ほし








3の月、緑の月の3日の夜。
「ねぇ、アーシュ」
「・・・・・なに?」
「おほししゃま、たべたいなぁ・・・・・」





一緒にベッドに入って窓の外の夜空を見上げるお子様2人。
銀髪に紫水晶の瞳の将来確実に超美少女の予感がする女の子と、金色がかった銀髪に緑柱石の瞳の少しボンヤリとした表情だが整った顔立ちの男の子。


「きょうね、おかしゃまにえほんをよんでもらったの。『ほしのたね』っていうの」
女の子は舌足らずな話し方で一生懸命説明する。
「なかよしのこどもがふたりいてね、おしょらにおねがいをしゅるとね、ほしがおちてきてね、きがはえてみがなるの。しょれでね、からをむくとね、きらきらのたねがはいっていてね、たべたらおいしかったんだって!」
「・・・・・」
「ルーがたべたいなっていったらね、おかしゃまはちいさいときにたべたことがあるんだって!あまくてしゅっぱくてぱちぱちしゅるんだって!!」
「シイラさんは、たべたことがあるんだ・・・?」
「でもね、いっかいしかたべたことがないんだって。どこにあるのかわからないんだって。えほんをよんでたべたいなぁっておもってたら、まどのしょとにあったんだって。ルーもたべたいなぁっていっぱいおもったら、まどのしょとにおいてあるかなぁ?」
女の子は星を見ながら目をキラキラさせている。
素晴らしく愛らしい姿・・・だが。
「ルー、よだれ・・・」
「ん?んー」
手で拭おうとするのを止めさせ、枕元のタオルで女の子の口元を拭いてあげる男の子。
面倒見がいいのか、お母さん体質なのか・・・


「あいがとぉ」
「もっとちゃんとしないとだめ」
「ルー、ちゃんとしてるよ?ひとりできがえもできるし、ごはんもたべられるもん」
男の子は小さく溜息をついて女の子と額を合わせる。
「おとなたちはみんなルーにあまい」



男の子は年齢の割に色々な事を理解している。
女の子の両親は女の子の実家では特殊な見られ方をしていること。
家の中には女の子の母親を疎ましく思っている者も居るということ。
そして、女の子自身を疎ましく思っている者も居るということ。


女の子の父親と祖父は家だけでなく社会的にも絶大な力を持っている為、女の子と女の子の母親が直接何かをされるという事はまずない。
だが、将来の事を考えれば女の子は誰にも文句を言われないような立派なお嬢様にならなければならない・・・と男の子は考えている。


「おとしゃまはルーのことあまいっていうよ?ルーもおかしゃまもあまいからいっぱいチューしゅるんだって。おとしゃまはあまいものがだいしゅきなの。だから、おとしゃまはおかしゃまとルーがだいしゅきなのよ」
「・・・・・・・」
そう、一番の問題は妻と娘にデロ甘な女の子の父親だ。
世界の中心は妻と娘。
極々僅かな親しい人と両親(というか母親)はとりあえず同じ世界に存在しているが、その他大多数は宇宙の塵同然。
宇宙の塵が激★愛する娘をとやかく言うようなら、確実に社会的に抹殺するだろう。
しかも素敵笑顔で。


余談だが、女の子が両親を「おかしゃま、おとしゃま(おかあさま、おとうさま)」と言うのは男の子に言われたからだ。
女の子の両親自体は自分達の事を「おかあさん、おとうさん」と言っているのだが・・・



「アーシュもチューしゅる?ルーあまいよ?」
「いい・・・・・おやすみ」
ふいっと額を離してモゾモゾと布団の中に入ってしまう男の子。
「おやしゅみ!!」
男の子の身体にぴったりと寄り添い、あっという間に夢の中へ。



窓の外、夜空に輝くキラキラ星。
男の子はチラリとそれを見ると小さく溜め息をついて眠りについた。






「アースさん、お茶にしましょう」
「・・・・・・はい」
男の子は父親の職場・・・研究院に通って文献を読み漁るのを日課にしている。
父親の助手であり薬学部門主任の女性が仕事の傍らに面倒を見てくれる事はあるが、基本的に1人で黙々と本を読み続ける。
父親譲りの理解力と吸収力の早さで読んだ内容は全て自分のモノにしている・・・が、その事に気が付いている大人はほとんどいない。
ただ本で遊んでいるようにしか見られていない・・・男の子はその事を知っているが別段気にしてはいない。
寧ろ、甘く見られている方が都合がいいと思っている。




