12の月 黄の月の5日。 魔道院では毎年、クリスマスの舞踏会が開催される。 管理職であるファルシエール、メールディア、ファルミディアの3人は個人の事情に関係なく強制参加。 火聖司長のアストライトも特別な来賓として参加する。 ・・・・・・・・のだが。 「い・や・で・す!!!!」 「今さら何言ってんの、この愚弟が」 「愚弟でも何でも結構です。僕は参加する気はありません」 「私だって本当は参加したくないわよ、面倒くさい。でも、決まりは決まりなんだから仕方ないでしょうが」 ブレイズ家 応接室。 ビリジアンの少し光沢のあるドレスを着て、派手すぎず美しさだけを強調させた化粧をしたメールディアと、グレーのパーティー用のスーツを着たファルシエールは、そこに居るだけで凄まじい存在感に満ち満ちていた。 その存在感を更に増強させているのが・・・ 「僕1人が居なくたって何がどうなるわけでもないでしょう?無駄に若造りしてるオッサンが居るんですから皆それで満足してくれるハズですっていうか満足しやがれ!!」 「アストライト様は母さまにベッタリの役立たずだって分かってるでしょ!?」 「あんなのでも一応姉さんの上司なんですよ、ちゃんと操作して下さいよ」 「あんなのでも一応貴方の父親でしょ、面倒見なさいよ」 空気がビリビリとする程の迷惑姉弟喧嘩。 この2人が衝突する原因は決まっている。 ファルシエールの自己主張・・・・・妻と娘への強すぎる愛のせいだ。 「あんなに・・・・・あんなに可愛い姿のシイラとルナソルを家に残してくっだらない舞踏会になんか出られるわけないじゃないか・・・・・姉さんは鬼悪魔ですか」 「私だって可愛い友人や子供達と一日一緒にあれやこれや楽しみたいわよ。誰が延々と弟と踊るだけの舞踏会に参加したいものですか」 「だったらいっその事、2人とも不参加で・・・・・」 「そんな事が出来れば、今、此処で言い合いしてないわよ、ボケ」 一蹴。 お姉さまは無駄な話や提案で時間を割くのが大嫌いだったりする。 「仕方ありません・・・・・・だったら、僕が参加出来ない理由を作らないといけないですね」 「!!」 モニャモニャと変な召喚の言葉を唱え始めたファルシエールの口を慌てて塞ぐ。 召喚能力が高くない者が異世界の生物を召喚でもしたらエライ事が起こる。 この場に最高ランクの召喚能力を持つメールディアが居るから、どんなヘンテコなモノが召喚されても送り還すことは可能だが、召喚者は反動で大量の魔力を消費して・・・ 「・・・・・って、それが狙い?!」 ― 体調不良で家に居ようって魂胆かい、こんの※※※※※!!!!!! 「おとしゃま、めるしゃん、くりすますおめでとー!!」 「おめでとうございます」 「あれ?どうしたの、2人共??」 お揃いの赤いケープを着たルナソルとアース、ふわふわとした白い毛が襟と裾についた赤いワンピースを着たシイラ、その後ろから素晴らしい笑顔で部屋に入ってきたアストライト。 「あ、えと・・・・・目にゴミが入っちゃったから見てもらってたんだよ、ね?」 「クリスマスおめでとう、3人とも可愛いわねぇ。食べちゃいたいくらい!」 相手にするのもバカらしくなったのか相槌をうってやる事もせずに超スルー。 寧ろ存在すらも消去しようとしているお姉さま。 「クリスマスおめでとう、メールディア」 「おめでとうございます。あら、素敵な胸飾りですね」 濃いグレーのスーツの胸元にさされているのはビロードのような花弁に宝石のような朝露がついた深紅の薔薇。 それは、作りもののように完璧な美しさを留めた生花の胸飾りだった。 「そうだろう?ルナソルちゃんとアースくんからのクリスマスプレゼントなんだ!」 見た目が美青年でなければアホ顔にしかならないようなデロデロでメロメロな笑顔。 「そうなんですか、よかったですね。アース、よくこの花を手に入れられたわね。この花の精霊は家から離れたがらないのに」 「ファルミディアさんにお願いして貰いました」 「ああ・・・そういう事」 ◆パパしゃんはきれいなおはながすき◆ 中でも好きなのはファルミディアが庭園で育てている深紅の薔薇。 だが、この薔薇には少しだけ問題があった。 