手作りチョコレート








2の月、緑の月の4日。
バレンタインデー。
一般的には女性が好意を持っている男性に主にチョコレート菓子を贈る日となっている。
どこかの世界の風習らしいが、クリスマス同様に盛り上がるイベントだったりする。



「ファルシエール様、お時間を頂いてもよろしいでしょうか」
「ファルシエール様、お渡ししたいものが」
「ファルシエール様、受け取っていただきたいものが」
「ファルシエール様、少しお時間を・・・」
「すみません、今日はこれから大事な用事がありますので明日にして頂けますか」
キラキラ〜っと殺傷力抜群の微笑みを周囲の女性陣に振り撒くと、ファルシエールは足早に魔道院を後にした。



周囲の影響を度外視した老若男女メロメロフェロモンを大放出し、残業決定間違いナシ!な量の仕事を夕方前には片付け、ルンルン気分で家に戻る彼。


5歳になった溺愛する娘が最愛の妻と一緒に初めてバレンタインのチョコを作る!!


その事を知った時には真剣に仕事を休もうと考えたのだが、
「お仕事がんばってね」
「おとしゃま、いってらしゃい」
と妻と娘にそれぞれ両頬からチュウをされ見送られたので泣く泣く仕事へ。


―待っててね、シイラ、ルナソル!!今、もう、今直ぐに帰るからね!!



転移魔法であっという間に自宅へ御帰還。
足取り軽く甘〜い香りの漂うキッチンへ。
「ただいまぁ〜〜〜あれ?」
「あら、おかえりなさい。ちゃんと仕事は終わったみたいね、感心感心」
キッチンで食器を拭いているのは、花に例えるなら白百合のように優美な女性。
「あの仕事の山はメーデの仕業だったのか・・・」
「貴方は追い詰められた方がやるでしょう?アストライト様と一緒で」
「・・・・・・シイラとルナソルは何処?家に居ないみたいだけど」
キッチンの中には彼の目的の人物2名が居ない。
居ないと分かった瞬間に家中に「探索」をかけてみたが気配が何処にもない。


「シイラは急に仕事が入ったからって治療院に呼ばれたわよ。ルナちゃんはアストライト様のお部屋についさっき行ったわ」
「そうか・・・父さんの部屋なら探索をかけても分からないわけだ」
「シイラを呼び出した人にあまり嫌がらせしちゃダメよ?」
「あまり」という言葉をつけてるのがオソロシイ。
彼女は彼が何もやらない訳がないと確信しているのだ。
「ええ、なるべく努力します」
にっこりと微笑んでキッチンを後に。
向かう先は・・・・・







「入りますよ」
「ああ、ファルシエールか」
座り心地のよさそうなソファに腰かけて、ほかほかと湯気の立つカップを手にしている美青年。
実年齢不明、永遠に20代の見た目のファルシエールの父、アストライト。
「ルナソルがこちらに来ていると聞いたのですが」
「来てたが・・・ついさっきファルミディアと一緒に竜堂に行った」
僅かに不機嫌な声での返答。
思い当たる理由は1つ。
「カイラさんが来てるんですか」
ピクっとカップを持つ指が震える。
「そ、そうだ。ルナソルちゃんとシイラちゃんの手作りチョコ、美味しかったぞ。私なんてルナソルちゃんの可愛い手で食べさせてもらったんだ。「パパしゃん、おくちあけて」って・・・危険な程にかわゆかったな・・・新しく用意しておいたエプロンドレスもよく似合っていたし」
ふふふ・・・と美形であるからこそ変ではない笑い方をするアストライト。
因みに、彼は孫娘に自分の事を「パパさん」と呼ばせている。
「・・・・・竜堂に行ってきます。父さんは母さんが淹れてくれたココアをゆっくり1人で飲んでいて下さい。今はきっとカイラさんが飲んでるんでしょうねぇ」
「オマエ、年を重ねる毎に性格がよくなってきてるよな・・・」







そして、竜堂。
「ファルシエール・・・・・」
「お久しぶりです、カイラさん」
居間で読書をしていたのは、見た目は無表情で人に冷たい印象を与えるが登場人物いい人ランキングベスト3にランクインする程のいい人だったりする冥の白竜カイラ。
「ああ、ファルシエール。ルナソルなら、さっきサイと一緒に研究院に行ったよ。アースにチョコをあげるんだって」
奥から出てきたのは息子に引けを取らない程の美貌を持つファルミディア。
料理中なのか白いフリフリエプロン(アストライトの趣味)装備中。
「はぁ・・・そう・・・ですか・・・」
ここでも入れ違い。
娘に避けられてるんじゃないかと涙が落ちそうになるファルシエール。


「時の能力が・・・大解放されていたな」
手にしたカップをテーブルに乗せ、カイラがボソっと呟く。
「時の能力が?」
大解放。
時の能力、大セール絶賛開催中。
「あれでは行く場所行く場所で時を歪める」


『アストライト様のお部屋についさっき行ったわ』
『ついさっきファルミディアと一緒に竜堂に行った』
『さっきサイと一緒に研究院に行ったよ』


それほど時間が経っていないはずなのに、「さっき」までルナソルと一緒に居た人ばかりの理由。
周囲に多大な影響を与える恐ろしい幼児。
「え、と・・・・・そんなに能力を使ってしまっては・・・・・」
「あの状態のままだったら、そろそろ倒れる頃か・・・」
「・・・・・・失礼します。母さん、恐らくもう暫くしたら父さんがここに来ると思います。まぁ・・・程々に付き合ってあげて下さい、では」
「あ・・・・・うん」
息子の言葉に首を傾げながらキッチンへと戻るファルミディア。
作成中の料理は得意の煮込料理ではなく、個性際立つ創作料理。
2人の男達が「愛」でソレを完食するのは2時間後のこと。