お湯を沸かして緑茶を淹れて、女性がお菓子の用意をしてくれたテーブルの上にカップを2つ並べて置く。
「ありがとうございます、今日のお菓子はお煎餅と金平糖ですよ」
「・・・・・いただきます」
コリコリと金平糖を食べながら、男の子は昨晩の女の子の話を思い出していた。


「ホリーさん、『ほしのたね』ってはなしをしってますか?」
「ほしのたね・・・ですか?そうですね・・・ちょっと思い当たりませんがどういう話なんですか?」
男の子はホリーと呼ばれた女性に女の子から聞いた内容をもう少し分かりやすくして説明した。
「殻の中にキラキラした種が沢山入っていて、食用なんですか・・・。研究院の植物図鑑の内容は全て頭の中に入っているつもりなのですが、当てはまりそうな植物はないと思います。でも、シイラさんは食べた事があるんですよね?」
「そうらしいです」
「それならばもしかして・・・・・」
女性の言葉に頷くと、男の子は治療院へ向かった。







「いらっしゃい、アース。今日はルナソルは家に居るんだけど・・・」
治療院、治療班執務室。
銀青色の柔らかい髪と藍玉の澄んだ瞳、少女のような愛らしさを持っていながら全てを優しく包み込む母性を持った女性。
◆治療院 この人に治療されたいランキング◆でダントツ1位をキープする治療院のトップアイドル(1児の母)は笑顔で男の子を出迎えた。
「こんにちは、シイラさん。おしごとちゅうにすみません、おしえてほしいことがあるのですが」
「ん?なぁに?」



「これが『ほしのたね』の絵本。竜語で書いてあるんだけど、アースは読めたよね?」
「はい、だいじょうぶです。ありがとうございます」
受け取った絵本に目を通す。
民話や童話に意味のない話はない。
この話の中に「キラキラで甘酸っぱくてパチパチするモノ」のヒントがあるはず。



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ほしのたね



もりのなかに ふたりのこどもがすんでいました。

げんきなおとこのこと、かわいいおんなのこでした。

ふたりはいつもいっしょでした。

いつもいっしょにごはんをたべて、いっしょにあそんで、いっしょにねむっていました。

ふたりはいつもいっしょでした。

ふたりはとてもなかよしでした。



あるひのことです。

おんなのこがおもいびょうきになってしまいました。

たかいねつがでて、なにもたべられなくなってしまいました。

おくすりもはきだしてしまいます。

だいすきないちごもたべられません。

あたたかいすーぷものめません。

おんなのこはどんどんよわっていきました。

とうとうつめたいおみずものめなくなってしまいました。



おとこのこはおんなのこのてをにぎり、おそらにむかっておねがいをしました。

「どうかびょうきをなおしてください。もうすききらいをしません。いたずらもしません。だから、びょうきをなおしてください」

あかいおひさまがしずみ、きいろいおつきさまがのぼってもおとこのこはおねがいをつづけました。

すると、よぞらのほしがひとつひかり、こどもたちのいえのまえにながれおちました。

ほしがおちたじめんから、ひょこっときがはえてきました。

きはみるみるうちにおおきくなり、きいろいまるいみがなりました。

おとこのこはきいろいみをもぎました。

そのみをふってみると、からからというおとがしました。

かたいからをわってみると、なかにはきらきらとひかるたねがはいっていました。

「ほしのたねだ」

おとこのこはひとつぶくちのなかにいれてみました。

たねはあまくてすっぱくてぱちぱちととけていきました。

それはゆめのようなあじでした。

おとこのこはいそいでたねをおんなのこのところにもっていきました。

「ほしのたねだよ、くちをあけて」

おんなのこがわずかにくちをあけると、ほしのたねをひとつぶいれてあげました。

ほしのたねはくちのなかでぱちぱちととけていきました。

「・・・・・・おいしいね」

おんなのこはにっこりとわらいました。

「うん、おいしいね」

おとこのこは、もうひとつぶおんなのこにあげました。

ほしのたねはくちのなかでぱちぱちととけていきました。




つぎのひのあさ、おんなのこはすっかりげんきになりました。

「ほしのたねのおかげだよ。ほしのたねのきにおれいをいいにいこう」

ふたりはてをつないでいえのまえにいきました。

しかし、そこにはきがありませんでした。

「おそらにかえっちゃったのかな」

「そうだね、おほしさまはよるのそらにあるんだもんね」

ふたりはそらにむかってありがとうといいました。

あおいそらのなかで、きらりとほしがひとつひかったようなきがしました。



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3の月、緑の月の4日。
ブレイズ家、中央庭園。


「おほししゃま、たべたいなぁ〜」
白い紙いっぱいに黄色い丸が沢山ついてる木の絵を描いている女の子。
「アーシュとおかしゃまとおとしゃまと・・・・・みんなでたべたらおいしいなぁ・・・」
彼女の頭の中はキラキラで甘酸っぱい食べ物の妄想でいっぱいになっている。



