券を貰っているが、前回よりも今回、今回よりも次回と回を追う毎に出来栄えがよくなっている事に空は2人の成長を見るようで嬉しく思っていた。



「なんでもてつだうよ!」
「ぼくたちタマゴだってわれるもんね!!」
「タマゴ……」
自信満々に話す双子たちとテーブルの上を交互に見て、焔は何があったのか察した。
並ぶ料理は、具沢山のオムレツ・タマゴサラダ・タマゴスープ・タマゴサンド。
ローストチキンではなく親子丼。
クリスマスケーキが配置されそうな食卓中央には、やたらと巨大なプリン。
よく見ると、その上や周りに飾られているのは生クリームではなくメレンゲ。
タマゴタマゴタマゴ………タマゴ料理オンパレードである。



「もしかして、今日のお料理はユウちゃんとノゾムちゃんがお手伝いしたの?」
「そうだよ!」
「タマゴいっぱいわったんだよ!!」
えへん!と胸をはる双子たち。
張り切って「いっぱい」タマゴを割った結果が現在食卓に在るようだ。



「嬉しいなぁ、お父さんはタマゴが大好きだから」
愛する妻と子供たちが作ってくれた料理なのだから、どんな物であろうと喜ぶ皇。
目の前のサラダに手をつけようとした瞬間、有希と望に手を抑えられ止められた。
「??????」
「そうだよね!」
「だからおとうさんはとくべつをよういしたんだよ!」
2人はトトトト……と隣りの部屋に行きフライパンを持ってくると、皇の目の前にドンッ!と置いた。
「えっ………」
フライパンの中身は、タマゴ料理中でもベストオブベストのタマゴのみ料理。
「めだまやき!」
「たまごいっぱいだよ!!」
タマゴ10個使用の超特大版。
アラサーからアラフォーへ移行しつつある父に対し容赦ない。



「ぜんぶおとうさんのだよ!」
「ぜんぶたべてね!!」
「あ、ありがとう……」
鉄壁の笑顔でめだまやきを食べる世界的大企業社長。
有希と望は満足そうに頷きあった。



※ ※ ※ ※ ※




「ひきつづきプレゼントです!!」
「つぎはおにいちゃん!」
ドンっとテーブルの上に置いたのは小さな箱。
箱の外側には『すいちゃんとおともだち トレカセット』と書いてある。
「!!!!!!」
「………ユウちゃん、ノゾムちゃん。それは……何かしら?」
箱をガン見して硬直状態にある焔を押しのけて、風眞はやや興奮気味にたずねた。



「スイちゃんとおともだちのしゃしんをカードにしたんだよ」
「ど、どどど、どうやって作ったの??」
硬直から解けた焔は家族でもドン引きするほど興奮し双子たちに詰め寄った。
「「リクおばちゃん」」
「リク?!」
それまでは優しげな表情で双子の様子を見ていた空は、梨紅という単語で覚醒したかの如く瞳に光が灯った。



「スイちゃんのしゃしんもらいにそうちゃんのおうちいったの」
「そしたらしゃしんをトレカにさせてってリクおばちゃんがいったの」
「さいきんトレカのおべんきょうしたんだって」
「そしたらじぶんでつくってみたくなったんだって」
「あぁ……」
勉強熱心なだけでなく、梨紅は普通の人には考えたとしても行動に移さない事をやってのけてしまう。
同じ家に住んでいながら風眞に気付かせないというのが更にスゴイ。



「そ、そそそそそそれを、ぼ、ぼぼぼぼぼぼくにくれるの?!」
興奮のあまり赤くなったり青くなったり小鹿のように震えたりする焔。
「おにいちゃん…」
「ヘンになってる…」
心を読むつもりではないのにガンガン流れ込んで来る兄のヘンな波動に、双子たちは困惑した。
「ねぇ、ユウちゃんノゾムちゃん。そのカード、一度に全部お兄ちゃんに渡したら面白くないと思うんだけど」
「「そうなの?」」
風眞の言葉に双子たちは首を傾げた。
「そんな事なっ………モガッ!!」
反対しようとする焔の口を塞いで風眞はニッコリと笑った。



「トレカって少しずつ集めていくから楽しいものなのよ」
「へぇ〜」
「そうなんだ〜」
「モガモガモガモガ!!!」
箱を持った双子たちは顔を見合わせ「どうしよっか」と相談し始めた。
「それとね、そのカード、今ここに居る皆に1枚ずつ配ったらどうかしら?欲しいカードがあったらお互いに交換するっていうのも楽しいと思うわ」
「うーん」
「うーん」
「モガッ!モガモガ!!」
2人が悩んでいる間に何としてでも自分に箱を渡して貰おうと必死で抵抗する焔。
だが、風眞の拘束は凄まじく強かった。