「しぇーれーしゃん、おねがいなの」 「一日だけでもダメですか?」 『ダメ』 大好きなお花で胸飾りを作ってあげよう!という事になり、花を一輪譲ってもらう許可を得る事は出来た。 だが・・・・・ 「どうしてめーなの?」 『メンドウ』 「面倒って・・・」 折角プレゼントするのだから、一番綺麗な状態のものをあげたい。 その為には、花に住んでいる精霊についてきてもらわなければならない。 流石に長時間本体から離れているわけにはいかないからクリスマスの当日だけその1日だけ胸飾り用の花に来て欲しいとお願いをしているのだが・・・・・・ 『ネル。オマエラハナモッテ、サッサトカエレ』 この花の精霊は本体から出かけるのが大嫌いなのだった。 「こまったー」 「そうだね・・・・・」 愛らしいお子様達にお願いされても平気でスルー。 精霊にとってはお子様達の事情なんて知ったこっちゃないのだ。 「あれ?まだ居たのかい?」 諦めきれずにモニャモニャと悩んでいる2人の背後から声をかけてきたのは、この庭園の主であるファルミディアだった。 「いたのよー」 「僕達ではあまり上手にお話が出来なかったみたいで・・・・・」 「ふーん・・・・・」 チラリと花に目を向けるファルミディア。 花の中で眠っている精霊の肩が僅かにピクリと動くのを見逃さなかった。 「嫌がってるのを無理しても悪いし、仕方ないからお花だけ貰って帰ろうか」 「うん・・・・しょだね。しぇーれーしゃんもいやだったらかわいしょだもんね」 「ちょっと待ってなさい」 諦めて帰ろうとした2人の頭に手をやり優しく撫でると、ファルミディアは目を細めて花に向って話しかけた。 「アタシの可愛い孫達が困っているんだよ。誰のせいとは言わないけれど」 「ママしゃん?」 「・・・・・・(お母さんと同じオーラが見える…)」 ファルミディアの声は優しい。 優しいけれど、逆らえない迫力がある。 「アンタが出不精なのは知ってるけど、ま・さ・か、アタシのお願いも聞けないわけじゃないよねぇ?」 『ハ、ハイ、ボス・・・・・』 「よかった、アンタが物分かりのいい子で」 キラキラキラキラ〜という笑顔を振りまいて、お子様達と視線の高さを合わせる。 「この子、気が変わったみたい。ついていってくれるって」 「ほんとー?!よかったねぇ、アース。ありがとごじゃます、ママしゃん。ありがとごじゃます、しぇーれーしゃん!!」 「ありがとうございます」 そんなやりとりがあったのを知るのはお子様達だけ。 だが、「ファルミディアにお願いしてもらった」というだけで事の経緯は何となく察する事が出来たメールディアは、胸飾りの上でじっと座っている精霊と目が合うと僅かに口元を緩めた。 「わざわざ出かけて来てくれてありがとう」 『イイエ・・・ナンノコレシキ!』 余談だが、メールディアは無条件に精霊に好かれる体質だったりする。 「うわぁ〜、いいにおいだよぉ!」 「すごいですね、お母さん・・・」 お礼を言われて嬉し恥ずかしな精霊のお陰で、香りまでも最高潮。 普段は無気力なくせにやる時はやる精霊。 「そろそろ行けるかい?」 ふぁん・・・・・と部屋に転移してきたファルミディア。 ファルシエールと並ぶ魔道院の美の双璧。 「ママしゃんくりすますおめでとー。すごいきれいなのよー」 「クリスマスおめでとう。ルナソルもアースも可愛いねぇ」 お子様達の頭を撫で撫でしていると、ルナソルは手に提げた大きな白い袋から小さな包みを2つ取りだした。 「はい。これね、ママしゃんとめるしゃんにぷれじぇんとなのです」 「ありがとう」 「開けていい?」 お子様達が頷くのを見て包みを開く。 中身は白い・・・・・ 「「ふわふわ??」」 ◆めるしゃんとママしゃんはふわふわがすき◆ 「ふわふわ、なにがいいかなぁ?」 「ふわふわねぇ・・・」 職場で発しているオーラからは想像出来ないが、彼女達はふわふわしたモノや可愛らしいモノが大好きだったりする。 「おしょらからおちてきたゆきってふわふわだよねぇ」 「雪ねぇ・・・」 作戦会議室(ホリーの研究室)で頭をくっつけあって考え込む2人。 