研究院、サイの研究室。
「ルナソル!!」
「あ、ファルシエールさん。先ほどはお嬢さんと奥さんのお菓子ご馳走さまでした。とても美味しかったです」
バーン!!と突然転移してきた不審者にも挨拶と礼の心を忘れない出来た女性、ホリー。
彼女はファルシエールの凶悪兵器キラキラメロメロオーラが効かない希少な人物である。
「こんにちは、ホリーさん。あの、娘がこちらにお邪魔してると思うのですが・・・」
「ルナなら寝てるよ」
「寝てるって、た、倒れたからとかじゃないよね!?」
隣の部屋から出てきたサイにつめ寄り、ギュウギュウと首を締め詰問。
礼儀もへったくれもありゃしない。
「ぐ・・・・・るぢい・・・。見れば・・・分かる・・・」
指差すドアを恐る恐る開けると・・・



「・・・・・融合してる」
白竜の特殊能力『融合』状態でスヤスヤと眠る銀色の髪の幼児。
倒れた心配はなさそうな穏やかな寝顔。
「こうなった理由を説明するとだな」
鬼気迫る勢いが失われホッと落ち着いたのを確認すると、サイは少し前にあった事を話し始めた。




◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇




「こんにちは、アーシュ。こんにちは、ホリーしゃん」
「こんにちは、ルナソルさん。寒かったでしょう、今、ミルクを温めますからね」
「ありがとござましゅ。これ、おかしゃまとつくりました。たべてくだしゃい」
ペコリとお辞儀をすると、肩にさげたカバンから綺麗にラッピングされた紙袋を取り出し、ホリーに手渡す。
「ありがとうございます、早速いただきますね」
「これ、アーシュの。たべて?」
ホリーに渡した紙袋とは違う、少し不格好な包み方の紙袋。
「・・・・・ありがとう」
受け取ったアースは紙袋とニコニコ笑っているルナソルを交互に見ると、ふぅっと小さく息を吐いてお茶の用意を手伝いにキッチンへと向かった。



「ウマい!」
「美味しいですよ、ルナソルさん」
「・・・・・おいしい」
サイとホリーの前にはチョコレートの掛ったクッキー、アースの前には大小様々な大きさで少し不格好な球体のトリュフチョコレート。
ルナソルは温かいミルクを飲みながらニコニコと3人の様子を見ている。
「ルー」
目の前のチョコレートを2つ3つ食べると、アースはルナソルに声をかけた。
「なぁに?」
「ゆうごう」
「あい」
ルナソルがコクリと頷いた瞬間・・・・・



「融合した後、直ぐに寝ちゃったんだ」
「そう・・・・・」
融合して眠ってしまえば能力の暴走を止められるだけでなく、魔力の回復も行える。
皆にチョコレートを食べてもらって満足した様子を確認してから融合を提案したアースは、幼児とは思えない程に気が回る子だ。
「もう少ししたら目を覚ますよ。アースは俺に似て魔力が有り余ってるからさ」







融合解除されても眠ったままの愛娘を抱き上げ家に帰ると、治療院から戻ってきていたシイラが出迎えてくれた。
「お帰りなさい、2人共」
「ただいま」
身を屈めて頬に軽く口づけると、
「おとしゃま、おかしゃま?」
愛娘はモゾモゾと動いて2人を見上げた。



「おとしゃま、おかしゃま、おいしいねぇ」
両親の間で嬉しそうにチョコレート掛けクッキーを頬張るルナソル。
「『おとしゃまといっしょにたべるの』って今まで食べないで我慢してたんだよ」
「そうだったんだ・・・ありがとう、ルナソル」
「おとしゃま、おいしい?」
キラキラと輝く紫水晶の大きな瞳。
父親フィルターをかけないでも抜群に愛らしい。
「うん、美味しいよ。大好きなルナソルとお母さんが作ってくれたからね、特別に美味しいよ」
「よかったねぇ、おかしゃま。またつくろうねぇ」
「うん、一緒に作ろうね」







「そういえば、アースのチョコレートだけ違ってた?」
サイの研究室には、さっき3人で食べたチョコ掛けクッキーが乗った皿が2枚と少し歪な球体のチョコレートが乗った皿が1枚あった。
父としては想像したくないが・・・
「アースの分は自分で作りたいって言ったの。それで生クリームたっぷりのお子様向けトリュフを作ったんだけどね。特別な人には特別な物をあげたいって気持ち、小さくても女の子なんだなぁって思っちゃった」
「特別・・・ね」
半身としての特別なのか、それとも・・・・・
娘を持つ父は複雑な気持ちでいっぱい。



「私も特別を用意してあるんだよ、はい」
「ん?」
あーんと言われて素直に口を開けると、1粒のチョコレートが口の中に放り込まれた。
柔らかに溶けるチョコレートとふんわりと広がるお酒の香りと僅かな苦味。
「オトナ向けトリュフ。これはファルにだけだからね?」
「勿論、分かってるよ」
ふわりと微笑んで交わす口づけは、どんなチョコレートよりも甘かった。










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