「ルナソル様、御絵描きですか?」
「どんな絵を描いてらっしゃるのかしら」
「???」







「うしょじゃないでしゅ。おかしゃまはたべたっていってました」
「嘘だなんて言ってませんよ」
「ただ、そんな物は無いと言ってるだけですわ」
小馬鹿にした顔で話をする火の民の男女。
彼らはブレイズ家の純血の火の民である事を誇っているため、女の子とその母親を軽視している。
「水聖神さまは少し子供じみた所がありますからね」
「想像したものを本当と思い込んでいらっしゃるんでしょう」
「ほしのたねはあるもん・・・きらきらであまいんだもん・・・」
大人たちの負の感情を受け、苦しそうに呟く女の子。


「ほしのたねはある・・・」
「アーシュ!!」
大人たちと女の子の間に現れた男の子。
その緑柱石の瞳は右目だけ金色に変化していった。


「ルー・・・・・おやすみ」
「うん?おやしゅみ・・・」
男の子が静かに声をかけると、女の子はコテっと眠ってしまった。
「「人」の常識で物事を量るな。アンタらの貧弱な知識でルーを馬鹿にするな」
「な・・・・」
「何なの、この子は・・・」
「・・・・・ほら、これが『星の種』だ。食ってみろよ」
懐から出した黄色い丸い実の殻をむき、キラキラと光る小さな粒を大人たちに手渡すと男の子の右目は鈍く輝いた。
自分の意思と反して光る粒を口の中に入れた大人たちは不可解な顔をし、そして意識を手放した。


「何の味もしないだろ?星の種は夢の味。夢に価値がないヤツには味なんかない」
淡々と話した後、男の子は不敵に笑って言葉を続けた。
「そうそう、言い忘れたけど・・・星の種は竜の食い物なんだ。「人」が食べたらどうなるんだろうなぁ?」







「アースにお願いされるなんて珍しくて泣きそうになったよ」
「ふふっ・・・、しかもルナちゃんのためにだなんて、やるわね」


絵本を読んでアースが推測したこと。



もりのなかに ふたりのこどもがすんでいました。

ふたりはいつもいっしょでした。

あかいおひさまがしずみ、きいろいおつきさまがのぼっても

しかし、そこにはきがありませんでした。



竜語で書かれている絵本であるということから竜と何らかの繋がりがあるのが予想される。


「もりのなか」、「ふたり」、「いっしょ」


竜と竜主は森の中の竜堂と呼ばれる場所で暮らす場合が多い。
ふたりのこどもは竜と竜主と考えられる。


「きいろいおつきさま」、「そこにはきがありませんでした」


植物の精霊の力が強い黄の月の夜、天から落ちてきた種が急成長して実をつける。
しかし、次の日の朝にはなくなってしまう。
・・・それは、この世界には本来ない植物だから。


それなら、種は何処から来たのか?


答えは・・・竜界。




アースには幸いな事に最高ランクの探索能力を持った母親と、空間移動能力を持った父親がいた。
両親に事情を説明し、父親に竜界へ連れて行ってもらい、母親に探索をしてもらってようやく見つけた「ほしのたね」。
竜界でも希少なモノだったが、水龍姫の龍主の娘と風竜王の竜主の息子のため・・・という理由で特別に1つだけ分けてもらったのだ。



「星の種って竜の血が流れてない人が食べるとどうなるのかしら」
「特別どうもならないよ。軽い記憶障害が起きるくらい・・・フツーの「人」だったら半日分の記憶がすっ飛ぶ程度かな」
「アースはその事を知ってるのかしら?」
「どうだろうなぁ?」
「・・・・・・ふふふっ。あの子、なかなかいい性格よ」
「ん?・・・・・・・メールディアしゃん、貴女、何か見ましたネ・・・?」
「さぁ・・・・・?」




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「アーシュ?」
「おはよう」
「おはよ!」
にこにこと笑って挨拶する女の子の手の上に、男の子は「ほしのたね」を乗せた。
「このまえのチョコのおかえし。あれ・・・おいしかったから」
きょとんとした顔で「ほしのたね」と男の子を交互に見ると、女の子は輝くような笑顔を見せた。
「これ、ほしのたね?」
「そう・・・」
「あいがと!アーシュだいしゅき!!ほしのたね、いっしょにたべよ?」
「うん・・・・」



ふたりはひとつぶくちのなかにいれてみました。

たねはあまくてすっぱくてぱちぱちととけていきました。

それはゆめのようなあじでした。















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