「お悩みですね、はい、ホットチョコレートどうぞ」 「ありがとごじゃます」 「ありがとうございます」 ホットチョコレートを飲んでホッと一息・・・・・一息する程煮詰っているわけでもないが。 「私にお手伝い出来る事はありませんか?」 この部屋で2人で何かを相談している時は、彼らが誰かの為に何かをしようとしている時。 余計なことかもしれないと思いながらも声をかけるホリー。 「んと・・・・・ふわふわしててママしゃんとめるしゃんがよろこんでくれしょうなものをしゃがしてるの」 「ふわふわ・・・・・」 「ふわふわっていうと、動物的なモノになってしまいますよね。綿もふわふわですけどそのままですし」 「ふわふわな綿のような・・・・・・あ、あぁ、ありますよ。ふわふわした花でよければ」 本棚から取り出した古い図鑑をパラパラとめくり開いたページに載っていたのは白くて丸いふわふわとした物体。 「これが花なんですか?」 「ええ、この辺りには生息しないんですが、ノースガルドでは冬になるとよく見られるんですよ。見た目だけじゃなくて手触りもふわふわとして気持ちがいいんです。それに、光に当てるとキラキラして綺麗なんです」 「アース・・・・・」 「うん。あの、ホリーさん、お願いがあるんですが」 「はい、何でしょう?」 「雪の花っていう名前の花だそうです。衝撃には強いんですが暑くなると散ってしまうらしいので、時と水の魔力で状態を留めてあります」 「うでにつけてくだしゃい。ふわふわしててきもちいいのよ?」 お子様達の言葉に促されて白いふわふわの腕輪を装着。 「「ふわふわ・・・・」」 あまりの気持ちよさにポォっと頬を赤らめる2人。 暫くお待ちください。 「ありがとう、すごく嬉しいわ」 「今日はずっとつけているよ」 撫で撫でされて気持ちよさそうにするお子様達。 和む・・・・・和む・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ 「あ、あのさ、皆、時間大丈夫なの・・・?」 ほんにゃらふわわ〜んという空気を打ち破ったのは意外なことにシイラだった。 はっとする一同。 本当にスッパリと院で開催する重要な行事を忘れ去っていたようだ。 「忘れるような行事に参加する必要なんてないじゃないか」 さささっとシイラの横に移動し、参加拒否の意思表示をするファルシエール。 「貴方、子供よりも子供っぽいわね・・・バカやってないで早く行くわよ」 「イヤですーっ!」 べーっと舌を出す様を見て頭を抱える。 子供の前でこの男は何をやっているのか。 「おとしゃま、おとしゃま」 「ん?なぁに、ルナソル?」 トコトコと近づいてきたルナソルとアースは2人で小さな箱をファルシエールの手の上に乗せた。 「おとしゃまにくりすますぷれじぇんとなのです」 「開けてみてください」 ◆おとしゃまはおかしゃまとルーがすき◆ 「癒しの歌を、歌えばいいの?」 「しょだよ、あおいつきのよるにおとしゃまとなかよしするときうたううただよ」 かぁぁぁっと赤くなるシイラ。 まさか娘に見られていたとは夢にも思っていなかったらしい。 「どうしたんですか?」 「おかしゃま、うたうのいやなの?」 シイラが赤くなる理由が分からないお子様2人は首を傾げた。 「違う違う!何でもないんだよ・・・・・・えーと、じゃあ、歌わせてもらうね!!」 「ちょっと待って下さいね・・・・・・ルー、融合しよ」 「あい!」 強い銀色の光が部屋に広がり、2人が1人になっていく。 「お待たせしました、お願いします」 小さな箱を開いてシイラに向ける「白竜」。 「はい、それでは・・・・・」 ピッと背筋を伸ばして目を閉じて優しく透き通った声で歌い始める。 生を持ったモノの為に、全てを柔らかく包み込む癒しと愛の歌を。 ルナソルはお母さんが大好きだ。 誰にでも平等に優しくて、沢山の人に尊敬されているお母さん。 お菓子作りが上手でいつも甘いにおいがするお母さん。 楽しい時は一緒に笑ってくれるお母さん。 悲しい時は全身で抱きしめてくれるお母さん。 どんな時でも大好きだけど、一番大好きなのは歌っているお母さん。 融合している時の2人は意識が1つになる。 