2月9日(金) 東雲学園高等部 桃組(選抜クラス2年) 「中等部は東雲くんが王子だけど、高等部はやっぱり・・・・・」 「桜の帝くんよねぇ・・・・・」 はふっと溜息をつく女子生徒達。 帝 美久。 高等部 桜組(特待クラス1年) 「すっごいお金持ちなんだよね」 「テーマパーク並の大豪邸に住んでるんでしょ?」 裕福な家庭に育った子供が大半を占める東雲学園の中でも群を抜いて、最早比べる事すらおバカさんな程、富裕層の頂点付近に位置する家庭で生まれ育っているというのは有名な話。 何せ、世界的に有名な食のカリスマが集うミカドグループの本家長男であり、グループの後継者。 詳しくは公表されていないが、ミカドの誰もが羨む物凄く貴重な能力を持っているらしい。 未来が有望視されるのは当然である。 「お金持ちってだけじゃなくて見た目も王子だもんね。私は東雲くんよりも帝くんの方がいいなぁ」 「タイプが全然違うからね」 栗色の髪とパッチリ大きめの赤茶の瞳の西洋的な美形。 カリスマ性があり、途中編入でありながら学校行事の中心で活躍する焔。 墨色の髪と切れ長な濃紺の瞳の東洋的な美形。 人よりも一歩後ろに控えて、サポートに徹するミク。 「白王子と黒王子って感じ?」 そう言われると、焔が白でミクが黒・・・・・と多くの者が思うだろう。 見た目で言えば確かにそうだが、中身は焔が真っ黒でミクが真っ白なのは言うまでもない。 「そういえばさ、最近、あのいつも一緒にいる子達って付き合うようになったんでしょ?」 「男子が嘆いてたね。芸能人にちょっと似てるだけで別にあれ位の子ってフツーなのに」 完全にやっかみである。 和泉は柊のような正統派美少女ではないが、顔のパーツがハッキリとしていて人の目を引き付ける魅力がある。 黙っていれば週刊少年誌の表紙によく登場するアイドルに似ているという事で、中等部の2年くらいから選抜組の男子に爆発的に人気が高まったのだ。 「私は帝くんと九重くんだと思ってたんだけどな・・・残念」 「男の子の方が好きだって話だもんねぇ・・・・・」 線が細くて美形の男子と体格は普通だが笑顔がステキ★でカッコイイ男子が幼馴染という関係で常に一緒に行動していれば、一部の特殊な思考を持つ女子の妄想の的になるのは当たり前といえば当たり前。 余談だが、安積と霧島も当然のように公認カップルとして成立してしまっている。 「男好きじゃなくて女嫌いなの!椿(選抜1年)の生意気なボス女のせい。全く、とんでもない事してくれたよね」 「ホント、ホント。私、学園祭の時に手が触れただけでビクってされたもん、ショックー!!」 「そりゃ、アンタが肉食獣に見えて怖かっただけじゃない?確かに女嫌いかもしんないけど、クリスマス会辺りから治ってきてるよ?ほら、あの桜のちっちゃいお人形みたいな子。あの子とは踊ってたもん」 「あれは完璧な王子ダンスだったわ・・・・・。あの時に絶対ファン増えたよ。東雲くんの次に写真売れてたもの」 学園アイドル写真は、特待クラスの「撮影技能」を持った生徒が撮っている。 一般人でも素晴らしく写真写りがいいのに、アイドル様の場合はどうする?半端なくね?という出来なのである。 「あの仲良し3人組のうちの2人がくっついたし、女嫌いも治ってきてるって事は、帝くんは完全フリーの男子って事だよね?」 「そういう事。ってわけで、今年こそはやっちゃう?チャレンジしちゃう?!帝くんにチョコ・・・・」 「・・・・・無理」 「・・・・・そこまでチャレンジ精神ないわ」 「・・・・・だよね」 カクリと首を下げる女子生徒達。 「今年もクラスの男で我慢しとくか」 「お返しは5倍以上だしね」 「夢見るより現実が堅実」 「そゆこと♪」 夢は覚めたと全員納得、了解、アイシーアイシーな雰囲気。 1人がカバンの中から雑誌を取り出すとパラパラとページをめくり、バレンタイン特集を指差し予算等々の現実的な話をし始める。 そして。 今年もミクへのチョコは、話題に上がる前に揉み消されたのだった・・・・・ 2月14日(水)夕方 帝家。 「ただいま」 「おかえりなさい」 おっとりふわふわとしたミクによく似た和風美人の姉、花梨。 「おかえりなっさーい、ミックー♪」 その後ろから現れたのは和風美形姉弟に似てはいるが素晴らしくテンションの高い女性。 「・・・・・母さん、今日は随分早いね?」 世界的に有名なパティシエール、帝 凛子。 年末はクリスマスで、年明けはバレンタインで多忙を極めていた彼女が未だ夕方という時間帯に家に居るのは久しぶりのことだった。 「アタシの愛するダーリンと可愛いエンジェルちゃんにお夕飯の時間にチョコデザートを出すためだもの、頑張って帰って来ちゃった☆・・・・・っていうか、本番まで他人のバレンタインに付き合ってやれるかっつーの★☆★」 「お母さん、本心がダダ漏れですよ」 「あらヤダ!」 