「そうだね」
「みんなたのしいのいいよね」
「「はいっ!」」
双子たちは箱からカードを6枚取り出しテーブルの上に並べた。
1枚ずつ中身が見えないように小袋に入れてあるのだから芸が細かい。
「おにいちゃんからえらんで」
「のこりはこんどね」
「あ……うん、ありがとう2人とも」



本当ならば1箱1人占め出来たというのに……と悔しく思いながら慎重に1枚を選ぶ焔。
6枚の中から東雲の能力「真実の目」を使い、『すぺしゃる』と感じたものを手に取った。
「それじゃあ見てみようか」
自分の1枚を取り出してみた空は、ぱぁぁぁぁっと明るい表情になった。
「おかあさんのなぁに?」
「うふふっ……当たりだったよ♪」
ピッと指でカードを挟み、皆に見せびらかしたカードは……


『じょしこうせい?』


制服を着た梨紅と粋。
梨紅が何の気なしに「制服を着てみたい」と言った時のもの。
かなりマニアックな内容だが、空は大喜びだ。



「私も当たりだな」
ふふっと笑いながら皇が見せたカードは……


『おそろい』


粋と有希におそろいの服を着せ、両手に花状態で笑顔満開の空。
第1回趣味の着せ替え大会の時のもの。
粋も可愛いが愛する妻と娘が映っているのだから嬉しくないわけがない。



「あら、私も」
風眞のカードは『みんなでたこやき』
風眞と創司が粋の家に居候していた頃、3人でたこやきパーティーをしていた時のもの。
少し前の事なのに懐かしいと思い、風眞は微笑んだ。



「わぁ……」
少し顔が赤い望のカードは『おふろあがり』
お風呂上がりに粋が藍の髪をとかしているもの。
仲良し姉妹のほのぼのとした日常風景だ。



「かわいいね」
有希のカードは『いらっしゃいませ』
文化祭の時のウェイトレス衣装を着て「いらっしゃいませ」ポーズをとる桜組の女子3人。
男のロマンを刺激する1枚だが、有希は純粋に可愛いなぁと思い、いいカードを引けたと喜んだ。



今のところハズレなし。
寧ろ予想以上の内容。
ならばそれならば『すぺしゃる』は一体どんなものなのか。
もしかしてひょっとして自分と一緒に写っている写真かもNE!!
ドキドキドキドキしながら出したカードは……


『すぺしゃる:おともだちカード(ねこさん)』


「それすぺしゃるカードだよ!」
「すいちゃんのおともだちのカードなんだよ!」
「………あ………そうなんだ……」
学園内に住みつく茶トラの猫、しまさん。
平和そうに眠るしまさんの写真が『すぺしゃる』。
意表の付き方が凄まじい。



だが、落ち込んでいられなかった。
風眞の前で「もう1枚引かせて」が通用するはずがない。
ならば、最初に言っていた「交換」という方法を取るしかない。
5人の中で交換に応じてくれそうなのは……



「ねぇ、ユウキ。お兄ちゃんとカードの交換をしようよ」
望の方が応じてくれそうだが、望が藍の事を好きだと何となく分かっているため涙を飲んで我慢をした。
たまにはお兄ちゃんらしい所も見せるようだ。
「こうかん?」
「そう、交換。お互いにカード交換したら楽しいって、お姉ちゃん言ってたじゃない。それに、お兄ちゃんのカードは『すぺしゃる』だよ!」
「うーんとねぇ」
「うん」
「このカードがいいからこうかんしなくていいよ」
ニコーっと笑うと有希はササッと上着のポケットにカードを入れた。
他の4人も声をかけられないうちにと、それぞれのカードを仕舞ってしまった。
哀れなり、お兄ちゃん。
次回のカード配布をお楽しみに状態である。



※ ※ ※ ※ ※




「さいごにおねえちゃんにプレゼント」
「はいっ!」
双子たちが風眞に手渡したのは緑色のリボンだった。
「有難う。綺麗な色のリボンね。何に結ぼうかしら?」
「「そうちゃん!!」」
「えっ………?」
何やら信じられない言葉にオトナ達の動きが止まった。



「そうちゃんにむすぶんだよ」
「そうちゃんむすんでいいよっていったよ」
「結んでいいって……」
何を考えているのか。
古来からのネタ「プレゼントはわ・た・し☆」とでもいうのか。
風眞の顔が赤くなるのを見て双子たちは首を捻った。