ルナソルの気持ちがほわほわと温かくなっていくのを身近に感じ、アースも温かい気持ちで満たされていく。 プレゼントを用意しているのに僕達の方が先にプレゼントを貰っちゃったみたいだ、と考えると直ぐ近くに在るルナソルの意識が頷く。 ― この気持ちをルーのおとうさんにもあげたいね ― おとしゃまはおかしゃまがだいすきだから、いっぱいいっぱいうれしくなっちゃうよ 歌が終わると、白竜は箱の上に指で円を描いた。 ぐにゃぐにゃと円は歪み、やがて銀の輪になるとそれは箱の中へと静かに収まっていった。 「今のは何?」 「このはこのなかで、おかしゃまのうたのじかんがぐるぐるするの」 融合を解除したルナソルが答えるが、シイラには意味がよく分からない。 「時の流れは基本的に線なんです、だから同じ時は繰り返される事がありません。今、僕達は1つの時間を取り出して円にしました。そうする事によってその時は回り続けることになります。箱の中ではシイラさんが歌っていた時が繰り返される・・・・・箱を開ければ何度でもシイラさんの歌が聴けるようになるっていうことです」 更に分かったような分からないような。 「つまり・・・・・歌がしまってある箱を作った・・・・・って事なのかな?」 「そんな感じです」 はぁ・・・・・・と感心の声を出すシイラ。 このお子様達の能力は、想像を遥かに超えているのかもしない。 「ありがと、おかしゃま。これで、おとしゃま、まいにちおかしゃまとなかよしできるね!」 「え・・・・・うん、そうね」 無邪気に笑う顔はファルにそっくりなんだなぁ・・・と思いながら、シイラは子供達を優しく抱きよせた。 「うわぁ・・・・・・」 「すごいモノを作ったわね」 箱の蓋を開く度に歌が流れる。 目を閉じると直ぐ傍で歌っているようにも感じられる歌声。 「おとしゃま、おかしゃまとずっとなかよししてね?」 「勿論だよ!ありがとう、ルナソル、アース。シイラ、子供達もそう言ってくれてる事だし、今から2人きりで仲良くしよう!!」 「待てぃ、ゴルァ!」 シイラの手を握って部屋から堂々と出て行こうとするファルシエールの襟をむんずと掴み、鬼人降臨の如く表情を強張らせるメールディア。 「すみません、ファルシエールさんにはもう1つプレゼントがあるんです」 一触即発の大人たちの間に入り、先ほど渡した箱よりも小さな箱をファルシエールに手渡すアース。 『おしごとするおとしゃまはかーっこいいのよ!おとしゃま、おしごとがんばってね〜』 箱から発せられるルナソルの声。 ほんにゃらふわわ〜ん♪と力が抜けた後、ビシッとビシッッッ!と格好つけて爽やか笑顔で娘に向かうファルシエール。 「じゃ、お父さんはお仕事に行ってくるからね!お仕事から帰ってきたらお母さんと一緒にケーキを食べようね!!」 「あい!おとしゃま、いってらっしゃ〜い」 お出かけ前恒例のほっぺにチュウをしてもらうと、ファルシエールは魔道院へと転移した。 「・・・・・・私の息子ながら・・・・」 「・・・・・・自由気ままだね・・・・」 「・・・・・・アース、グッジョブ」 後を追うように転移する3人。 残されたのは赤い服を着た3人。 「おかしゃま、おかしゃまはきょうおしごとないの?」 「急な呼び出しがなければないよ。これから美味し〜いケーキを作っちゃうから。おっきいの作って皆でいっぱい食べようね」 「うわぁーい!おかしゃまのけぇき、だいすきーー!!」 バンザイをしてぴょんぴょん跳ねて喜ぶルナソル。 次に話す予定だった事はすっかりサッパリ頭の中からバイバイしてしまったようだ。 「・・・・・それでは、今日はお家にいらっしゃるんですね?」 「うん」 「シイラさんへのプレゼントは最後になってしまうと思うのですが、待っていて頂けますか?」 「ありがとう、楽しみにしながら此処で待ってるよ。これから研究院に行くんでしょう?サイとホリーさんによろしくね?」 「はい、それでは後ほど」 「いってきまーす!!」 赤い服を着たお子様達2人は、手を繋いで研究院へと出かけて行った。 |
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