うふふ、あははと笑う姉と母を見てガックリするミク。 面倒な話に巻き込まれないうちに自室に退散しようと歩き始めた所で、笑顔の2人に行く手を阻まれた。 「何?」 「今年はどうだった?」 「今年も1つ?ミクはこーんなに綺麗な顔をしてるし頭もいいし性格もいいのに、どうして漫画みたいに沢山チョコを貰えないのかしら??」 「そうよね、美久はとってもいい子なのに」 「1つっていってもイズミちゃんとシュウちゃんからでしょう?それも1つだけど哀しいわねぇ」 「こ、今年は2つ貰ったよ!」 ムっとした顔で答えると、2人は一瞬固まり、その後直ぐにキラキラとした瞳になった。 しくじった。 後悔しても遅かった。 興味津々。 見せて見せて見せて見せて・・・・・ 「美久」 「ミク」 「だめ!絶対だめ!絶対絶対絶対だめ!!!」 ブンブンと首を振って断固拒否。 「見るだけですから」 「食べ物を見たら味見するのは当たり前ですが何か?って人が見るだけのわけない!」 「だって、それがカリンちゃんのお仕事だもの」 「仕事関係ないって!これは僕が貰ったんだから、絶対分けてあげない!!」 「よ、美久が・・・・いじわる言う・・・・・」 ウルルっと目を潤ませる姉、花梨。 普通の神経を持った男性ならば、自分に否があろうとなかろうと地面に額を擦りつけて謝ること請け合いの表情。 「ママはそんなジャイアニズム振りかざす息子に育てた覚えないんだからね!」 意味の分からない事を言う母、凛子。 口調が何故かツンデレ風。 2人を全身で相手にするのは流石のミクでも不可能だった。 「・・・・・・・見るだけだよ、約束だからね?」 「はい」 「約束、約束」 溜息混じりに粋から貰ったチョコの箱を出し、蓋を開ける。 「あら、手作り」 「ふぅん・・・・・」 箱の中に綺麗に並べられたトリュフチョコを見る2人の目が変わる。 それは、食べ物に対するプロの目。 「もういい?」 「1つ頂戴?」 普通の神経を持った男性ならば、どんな宝であろうと笑顔で差し出してしまうお願いの表情。 「な・・・・?さっきの約束はどうしたんだよっ?!」 「約束というものはだね、破られてその大切さを学ぶのだよ」 親としてその言い分はいかがなものか。 「ダメだよ、僕だって食べてないのに!それにこれは・・・・・特別なんだから・・・・・」 必死にチョコを守るミクを見て、2人は何故か嬉しそうに笑うと道を開けた。 「え・・・・・?」 「いくら大事でも、美味しいうちにいただきなさい」 「作った人に対する礼はきちんと食べること。これ基本ね?」 「うん・・・・・あ、そうだ。シュウちゃんが母さんに「ありがとうございました」って言ってたよ」 「ふふっ、お役に立てたようでよかった。イズミちゃんもシュウちゃんもお年頃だものね。スイちゃん?の影響かしらぁ?」 「スイちゃん」という単語だけでボッと顔が赤くなるミク。 それを隠すようにその場を去っていくと、残された2人のニコニコ顔はニヤニヤ顔に変わった。 「ついに、ついにミクが本命の女の子からチョコを貰ったわよ!!今晩はお赤飯ね、カリンちゃん!!」 「1つ頂戴って本気で言ったのに・・・・・水波さんってお菓子作るの上手なのね。」 「少し素人っぽさはあるけど、自己流であれだけ出来るなら一緒にお仕事してみたいなぁ。あれだけ可愛くてお菓子作るの上手なお嫁さんが来てくれたら、ミカドの総力を上げてお祝いね!!」 「うふふ、気が早いですよ」 帝 凛子。 世界的に有名なパティシエールにしてミカドグループ・スウィーツ部門の総責任者。 スウィーツ業界のブームを決定する人物としても有名である。 帝 花梨。 ミカドの味を決める舌と食材を鑑定する目を持つミカドの味の番人、シェフが最も恐れる天女の顔をした鬼との異名を持つ。 帝の家の門を通る食品は先ず彼女が審査をする。 逆に言えば彼女の審査をクリアしなければ門前払いになってしまう。 そんな強烈な母と姉を持つミクにチョコレートをあげるというのはかなり勇気のいる行動だ!ドM以外の何者でもない!!というのが女子生徒達の暗黙の了解事項。 実際はそんな心配をする事はないのだが・・・・・・・噂とは時に真実よりも真実らしくなるもの。 「今年のホワイトデーは超期待出来ちゃう?!ミクってば、きっときっと1ヶ月じっくり最高のお返しを考えちゃうわよ!!」 「うふふっ、試作品を味見させて貰わなくっちゃ。水波さんは私にとっても天使みたいな人だわ」 ウキウキしながら食堂へ向かう母と姉。 彼女達は今年もミクが一般のお嬢さん達からチョコを貰えない理由を知らない・・・・・ |
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