「どうしたの、おねえちゃん?」
「プレゼント、いやだった?」
目がウルウルとし始めた2人に風眞は慌てて嫌じゃないとなだめ、そして小さな小さな溜息をついた。







12月25日 夕方 北杜家

「お帰り、連絡くれたら迎えに行ったのに」
「き、気にしないで。どうせ近所なんだから」
家に帰った風眞は、チラッと創司の様子をうかがってみた。
特に普段と変わった様子はない。
「うん?何、何??」
「な、何でもない……」
気付かれないように見たつもりがアッサリと気付かれ風眞が動揺すると、創司は不思議そうな顔をして風眞に近づいていった。



「楽しかった?」
「う、うん……やっぱり創ちゃんも来ればよかったのに……」
「いずれはね。今は家族の時間を大事にした方がいい。チビッ子達のためにも」
「もしかして、あの子達のために来なかったの?」
笑顔で誤魔化しているが、恐らくそうなのだと風眞は思った。
数か月前まで家に居つかなかった兄と、突然現れた父親の違う姉。
双子たちは長い時間離れていたにも関わらず兄と姉を慕っている。
だからこそ、思い出が少ないのに内心寂しさを感じている。
今回のクリスマス会は彼らなりに家族の楽しい思い出を作ろうとして企画したものだった。
だから、いくら近しい間柄であっても創司は遠慮したのだ。



※ ※ ※ ※ ※




「お腹に余裕ある?俺たちもささやかながらクリスマスパーティしようよ?」
「そうね。お裾わけ頂いてきたから、それもいただきましょ?」
タッパーを取り出そうと紙袋に手を入れると指先にサラッとした感触の細い布が当たり、風眞はプレゼントの件を思いだした。


「そうちゃんにむすぶんだよ」


一体どういう意味なのだろうか。
そして何処にどう結べというのだろうか。
風眞の頭の中は再びグルグルとし始めた。
「どしたの?」
「う………」
紙袋を受け取ろうと手を伸ばしてみるが、風眞は微動だにしない。



「………あ、もしかしてリボン?」
「!!!」
「双子たちからお願いされてたんだ。俺の身体の何処でもいいからリボン結んでよ。そしたら目を閉じてちょっと待ってて」
「………」
双子たちからお願いされてた……


「そうちゃんむすんでいいよっていったよ」


話の辻褄は合う。
だが、意味が分からない。
「何処にする?首……だったら何かのプレイみたいだよね?」
「バッ……もう……はいっ、此処でいい?」
右の手首にリボンを結び、風眞はギュッと目を閉じた。
「じゃ、ちょっと待ってて」
創司の気配が離れ部屋を出て行き、直ぐに戻って来ると風眞の目の前で立ち止まった。
………ような気がした。
律儀に目を閉じているので何がどうなっているのかよく分かっていないのだ。



「目を開けていいよ」
「…………あ」
目の前の創司は基本はいつも通り。
だが、1つだけいつもと違う部分があった。
「双子たちからのプレゼント。「リボンつけてかわいいそうちゃんになって!」って言われたんだけど、俺って見た目が可愛いからかけ離れてるじゃん?それでも何とかリクエストにお答えしようと思いまして……自分で選んだから可愛いか超微妙」
「どうしたの、その……それ……」
「ネットで取り寄せたんだ。LLサイズも扱ってるとはスゴイな、ネット通販」
創司がネット通販で取り寄せた「それ」。
「それ」とはモカ色のボアパーカー。
そこまでは普通なのだが頭に被っているフードが変わっていた。
2つの丸い耳、クマ耳がついたフード。
つまり、クマさん風モコモコパーカーだったのだ。



「………」
「着ぐるみだとやり過ぎかなと思って。これでもかなり恥ずかしいんだけど」
「………」
「風眞?」
「………」
「ふ、風眞さん……?」
「かわいー!モコモコ!モフモフ!いやーん、気持ちいいー!!」
我慢の限界がきた風眞は、物凄い勢いで創司に抱きつき歓喜を全身から放出した。
どうやらストライクゾーンだったらしい。



「えぇと………もう少しくっついてる?」
コクっと頷き、更にギュっと抱きつく風眞。
普段でも2人きりの時はデレ状態だが、ここまで積極的にベタベタしてくる事はまずない。



「結果的に俺も双子サンタからプレゼント貰っちゃったよ……」







「おねえちゃんよろこんでる!」
「ほんとだ!」
「かわいいそうちゃんがよかったんだね」
「リボンつけたもんね」
「らいねんもがんばろうね」
「がんばろうね」
皆が楽しくて皆が嬉しいクリスマス。
双子のサンタは役割を終え、いつもより少し早く夢の世界に旅立った。




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